第二章 領主編 『焦熱の地獄にて』 後編、其の一(汗)
……まず、すいません、アドでの話を三話に纏めるつもりでしたが、それが叶いませんでした。
どうしても、あと一話の追加が必要だと判断したためです。
詳しくは後書きで追記しますので、読んでやってつかぁさい。
【ーーという所かしら、何かおさらいしとく?】
【……本当にそれしかないのかよ。】
ハッキリ言ってげんなりである……余りにタイトな綱渡りをしれっと要求しやがって。
【覇気がないなぁ、それじゃあ失敗するぞ♪】
おい……キャラが定まってねーよ愉快犯。
俺の要求に対し、お姉さんがアド周辺の未来線を予測し直してくれた。
住民を含めた全員の生存を可能とする要因の全て……いや、実利の話しをしよう。
俺がそんな無茶振りをした本音はこのお姉さんにロジャー達の情報を開示したくなかったからだ。
もし、仲間内の安全だけを要求したなら、お姉さんは当然の様にそれを対価として指定するだろう。
あくまで自然に、だが後々にまで波及する余りに危険を伴う行為だと感じざるを得なかったのだ。
それ故にアドの町全域の未来線を予測して貰ったのだが、一抹の不安もある。
ロジャー達の死亡を断定した事実だ……既に彼等の素性をマークされていたのか、或いは彼女の望む未来線にて、ある種の要因として予測していた可能性すらある。
何より、このお姉さんには現状で俺が感じている危惧を見透かされている、寧ろ折り込み済みだという確信もあった。
【ふふ♪じゃあ君のタイミングでどうぞ。】
さて……予測の結果、最も死亡フラグが回避しづらい者達。
奇しくもそれはミシェルとマッコイだった。
厄介な事に二人には幾重もの死亡フラグが立っており、生半可では救えないそうだ。
現状、ネバーランドの強制発動で時はほぼ止まっている。
俺は深く深呼吸し、解除へのカウントを淡々と数えてゆく。
【安心なさい、オネーサンが必要に応じてナビゲートしてア・ゲ・ル♪】
……こうして俺は現実を塗り替えるべく、ネバーランドを……解除した!!
瞬間的に視界が切り替わり、ミシェルの背中が眼前へ映る。
【君の側にいる娘はとばっちりで即死魔法を受ける寸前なの♪……だからーー】
お姉さんの言葉を反芻しながら俺は、ミシェルへ全力でタックルをかまし……そして!!
「………!?」
彼女を押し倒して、く、唇を奪っていた……。
【いい?彼女が全意識を貴方へ向ける程……情熱的に奪うのよ、ブチかませ少年♪】
ふざけんなよ……俺は指定通りに5秒間攻め続け、『ちゅっぽん』と小気味良い音を立ててミシェルから離れると、彼女は倒れたまま暫し惚けていた……が。
「ちと大味だったが……悪くなかったぜぇ、ミシェルさんよう。」
舌舐めずりをしながら、全力で振り切った悪党ヅラの挑発を炸裂させる俺……最近こんなんばっかりじゃん。
次の瞬間、震える手で愛剣を抜き、半狂乱で泣き叫びながら……修羅と化したミシェルが襲い掛かってきやがった。
【逃げながらも、完全に彼女を振り切っては駄目よ。付かず離れず、恋愛と一緒だね♪】
「ふっざけんなぁあああ!!」
瞬時に身体を反転させ、腕を直角に振りながら走りだす。
俺の背中ギリギリで何度も、何度も剣が空気を裂く音を響かせてくる、ガチでヤバい。
炎に包まれた石畳の町並みの最中をミシェルに留意しながら走り続ける、ほぼ全力疾走だ。
「………ッ!?」
不意に、肺へ熱い痛みを感じて速度が落ちそうになる。
【その先の路地を左に曲がったら、3秒待ちなさい。】
何言ってんのっ!?追いつかれるってば。
【やらないと彼女死ぬよ。】
やってやるよ!!やればいいんでしょうが!!
赤く染まった石壁を蹴りつけ、反動で路地を曲がると……グール御一行様と出会い頭で目が合ってしまう。
前門の虎、後門の狼かよ!?
一斉にグールが飛び掛かってきたぁ!!
【しゃがみなさいな。】
俺はきりもみ回転で背中を反転させ、低い体勢で蹴りを放とうとした……その刹那。
【バカ!!余計な事をすんな!!】
寸での所で足を折り畳むと、ミシェルが姿を現し……剣をぶん投げやがった!?
