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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第三章 盗賊領主はハンコウする編 「義の鬼」


 静まり返る武舞台に相まみえる鬼と人……ただその時を今か今かと待ちわびている。


 スタンスを広げロングソードを正眼に構えるミシェルに対して、水蓮は一振りとは形容出来ぬ非常識な大刀を気軽に手放す。


 ーー自由落下で武舞台の石畳に突き立てられた刃が、苦もなくその尖端を埋めた。


 「………。」


 「………。」


 痩せぎすの鬼、水蓮の痩せこけた青白い顔色に反して、額から伸びる一本角は雄々しく漆黒の中に幾重もの黄金の筋が入っており美しい、またその立ち姿は自然体と言うには隙だらけで在りながら、完全な死に体でもない様に見える。

 逆手で柄を握っているのも然りだろう、容易に付け込める隙である筈がミシェルにはそう思えなかったのだ。


 ……今迄戦ってきた者達とは一線を画す異質さに、ミシェルは本当に僅かな停滞を余儀なくされていた。


 まだ試合開始は宣言されていない、否、戦いは既に始まっているのだ……相手の構え、足幅、視線と呼吸や纏う空気までを観察し、気配を掴まなければならない。

 傭兵として生き残る為の鉄則、無意識の癖になるまで刷り込まれた思考がかえってミシェルへ停滞を齎した要因となっていたのだろう。


 繕玄の放った号令がミシェルの耳を通り認識された刹那ーー事態は既に激変していた。


 油断と呼ぶには余りにも小さな『しこり』、コンマ数秒の差で大雑把な鉄の巨塊がミシェルのまさに眼前で止まっていた。

 凄まじい風圧が遅れる様に彼女のブロンドの髪を揺らして後方へ抜けてゆく。


 「………。」


 ……この時、武舞台の下で一部始終を目撃していたモンテの眼には開始直後に既に水蓮がミシェルへ肉薄していた様に映っていた。


 (ワープ……じゃねーか、あのクソ重たそうな大太刀であれだけの制動を高速でやるってどんな筋力だよ、鬼ヤバ。)


 背中にまたしても冷たいものが流れる、が同時に彼は客観的な視点で水蓮を視る事が出来ていた……刹那に行われたこの高速攻撃の一端に曲がりなりにも競技者であったモンテ(平和泉兵太郎)だからこそ思い至ったのだろう。


 (両者の距離は大して空いてねぇ、あの挙動は見ている方が実際以上に速く錯覚しているのか?……多分フライングに近いな。)


 繕玄が開始を宣言したあの刹那、水蓮は既に動いていた、むしろ宣言よりコンマ数秒早い段階で反応していたのではないか?

 だからこそフライングとモンテは内心で称したのだろう。

 人は様々な場面において形式に縛られている、認識し、或いは無意識下であろうとその影響を受けてしまう。


 意識への楔、空白、隙間……油断と断じられれば返す言葉等ない、ミシェルは突き付けられた刃へ右眼を見開きながら後悔に身動きを取れずにいる。


 が不意に鉄塊が眼前から降ろされた。


 ミシェルの視界に入ってきたのは水蓮の透き通る様な青白い表情であった。


 「……もういいだろう。」


 一言呟き、水蓮が背中を向けた瞬間に繕玄の眉が微かに揺れる。

 それは感情を律してきた男が初めて見せた苛立ちだと、傍らのダロスは理解した。

 そして繕玄が彼等三人を無下に扱う理由の一端であると。


 鮮烈過ぎる幕切れに他の鬼達も納得出来よう筈もないが、勝つには勝ったのだろう、あの一撃で全ては明白なのだから……しかし。


 大刀を引き摺りながら武舞台を降りようとする水蓮の歩みが止まる。


 「……何故だ?」


 背後から感じる殺気に振り返る事なく、ただそう呟いた。


 「勝手に終わらせるなよ、オレはまだ生きて立ってるんだぜ。」


 声音が尽きるや否や、今度はミシェルが瞬きで水蓮の背中へ迫るーー次の瞬間!!


