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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第三章 盗賊領主はハンコウする編 「夜明けからの使者は悪戯に……」 後編 Aパート


 峡谷間へ流れ込む風鳴りに混ざる異形の絶叫……ダナンとキャサリン、マドロックは閉め切った大扉を背に松明が揺らす影を睨む。



 「すまん二人とも、俺は足手まといになるからここで迎撃するぞ。それとコイツは俺が使わせてもらう。」



 そう苦々しさを吐露し、トラップの前で座り込むとマドロックは腰巻きから五連式のリボルバーを取り出して右手に握られていた薬莢を詰めてゆく。

 その刹那、ダナンが僅かに顔を歪ませたのを認めて、マドロックは鼻で笑う。



 「こっちこそ残った兵装を貰ってすいません……それと弾はあと何発残ってますか?」



 話を逸らす言葉、いや、正確には逸れていないが見透かされているのを承知でダナンは言葉を紡いだ。



 「18だ、安心しろ、守らにゃならんモンが後ろにあんだ……最期の一発を『自分』に使ったりしねぇよ。」



 自分に使わない、そう断言したマドロックの顔が、夥しい歴戦の傷を刻んだそのはにかんだ表情がダナンとキャサリンにも同様の覚悟を促す……促した気がしたのだ。



 「死ぬつもりなんてないわよ……仲間が来てくれるまで持ち堪えてみせる。」



 マドロックの肩を軽く叩き、一歩踏み出すキャサリン……彼女は今一度、覚悟を以てスキルを開放し、周囲5Km圏内の状況を俯瞰で見てゆく。

 すると不意に彼女の美しい鼻から紫色の血液が垂れる。

 やはり身体、特に脳へ蓄積された負荷は回復仕切っていなかったのだろう。


 内心では止めなくてはと理解していたダナンであったが、思惑とは裏腹に事態がそれを許さぬ事も痛感していた。



 「………。」



 ほんの数分後……意識を戻したキャサリンが知ったのは最早、その全体像さえ把握仕切れぬ夥しいグールの大群が峡谷内の岐路など関係無く雪崩れ込んでいく悍ましい光景であった。



 「行くわよ!もう四つ前の三叉路まで辿り着いてる!!」



 「それじゃ、後ろはお願いします……それとーー」



 「ン?」



 「必ず僕らで活路を見出しますから!!」



 言うないなや、先んじたキャサリンを追いかけてゆくダナン……その背中をぼんやりと眺めつつ見送るマドロック。



 (僕ら……か、短期間で何があったか知らんが、頼れる様になったなダナン。)



 微かにリボルバーをしゃくり上げ、反動で弾倉を戻してから老兵は静かに溜め息をつくのだった。




 夜明けまで約二時間弱……濃紺色の景色を駆けてゆくダナンとキャサリン。


 来た道を戻りつつ、最初の岐路は目前に迫りつつある。



 「いいかい、僕らが居たアジトはこの大峡谷のほぼ中心部にある。今向かっているのは僕らも通った最速ルートだ。」



 「最速?他にもルートが在るって事なの!?」



 「ああ、もうひとつかなり遠回りだけど道幅の広い厄介な道が在る。」



 「待って、じゃあ合流地点である此処(最後の分岐点)で迎え撃った方が良くない?」



 疑問と同時に分岐路上で足を停めるキャサリン、だがダナンはその主張を即座に否定する。



 「駄目ッ!!此処はアジトと目と鼻の先で守り切れない。」



 「もう、一体どうするつもりなのよ!?」



 「最短ルートの途中で一か所、道幅が狭くて上部が崩れそうな場所が在る……そこでこの『ブツ』を使おうと思う。」



 そう言い、ダナンが見せたのは紙片を工作で張り合わせた様な茶色い、掌に収まる球体でありその瞬間、モンテの鬼喜とした表情が脳裏に過ぎった事で、キャサリンは何となしにそのブツの用途を理解してしまった。



