第二章 領主編 『焦熱の地獄にて』 後編、其の二(完)
ええ~今回もいいスパンで更新出来ました。
色々と厄介な構成でしたが、アドでのお話は完結です。
ただ、今回は後書きはありません、代わりに本編で語らないワンシーンを追加させてもらいました。
どうぞよろしくお願いします。
「ふむ……少々旗色が悪いですね。」
防衛線を堅守しながら、ロジャーは背後の住民を視界の端で捉えて呟く。
ジョーをはじめ、アライブズの兵達は統率を乱さず、よく戦っている。
だがロジャーが考えるよりも延焼の速度が速すぎるのだ。
過酷な状況に慣れている兵士ならいざ知らず、住民には耐え難いだろう。
付け加えるなら、複雑な路地を戦いの場に選んだ事も熱を籠らせる一因と言えた。
「ジョー様……私が前線を押し上げます、貴官らは住民を護衛しつつ、付いて来られよ。」
そう言葉を置き去りにし、ロジャーは有無を言わせずに走り出す。
更に攻守の回転を高め、ほぼ一人でグールの群れだけでなく、頭上の蜘蛛にまで対応してゆく、これにはジョーも舌を巻くしかない。
「全員移動する!!団員は住民の脇を固めろ!!」
心身をフル回転し、無駄を排除した最速最短の戦闘技法を行使しながら、ロジャーは思案する。
降下の際にアドの地形は頭に入れてある……そこに敵勢力の推移を考慮し、最適解の退路を構築してゆく。
【モンテ様、聞こえておられますか?】
【んぁ?……どうした。】
この時、敬愛する主人の応えに若干の焦りを感じ取り、僅かに眉を上げるロジャー……。
【もしや……危機的状況なのでは?そちらに急行しますか?】
【笑えねぇ冗談だわ、ホントにやるなよ♪】
冗談……あながちウソではなく、ロジャーは本気で進言したのだが、そこに触れない方が無難であると即座に考え直す。
【これより住民を避難させます、我々は延焼の緩やかな西側へ向かいますので援護をお願い出来ますか?】
【………。】
【モンテ様?】
【そっちには行くな……東へ抜けろ、その代わりに最強の助っ人を送る。】
何故に東なのか?刹那、ロジャーは思案する……東へ進路を執れば敵に更なる猛攻を許す事になる。
いや、敵をどうにか出来たとして、住民達を灼熱地獄へ道ずれにしてしまうのは火を見るよりも明らかだった。
ここは地の利を主人に説くべきだろうか?
否、ロジャーの判断はこの刹那で見事なまでに決していた。
(私がモンテ様のプランを遂行せしめれば何ら問題はない。)
【御心のままに……。】
そう結びの一言を添え、思念伝達を終えると……そのゴブリンは歓喜に震え、表情を吊り上げて更なる領域へと己れを押し上げてゆく。
失敗等赦さない、赦してはならない……一意専心の修羅がもう一人、その力を解き放った。
「………。」
さて……ロジャーには無茶な指示をしてしまったか。
脳内MAPには火災の推移予測も表示されている……西側へ退路を執る方が正しいのは知っていた。
知っていたが、またお姉さんの鶴の一声が待ったを掛けたのだ。
【西側は死の予測で溢れていたからね♪グッジョブよ☆】
そう言われつつ、現状の俺はというと……ケツを出しながら必死に走り続けている(泣)
あまつさえ、ケツを振り乱してミシェルを挑発していた。
【はーい、あと20秒間はそのまま走ってね♪追いつかれちゃ駄目よ。】
これ本当に必要なの?
「テメェッ!!ブチ殺すぞッ!!」
「ヒャッハァ~!!追いついてみなぁ、このノロマぁ!!」
段々と変なテンションになってきた……これ、現役時代でも数度しかなった事のないランハイだわ、きっと。
とか考えてたら段差に躓いて、半ケツのまま派手に転がっちまった!?
何とか追いつかれる前に体勢を戻したが……。
【やってくれたわね、予測がひとつ不履行で消えちゃったよ。】
【クッソ……巻き返せねぇのか?】
【今のミスで貴方の配下で死亡フラグが復活した者が居るわ。それを再び否定するにはーー】
【………。】
この瞬間、彼女の脳内でルート予測による膨大な死の映像がコマ送りで展開されてゆく。
その中で一際大きく表示されたのは妖艶な容姿のゴブリン女性が子供を救おうと火災に呑まれて死亡するものだった。
(彼女が六人目の子供を救う時にこの事故は起こる……それを回避する偶機は……。)
【あったわ……まずは走りなさいな。】
次の瞬間、俺の脳内MAPに赤い経路が新たに表示された……またかよ!?
