第二章 領主編 『何時も罠が待っているだけとは……限らない。』
久し振りの更新となりました……もう年末キライ、師走って何よ!?
まぁ、忙しいうちが華とも言いますが。
来年はもっとコンスタントに更新いたします。
ざわめく木洩れ日を抜け、疾走感に身を委ねて風を切って行く馬体……。
俺達はナボルを出て今は使われていない旧(街)道を通って北上していた。
ミシェルたんの話だとカルパティーン洞窟へ行くにはどうしても森へ入らざるを得ないらしく、だがその森自体が魔物の巣窟なのだという。
「人の手が一切入ってない場所でね……馬で抜けるのは困難さ。」
何で入れないの?訳分からんが……。
とか思ったらティンさんが解説してくれましたとさ♪
『まだ解説していませんが?……まぁ、いいでしょう。 元来、馬とは臆病な性格で過負荷に非常に弱い生物です、閉所や進行方向へ向かって急激に狭くなる道を嫌い、場合によってはパニックを起こし、騎乗者を振り落とすだけでなく障害物等に激突して自身が致命傷を負ってしまいます……これは本能に根ざした衝動であり、調教で完全に克服するのは難しいと言えるのです。』
成る程、確かに悪路での安定性は陸竜の方が上だった……主流が入れ代わったのにはそう云った事情があるのかもな。
ともかく旧道で行ける所まで馬を走らせ、そこからは徒歩で森を抜けるしかない。
……因みにだがロジャー達は後方から一定の速度で付いてきている。
思念伝達で確認したが全員、余裕との事だ。
なんなら先行するとまで言われてしまい、俺的に閉口せざるを得なかった訳で……いやはや、パーティに出来るヤツらが居ると何かと戸惑うわ。
とか考えながら景色へ目を向けると、遠くに例の森が見えた。
平原を通る旧道に添う形で広がる森林……一瞬、厭な記憶が過る。
今更だ……今更、命のやり取りをしたくない……なんて段階はとっくに終わっている。
少なくとも、俺はティガーを人間として殺している、手を汚したんだ、仕方なかったとか『たら、れば』を言い訳がましくほざく気はない。
だがケリは着けさせて貰う、相手はまだ不明瞭だがアームベルンを出てからの一連の流れは繋がっている気がしたからだ。
仮定ではなく断定に近い直感で、本気でそう思っている……根拠となる事実や証明がないのにも係わらず、いや、逆に様々な事象が時期を重ねて起き過ぎているという点が直感の根底にあるのだろう。
グールの台頭とナボル村の住民消失、それに関係があるかもしれないキシリア派の人間。
この時、ふと脳裏に微かな記憶の欠片が浮き上がる……待てよ、失念していた。
そもそもの始まりは俺の初クエからじゃないのか?
デュラハンが引き金となったゴブリンによるナボル村の襲撃事件……そしてゴブリンを養分として育てられていた得体の知れない卵。
聞こえるか、ロジャー……。
【……はい御主人様。】
俺は洞窟での出来事以前、デュラハンによってゴブリン達が制圧下に措かれた頃の事情を問う。
【辛い過去を思い出させてすまないな、だが俺は直接デュラハンを視ていない……逆に今のお前の視点なら、何か気付ける事実があるんじゃないか?】
【……卵の件は御主人様からの記憶映像で今、初めて知りました……ですがデュラハンが我々を養分として卵に与える事を主目的としていたとして、疑問があります。】
【養分としてゴブリンを選んでいる事か?】
【はい……卵の詳細は存じませんが、我々が大したエサになるとは思えません、もしなり得るとするなら、何等かの特異性が有る筈です。】
【確かに……じゃあデュラハンの出自について分かる事はあるか?ギルドでは当初、魔族領から都落ちした個体だと聞かされたんだが。】
【それについてですが、この会話を盗み聞きしている者が何か言いた気にしておりますので……。】
ん?……盗み聞き……だと!?
【は、はぁぁ~いリーダー。】
キャサリンか……ロジャーにだけ向けた思念伝達をどうやったら盗み聞き出来るんだ?ってか、それを看破するロジャーも大概だなオイ!?
