第三章 盗賊領主はハンコウする編 「オアシスへ」
お久しぶりです……気付けば年末でした。
この数週間は無職期間とはまた違った意味で辛いものでした……まだ終わってないけど。
ひとつひとつやってゆくしかないと思いつつ、また細々と更新していく所存です。
どうかお付き合い下さい。
「何もねぇ……。」
砂塵に外套を巻上げられ、呟きの余韻が掻き消されてゆく。
あれから、国境でギャンビット号と別れて魔族領ヘと踏み入った俺達はロジャーの記憶に従い一昼夜掛けて鬼人族の集落ヘやって来た筈なんだが……。
砂丘から見下ろした景色の中には、集落どころか人工物らしきものすら無かった。
……これはもしや、ロジャーの記憶違い?初めてやらかしたんじゃね?
「………。」
等と思った矢先、何かを発見したのか俺より前に出ていたロジャーとイチタロウが砂丘を滑り降りていく。
ふと横ヘ視線を向けるとミシェルもロジャー達ヘ続いていた。
「ロジャー……。」
「多分間違いないだろう。」
腰を落とし、暫く何かを注視する二人の背後ヘ近づいて行くミシェル、ロジャーはしゃがんだまま肩越しに彼女を一瞥し僅かに場所を空けた。
……端的に促され二人同様に視線を一点ヘ落とすと、即座にミシェルの顔色が変わる。
「おいお前ら……そんなに神妙なツラで何を視てんだよ?」
最後に滑り降りて来た俺が砂まみれでそう問うと、一瞬の沈黙を置きロジャーが口を開く。
「此処は間違いなく私の記憶に在る鬼人族の集落です……ですが。」
歯切れ悪くそう言いつつ、ロジャーは砂中から何かを拾い上げると静かに立ち、それを差し出した。
「……木片?焦げているみたいだけど。」
「ここらは砂に埋まっているが僅かに住居の名残り、規則的な土台の隆起が認められるよ。」
今度はミシェルがロジャーの捕捉をする様に地面を差し示す。
そう言われれば、確かに一帯には不自然な規則性に則った隆起があるが……つまりどう云う事よ?
俺が要領を得ない表情を浮かべていると、ロジャーが核心を淡々と告げる。
「この集落は焼き討ちに遭った可能性が高いかと、それについては傭兵であるミシェル様のお墨付きも頂きました……しかし、それより一帯の砂漠化が進んでいるのが気になります。」
「ああ、ここいら辺は昔から魔族領の中辺で一番の水の豊富な土地だった筈だべ、それが見事に枯れちまってる。」
「マジか……って事は何か?一昼夜掛けて来たのに空振りかよ、明後日にはギャンビット号との合流地点に行かなきゃいけねーのに……。」
その瞬間、今度はロジャー達の方が困惑の色を浮かべてしまった……どうやら俺の発言はピントがズレていた様だ。
みんなは『焼き討ち』の方に比重を置いているのだろう。
「それなんですが、一か所だけ思い当る場所があるのですが。」
「……魔族領『外縁』にも一か所だけ、小さな水源があるべ。」
「さっきからみんなの空気が重い気がするんだが、何で?」
刹那、エグい角度でミシェルから頭をハタかれた!?
ちょっ……頭がクラクラしやがる。
「お前どんだけ世間知らずなんだよ!?鬼人だぞ!!戦場で鬼一人と遭遇しただけで中隊級の脅威なんだよ!!」
「つまりはそう云う事です……彼等が我々ゴブリンと同じ憂き目に在るとは到底考えられません。」
「で、それを確かめに『国境線』へ行こうって事なのか。」
「「………。」」
あらら……押し黙っちゃったよ、鬼の脅威とやらはみんなの反応で何となく理解出来るが。
「ロジャー、今のお前の地力で戦っても鬼人には勝てないのか?」
「純粋に身体能力で比べれば、平均的な鬼人に私は劣るでしょうな。」
なるほど、そんな奴らが集団でゴロゴロ居やがるのか……そりゃナーバスになるわな。
後で聞いた話しだと、鬼人族ってのは魔族領の中辺を牛耳る兵揃いで魔王軍内の地位も不動だったらしい。
んな幹部様が領土争いに負けたかもしれないとくれば、魔王軍の序列争いも激変してる可能性が高い。
ロジャー達にしてみれば寝耳に水、浦島太郎、三年寝太郎状態という訳か。
更に言えば鬼の領地が誰にも占領されずに放置されている事から、上位種族同士の序列争いで負けたとは考え難いという。
兎も角、確かめに行くのが先決だろう。
それから俺達は北西へ三時間程、砂漠を歩く事となった……その途中。
「ほらよミシェル。」
俺は空の水筒に異次元BOXに収めていた飲水を補充して渡す、傍から見たら人差し指から水を放出する怪しいマジシャンに見えなくもない。
「相変わらずお前の非常識な手品はどうなってんだよ?」
「あん?聞けば何でも教えると思うなよ。世間はお前のかーちゃんじゃないんだ。」
「意味が分かんない……。」
こっちの話しである……まぁどうでも良いよね。
岩陰で座り水分を取りつつ、広大な死の大地とその地平線の彼方ヘ視線を向ける。
それにしても、改めて異次元BOXの便利さを感じてしまう。
ギャンビット号を降りる際に貰った大量の物資を収め、俺自身は手ぶらで砂漠を歩けるんだから、これこそチートだろう。
ちょっとした実験のつもりでギャンビット号の生活用水を異次元BOXで取り込んだら、ひとつのアイテムスロットに入る入る……総量の四分の一を文字通り呑み込んだ所で、目を丸くしていたシオリさんに叱られてしまった。
「君は戦闘と云うより、サバイバリティに特化しているのかもな。」
とか言っているのを俺は何処かで苦々しく感じたものだ。
「………。」
何気なく水色の袖口を捲ると玉の様な汗がびっしりと見える。
砂漠地帯だけあって環境は過酷と言えるだろう、下手をすると直ぐに脱水症状を引き起こしそうだ。
俺はズボンのポケット(異次元BOX)から岩塩の欠片を取り出し、みんなに配る。
「モンテ様、これは……塩ですか?」
「見ての通りだよ、大量の汗をかくと塩分が失われるからね、適度に舐めてくれ。」
ざっくりとした説明にも関わらずロジャーとイチタロウはすんなりと理解し岩塩の欠片をひと舐めする中、ミシェルだけ怪訝な表情をこちらに向けてきた。
「塩分?何を言ってやがる。こんなもの舐めてたら、喉が乾くだろ!?」
はぁ、面倒くさい……この世界って飛空艇とかの技術は発展してるのに、人体の常識や環境に適応する知恵なんかは遅れているのか。
いや、知恵を共通認識として広めていないのかもしれない。
「四の五の言わずに舐めておけ、絶対に後で後悔すっから。」
……ぶっきらぼうにそう言ったのがいけなかった。
ミシェルたんは「そんなモノ舐めてられるか!?」と捨て台詞を吐き、それ以降、頑として俺の忠告を聞かなかった。
意地になっちゃったのね……魔族領外辺の水源に着くまで、見るからに半死半生の状態にも関わらず根性だけでついて来たのだから脱帽するしかないだろう。
まぁ、予定よりだいぶ到着は遅れたが。
ともかく、俺達は辿り着いた……オアシスを取り巻く様に形成された古びた街並みへと。
つづく




