第二章 領主編 『焦熱の戦場にて』 中編
更新しました、読んでやってつかぁさい。
焦熱のアド上空……ギャンビット号の砲撃によって周辺の敵群は成す術もなくその数を減らされてゆく。
それは小型挺から射撃を行うシオリさん以下3名も同様である。
はっきり言ってレッツ パーリィ状態だ……。
ハッピートリガーよろしく、鬼喜として町並みに巣くう巨大蜘蛛どもを無惨な肉塊へと変えてしまう。
ダナンは元々、弓の名手だと思っていたがまさかイチタロウに射手としての素養があるとは予想外だった。
こいつらは放っておいても問題ない、ここではこれ以上触れるのは止しておこう……。
一方、炎に包まれた町へ直接降りた俺達の現状はどうか?
ロジャーはアライブスの残存兵と100名余りの住民の所に駆けつけてくれた……本当に仕事が早く、しかもそつが無い。
思念伝達では住民を連れて即時移動する必要があるらしいが、だがその生命に惹かれたグール共がルートを塞いでいる。
脳内MAPでは凡そ五万七千の反応がアドに展開している、流石に全てを相手にするのは無理だと言われた……ロジャーならやりかねないと、ちょっと思ってしまったのは黙っておこう。
さて、ここは誰かを援護に向かわせるか……そう考えた時、ロジャー達とは正反対の地点で爆発が起きた。
「………。」
遠く……教会の屋根から爆発を一瞥し、マッコイは珍しくその表情から感情を消していた。
僅かに向き直り、視線を対峙する『者』へと送ると牙を軋ませてプレッシャーを 滾らせる……。
それは轟音響く最中に在って、異質とも云える静かな、否、断絶と形容した方が正しい感覚だった。
ほぼ同時刻ーーー。
イキったお姉様が一番デカイ蜘蛛にテンションを爆上げさせ、徹甲榴弾をブッ放したせいで時計台が崩壊する程の爆発が起きてしまった。
しかもその下ではキャサリンが逃げ遅れた子供を抱きかかえ、走っていたから始末が悪い。
運が良いのか悪いのか、彼女は難を逃れたが後でシオリさんには一言いっておこう。
「大丈夫、だから泣かないでね♪必ずお母さんの所へ帰してあげるから。」
そう宥めつつ、キャサリンは索敵スキルを駆使してギャンビット号が確保した小型挺との合流地点へ向かう。
その時、一瞬だけキャサリンは手にした電磁ムチを苦々しく視る……降下した直後にグールと遭遇し、ちょっとした事実が判明していたからだ。
それはグール相手では電磁ムチとの相性がすこぶる悪いという事だ。
ムチという武器の特性上、リーチと速度は他の追随を許さないが(銃器を除く)あくまで肉を抉り、削ぐものである。
骨肉を断ち切る威力はなく、対象に耐え難い苦痛を与えて心を折るものであり、対生者なら絶大な効果をもたらすがリビングデッドにはその効果は皆無と言っていい……おまけに電撃すら効かない、牽制程度でしか使えないのだ。
「………。」
子供を抱え直し、背中を撫でてから炎へ踏み出すと……遠くの教会の屋根で激しくせめぎ合う二つの小さな影が見えた。
後にこの時の心境をキャサリンは述懐する……例えようのない胸騒ぎを覚えたと、だが今は手の中の小さな命を優先する事を選んだ……。
更に同時刻ーー。
広場にて、巨大蜘蛛の大群の最中においても疾走する二つの存在があった。
「ふっ、厭になるな……どうやら蜘蛛には縁があるらしい。」
「……格好をつけている余裕があるとはの、見直したぞ小僧?」
互いに対極に位置しながら、円軌道で蜘蛛を 屠りゆく嵐と化したマイケルと婆ちゃんによって既に三体の蜘蛛が細切れにされていた……しかし。
「無理無理~!?後何体殺ればいいんだよ!!誰か助けにこいよ!!」
絶え間なく武器を振るい、絶妙なポジショニングで隙を与えない二人を約数千の巨大蜘蛛が取り囲み、物量で潰そうと襲い掛かる。
……それはまさに質対量の極致であった。
「色々と残念な男よな……。」
はてさて……ここまで大まかにではあるが、俺はこの時点まで思念伝達を経由し、みんなの生命反応を確認出来ていた。
状況まで映像で観れる訳ではないが、脳内MAPで光点として表示されているので無事であるのは確かだろう。
この時点まで……と奥歯に物が挟まった様な物言いをしたのには訳がある。
シオリさんが起こした爆発の前後で……俺とミシェルがどうしていたのか?
少々どころではない厄介事に直面していたのだ。
「………。」
町並みは……それを焼く炎は……蜘蛛もグールも音も匂いさえ……一切が失せた暗闇……。
自分さえ見えない……自我という認識しかない世界……なのか?
ミシェルは?みんなはどうなったのか?
