第二章 領主編 『ターニング ポイント……は後で気付くもの。』
最近……アクセス数が少しずつ伸びてきました。
無職という事もあり、スゴい励みになっております。
このまま週一更新出来ちゃうかも……って駄目だろっ!?
早く職探そ(泣)
「まず、誤解のひとつを解いておきたい。」
俺はそう話しを切り出した。
艦橋に設えたブリーフィング用途の円卓に座って顔を突き合わせながら、スムーズに話し合いが進むように思考を整理する。
「事情は後で説明するけど、俺達はシオリさんを敵の一味だと疑っていた、それはもう婆ちゃんの話で理解してもらったと思うけど、どう?」
「ああ、理解している……また、話し合いに応じてくれた時点でその疑いが晴れたとも考えているよ。」
「全てを信じた訳じゃないけど、そこは信じるのを前提にしないと進まないからね。それにシオリさん個人は敵勢力と関係ないのはよく判った。」
「……聞こうか。」
確証ではないが、先程シオリさんがロジャー達を一目で危険視したあの出来事自体が確信に繋がったといえる。
彼女の指針は人類至上主義であり、人類への害悪の芽を摘むという点でブレなく特化していた。
勇者らしいと云うべきか、英雄と呼ぶに相応しい精神構造だ。
なればこそ、現状で俺達が追っている敵勢力の行動と結果において、彼女は相容れない存在と考えられるだろう。
その主旨の説明をしたら、御本人から険しい表情で睨まれてしまった……。
「私は確かに人類を守護する立場にあるし、それが誇りだとも思う。だが私が守りたいのは人々の暮らしと安全であり、一国に肩入れする事のない均衡だ。」
「それは俺達の世界の仕組みをこの異世界に押し付けるって事かい?」
「……俺達の世界?」
「………モンテ様?」
その場に居た他の全員が、予期していなかったワードによって呆気にとられ、俺とシオリさんへ視線を向けている……。
「……君は話し合いに来たのか、それとも私を非難したいだけなの?」
「違うよ……シオリさんのやっている事は必要だ。ただ俺はコイツらに出会っちまったからね、他の種族や魔物、魔族なんてのもいるんだろ?なら、どうせなら雑多な世界を俺は視て回りたい。」
「勝手な物見遊山の肩入れで、人類を危険に晒すというのか?君は分かっていない……他種族に比べ、人類がどれ程脆弱な存在なのか。」
「知っているよ……無知無力のやるせなさや、他者との違いが如何に怖いかはね。 それに全ての種族が垣根を越えて手を取り合えるなんざ、考えちゃいない。」
「ならば何故その話を蒸し返した?話し合いを頓挫させるだけじゃないのかモンテ君。」
鋭い眼光で俺を見据え、シオリさんが円卓を叩くと周囲に緊張が伝潘してゆく。
だが今更そんな圧力に従う気なんざ持ち合わせちゃいなかった。
「意味はあるんだよ、少なくとも俺達二人は相容れない立場で、互いの主張が平行線だって云う相互理解はクリアにできる。」
相容れない……その瞬間、決定的な溝を露見させた事で、周囲から散発的な溜め息が洩れた。
みな同様にこの話し合いが水入りで終わると結論付けたからだろう。
しかも開始早々での決裂だ、落胆するのも頷ける。
そもそも、別に物別れに終わっても然したる問題なんざないんだけどね。
ゴブリン達を始め、ギャンビット号のクルーもこの話し合いが功を奏して同盟でも組むと考えてなければ、期待もしていない……なら落胆の意味は?それはこの場での決裂=即座の殺し合いに発展する可能性を示唆しての事だろう。
あくまでも決裂したらの話だが……。
「………。」 「………。」
それぞれの思惑が静かな喧騒を奏でる最中において、シオリさんと俺は無言で視線を合わせている。
そして……沈黙を破ったのはやはりお姉様だった。
堰を切ったかの様に高笑いを響かせ始めたのだ……うん、情緒不安定かよ!?