 「さっき見つけた、以前団長がドミニオンで購入したものらしいんだけど、威力は折り紙つきだってさ。こいつでルートを潰してもうひとつの防衛に専念する。」



 完全に無茶である、威力が有り過ぎれば自分達も山崩れに巻き込まれ、逆に威力不足ならば全てが無駄足になってしまうのだ。

 分の悪い賭け……否、賭けにすらなっていないかもしれない。

 しかしキャサリンの反応は常識に反したものであった。



 「解ったわ、判断したなら速攻でしょ!!」



 そうダナンの背中を抜き様に叫び、ダナンもキャサリンへ追従する形で走り出す。




 ーー全速力で駆け抜け数分後、二人が三つ目の分岐路に差し掛かった時、遠くで異変を目視した。

 それは黒い海とでも言える、峡谷間を夥しい影が蠢く集合体の様な光景であったという。



 「………!!」



 キャサリンが装束の胸元から即座に何かを抜き取り、虚空へと投げ放つ……直ぐにそれが暗闇の中で三つの眩い火花を散らすと、黒い海の全容を浮かび上がらせた。


 やはり、否、そこに蠢く群れはただのグールではなかった。



 「何だアレ……!?」



 唖然と目を剥くダナンの反応はある種正しい……何故ならそのグールの姿が明らかに人間を素体にしたとは思えないもので構成されていたからだ。

 獣人やエルフ、リザードマンやドワーフにゴブリン、果ては野生のモンスターに至るまでの多伎に渡る構成、飛行型は居ないものの底知れぬ脅威を感じるには十二分であろう。



 がキャサリンは瞬時に疑問と答え、そして行動へと迅速に移行していた。

 疑問、それは大草原やコルカド領でも見られなかった構成であるという点であり、その答えはあの『化け物』がきっと関係している。


 理屈では無く直感から導き出した答えであったが的外れでは終わらないと思えたのだ……少なくとも『化け物』はキャサリンの存在に気付いていた、おそらく彼女と同程度の索敵能力を有しているだろう。


 つまり、あの化け物も大峡谷に向かっている可能性が高い。


 背筋が凍る様な悪寒に襲われつつも、キャサリンは電磁鞭を抜いてグールの群れへ踏み出す!!



 その姿を目視し、停滞しかけたダナンの思考にも火が入った。


 アジトで補給した矢を震える手で取り出すと、例のブツを矢先に括り付けて上空へと弓を構える。

 今は時間が惜しいのだ、まともに相手をする訳にはゆかない……当初の予定通りこのルート諸共敵を潰してしまえば良い。


 がしかし、次の瞬間にダナンは思わず舌打ちを洩らしてしまう。


 敵群の進攻が思ったより深く、現状の位置からは目標が遠すぎた……もっと群れの中へ踏み込んで矢を放つ必要があったのだ。


 余りに危険な判断であったが、迷う事無くダナンは矢を変え番え、突撃するキャサリンの背中を援護しながら自身も踏み出す。


 その援護ひとつでキャサリンも現状を大まかに理解し、肩越しに二人の視線が交差した。



 ーー横薙ぎに打たれた鞭のしなりが空気を裂きつつ亜人タイプのグールの頭部に巻き付き、そのまま群れの一画へと叩きつける!!


 自身を中心とした全方位への音速打撃による蹂躙……数に物を言わせた反撃にもダナンの後方援護の巧みさも相まって、ほぼ隙の無い展開を迎えられた。

 が、それはダナンに必要な射程距離を稼ぐに足る展開では無い。


 防衛戦としては上々過ぎるが、目的には合わず、時間の浪費にもなってしまう。

 救いは敵に思考能力が欠如していた事だろうか、本来魔法に長けている筈のエルフがただ物理的に襲ってくるだけだった為に、他の人間素体のグール同様動きが緩慢であった。

 言ってしまえばそこが穴であり、付け入る隙となる……前衛としてキャサリンはその事実を直ぐに看破し、利用してゆく。


 事態の打開を図る余裕はある、あると思われた……次の瞬間までは。



 「………!?」



 後方へ払い打った鞭が不意に重くなった、表情を歪めて振り返ったキャサリンの目に飛び込んできたのは鞭の先端を掴んだリザードマン(グール)の姿であった。

 ーーと同時に、地を這う様に飛び込んで来る無数の小さな影、その陣形に既視感を覚えたキャサリンは咄嗟にリザードマンの膂力を利用し飛ぶ!!



 「ーーダナン!!」



 叫びに呼応し、二本番えの連続で放たれた矢が小さな影を撃ち抜いてゆき、それらを地面へ次々と転がすが一本外れ……一体のグールがキャサリンに辿り着いてしまう。



 「………クッ!?」



 華奢に見えるキャサリンの腕に齧り付き、不気味な咀嚼音を奏でる……ゴブリン(グール)。



 「キャスッ!!?」



 「余所見すんな馬鹿ッ!!!」



 キャサリンの叱咤の絶叫により、自身へ襲い掛かろうと飛び込んで来たグールを払い除け、ナイフで側頭部を刺し抜いて難を逃れたダナン。

 ……再び視線を向けるとキャサリンがゴブリンごとリザードマンへ叩きつけているのが見えた。


 ほぼ同時に頭部を潰され崩れ落ちる二体、どうやら噛まれたのは手甲部分であったらしい……だが安堵する暇等与えないとばかりに殺到するグールの波!!


 数体を蹴り飛ばし、自身も転がる様に距離を取ってから再び鞭を振るう。



 (……思った以上に速くて強い、戦線を押し上げるのに時間が掛かる。)



 揺るがし様の無い事実である……一見すると電磁鞭の攻撃は敵を撃破しているように思えるが、ほぼ薙ぎ払っているのみである、戦闘不能にまで至っていない。

 現に先程のリザードマンはひしゃげた頭部でまだ襲い掛かって来ていた。


 前線を押し上げる所ではない、悍ましくも凄まじい数字という暴威は二人を呑み込もうと取り囲み、退く事すらもう許さない。


 戦闘における複数用兵の基本戦型とも言える雁行陣形を圧潰させられ、瞬く間に狭められる包囲網……そして鞭を振るう為の体間距離が失われる迄、あと数秒という刹那に。


 ーーダナンは決断した。



 「やってくれ!!」



 一見意図の汲めぬ叫びへ瞬時に反応し、キャサリンが今迄に無い大振りで鞭を半円状にしならせる。

 渾身で放たれた打鞭は凄まじい破裂音で……ダナンを捉えた!!


