デストロイ外伝 『フィッシャーマンズ ライジング』開戦
アルパスト帝国第一世代型飛行艇ドラゴンフライヤー
全長8m弱、体高5m強、最高速度430km、標準装備 120mm回転式機関砲 動力は高純度魔石(風、炎)補助としてガソリンによる燃焼機関搭載
軍事協定によりウォルターナへ技術供与された機体であるが帝国では現在、大型かつ高出力化された第三世代型ドライマルセルが制式採用され、一部の指揮官機では通信に特化したカスタム機が存在する。
本編において、モンテが搭乗したドラゴンフライヤーは後期型であり、最軽量化の一環で完全な屋外搭乗型としてサーフ(屋根)が取り払われている。
また、各部も小型化するよう再設計され物資運搬を主眼に運用されているらしい。
時速380kmでギガントプロスの頭上を旋回しながら、ドラゴンフライヤーの機底に備え付けられた砲身が高速で回転する。
と……火線が列を成し、キリトリ線の様に地上へと降り注ぐが目標であるギガントプロスから逸れてしまう。
「……やはり発射までタイムラグがあるか。」
「アンタ、経験はありそうだが砲撃手は素人なのか?」
砲撃桿を握り締め、苦悶の表情で脂汗を垂らすバララを横目に二十代半ば程に見えるパイロットがそう訝し気に皮肉を洩らした。
「ああ……こんな旧型に乗ったのは初めてだ。」
「………。」
やや反応に困る皮肉で閉口するパイロットであったが、次の瞬間、頭上の装甲板が打撃音と共に奇妙な凸形で歪む。
「もっと高度を下げろ!!」
気流に耐え、髪を振り乱しながらシオリがデッキを踏みつけたのだろう。
その装甲板の歪みを眼にし、上司であるナーデルのネチっこい叱責が脳裏へ過る……いや、叱責で済めばまだいいと、若いパイロットは遠慮という態度を知らない二人を乗せてしまった事を後悔し始めていた。
「……馬鹿を言うな、戦術の基本は敵の射程圏外からの攻撃だろうが。」
「………。」
次の瞬間、またも天井の装甲板が踏みつけられる。
「私の射程からも外れてるんだ!!降下しろっ!!」
勇者の激昂が天井越しに炸裂した刹那、色々と文字どおりの板挟みな状況に、パイロットもとい、ウォルターナ国内初のテスト飛行士にして将来を約束されたエリートでもあるフィーロ・ランバート(26)は……ブチ切れた。
そして彼が選んだ選択肢は四枚翅を停止させての、急降下であった。
「もうどうなっても知るかっ!!」
急転直下の加速Gがシオリの顔の皮膚を突っ張り、心臓を鷲掴みにされるかの様な体感をもたらす。
「………ッ!?」
ドラゴンフライヤーは弾丸さながら、機体を回転させながらギガントプロスへと突撃し、今度はタイムラグを体感でカバーしたバララの機関砲射撃がその巨体の右肩口を下方へ突き破る!!
「操縦桿(上昇)を引け!!」
「分かってんよ!!」
間一髪、地表スレスレで四枚翅を可変稼働させ、腐り果てた泥の飛沫を舞い上げながら、機体が弧を描いて上昇してゆく……と、射程圏をシオリが逃す訳もない。
最大限度の超加速を込めた弾丸が置き土産と言わんばかりにギガントプロスの左腕、その腐肉を削ぎ飛ばした。
安全圏へと飛び抜ける機体から後方へ視線を向けるバララ。
「よし、機関砲でもダメージを与えられる……このまま一撃離脱を繰り返すぞ。」
「いや、その前にアンタは大丈夫なのか?」
手応えを語るバララの真横で、間髪入れずに真逆の疑念を問い掛けるフィーロ。
それは戦術に対する問いではなく、バララ自身へ向けられたものであった。
如何に急制動を体感したとはいえ、脂汗を垂れ流し、動悸と息切れ、いやおそらくは過呼吸を起こしているのだろうバララの様子は明らかな異常と言えた。
しかしフィーロにはこの症状にひとつだけ思い当たる事があった……それは飛行士訓練の座学講習で欠伸をしながら聞き流していた話だ。
「アンタもしかしてーー」
「構うなッ!!今はあのデカブツを倒すのが先決だ。」
フィーロへ視線を向ける事なく、前だけを見据えて断固たる拒絶を示すバララ……直後、今日三回目の打突音が天井で響く。
「駄目だ、射程圏外から機関砲撃を行う。」
そう自身の意見を翻した数瞬後、不意にハッチが開かれまたも気流が流入してシオリが戻ってきた。
(……戻ってくるなら、装甲板をわざわざ凹ますなよ!?)
最もな苛立ちを感じるフィーロであったが、後部座席へ倒れ込むシオリを見た途端にバララ共々異変を感じ取る……。
明らかに疲弊した様子のシオリと、彼女のコートから数条もの煙りが立ち上がっていた。
「あれは不味い……不味過ぎる。」
二人には彼女が一体何を言っているのか、真意を理解出来ずにいたがこの時、実際に操縦席に着いているフィーロだけは二重の意味で異変を体感していた。
(……あれ?何か操縦桿重くね?)
「機体がけっこう深刻なダメージを受けている。」
衝撃的な二の句を呟いたシオリへバララが『馬鹿なっ!?』と食って掛かる。
彼の視点ならばその言葉はもっともだろう、ダメージを負うような攻撃など掠った覚えもないのだから。
……が反して、フィーロは得体の知れない冷たいものが背中へ流れるのを感じていた。
「結論から言おう……ヤツの周囲には強力な腐食性ガスが発生している。勇者として、あらゆる毒物に耐性を持つ私ですら、このザマだ。」
「それはつまりーー」
言葉を紡ぎかけた刹那、機体トラブルを示すアラームがけたたましく鳴り響く!
と同時に左後部翼の付け根から煙りが噴き上げて、その動きを止めてしまう。
「焦るな!!飛行に支障はない!!」
冷静を促すフィーロの絶叫は、しかし彼自身へ向けられた戒めであったのだろう。
冷め醒めとした空気の最中、更なる異変にバララが気づく。
地上にて、ギガントプロスが明らかにそのひとつ眼でドラゴンフライヤーを追いながら……ゆっくりと軋みの音を轟かせ、顎を下方へ開けてゆく。
首筋まで裂け、競りだして上下に二極化したその咥内は円筒状を思わせる空洞へと変わり、中心で歪んだ空気を生じさせる。
「あれも不味いぞ!?全速力で『射線』から離れろ!!」
「だから無茶言うな!!」
やがて、咥内で連なる肉弁らしき器官が収縮すると一条の空気の歪みは線へと狭まりーーーそれは放たれた。
つづく




