デストロイ外伝 『フィッシャーマンズ ライジング』 音速
なんだかんだでクライマックスです。
あと3話で纏まるとイイなぁ。
ーー刹那を超える音速の奔流。
遥かに逸れたそれは、だがそれでも真空を以て副次的な衝撃波を生じさせドラゴンフライヤーへと襲い掛かった。
装甲板を剥ぎ取り、微細な角度計算で成された翅を撓めるだけでなく電子計器類までも狂わせるに至っており、機体が滑空出来ている自体、奇跡と言えた。
「機首が上がらねぇ!?」
衝撃波に慄き、パニック状態で操縦桿を繰り返し引くフィーロとは裏腹に、シオリとバララは酷く醒めた眼差しで状況を整理してゆく。
「今地表に降りたら……腐食ガスの餌食だぞ。」
「まぁ、その前にあの攻撃で迎撃されるだろうな。」
冷静かつ不吉な言葉程、口にした途端に牙を剥くものである。
それを現実とする様に、紅きひとつ眼は力無く漂うばかりの小さな蚊トンボを見据えて、再び顎を開いてゆく。
放たれた時点で全てが詰む、瞬きの死刑執行が迫る最中、シオリは思考を回転させ打開策を模索するが思いつく筈もない。
距離等関係ないのだ、逃げ切る事は不可能であろう。
後方を睨みつけるシオリ達の眼に、ギガントプロスの腔内で発生する歪められた空気圧の射線が映った……刹那。
「反転しろ!!」
シオリの絶叫が響いた直後、フィーロは否定を叫ぼうとした、がしかしそれよりも速く、バララが反応していた。
彼はフィーロの手の上から操縦桿を3時の方向へ瞬きだけ倒して、絶妙に機体を僅かに降下させつつ、辛うじて支障のない右舷翅を傾ける事でドラゴンフライヤーを反転させて見せたのだ。
「今だッ!!ヤツの射線に合わせろバララーー!!」
「………!!」
機体後部から煙を吹き上げながら、ギガントプロスへ飛び込みバララは砲撃桿の上部を親指で……押し込む!!
奇しくも、機関砲から可視光が瞬いたのは歪められた空気が線へと化す、ほんの僅か前であった。
それを常人の肉眼及び体感で比較するならば、同時と形容するしかない紙一重の狭き領域、分水嶺であり……だが唯一人、シオリだけが確信を以て笑った。
次の瞬間、フィーロの視ている世界が反転し、彼は身体を蝕む様な浮遊感に襲われる。
何が起こったというのか?それを理解したのはドラゴンフライヤーから近づく地表を捉えた時であった。
「クソッタレが!?」
まさに間一髪の判断であっただろう。
フィーロの背景を鑑みるなら、不時着と云う不本意な、しかもほぼブラックアウトに等しい状況復帰直後の決断など経験がなく、失敗したとて誰が責められるだろうか。
しかし生死を分かつ線上において、第一に優先すべきは決断である、経験不足を理由に足踏みし、停滞へ身を晒す行為こそ死へ直結する。
その意味でフィーロの行動は生存への第一関門を突破していた。
車輪を出す時間など無く、座学で知っていただけの『胴体着陸』を敢行するフィーロ。
五感、全神経へ襲い掛かる重圧、ひとつの挙動ミスも許されぬ余りに永い体感時間の最中で、幾度も生死の境界線が変動してゆく。
腐敗した森ヘ機体底部を擦りつけて突入し、雑多な破砕音に苛まれながら、やがて森外れへと抜けた所で一回転する形で……ドラゴンフライヤーは停止した。
「……俺、死んだかも。」
全ての感覚を手放し、放心状態で呟くフィーロ。
もしかしたら今、自身の人生で一番の山場を越えたのではなかろうか?
そんな事をふと思う彼の横で、バララは気絶し、後部座席のシオリは呻き声を上げている、どうやら全員無事であるらしい。
奇妙な安堵感も相まってフィーロは虚脱へ没入している、戻ってくる気はさらさら無いのだろう。
……が、しかし、それを許さないかの様に声が轟く。
「まだ終わりではないぞっ!!」
シオリの『激』がバララをそして涙目のフィーロを現実へと無理矢理に引き戻した。
一瞬で張り詰めた沈黙の真っ只中、三人が注視する遥か遠く……森林地帯を腐らせ、足蹴にして佇む100mを優に越える巨体。
……その下顎から上は無惨にも吹き飛んで、消失している。
嫌な沈黙が無為に流れ、堪らずにフィーロが「もう死んでてくれ!!」と懇願し続けてバララが「……やったか?」と呟いた瞬間、シオリが思わず溢した言葉とほぼ同時にそれは起きてしまう。
「やはり(フラグが)立つか……。」
余りに悍ましく、景色と化しても直視したくない様相で腐肉が再生してゆく。
そして完全に、否、前にも増して醜悪な『変貌』を遂げた時、一層赤黒くトロけた虚ろなるひとつ眼がボロボロで横たわる蚊トンボを捉えていた。
苦々しく、唇を噛むシオリの耳に遠く……虎落笛が微かに響くのであった。
つづく
まさかのモブキャラ活躍回……思わず名前を付けてしまった。
私の魔力を取られたかもしれない(汗)