 その瞬間、鈍く低い音が彼の奥側で爆ぜると、続け様に身体が引っ張られる。



 「………。」



 次の瞬間、ダナンの身体は宙空へと高く引き上げられていた。

 二回、三回と回りながら……叫びと共に手にしていた矢を必死で番える。

 目まぐるしく反転する視界の中で目標を捉えたが気付く、気付いてしまう、まだ距離が足りないと。


 だがここで諦める訳にはゆかない、最悪の結末なんかクソ喰らえと、ダナンが足りない最後の一歩を踏み出す!!


 キリモミ状に投げ出された空中で頭を振った事で態勢を僅かに戻した刹那、彼の眼下にオークの蕩けた相貌が見えた。



 「………。」



 無我に近い意識で、着地、否、まさしく踏み込んで……ダナンは敵群の更に奥へと跳んだ。



 ーーそして次の瞬間、夜闇を追い払うかの様な閃光が瞬いた。




 凄まじい轟音と爆風、崩れ落ちてきた岩肌が容赦なく戦場へ降り注ぎ、土煙を巻き上げて全ての者の視界を奪う……。



 「………。」



 歪み、停滞する意識……轟音の様な耳鳴り、身体中に走る激痛はあらゆる判断、思考をシャットダウンさせる。

 自身が今、地に伏している事さえ判らない。



 微かな呻きも掻き消された世界で、地べたしか映さぬ視界をか細い意識で上げようとする……ダナン。



 上体を逸らすどころか指先も動かせない、が、それも致し方ないであろう。

 『ブツ』を仕込んだ矢を着弾させたあの瞬間、想像以上の爆風を浴びて彼は吹き飛ばされ、地上へ叩き付けられたのだから。

 加えてキャサリンの打鞭を喰らい、肋骨が数本折れてしまっていた。


 それでも尚、闇に呑まれそうな意識を繋ごうとする意志がダナンを突き動かす。


 ……やがて限りなく低い視点が捉えたのは、自分へとにじり寄って来る無数の異形の足であった。


 失敗した……抗えない絶望感が急速に視界を暗転させてゆく、最後の一線、糸が……切れたかに思えた。



 「とっとと起きなさいな!!勝手に楽になんなッ!!」



 その瞬間、一層高く脈打つ心臓、生気を取り戻して見開かれた瞳が捉えた光景……それは敢然と立ち塞がり、グール共と対峙するキャサリンの背中であったという。



 「………。」



 「もう一度言うわよ、起きなさい……まだ後が控えているでしょ、ダナン。」



 後が控えている、ここはまだ最後の防衛線ではない……その言葉、その意図が、切れかけたダナンの意識を引き上げ、震わせる起爆剤となった。



 「………ガッ……ハッ、カハ!?」



 むせ返る鉄の臭いと味、それらを吐き出しながら両肘を立てて手の平を地べたに着くダナン。

 裂帛の絶叫と共に上半身を浮かせ、間に右膝を差し込んで片膝立ちにまで持ち直すと、背中を向けたままのキャサリンが手を差し伸べてくるのが視えた。



 「ダナンのお陰で道は塞げたわ……まぁ『多少』の敵は残ってるけど。」



 「……問題無い、よね?多分。」





 つづく


 ーー我が国が誇る浄火の勇者が齎した功績、いや功罪は大きい。


 彼女は専用の武具として六連式弾倉拳銃をエレメンツ教(キシリア派)技術機関と共に開発したらしいが、この機関も彼女の発案で発足した組織である。


 ……私がこの六連式を見せられた当時、例えようのない違和感を覚えた。

 元技術士官として見解を述べるなら、完成され過ぎていると思えたのだ。


 昔より魔法技術の方が尊ばれてきた世情の中で、火薬に限らず全般的な科学技術は発展どころか根付きもしなかった。

 だからこそ炸薬で弾を飛ばすという原理を形にするならば、試作一号はもっと簡素で原始的な図面になる筈であろう。


 強いて言うならば、後に開発された拠点砲台の方がこれに該当すると思われる。


 また非常に厄介な話だが、簡略した五連式の製法がギルドを介して闇市場へ流れてしまった。

 しかも原因追求の為に開かれたドミニオン共和国評議査問会の議事録が一部抹消されていた、非公開ではなく抹消である。


 ……ここまで六連式を勇者の功罪として挙げたが、実の所、彼女最大の功罪は別に在る。



 それは六連式によってこの世界に科学的な「動力」の概念を生んだ事だ。

 後の自走式戦車、そして飛空艇……それらは信じられない事に二年にも満たない期間で開発、建造された。


 ……突飛な話だが、私には最初からこの技術革新を狙い、六連式が造られたのだと思えてならない。




 週刊ドミニオン ジャーナル陰謀論のススメより一部抜粋 

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