そろそろ俺の心肺機能も限界が近い、けど迷っている暇なんざ在るわけもねぇ。
こうなりゃ、体力の続く限りやってやんよ!!
そう思った直後にお姉さんの軽妙な声が響く。
【その先の十字路で左に向かってノールックで武器を投げ込みなさい。】
ノールック?視線を向けるなって事か?
疑問が湧いた途端に問題の十字路が見えた。
俺は異次元BOXから毎度お馴染みのダガーを取り出し、何も考えもせずに投げ放ち、真っ直ぐ通り過ぎた。
……それから、お姉さんの指示をひたすら遵守していく。
炎に包まれた民家へ飛び込み、三回まわって犬のマネをさせられたり、グールが犇めく通路を一切の攻撃を禁じられ走り抜けたりと、細かい指示から意味不明なものまで様々だった。
みんなが戦い、救助活動に動いているのに対して、俺達二人は何をしているのか?
若干のやるせなさに苛まれてしまう。
流石にミシェルも途中で諦めて止まると思いきや、このお姉さん……人を怒らせる事に関しては超人的でやんの。
その都度、指示通りにミシェルを煽り、焚き付けるためのタイミングと台詞が全てハマったのだ。
俺同様にミシェルも肩で息をし、脂汗を滝の様に流しているのにも関わらず、その表情は一層怒りで吊り上がり、震えている。
【あの手の女は対象に直接、激情をブチ撒けるまで止まれないのよ~恐いわぁ♪】
俺が必ずブチのめされるって事だろがっ!?
気づけば脳内MAPに表示された時刻は深夜3時半を回っていた。
おそらく2時間近くは走っていただろうか?
【うん、お疲れ様、次で最後の履行よ。】
不意に……本当に不意に、その言葉はやってきた。
実感は沸かないが、これでみんなの死亡フラグを折れるのだろうか?
確かにMAPに表示されたルートの終点には差し掛かっていたが……。
【指定された地点で止まって、後ろの彼女に魔法の呪文を唱えなさい。いい?決して動いちゃ駄目よ☆】
【動くな?魔法の呪文?】
【うふふ、ズットスキデシタ……ツキアッテクダサイ。】
【……それを言えばみんな生き残れるのか?】
【保証するわ♪……やるか、やらないかは貴方次第よ。】
苦くてショッぱい、これは何時以来の感情だったろうか。
そうこうしている間に、最終地点を視界に捉えた……ご丁寧に立ち位置まで指定されてるじゃねーかよ。
俺は感情の全てをぶつける様にマーカー表示された地点を思いっきり踏みつけ、そして絶叫していた。
炎と瓦礫の轟音に掻き消され、混沌に塗り潰された叫びは沈黙と同義である……。
一拍の間を置き、覚悟を終えて俺が振り返ると……そこにミシェルは追いついていた。
「やっと、やっとだ……覚悟は出来てんだろうな?モンテさんよう。」
殺気を漲らせるミシェルに対し、俺はきっと遠い瞳で賢者タイムを発動させているに違いない。
何故かって?……こんなに醒め々めとした気分は中二のあの朝以来だったからだ。
それからの事はあまり覚えていないし、思い出したくもない。
俺は確かに意を決し、あの呪文を唱えた……そしてその刹那、ミシェルは顔を紅潮させ眼を見開く。
高鳴る鼓動が伝わるだろうか?決して長時間の全力疾走のせいだけじゃない……筈だ。
だが次の瞬間、俺に下された裁定は鉄拳制裁だった……。
剣を投げ捨て、俺に飛びついて抱き締めるかの様に見えたミシェルの挙動は、しかし途中で様相を一変させる。
軸足を後方へスライドさせつつ、踏み込んだ力は腰から広背筋へと螺旋軌道で上昇し、内側へやや絞られた肩から捻りを加えた拳へと伝わった。
そして俺の頬へインパクトする瞬間、全ての筋力を引き締め、凝縮させたのだ。
うん、自分に御都合フィルターを掛けでもしなけりゃやってられなかったよ……分かってんよ。
直撃の瞬間は正直、首から上を持っていかれたかと思った……そのまま後方へ吹き飛ばされ、壁に背中を強打した所で俺の意識は完全に暗闇へ落ちてしまった。
……あれ?動くなって言われてなかったっけ?