 「………!?」


 耳を噛み破る様な凄まじい金属音と共に火花が散り、ミシェルの身体が後方へと飛び退く。


 一合の剣戟、一瞬で水蓮は背後へ大刀を回しミシェルの斬撃を受けるだけでなく、弾いてみせた。


 「………。」


 一拍の沈黙、僅かな手の痺れを確かめて水蓮は人知れず口元を緩めて……そして。


 「良かった……向き合ってくれたって事はまだアンタを完全に失望させた訳じゃないんだな。」


 『失望』、事ここに至りミシェルは他の鬼とは違う水蓮の異質さの正体に気付いていた。


 気配の大元たる感情を殺し敵に対してゆくのとは根本から違う、そもそも水蓮は害意すらミシェルへ向けていなかったのだろう。


 「……始めから適当にあしらうつもりだったのか?」


 微笑みに憤怒を秘め、ゆるりとロングソードを柄ヘ収めて構える……。

 その様子に薄く瞼を伏せ、顎を引くと引き摺っていた大刀を数cm浮かせる……。


 「(抜刀術か)礼を失したのは詫びよう、代わりではないが仕切り直しとゆこうか。」


 『礼を失した』この瞬間、水蓮はミシェルを戦士として認めた事になる……その言葉に同じく武舞台の周囲で成り行きを見守っていた鬼人達の間でどよめき、否、ほんの小さな細波が起こっていた。


 「………。」


 「………。」


 何度目かの沈黙の最中、ミシェルの細く長い呼吸だけが聴こえゆく……対し誰かが呟く、息遣いを隠せぬ未熟者だと。

 だがしかし、水蓮はただ黙して動かない……その表情は強張っている様にも窺えた。


 ーーそしてその時は突然に訪れる。


 身体の根幹から震わせる裂帛の絶唱を響かせ、石畳を踏み砕いてミシェルが飛び出す!!


 (速い、低いッ!?)


 武舞台下で見守る華火は確かに驚きの色を一瞬だけ見せた、だがそれはあくまで『人間にしては』と云う前置きを付してである。


 次の瞬間、またしても凄まじい金属音と華々しい火花が両者の間で散りばめられ儚く消えた。

 ミシェルの抜刀による一撃は水蓮によって読まれ、受けられてしまう……が、これで終わりではない。


 更なる瞬き、受けられた刀身の反発を利用し、半円を描いてミシェルが翻る!!


 (抜刀連撃か……だが未だ想定内の速さ。)


 軌道を変え、左逆袈裟で放たれた二撃目を受けきる水蓮。

 ーーまだ終わりではない、ミシェルは尚も動く、動き続ける。


 絶え間なく剣を振り続け、高速の連撃を繰り出してゆく。

 一方的なまでに攻守の明暗が分かたれた展開に、押し切れば勝てるかもしれないとモンテは一瞬拳を握りかける、がすぐに自身の中で燻るある感情、考えに気付いてしまう。


 それを捕捉する様に、周囲の鬼人達の反応が目につく……ミシェルに対する冷笑、あくまで人間の範疇での能力でしかないと云うのが共通の見解なのだろう、おそらく既に右眼を庇う癖も看破されているかもしれない。

 もう見るべき所も無い勝負にすらならぬ退屈な時間、何時までも受けに徹する水蓮への苛つきの言葉さえ散見された。

 事実として、水蓮が攻勢に出れば状況は一変し決着をみるのは必定であろう。


 逆に言えば勝負を決するイニシアチブを握りながら、何故に水蓮は受け続けるのか?