空気を裂いてブーメラン状に高速回転する剣は、俺の足が在った軌道を通り過ぎてグール御一行の上半身を無惨に両断する……。
グールの赤黒く腐った血がシャワーの如く噴き出すのを背後にし、俺は視てしまった。
ブロンドの髪を逆立て鬼の形相でこちらを睨む悪魔そのものの微笑みを……。
「モ~ン~テ!!」
怨嗟の声が俺の背筋に冷たいものを流させる。
【今よ、(グールの)肉塊の間を縫って走りなさい。】
言葉に合わせ、低い体勢から軸足を引きつつ上半身を回してクラウチング スタートの要領で走りだす。
「追ってこい!……ミシェル。」
「………!?」
鬼ごっこを再開し、炎の最中へと飛び込んでゆく。
後ろへ僅かに視線を送ると、ミシェルが走りながら拾った剣の血を振り払うのが見えた。
【モンテ君、聴こえるか?】
不意に送られた念話の声はお姉さんのものではない……いや、正確にはもう一人のお姉様のものだ。
上空から援護射撃をしているシオリさんが思った以上に悪い戦況分析を伝えてくる。
【マッコイさんが苦戦している、敵が速すぎて上空からじゃ援護出来ん、誰か援軍に向かわせて。】
刹那、俺の頭上へ燃え盛る瓦礫が降りかかる……が、何とかスライディングですり抜け、後方から 追い縋ってくるミシェルはそれを剣で振り払う。
咄嗟に難を逃れ、脳内MAPに表示されたマッコイの光点へ着目すると、生命反応が著しく低下していた。
シオリさんの判断は的確だと言える……疑う余地なんざない、だが。
【マッコイに援軍は送らない、その前に婆ちゃん達の援護に向かってくれ。】
【正気なのか!?もたんぞ!?】
その瞬間、思わず俺は歯軋りを洩らしていた。
本来なら即座に援軍を向かわせるだろう……だが、そう出来ない訳があった。
ネバーランドを切る前、彼女に言い含められていたからだ。
【教会のゴブリンへ援護を向かわせては駄目よ、その瞬間に彼の死亡が確定してしまう。】
正直、耳を疑った……今にも危ない現状で助けを寄越さないという行為が、何故に死亡フラグを回避する事へ繋がるって言うのか?
しかしそれでも、今は信じるしかない。
……もしマッコイが死ねば、芋づる式に死の連鎖が止められなくなるからだ。
【ええぃ!?順番が違うだろ、私達がマッコイの救援へ向かう。】
どうする?……きっとシオリさんなら、そう言うと思っていたが、ここで自重してくれないと全てが台無しなってしまう。
【シオリんッ!!】
【………!?】
【今……は……信じてくれ。】
全力疾走で、俺は念話だけでなく絶叫していた。
ーー上空からスナイパーライフルを構え、教会へと照準を絞るシオリさん。
思念伝達でやり取りを行いつつ、ドラゴンフライヤーを射程内まで移動させていた。
「………。」
だが彼女は引き鉄へ指を掛けたまま微動だにしない……沈黙を守り続ける。
「シオリさん、撃たないのか?速くしないと……。」
その瞬間、ダナンから名前を呼ばれ、シオリさんは動揺を隠す様に眼を伏せてから……指を外した。
「婆殿とマイケルの援護へ向かう!」
【モンテ君……私は君を信じるよ、だがーー】
【それでいい、これは俺が選んだ事だから。】
さて、意識を集中して続けようか……後ろから猛追して来てるミシェルの殺気が薄れている気がする。
怒りが褪めつつあるのか、もしくは俺の奇行に何か勘づいたかもしれない。
【貴方……ただのバカじゃないとは思っていたけど、やるじゃないの。彼女、多分気づいたわよ。】
【正体はバラしてない、問題はないだろ?】
【ええ、でも後ろの彼女は怒りが褪めかけてる……それじゃあ駄目なのよ。】
あくまで怒らせたまま連れ回し、『チェックポイント』を通過しなきゃならないんだよな、クソッ。
【仕方ないわね、6秒後に振り返ってもう一度アタックなさい。】
ちくしょう、やってやんよ!!
除々に息が上がってきやがった……だが弱音は吐けない、俺はカウントダウンをしながら0で意を決して振り返る!!
次の瞬間、ミシェルの腰へ組みつく形でタックルが炸裂した。
……正直、これ以上のセクハラはしたくなかった、いや、今回はまさしく想定外だったんだ。
ミシェルを仰向けに倒した時、偶然にも彼女の右膝が俺のみぞおちへとめり込み……俺は、弱音は吐かなかったが、リアルガチな『モノ』を彼女の顔へブチ撒けてしまった。
そして更に次の瞬間!?
