第三章 盗賊領主はハンコウする編 「最果ての町」
久しぶりの更新です……って、前も同じ様な事書いたわッ!?
ええ、暫く小説から離れておりました。
ちょっと自分を含めて色々と嫌になりまして……ハッキリと物書きとしての才能の無さを実感しました。
それでも時間を置いたら、また書きたくなったので戻ってきた次第です。
誰かが読んでくれる限り、物語を綴りたいと思います。
「随分と雑多な町だな……。」
外套を目深に被り、俺達は町並みの最中を歩いてゆく。
寂れたスラム然とした小屋が立ち並ぶのに反し、多種多様な種族が行き交う様は活気に溢れていた。
「ここは領土争いで追いやられた者達が寄り合って造られた町で、『最果ての町』或いは『敗者の吹き溜まり』とも揶揄されております。必然的に治安は悪く、マスターとミシェル嬢には町を出るまで素顔を隠していただきたく……」
町へ入る前、そう進言してきたロジャーの真意を実際の光景を目の当たりにして、ようやく理解出来た……今この場に人間が足を踏み入れている事自体が住民にとってはトラブルの火種なのだろう。
正式な名すらない吹き溜まりにおいて、亜人種や魔物達の心は荒んでいるのか。
「………。」
いや、行き交う者達を見る限りでは少々様子が異なる気がする。
その場所に流れる空気感とでも言えばいいだろうか……ロジャーもそれを肌で感じたからこそ、この町の情報を知るであろう知り合いに会ってくると独りで行ってしまった。
まぁ、そんな事情から俺達三人はちょっと手持無沙汰に苛まれつつ、ぶらついてみる事にした。
しかし町と言っても道が整備されている訳でも無く、建築様式らしきものも見て取れない粗末なテント?天幕が立ち並んでいる。
まともなものでも不格好な掘っ立て小屋がせいぜいだろう……と思っていたら、いきなり木造建築が目に入ってきやがった。
瓦屋根の平屋が立ち並んでいるな、この区画だけ不自然に真新しい。
そう考えていると区画を仕切る門構えの前で立ち番をする二人の男に気が付いた……額から角が生えていた。
雰囲気でも分かる、コイツらが鬼人か、通りを行く他の住民たちは目を伏せて避けている様にも見えるが。
「………。」
不意に立ち番の鬼人の一人がこちらへ視線を向けてきた……ここはとっとと移動した方が良さ気だろう。
何食わぬ素振りで道なりに通り過ぎ、俺達は漠然とオアシスへ歩きだしていた。
ーー薄暗い小屋の中にネズミの囀りが微かに聴こえる。
斜陽に舞う埃と饐えた匂いが蔓延するも、小屋に居つく者にとってはそんな事実等、些末な事でしかない。
住めば都とは言い様であろう、如何に劣悪な環境であっても一旦慣れてしまえばそれが日常なのだ。
そう、慣れていた筈なのだ……過去の自分であったなら、むしろ居心地の良ささえ感じていただろうに。
ロジャーは予期していなかった自身の変化に顔をしかめていた。
小屋の出入口でそれ以上踏み込めずに立ち止まるロジャーを奥の影から認め、ゆるりと眼光が瞬く。
「お前さん……もしかして『ゴブ坊』なのか?」
久方振りに耳にした渾名?いや通り名と言った方が正確だろうか、躊躇いを悟られぬ様に敢えて無表情で一礼をするロジャーの所作に丸まった眼光の主が影から思わず姿を現す。
ロジャーの過去を知る者にとって、何気ない彼の所作、その知性的な振る舞いが信じられなかったのだろう。
そこにはお世辞にも良いとは言えない身なりの小柄な老人が訝しげに表情を歪め、立っていた。
よく見ると老人の両側頭部から長く、毛細血管の浮き出た獣の耳が垂れ下がっている……どうやら彼は兎種の獣亜人であるようだ。
「お久しぶりですガーチャさん。」
「こいつは驚いた……流暢な亜人語だが、確かにゴブ坊じゃないか。」
「すいません、色々とありまして今はロジャーという過分な名前を頂いております。」
ロジャー……馴染みとはいえ、そう眼前のゴブリンが名乗った瞬間、明らかに獣人たるガーチャの顔色が曇った。
「『お前』その名前を滅多に名乗らん方がエエぞ。」
それは心からの忠告ではなく、ガーチャ本人の不快感を多分に含んでいる言葉の様にロジャーには思えた。
元来、魔族領における種族間の序列において、個人名を名乗る事が許されているのは中位の種族までである。
当然、最下位のゴブリンが許される訳はないのだ。
だがしかし……とロジャーは思う。