覚えているのは爆発の直後、俺達は小型挺からアドへ降り立ったという事だ。
いや、今にして思えば地に足が着いた瞬間、厭な感覚に襲われた。
まるで地面が水面の様に揺れる?違う、空間全てが水になった様にまとわりつく……。
気づけば現状に陥っていた……のか?
「………。」
冷静に状況を整理し、出来る限りの可能性を考えてみる。
まず、この状況が敵によって作り出されたものだと仮定すると、また迷宮結界と同様の隔離空間に囚われたんだと思う。
だが前回と違って囚われる前後の記憶が曖昧なのが気になった。
それにこの既視感は何なんだ……こんな時にティンの不在は痛すぎる。
ネバーランドの起動すら出来ないとなると、やはり結界の類いなのは間違いないのか。
MAP表示は……機能していない、ティンが残したシステムマニュアルも閲覧出来ない。
俺はイラつきをブチ撒ける様に叫んでみた……のだが、声が出せなかった。
何も出来ないのか?まさか、これって……俺、また死んだんじゃね?
真っ暗闇で自身の手も見えない、しかも、今気付いたが四肢の感覚すらない。
そんな事があるとしたら……。
……時間だけが悪戯に過ぎていく。
どれだけ考えても打開策が思いつかない、いや、考えれば考える程に『死』を受け入れて諦めそうになってしまう。
死か……そう考えた時、僅かな違和に俺は引っ掛かりを覚えた。
何故だ?……何で俺は受け入れようとしている?死後の世界なんざ知らないが、現状がそれとは違うのは分かる。
いや、問題はそこじゃねぇだろ!?
俺の意思が死へ向かってまっしぐらに萎えてるトコだろ!?……自慢じゃないが諦めの悪い所だけが俺の長所だ。
打開策はある、最悪だが時間が経過すればティンが復活し何かしらの手は打てるだろう。
それまでこの空間で諦めずに数日間を過ごすって事だが……。
そういえば、出る前にシオリさんが言ってた忠告……俺達の素性が洩れているって?
素性、サポートファミリアとか諸々の事情を知られてるって事だよね。
無為に時間を過ごして致命傷にならないのか?
時……間……?これは……。
不意に思考へ微かな断片が一瞬、過った気がした。
確かな閃きが、答えに直結する何かが。
消え失せそうな手掛かりを手繰る様に、思考をひたすら掘り続ける……掘り続けて、やがて辿り着いた。
いや、正確には思い出した、あの既視感の正体を。
……アームベルンでゴロツキにボコられて意識が飛んだ時、そして二度目はティンを救いに行った時の感覚……ネバーランドが起動出来なかったんじゃない、既に起動してたんだ。
おそらくこの暗闇の中に俺の身体が在るんじゃない。
この暗闇自体が俺の意識世界そのもの……アームベルンでは現実の緊急事態を考慮し、ティンが表層意識で眠る俺へ警告を発してきた。
つまり、現実では俺の意識はなく且つネバーランドが何者かによって起動させられたのか!?
敵によるシステムの掌握……想定外で最悪の事実に辿り着いてしまった。
だが更に想定外の出来事が次の瞬間に訪れる。
【やっと正解を導き出せたわね、ボーヤ。】
突如として、俺の意識世界に覚えのない女の声が響き渡ったのだ。
【お前は一体、何者なんだ?】
【ふぅん……やるわね、無意識だろうけど、思念伝達を間に挟む事で私に思考そのものを読ませないようにするなんて。】
【……答えになってねぇぞ。】
【凄んじゃって可愛い♪……そうねぇ、美と勝利の女神って言ったら……信じてくれる?】
【アンタが可愛い系か綺麗系なのかは問題じゃねーし、勝利の女神だとも思えない。 けどアンタの素性にまったく目処が立ってない訳でもないんだよ。】
【……なるほどね、シオリんが予防策を張ってたかぁ、やりづらいな~。】
人をコケにする様な物言いだな、おい、しかもサラっとシオリさんの名前まで出しやがった。
【それじゃあ率直に言うわね……私に敵意はないし、むしろ今回はアナタの手助けをした。】
【……今回は?】
【私の正体はアナタの予想通り、でも敢えてここでの言及はしないで欲しい……それが私がアナタを助ける上での最低条件よ。】
【待てよ、助けるだって?そもそもこの現状が何で俺の助けになるんだ?】
【そうね……その答えはアナタの体感時間であと30秒くらい待てば分かるわ。】
おいおい、具体的過ぎるな……しかもその時間で俺が致命的損害を被る可能性すらあるじゃねーか、まぁ現状じゃあ何も出来ねーけど。
暫しの沈黙……てかこっちが黙っている間もこのお姉さんったら、鼻歌を歌ってらっしゃる。
しかも聞き覚えのある元の世界のヒット曲だ……冬の代名詞みたいな扱いだったと思う。
わざとらしい、あざとい、あからさま、表したらキリがないがこのお姉さんは暗に正体を示すためにやってるのか?