 「………。」


 外野がほざく程に見るべき所が無いのか?否、愚直に繰り出される連撃の裏で、ミシェルの見開かれた右眼は何かを狙っている様に思えたのだ。

 そう、酷く単純な道理であった……当事者たる水蓮は久しく忘れていた恐怖を十二分に堪能していた。


 しかしながら時間が残されていない、敵の持久力が尽きてしまうのは水蓮にとって不本意でしかない。


 ーーならば罠に敢えて乗るのも一興であろう。


 斯くして決着の瞬間は訪れた……。


 ロングソードを合わせ弾いた直後、非常識極まりなく分厚く、長大な超重量を誇る大刀が真っ向からミシェルヘ振り下ろされたのだ。


 一切の音も無く、艶やかに散る火花も無い……三度の沈黙、否、静寂が武舞台上から拡がってゆく。


 その結果を睨みつけ、繕玄は疎ましく水蓮を見下ろし続ける。


 ……曰く、鬼人族の伝承に『神鳴紋』あり。


 数百年に一度、極稀に漆黒に黄金こがね縁の雷紋様を額へ頂くニ本角の鬼子が生まれる事があるという。

 鬼神・刻天明王の生まれ変わりとされ、次代の鬼人族を統べるべき畏敬の存在……だが時に運命は思いもよらぬ皮肉を齎す。


 約二十五年前、待ち望んでいた神鳴紋を宿す赤子が二人、双子として角を分けあう様に一本角で生まれてしまったのだ。

 鬼人族のみならず、多くの種族で忌避され不吉の象徴である双子、それも神鳴紋を共に持っていたのだから皮肉以外の何物でもない。


 当時の首領以下、全員が頭を抱える最中、双子とその母親が姿を消す……理由は定かではない、いや、追い出したも同然だと考えた者が居た。

 夫であり、双子の父親でもあった鳳禅である。


 彼は母子を捜す為に旅立ち、七年と云う月日と共に人々の記憶は薄れて、誰も双子の事を口にしなくなった頃……ある日の朝方、鳳禅が帰郷した。

 連れ帰ったのはまだ幼かった水蓮だけであったという。


 母親と双子の片割れはどうなったのか?鳳禅は無論、水蓮も決して語ろうとせず、元より一族の中で忌まわしき記憶であった事も手伝い追求する者等皆無であった。




 「やはり忌み子よな……。」


 微かな呟きを洩らした繕玄の視線の先ーー


 至近距離にて互いに得物を突きつけあいつつ、微動だにしない二人。

 ミシェルの前髪に触れる大刀に対し、水蓮の首筋で止まるロングソード……動きを見せない両者に周囲は決着の行方を見い出せずに戸惑うばかりである。


 否、それは表情を強張らせて動けずにいるミシェルも同様であった。

 そんな彼女へ水蓮は突如として破顔し、刃を退けた。


 「……お前の勝ちだ。」


 刹那、水蓮の首筋から少量の血が滴る……。


 躊躇いや未練も無く、身体に燻る熱量を解放するかの様に筋肉を弛緩させ水蓮は再び背を向けて踏み出す。


 ……が直後、それに待ったを掛けたのは繕玄であった。


 「私は勝てと言った筈だが……何故に勝てた勝負を捨てた?」


 その言葉は他でもなくミシェルが一番聞きたい質問であっただろう。


 あの決着の瞬間、水蓮が大刀をまたしても止めたのは誰の目にも明白であったからだ。

 たら、れば、ではなく大刀が振り下ろされていたなら先に絶命していたのはミシェルだったのだ。


 言葉を発した繕玄を無視する様に、水蓮はミシェルを肩越しに一瞥する……。


 「見事だったぞ……俺の兜割りを狙ったのだろう。」


 彼の指摘は概ね正しい、ミシェルが勝ちを拾える唯一の可能性……それは互いの得物が描く軌道で生じるだろう差によって、速度で勝るしかなかった。

 大刀がここ一番で最も威力と速度を発揮するのは振り下ろしである、ミシェルはその選択肢を攻勢に転じる一撃として引き出す為に、わざと自身の右眼を庇う癖をブラフに薙ぎ払いや突きを狙い難い立ち回りをしていた。

 おそらく狙いを看破した上で敢えて乗ってきたのだろう……対して速度で勝る為にミシェルが選んだ一撃はロングソードの強みである振り抜きを捨てる事だった。


 ……そう、『突き』である。


 真っ向斬りの半円軌道より直線に近い軌道をとる事で結果的に水蓮より先んじて届いた事には届いた。

 しかしである、その突きは手出しに近く殺傷能力として疑念を拭えない、誰よりもミシェル自身が死を確信していたのだ。


 「一本は一本だ……ただそれだけさ。」


 見透かした様にそう呟き、今度こそ水蓮は武舞台の下へと降りていってしまった……。


 その何処か涼やかな振る舞いに、ミシェルは水蓮という男の中に在る美学を見た気がした。



 つづく

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