全員、今度はまた違った意味での沈黙を強いられる事になってしまう……やがて。
「……いや、失礼した……余りにハッキリと言い切るものだから。」
そう言って一頻り笑った後、一度顔を伏せ、深く息を吐いて……再び上げられたその表情は一変していた。
……やはり、この人には敵わないな。
真っ直ぐで凛とした眼差しと燃える様な笑みを称え……其所にはまさしく、目撃した者を魅了して止まない大輪の華が咲いていた。
「了解した、確かに我々はその行動理念において相容れないな、だがーー」
「共通の敵に対して利害は一致……してるだろ?」
「それは情報を擦り合わせてから判断するよ。 では蟠り(わだかまり)も解けた所で、やっとだ、やっと話し合いを始めようか。」
……こうして互いの落とし処を見出だして、俺達は改めて話し合うに至った。
正直、メンド臭いプロセスを踏んだと思う。
だがこれから俺達が話す内容を鑑みれば、互いの立ち位置を再認識しておくのはマイナスじゃないだろう。
さて……まず俺は事の始まりであるカルパティーン洞窟での出来事から話した。
それについてはシオリさんも当事者であり、恙無く理解してくれた。
卵とその回収をした存在、デュラハンの背景や洞窟が得体の知れない敵の極大戦略呪文で崩落した事実……おそらくこの時点こそ、敵が俺達を初めて認識し、牙を剥いたと思われる。
時系列で云えば、これは始まりと同時に現時点で起きた出来事をも指してしまうが、やはり洞窟での一連の流れをまとめて話しておいた方が良いと判断した。
それからは時系列を追って話すように心掛ける……街道でグールの大群に遭遇しティガーを死なせてしまった事、グールの特異性と謎の特殊個体の存在。
更にウエストバーク地方の現状と領主として自警目的の私兵団の結成、そしてナボルの村での出来事。
……シオリさんは少なからず、ティガーの死にショックを受けた様子だった。
聞く限り、衰退しているとは云えアームベルンに根を降ろしていたガルマ派の一員として、ティガーは他派との折衝役を担う機会が多かったようだ。
また俺の仲間連中もお初の話しだったらしい、各々違った反応を見せていた……まぁあんまり俺自身の背景を話さなかったからね、無理もない。
あとニッカさんについては、シオリさんから感謝を述べられた。
キシリア派である彼をギャンビット号へ引き渡し保護したいと申し入れてきたので、ひとつお願いをして快諾する事にした……それは全てを秘密裏にし、箝口令を敷くというものだ。
ニッカさんの供述を聞いた時点で、シオリさんも一連の出来事に繋がりを見出だしたんだろう。
何より敵がエレメンツ教徒に成り済ましていた、或いは教会内部それも本丸へ食い込んでいる可能性すらあるのだから秘密裏での保護は妥当であり、シオリさんもそれには賛同してくれた。
ただ、それまで沈黙を守って静観していたバララさんが口を開く。
どうやらニッカさんの『ルート予測』発言が引っ掛かったらしい、シオリさんも肚に一物を持っている様子だ……。
「それについては後でこちらの事情を話す時に説明するわ。」
「なら問題ないね……本当はニッカさんに聞くのが早いんだけど、まぁ、それは追々って事で。それじゃあバララさん、続けてくれるかい。」
そう促すと一瞬、シオリさんへ視線を送ってから改めてバララさんは簡素かつ無骨な文言をブッ放してきた。
「……ニッカ・ボルカの死亡を公式に報告しよう。」
ん?まぁ妥当なんじゃない、公式に死んだ事にすればニッカさんの保護も容易になるだろうし……そう思った瞬間、婆ちゃんがポツリと呟いた。
「ヌシはニッカ殿を生き餌として利用する気かえ?」
にわかに広がる緊張……何でそうなる?ちょっと理解に苦しむ俺を置いてけぼりにし、バララさんは淡々と婆ちゃんへ言葉の真意を問う。
「ニッカという人間は洞窟の崩落によって人知れず死んだ……それが現状の敵の認識じゃろう。なればその死を誰が公表し得るのか?認識を覆しかねん痕跡と匂いを撒き散らされては……疑わずには、追わずにはおれんよ。」