ならさっきの最低条件なんざ意味がないだろうに。
いや、ここでの言及はするなという事だから……遠回しの自己紹介とも考えられるな。
だとしたらその条件が後のルート予測とやらに関わってくるんだろう。
そう思っているととっくに30秒が経過していたようだ。
【……おい、何もーー】
抗議を垂れようとした矢先だった。
俺の意識世界と思われた暗闇が音を立てて一瞬で崩れ去り、今度は海中?みたいな風景へと切り替わる。
四肢の感覚を認識して、手元を視ると見慣れた腕が視界に映る……俺ってば裸じゃん!?
【正常な状態に戻ったのよ、今は表層意識、つまりアナタが浅い微睡みの中にいるって事ね。】
【正常な状態?説明してくれるんだよね。】
【勿論♪ここからが交渉だもの。】
そう言って、彼女は俺に起こった出来事を話し始めた。
ーー曰く、俺がアドに降り立ったあの瞬間、トラップ式の『即死魔法』に見事に嵌められたんだそうだ。
ってか即死って何だよ、コエーよ、そんなんチートじゃん!?
【つまりルート予測と併用で使われた罠って事か。】
……それを聞いた事で、もうひとつ確定した。
【俺を罠に嵌めた人物はもうひとりの予測者って訳ね。】
【あら、それを断定するのは早くなくて?私も協力者でボーヤを騙すためのアメとムチかもよ?】
【……あんたシオリさんから嫌われてるだろ。】
【………?】
【人を煙に巻く言動と皮肉、愉快犯とも言えるけど……交渉ならある程度の背景は明瞭にしてくれ。】
【手痛いわね……いいわ、正直に言うけど、私はもうひとりの予測者と対立している、アナタを助けるのはそいつを邪魔しつつ、私に都合の良い未来を選定するためよ。】
【それとさっき、正常な状態になったと言っていたけど……俺に掛けられた即死魔法はどうにかしたって認識でいいのかい。】
【ふふ、未来の選定というワードは放っておいていいのかしら?】
【交渉相手のスネの傷を蹴る様な真似はしないさ、少なくとも利害が一致する相手にはね。】
【アナタ……気付いているのね、いいわその質問にはイエスと答えましょう。】
【確定かよ、けど俺への即死魔法が解かれているなら、アンタが呈示する交渉のメリットは限られる……はっきりと聞くけど、何人死ぬ?】
何人死ぬのか?……俺の問いに対して、最初に彼女が口にしたのは嬌声、笑い声だった。
【ボーヤ、貴方とはシオリんよりも、ずっと気が合いそうよ……いいわ、特別に教えてあげる。それはね……シオリん以外の全員よ。】
【全員……だって!?】
【本来なら貴方のお仲間と浄火の勇者の力を以てすれば、あの程度の軍勢なんかどうにでも出来るわよ……けどね、向こうは入念なルート予測とタイミングで罠を張ってきた。要するにアドに突入した時点で負けてるのよ。】
まさか、とんでもないヤツを敵に回していやがった……。
【どうする?心が折れたのかしら?】
【もうひとつ聞きたい……ルート予測ってのは顔も知らない相手でも予測出来るのか?】
【質問が多いわね、でも答えちゃう♪この能力を個人の特定には使えない。 でもこれだけの罠を張れたという事は『彼』が望み、予測した未来線において貴方達が障害になっているのよ。】
成る程……ついでにこの予測者がウェストバークで暗躍してるグールどもの親玉かどうか聞きたい所だが、これ以上の質問はフェアじゃない気がするな。
【分かったよ、じゃあアンタの条件は出来る限り呑むから全員助けてよ。】
【……貴方、折衷案って言葉知ってる?それとも私がイイ人だとでも思う訳?】
【そっちに無茶をさせるなら、こっちも無茶を呑まなきゃフェアじゃない……誰かの命を諦める以外なら何でも呑むよ。】
【それは殺しは出来ないって予防線じゃないの?ほら♪もうフェアじゃないわよ。】
【………。】
【ふん♪いいわよ、今回は私が折れてあげる。それに私は予測するだけで、実際にそれを履行するのは現場に居る貴方だもの。】
【よっしゃ!!じゃあ俺の仲間と現時点で生き残っているアドの住人、全員な!!】
【……へっ!?】
【ん!?全員って言ったじゃん、んな糞野郎の罠をブチ破って住民ごと救えたら、痛快じゃね?それで初めてヤツをコケに出来るんだよ♪名前知らないけど♪】
【はぁ……分かったわ、でも相当キツいわよ?ちゃんと履行出来なくても知らないからね。】
【それじゃあ、そっちの条件を聞かせてくれ。】
……それから、『彼女』と条件面での意見交換を小一時間程繰り広げる事となった。
途中から緊張感の欠片もなくなってしまったが、概ね合意に達した……と思う。
はてさて……それじゃあ痛快に反撃といこうか!!
つづく