ーーAM4時12分
住民を引き連れ、東へと抜けるロジャーの元にシオリ達、援護射撃班が合流を果たしていた。
ロジャーの獅子奮迅の活躍を以てしても、やはり限度があったのだろう、再び敵に囲まれる寸前であったが彼等にとって幸運だったのは延焼による被害が極端に軽減された事だった。
当初、東へ吹いていた風向きが西へと気まぐれに変わったのが一番の要因だろう。
もし退路を予定通りに進んでいたなら敵勢は小規模であったが、勢いを増した火災によって住民はおろかジョー達まで焼け死んでいたかもしれない。
(やはりあの御方は素晴らしい、この事態を見通していらしたのだ。)
ロジャーは今、歓びに打ち震えながら、その心中であらゆる賛辞を敬愛し、傾倒し、忠誠を誓う主人へと送り続ける……もはや嵐と形容しても遜色ない。
その間もグールを 屠る事を忘れず、漆黒の執事服は余す処なく血で濡れていた。
……余談であるが、この時のロジャーを指して対リビングデッドを意味するスラングに『デッドキラー』というダブルミーニングが広まるのだが、これはまた後々の話しである。
ーー更に同時刻
死の予測が出ていたキャサリンはどうなったのか?
幼子の悲鳴を聞き分け、火災の最中へ飛び込んでいく彼女のビジョンは予測と一致していた。
唯一、決定的に違ったのは幼子を抱きかかえ、振り返った直後に頭上から燃え盛る瓦礫が降り注いだ所だろう。
予測と現実に何ら差違はなかった……ほんの一瞬、瓦礫が落ちるタイミングが速まった以外は。
だがその一瞬で彼女は瓦礫に反応し、飛び退く機会を得ていたのだ。
では予測とのズレを生んだ要因とは何だったのだろうか?
……瓦礫が落ちる寸前、近くで給水塔が崩れる地響きがあったが、関連は不明である。
その後、マイケル達が駆けつけ……彼等は教会へと向かう。
キャサリンが胸騒ぎをどうしても打ち消せなかったからだ。
アドにおける終焉……その全てが今、教会へと集約されようとしていた。
ーーAM4時43分
突如響いた地鳴りに、俺は意識を取り戻した……。
辺りは暗く、奇妙な圧迫感と気だるさに辟易する。
何かが身体に覆い被さっているのか?……そう認識した瞬間、俺の胸に軟らかな感触が……こ、これは!?
「気がついたか、クソ野郎。」
……ミシェルたんじゃねーか。
「おい、お前……何か酸っぱい匂いすんぞ?」
「……ッテメ!?誰のせいだと思ってやがる!?」
「ゴメンなぁ、でも仕返しは済んだろ?」
状況が分からん、どうやら何かの建物の下敷きになっちまったらしい……俺達は横たわって重なったまま、狭い空間に閉じ込められたようだ。
状況を把握しようと、まずミシェルに話し掛けたんだが無視されてしまった why?
まぁ、何となく分かっていた事もあるが……。
「色々とすまなかった……それと、俺を助けようとしてお前も閉じ込められたんだな、ありがと。」
「うっせぇバカ……アタシはまだ許してねーからな。」
そりゃそうか……でも、それでも助けてくれたんだな。
何だかんだで可愛いんだよね、今も何か眼を合わせないようにそっぽ向いてるし……まぁ、顔面がスゲェ痛むんですけど。
「………。」
だが……甘酸っぱい雰囲気もここまでだった。
手近の仲間に救援を頼もうと脳内MAPを開いた瞬間、俺の思考は固まってしまう……。
そこには敵勢力の表示はなく、ロジャー達の生命反応も健在であった……ただし、マッコイの反応だけが、どうしても検知出来ない。
しくじった……のか?その一念が例え様のない虚無感を湧き立たせる。
どうしたら、どう考えたならこの虚しさを埋められるのか?