「モンテェェッッ!!!」
今日イチの絶唱に俺は心底震えた、百編は殺される勢いでミシェルが俺を跳ね除けようと躍動する。
こっちはゲロを鼻まで逆流させ、呼吸がままならない。
だが諦められるか、何とか余裕の表情を装いつつ後方へ飛び退くと、膝立ちの俺に対してミシェルは上半身を起こした体勢だった。
苦しいがまだ追いつかれる訳にはいかない、そのまま俺達は追いかけっこを続行する!!
【倦怠期を打破する見事なアタックだったわ♪恋愛とは斯くありたいものよね☆】
楽しんでんじゃねぇよッ!!
……右腕を吊っていた三角巾をかなぐり捨てて、ガチのMAXギアを入れてやった、ゼッテぇ逃げ切る、スイッチ入りました!!
同時刻、教会屋根ではーー
「………。」
肩で息をしながら血反吐を吐き捨てると、乾いた音を微かに鳴らして奥歯が数本転がる……。
足場である瓦は大半が踏み砕かれ、屋根の土台部分にいくつかの大穴を穿っていた。
2mを越える身体を血に染めながらも、マッコイは油断なく神経を研ぎ澄まして敵を観察し続ける。
……それはマッコイと比べて、遜色のない体躯を誇る漆黒の肌をした鬼であった。
いや、敢えて言えばこれが本物の鬼であるのだろう。
マッコイは知性化により小鬼族の種族限界を突破し、現状の体格へ至った。
故に能力の土台はゴブリンに準拠していると言っていい。
対する黒鬼の能力は全てにおいてマッコイのそれを凌駕しており、手にした長大なトマホークを意のままに繰り出してくる。
勝てる要素などひとつも無いように思われた……が、マッコイは薄い勝機を見出だし、それが同時に現状まで戦いを長引かせる要因ともなっていた。
黒鬼は濁った瞳を中空へさ迷わせ、時折、思い出したかの様に懐深い一撃を繰り出す。
ちぐはぐで相反する印象と動作……直感的にマッコイは悟った。
黒鬼はグールと化している。
意識と知性を失ない、傀儡と成り果てながらも身体に染み着いた技が顔を覗かせ、自分はここまで追い詰められたのだ。
そしておそらく……ギャンビット号でモンテが語った話しへと思い至る。
この黒鬼こそ、モンテが森林街道で影を落とす原因となった正体不明の敵ではないかと……。
(ボスがコイツに気づいたら、何を置いてでも倒しに来る……でもそれじゃあ駄目。)
……それは悲壮なまでの覚悟を決めた瞬間であった。
倒しに来る……殺しにではなく、そうモンテの行動を推測した事がマッコイに覚悟を促す要因となっていた。
それを甘さだと断じる事は容易である……がしかしとマッコイは思う。
その優しさに自分を始め、間近で視てきた多くの者達が救われてきたのも事実であると。
マッコイもまた、無慈悲な戦場で明けない夜明けを過ごしてきた一人であった。
だからこそ、モンテの心へこれ以上の影を落としてはならない。
そのためにも援軍は呼べない、唯一人でこの難敵を討ち滅ぼそう……それが惚れた男に出来る、否、したい事であった。
油断なく黒鬼へ全神経を傾けつつ、マッコイは笑う。
何時の間にか、夜明けは来ていたのだと……。
一方、上空のドラゴンフライヤーにて……シオリ達は援護射撃を開始していた。
マイケル達へ殺到する巨大蜘蛛を掃討しつつ、シオリは先程照準から覗いた教会の光景に思考を巡らせている。
奇しくも彼女の判断はマッコイとほぼ同様の結論に至ったが故のものであった。
(あの女の介入は間違いない……そして十中八九、モンテ君の安全を優先して動いている。)
苦々しい……余りにも腹立たしい感情が渦巻く。
脳裏にあの女の嘲笑が格調高く鳴り響き、一層苛立ちを際立たせるのに一役買う……。
(モンテ君……あの女を盲信してくれるなよ。)
次の瞬間、遠くで給水塔が倒壊するのが目に入ってくる。
……各々の思惑が交差し、今まさに焦熱のアドへ集約されようとしていた。
つづく
ええ~如何でしたでしょうか?
前書きでも触れましたが、構成を前触れもなく変えてしまいました。
今回の話を描いている途中でいくつかの変更を経る事で、キャラの心理を掘り下げる形になりました。
その結果、最後まで書ききるよりも分けて更新した方が面白いのではと思った次第です。
話を分断したもうひとつの要因として、私自身がこの話の結末について、選択肢が増えてしまったので少しだけ時間を置いてみたくなりました。
今回の話において、かなりツボる台詞を書けたので、この部分を速く更新したかった……というのもあります。
読んでくれる方々が少しでも感情を揺さぶられたなら、いいなぁ。




