第二章 領主編 エピローグ 『異世界の事実』
今回はエピローグですので、短い内容となります。
「………。」
瓦礫の墓標と化したアドの上空ーー。
ギャンビット号の甲板で眼下に拡がる光景を眺め、俺は黄昏ていた……。
次に起こすべき行動に対し、躊躇いを払拭出来なかったからだ。
マッコイの症状は思いの他悪く、グール毒を抜かなければ治癒魔法は逆効果になってしまうとジョーから診断を受けていた。
以前にミシェルとダナンへ試した方法は、もう出来ない……俺自身はあの時にグールへの完全な耐性を獲得したが、周囲への治療効果は副次的なものでしかなく、耐性を得た以上、スキルフローは発動しない。
しばらくマッコイを休養させる必要がある、当初の目的で言えばフェデルへ向かう人員に加えるのが無難だろう。
しかし、問題は別にある……俺が躊躇っている原因は『ルート予測』へ対抗する手段についてである。
それとマッコイ、他の証言から判明した『黒鬼』……。
正直に言えばハラワタが煮えくり返っている。
様々な感情が混沌となって、俺の思考は今、停滞を余儀なくされていた。
だからだろうか、シオリさんが甲板へ上がってくるのに気付くのが遅れてしまう。
「待たせてすまなかった。」
余りに俺のリアクションが薄いから、変な気を遣わせたかな……シオリさんはやや声を張っていた。
「いや、丁度考え事に没頭してたから構わないよ。」
「……黒鬼の事か?」
一瞬にして、シオリさんの表情に険しさが滲む。
「そっちも改めてロジャーから話しを訊いたんだろ?……ガーラントについて。」
その名前が出た途端に、周囲へ僅かに殺気という圧が掛かる……これは多分、シオリさんだけのものではない。
「ええ、そして繋がったわ……。」
そう苦々しく呟きながら、彼女はガーラントについて……ぽつぽつと語り始めた。
事の発端は二年前、神聖ウォルターナ領内で復活したSS級指定災害の魔獣討伐まで遡る。
「……以前、聞いた事がある。ウォルターナを含めた三国の要請を受けて、勇者としてシオリさんが派遣されたんだよね。」
「まぁね、連合軍の指揮を放り出し、私が単身で魔獣を討伐した結果、広大な土地を三百年の禁足地へ変えてしまった……おかげで殲滅女王などと不本意な通り名がついてしまったよ。」
ああ……そういや、シオリさんの素性を知った時、ダナンがしかめっ面してたわ。
「だがそれは表向きの話しでな……真実を語る前に君へ聞いておきたいのだが、『呪言』或いは『天魔協定』という言葉を知っているか?」
「呪言は知らないけど……天魔協定じゃなくて、『経典』じゃなかった?確か、最初に神サマーから聞いた様な気がする。」
「神サマー?……そんな揶揄で呼んでいたのか、君は。」
天魔協定……神サマーと悪魔側の双方で取り決められたっていう、物質世界に直接おイタをしちゃメッていう内容のもんだよね?
……その旨を聞いてみたら、大体合ってるって苦笑いされてしまった。
「直接介入を許されないから神は我々の様な異世界人を転生させているのだとして、悪魔はどうなる?」
「考えた事もないけど……同様に異世界人から見出だして派遣してんじゃないの?」
俺の質問返しに対し、シオリさんは静かに首を横へ振る。
「協定によれば、悪魔はこの世界、しかも人間の中から代行者を選ぶ。180年の周期で訪れる彗星がその兆しであり、同じ日、同じ時に生まれた子供達へ力の源泉を授けるんだ。」
「……もしかして、それが『呪言』なの?」
「分かりやすく言えば、悪魔が内包している術式だ。」
術式……生物なら誰もが持つ魔法に必要な魂へ刻まれた紋様だったか?
この世界においての魔法とはその紋様を意図的に簡略化し、魔力を注いで転化したものだった筈だよね。
「現状で魔法を真の意味で扱える人間は稀だ、生まれ持った術式では転化し、顕現する事も難しいからね。大系化された術式を後付けし、扱い易くしたのが一般的な魔法と呼ばれるものだ。」
「確か……精霊や魔族から契約や知識、技術として術式を譲渡されているんだっけか。」
「厳密に言えば精霊は譲渡ではなく、直接精霊が力を貸している。だから両者には効果の面で開きが在るんだよ。」
「開き?……そうか、シオリさんの言いたい事が判った。つまり、根源である魂に悪魔と同等の術式を宿して生まれるのか。」
「正解だ、後付けのものとは桁が違う上に悪魔が行使する魔法ともなれば想像すらつかん。」
「記録……とかはないのかい?」
その瞬間、シオリさんの眉間がピクリと動き、険しさを増す。
「残されてはいない……神々は彗星の兆しに合わせて転生者を選抜するが、この世界の住民もまた悪魔に対抗してきた。」
「なら、何で記録が残っていないのさ?」
「……それは、エレメンツ教会が事実を隠蔽し、宿命の日に生まれた子供達を抹殺してきたからだ。」
「………!?」
俺は言葉を失った……唐突に告げられた言葉をどう理解していいのか、いや、理解なんざ出来ないだろう。
だが、その刹那……俺は別の事実に気づいてしまう。
「待ってくれ!?さっき、彗星に合わせてって言ったよな!!」
俺の叫びに対し、暫しの沈黙の後……シオリさんは眼を伏せて静かに口を開く。
「六年前だ……そして君は最後に選ばれた者だ。」
「そんなのは関係ねぇっ!?問題は何でアンタが隠蔽された事実を知っている!!まさか、アンタもその抹殺に関わっているのか!!」
「………。」
「答えろッ!!シオリ・デストロイ・トラビス!!」
「結果的には、加担した……と言える。君に今話した事実もその後で、突き止めた。」
苦々しく……余りに痛々しい表情で、シオリさんは異物を吐き出す様に言葉を紡ぐ。
「後悔していると?」
「分からない……大儀で見るなら抹殺は正しいんだろう、だがそれを正当化出来る程、私は達観していない。」
何時も自由でやり放題なシオリさんがここまで迷い、葛藤を消化しないでいる……一体何があった?……いや、おそらくそれは……。
「二年前に何があったんだ?」
……僅かに視線を上げ、自嘲気味に笑った後……シオリさんは自身を戒めるかの様に、途切れがちに話し始める。
二年前に起きた、一片の事実を……。
つづく
ええ~今回をもちまして、第二章は終了となります。
次回からは第三章 盗賊領主、反撃す編が始まりますので宜しくお願い致します。