そんな俺の動揺が伝わったのだろう……ミシェルが怪訝な表情を向けてきた。
けど俺にはそれに応え、楽にしてやる余裕さえない。
重苦しい沈黙だけが停滞してゆく……。
その間も、MAPを視界一杯に拡大展開して、お姉さんへ思念伝達を試みる、送り続けた……が、反応はなく、どうやらとっくにリンクを切られたようだった。
クソッタレが……今は一刻も早く脱出するしかねぇ。
そんな、どうしようもないもどかしさだけが、虚無感の中で渦巻いていたんだ。
それからの沈黙を救出されるまでどう過ごしたのか……またまた俺は覚えていない。
ーーAM4時38分
身体が重く、息が苦しいーー。
度重なる攻撃を受け、耐性があるとはいえ全身に回るグール毒が意識を侵食し始めた。
手にしたヒートアックスもとっくに砕けて柄しか残っていない、それでも、尚も……マッコイは拳を前へ突きだして構える。
力の差はその溝を埋めようとはしない。
意識もなく、ただ気まぐれに力を振るうだけの黒鬼へマッコイが一方的に仕掛けるだけであった。
それは一重にこの破壊の権化をこの場へ釘付けにするためであり、勝つことが主目的ではない。
逆に云うならば、気まぐれ故の散発的な攻撃でここまでのダメージを負わされているのだ。
決して黒鬼の移動を許してはならない……もし許せば、被害は甚大では済まない、その一念がマッコイを突き動かしていた。
(そろそろ限界ね……ごめんねキャス。)
刹那、心中でキャサリンの名を呟いた己れに驚く……。
(そっか……ワタシは気付いていたんだ。あの娘には応えてあげられないから、気付かないフリをしていた。)
去来する想いの全てを抱いて、マッコイに溢れたのは静かな微笑みだった……。
その涼やかでさえある所作を黒鬼の濁った瞳が捉えている。
それはマッコイ自身も気付いていなかった事実……黒鬼もまた何時しかマッコイを敵だと認識していたのだ。
自我もなく、グール特有の食肉本能も希薄な幽鬼と化した歪な存在が、おそらく生前と同様に敵へ注意を払っている。
黒鬼がどれだけの武人であったのか、実際に刃を交えたマッコイには想像に難くなかった。
だからこそ、それに気付きマッコイは余計に嬉しくなってしまったのだ。
互いに呼応する様に、美しい所作を以て構えをとる二人の阿修羅……生も死も捨てて、意地も誇りすら残さずに。
今……ひと振りの一撃を。
揺らめく炎が……立ち昇る火の粉さえ……戦鐘の予感におののく最中でマッコイは何処か、この終焉間近の空気を惜しいと思っていた。
そしてーーどちらともなく、その時は訪れた。
互いに前方へと飛び込み、至近距離で軸足を踏み抜くーーー!!!
刹那、マッコイは見た……己れが砕けた得物をすり抜け、トマホークが自身に迫る様を。
「………!?」
だが、黒鬼の一撃がマッコイに止めを刺す事はなかった。
二人が最後の一撃を放った瞬間、その踏み込みに教会の屋根部が耐えきれず、完全に瓦解してしまったのだ……。
全てを巻き込み、地響きを伴い黒煙を吹き上げて崩れ去る教会。
「………。」
やがて……瓦礫の山から這い出し、無言で立ち尽くしていたのはやはり黒鬼であった。
濁った瞳をさ迷わせ、ほんの僅かに胸へ刻まれた傷を指でなぞる……。
【もうよい……朝陽が昇る……戻れ。】
一瞬、頭に響いたおぞましい声に、感情を喪った筈のその表情を苦悶に歪めて……黒鬼は何処かへ姿を消した。
否、黒鬼だけではない、残存していた群勢もまた潮が引くかの様に去ってしまった……。
ーーAM5時30分
「………。」
悔恨の念に駆られながら、俺は教会跡地に立ち尽くしていた。
夜も明け、炎が燻る黒い町並みが露となっている……いや、もう町並みとは言えないだろう。
みんなは諦めきれずに瓦礫を剥がしてマッコイを捜し続けていたが、俺のMAPでは依然としてマッコイの生命反応は消失したままだ。
俺は動けない……動ける訳がない、マッコイが死んだと認めたくないんだ。
ましてや遺体を捜すなんざ、ゴメンだった……。
その時、そんな情けない俺にキャサリンが掴み掛かってきた。
「何で捜してくれないの!?何で!?立ち尽くしていられるのよっ!!」
「………。」
もっともだ……だが、気力が湧かない……ガッツが足りねぇよ。
成すがまま、身体を揺さぶられているだけの俺にキャサリンは平手を振るおうとする。
殴られても良かった……殴られたかった……そんな心境を知ってか知らずか、キャサリンの腕を静かにロジャーが掴んでしまう。
「マコが悲しむ……。」
その一言が全てを物語っていたのだろう……キャサリンは俺から震える手を離し、崩れ落ちてしまった。
ーーほぼ同時刻、アームベルン王宮客間
白を基調とした豪華な大理石の内装と調度品に囲まれて、四人掛けのソファに横たわりながら寛ぐ一人の女性。
高位の神官服を纏い、その髪は白金色で背中まで流され、左右で違う色合いの瞳は何処か酷薄な印象を醸し出していた。
女性は欠伸をひとつ洩らすと、眼前のテーブルに置かれたティーカップをつまみ上げて口元へ運ぶ。
(あのボーヤ、面白いわね。)
お茶を啜りニンマリと笑みを浮かべて、その女性……お姉さんこと、碧渦の勇者サラ・ストームは回顧する。
予想以上の玩具をみつけてしまったと……。
本来であればモンテに接触する気等、彼女にはなかった。
そもそも何故、アドにおいて面識のないモンテと接触し、彼のシステムへ介入出来たのか?