そもそもゴブリン族は既に魔族領から追いやられ、淘汰の対象ですらある、序列争いからとっくに外れているのだ、名乗るのも勝手であり今更であった。
だからこそ何のしがらみもなく名乗ったのだが……ただ、最近まで名前を名乗った経験がなかったロジャーにはこの時のガーチャの立ち位置、心情を察する事が適わなかったのだろう。
「ここには名無しで燻っているヤツが大半な上に今はみんなピリついてんだよ。」
「ピリついている……それはあなたが『此処』に居る事にも関係しているのですか?」
「………!?」
瞬間、それは、その表情は顕著であった……。
ガーチャは顔を伏せてしまったが、彼がこぶしを握り締めているのをロジャーは見逃さなかったのだ。
「三年前、あなたは何も出来ない私を自身の商店で雇ってくれた……その商店が在った場所に今は鬼共が居を構えている。何よりあなたの変わり様、おかみさんはどうされたのですか?」
何気ない懐古……かつて仲間を喪い、生きる事に惑い、理解出来ない渇望と失意の最中でロジャーはこの地でガーチャとその家族に出会った。
血泥で汚れたボロボロの自分を彼等は一時でも拾い上げて仕事を与えてくれた、要領を得ず戸惑う自分を根気強く諭して色々な事を教えてくれたのだ。
治安の悪い最果ての町で、それでも気さくに笑うおかみさんの姿は周囲に伝わり、ロジャーもまた安らぎを得ていた。
品揃えの良い商店ではなかったと今なら分かる……それでもガーチャは誇りを持って商いをしていた。
それが今や二人が出会った時と様相が真逆となっていたのだから、時の流れは皮肉である。
淀んで震えるカーチャの眼を見据えつつ、ロジャーの脳裏を占めるたったひとつの言葉が思わず口を突いて出た。
「……一体何があったんですか。」
「ゴブ坊……俺ぁ思い知ったんだよ、俺達が今まで信じてたもんはな……全てウソっぱちだったんだ。」
「………。」
◇
◆
◆
水面は静かに光を称えている……。
周囲は砂漠に抗うかの様に植物が自生しているようだ。
ロジャーを待つ間、暫し岩場に腰掛けて呆けていたが、ふとミシェルたんが口を開く。
「魔族も私達と変わらない、生活ってのがあるんだな。」
「何だよ急に、もっと生首とかが提灯代わりに並んでるとでも思ってたのか?」
「いや、そうじゃないけど……今まで魔王軍とは戦うだけだったからな、殺し合う相手の生活なんざ想像しねーよ。」
存外ミシェルは優し過ぎるのかもしれない。
そんな事を思いつつ、ふと彼女の言葉に引っ掛かりを感じた。
「確か魔王軍とは数十年単位で戦争してないって言ってなかった?」
「ああ、だけど国境線では小競り合いくらいはあるさ、それにーー」
ミシェルが言いかけた時だった。
「ババァ!!誰の許可で水を飲もうってんだ!?」
突然響いた怒号の方へ視線を向けると、身の丈2メートルは有りそうなオーク……だよな?あれ。
頭部が豚の亜人二人が小柄な老人を蹴りつけていた。
派手に蹴り飛ばされ老人はピクリとも動かない、これはマズいだろ。
……と思った瞬間、ミシェルとイチタロウが俺の前へ割り込んできた。
(放っておけよ、今はモメたくないだろう。)
まぁ確かに仰る通りだわ……。
「このオアシスの水はな、町の統治者たる繕玄様のご厚意で使わせて頂いてるんだ!!お前如きの口に入るものではないッ!!」
おおっ、最もらしい悪役の御高説キタッ!?
「統……治者?みなを暴力で黙らせただけじゃろ、鬼共に金を払えない者は死ねと……言うか……」
「それが定めよ。」
ニタリと口端を歪め、鼻を鳴らしたオークが這いつくばるバァさんを見下ろして……ゆっくりと片脚を上げてゆく。
何て事もない、弱い奴が潰されて今日も世界は回り続けるだけだ。
それなのに何でミシェルもイチタロウもわざわざ俺を止めるのか、意味分からん。
まぁ意味分からんのはあの豚どもも一緒か……弱者は隅っこで震えて我慢してろってか?正しいよ、結局は力だかんね、有力者に取り入るのも才能だよ。
……だが、誰かの威を借るだけのクズが、偉そうに『定め』を騙るかよ。
「………!?」
次の瞬間、バァさんを踏み潰そうとしてるオークが濁った眼を俺へ向けてきた。
甲高い金属音が気になったんだろう……ミシェルも思わず肩越しに俺を視る、その表情は僅かに引きつっている。
カチンッ!カチンッ!カチンッ!
咥えタバコで煙を吐き出して、俺は首を傾けつつ満面の笑顔を作っていた。
つづく