「そうだ、それにより敵の教会内への浸潤度合いを探れるだろう。無論、彼の身の安全は全力で護る。」
「何故に『保証』すると言えん!!判っておるぞ!!生き餌は獲物の眼前へ敢えて晒すから意味があるものじゃろうが!!」
「………。」
婆ちゃんの一喝はブリッジ内の温度を下げ、僅かな空気のザワめきを呼んだ……。
ある種、婆ちゃんの見解は少数派であったのかもしれない。
ニッカさんの保護を優先した俺でさえ、バララさんの策に一考の価値を見出だしていたからだ。
ギャンビット号のクルーもゴブリン達もきっと命を消耗品として扱う世界で生きてきたといえる……。
俺もあの転移魔法の一件でそれを痛感し、選んだ側になってしまった。
今更戻れない、戻ってはいけない……そんな思いが人の命を天秤に掛けるという行為の是非を曖昧に麻痺させたのかもしない。
だからこそ、ニッカさんを治療し、傍らに居た婆ちゃんだけが異を唱えていたんだろう。
「だがその手段でしか、敵の現状を探れん……割り切るべきだ。」
……至極真っ当な軍人として、バララさんも退く気配をみせない、次善の策がない以上は最高足りえなくとも最善を行使すべきだからだ。
俺は一瞬、シオリさんへ視線を送る……この場でバララさんの策を強行採択する事だけは避けたいと思う。
婆ちゃんだけでなく、ニッカさんへの配慮を考えてだ、それが俺が守るべき最低限で最後に残されている一線だから。
「分かった……この件は保留としよう、いいなバララ。」
お姉様の一言でバララさんは渋々であったが、口をつぐんでくれた……と思った刹那だった。
「よろしいですかな?」
みなの視線が……ロジャーへと注がれる。
「やはりバララ氏の主張する策が妥当でしょう。」
「………。」
婆ちゃんの牙が何とも云えない軋みを響かせる……。
「婆様の主張も理解できます、我々がニッカ殿の命を勝手に秤へ掛けるべきでない……ですので、御本人に選んでいただくのは如何でしょう。」
本人に一任する……ロジャーの発言は一見すると最も真っ当な落とし処だと思えた、現に婆ちゃん以外の全員がそれで納得したからだ。
だが、それは敢えて云えば強行採択に等しい。
最も側に居た婆ちゃんが渋ったのが良い証拠だろう……俺も大して言葉を交わした訳ではない。
けど意識を保つのも覚束ない重傷を推しながらナボルの出来事を話してくれた責任感の強さは目にした。
無論、みんなは知らない事実だ。
俺と婆ちゃんだけが理解していた……おそらくニッカさんは断らない、むしろ進んで危険に身を投げ出すだろう。
……結局、婆ちゃんがそれ以上、異を唱える事はなかった、ロジャーの主張は誰にとっても公平であるのも、また事実であったからだ。
「ではニッカ氏の容態が安定し次第、打診する。」
「……それじゃあ最後に森林地帯でロジャー達が遭遇した敵と結界迷宮についてーー」
その時だった、俺の言葉を遮る様にブリッジ内にけたたましいサイレンが鳴り響く。
「哨戒機より入電!三時の方向、距離30km地点にて熱源反応あり!」
「観測球の映像をモニターに出せ!!」
シオリさんの張り詰めた声に呼応し、数秒のタイムラグで円卓の中央に立体映像が投影されると即座に空気が一変した。
「これは……街が燃えている!?」
その光景にみなが息を呑む中、ミシェルとダナンが血相を変えて呟く。
「あれはアドだ……アドの町が焼かれてる!?」
映像は燃え盛る炎に包まれた町並みとそれを取り囲む様に蠢く大小様々な『大群』の影が映し出されていた……。
何故だ……俺はこの時、言い知れない違和感に意識がザワめくのを感じていた。
「第一種戦闘配備!!当艦はこれよりアドへ救援に向かう!!……モンテ君達もいいわね?」
「むしろこっちが協力に感謝するよ。」
「五分で急行する、君達はドッグで待機してくれ。」
バララさんの指示が飛ぶやいなや、婆ちゃんを筆頭にゴブリン達が疾風の様にブリッジを後にしていき、遅れる形で俺とダナンにミシェル、そしてシオリさんが飛び出してゆく。