それは彼女にとって、偶然の産物としか言い様のない。
……ともかく、好奇心に胸が高鳴ってしまったのだ。
まず何より興味をそそられたのはモンテの意外性だろう。
今回彼女が示したルート予測……実の所、意味を為さない嘘を過分に含んでいた。
実際に出した指示は的確であり、それによりロジャー達の死亡フラグは折れている。
だがモンテとミシェルを走らせた事にロジャー達のフラグはほぼ関係なかった。
寧ろ後半はミシェルを如何に怒らせるかに腐心した程だ。
……あくまで二人を死亡予測地点から遠ざけるためだけである。
だからこそ、モンテから教会の状況を隠蔽し援軍を送らせなかった……つまり、モンテが教会へ近づけば近づく程に彼の死亡リスクが高まってゆく運命であり、サラの公算では始めからマッコイの命など眼中ではなかったのだ。
「………。」
けれど……とサラは笑う。
(私の予測を裏切るなんてね♪また逢いましょう釈壁の勇者☆)
ーーそしてAM5時36分、教会跡地
キャサリンが嗚咽を洩らす最中、俺は虚しく天を仰いでいた……。
みんなもその手を止め、沈痛な面持ちでいる。
誰かが言った……ちゃんと弔ってやらないと、可哀想だと。
確かにそうだ……俺は覚束ない手でタバコを取り出し、苦々しく火を点けた。
ジッポの乾いた音が虚しく響きやがる、ちゃんと……最後くらい、ちゃんとしてやらなきゃな。
そう仕切り直して、大して吸ってない吸い殻を捨てた時だった。
脳内MAPのアイコンが小気味良い音を鳴らす……。
まさか……まさかウソだろ!?
眼を見開き、その場で震える俺にミシェルだけが気付いていた。
「ーーーーッ!!」
次の瞬間、俺は奇声を発して瓦礫へ走り出す。
みんな、俺が発狂したと思ったんだろう……だがンなコトぁ構わねぇ、構わねぇんだ!!
「生きてる!!マッコイは生きてるぞぉっ!!」
青空に間抜けな、だが歓喜の絶叫が吸い込まれていった。
つづく
幕間 『一片の真実』
……あれから瀕死のマッコイを掘り出し、俺達は暫しの休憩を挟む事にした。
今回は総じてクソッタレな出来事の連続だったが、ジョーと再会できたのはせめてもの救いだろう。
俺は首と鎖骨の怪我を治癒促進魔法で治して貰ったのだが……今回は悲鳴を上げる程に痛かった。
まぁ、完治してもらって文句を言う筋合いではないよね。
という事で、ジョーには引き続き住民とマッコイの治療を頼んでおいた訳だが……。
俺はというと、まだ火が燻る瓦礫の山を歩いていた。
どうしても、気掛かりな事があったからだ。
俺とミシェルが救出された給水塔の瓦礫……あの時、俺が衝突したせいで崩れたらしいんだが、その地点から逆算して道を辿る。
まだ疲労感が半端ねーから散歩ペースで歩いていくが、それでも10分と掛からずに目的地に着いた。
「あの時は確か左だったから、右だな。」
そこは、その十字路は比較的に延焼被害が少なく、焼け残っていた……。
俺はあの時、事態の収拾に追われてお姉さんの指示に従うだけで手一杯だった。
……それは明らかな盲信だったと思う。
十字路を曲がり、その光景を目にして……俺はそう確信した。
そこには見慣れた俺のダガーが確かにあった。
ただし、小さな女の子の頭部を刺し貫いていたんだ。
少女の身なりは薄汚れていたが、可愛らしいワンピースに似たもので、赤黒い血痕が付着している……。
グール特有の変化は見られなかったが、首筋と腕には数ヵ所の咬み傷があった。
あの時、お姉さんは『ノールック』と指示していた……ふざけた言い方だが、俺に視るなという意図があったのは間違いないだろう。
つまり、俺がダガーを投げた時点では少女は人間としての意識がまだ残っていたんじゃなかろうか?
彼女は最期の瞬間、どんな想いでいたのか……分からないし想像したくもない。
だが、今の俺はそれが如何に無責任であるかも理解している。
或いは、ルート予測において少女は俺の仲間を殺していたのかもしれないが、それを割り切ってしまったなら、俺は……みんなと今度こそ笑い合えなくなる気がした。
幕間、完