「………。」
俺達が通路を駆け抜ける背後で戦闘配備による隔壁閉鎖が上下左右で為されていく……と不意に頭の中で声が響いた。
俺は先頭を走るシオリさんの背中へ視線を送る。
【モンテ君、聞こえている?】
【……ああ、けど何でわざわざ念話を?】
【本来ならシステムを起動して話したいんだけど、今、君のファミリアは不在なんだろう?回線が繋げない以上、念話で手短に話す。……いいか、気をつけろ。】
【どういう事だい、それ?】
【君も感じているんだろ?このタイミングの気持ち悪さを。】
その瞬間、俺自身の中で先程の違和感が府に落ちた……気がした。
【ルート予測……やっぱり、そういう能力なのか。】
ニッカさんの話を聞いた時から、何となく想像してたが正直考えたくなかった……んなチート能力。
シオリさんは端的に、俺の想像を補足する様に教えてくれた。
ルート予測、それは未来に起こり得る事象の分岐とその要因をある程度だが限定し、予測する能力らしい。
例えばAとBという未来の分岐点においてBを選びたい場合、その分岐のきっかけとなる出来事を知り、正確になぞればいい。
聞くだけでイヤになるチート能力だが、穴がない訳でもない……ようだ。
知り得る情報が限定されており、予測を知る者の主観も混ざるために正確性に欠けるという。
【だけど脅威には違いないわ……この能力を持っている人間は現状二人しかいない。】
二人……能力という事はスキルなのか?
【その二人って他の勇者なの?】
【……いえ、一人は違うわ。】
そう思った刹那、シオリの脳裏にある人物の顔が浮かぶ……滔々と流れる清廉な大河の様に、穏やかにそして不意に人を殺しうる女。
(もしあの女が今回の件に絡んでいるとしたら……モンテ君のファミリアが不在のタイミングを狙われたかもしれない。)
【モンテ君、敵に私達の素性が洩れていると思った方がいい。】
それは思ってもいなかった言葉だった……一瞬、何を言っているのか理解できなかった程だ。
【……敵も脳量子神速演算思考検索エンジンを持っているのか!?】
「時間切れよ、今はそれを考えている暇なんかないわ。」
念話ではなく、シオリさんの声が掠れる様に聞こえた直後……俺達はドッグに着いていた。
『現在高度2000ーー機関減速!!』
伝声管を通じ、バララの厳命が艦内に居る全てのクルーの熱量を猛らせ独特の緊迫感を拡げてゆく……。
ドッグには既にロジャー、婆ちゃん、イチタロウ、キャサリン、マッコイ、マイケルが到着し整備員から何か説明を受けている?
よく見ると各々手に武器らしきものを持っていた……これって。
「うちで制式採用している白兵戦用武具だ、彼等には自由に使って貰って構わない。」
……お姉様ったらなんて事を、あれはムチか?キャサリンがうっとりと恍惚の表情で自身の身体にムチを這わせていやがる。
おまけにあれは双剣か?マイケルがイキった眼光で刀身を舐め回して……あっ、舌を切った。
「電磁鞭、高周波カトラス、ヒートアックス、超硬度ダイヤショテール、斬裂式ダマスカ鋼製ライトボウガン……そして婆殿にはワンオフの由緒正しき伝説の踊り子の鉄扇だ。」
長い、最後の方が長いよ!?
「儂のだけ、古びておるの……不思議と馴染むがな。」
いや、そういう問題じゃねーし!?
「気を引き締めろ、あと一分で降下だ……おそらく、ここからは君が未体験の戦場だ。」
戦場……その言葉が何処かで浮き足だっていた俺の心へ一瞬で影を落とした。
足下から静かに、死の恐怖が揺らぐ様に首を上げるのを感じながら、覚悟でそれを抑えつけようと試みる。
きっと何かが起こる……そう予感せずにはいられなかった。
つづく
エエーー……如何でしょうか?今回はちょっと今までのおさらい的なお話でした。
正直、忘れていた設定なんかも掘り起こしました。
はてさて、次回はアドの町救援戦へと移行しますので……懲りずに読んでやってつかぁさい。