『キャサリン・セカンドには感知能力に長けた異能が備わった模様です。』
感知能力……って事はティンさんの声も聴けるんじゃないの?
『いえ、そこまでの領域には到達していませんが、いずれは……。』
マジか!?余計にキャサリンが油断ならなくなったわ。
その時だった、不意に馬体が揺れて、思わずミシェルのベルトを強く引っ張ってしまう……。
「すまん、大丈夫かモンテ?」
「いや問題ない、馬の機嫌でも悪いのか?」
「どうも掛かり気味でね、普段は落ち着いた子なんだけど。」
「もう少ししたら休憩を挟もうか。」
【リーダー?さっきから黙ってどうしたの、話をしてもいいのかしら?】
【あ、ああ……悪いな、構わないよ、デュラハンについて何か気付いた事があるんだろ。】
【ええ、多分だけど以前、あのデュラハンの指揮下で戦場へ出た覚えがあるわ。】
指揮下?……それなりの地位に就いていたヤツなのか。
【私達が魔族領での内乱に捨て駒として度々駆り出されていたのは、もう知っているわよね。】
【ああ、聞いている……。】
【そこで一度、彼が参謀を務める部隊の傘下に入ったのだけどーー】
【ちょっと待て、参謀?直接戦った人間から聞いた話じゃ、まともに会話出来ない位に知能が低かったんだろ。】
【せっかちさんね♪……でも、まさにそこなのよ。 少なくとも当時の彼は誇り高い武人だった……何せ私達を唯一、最後まで捨て駒に据えなかったんですもの。】
【他人の空似……デュラハン違いの可能性は?】
【無いわね……そもそも個体数の少ない稀少種なのよ?デュラハンって。】
……他のデュラハンである可能性はまだ捨てきれないが、もし事実だとしたら確認しうる最初の異変だな。
洞窟に着いたらあの肉壁の痕跡を解析しよう。
卵の欠片が在ればめっけもんだ……。
【モンテ様……一連の騒動にはやはり魔族領、魔王軍が関わっているとお考えですか?】
魔王軍の侵攻か?……確かにグールとナボルの異変にはそういう憶測も考えられるし、デュラハンの一件にしても表面的に視れば魔王軍の侵攻と捉えられるだろう。
だが何だ……この例えようのないあざとさは。
【散乱した情報を安易に繋げるべきじゃない……と今は思う、敵が次の動きへ出るまでは見に回るしかねぇか。】
静観するしかない……何とも歯がゆい結論に思わず苦虫を潰していた、が、この時既に姿の見えない敵が行動を起こしていた事に俺は気付いていなかった。
思念伝達を閉じて間もなく、ミシェルが馬を止めた。
休憩を挟む時間か……そう思った瞬間、怒声が響く!!
いや、それが怒声ではなく馬への指示だとすぐに気付いた……。
「進めッ!止まるな!!」
ん?……後ろへ視線を送るとダナン君の馬も同様に指示を無視し、前脚を上げて嫌がる素振りを見せている。
「シェリー(ミシェル)!一旦引き返そう。」
同時に手綱を絞り、回頭させると馬体がすんなりと反転した……指示をガン無視している訳じゃないのか。
俺達はロジャー達と合流する地点まで戻る事にした。
「……。」
上下に身体を揺らしながら後方の景色を凝視する……。
数分程走っただろうか……馬体への負担、特に心臓を守るために走力を除々に削いで一定距離を動かさなければならない。
見事な馬術で二頭の馬を円を描く様に操り、呼吸を整えさせてゆく。
「……さっきから(馬の)緊張がほぐれない……ダナ。」
「こっちもだ、これ以上進むのを嫌がっているみたいだ。」
俺を馬上に残し、ミシェルが怯える馬の鼻先を撫でて落ち着かせようと試みるが上手くいかない……。
「駄目か、完全に来た道しか向こうとしないね……。」
何とも云えない不穏な空気が停滞してやがる……そんな最中で何事か考え込んでいるダナンの表情を見やり、マイケルが歩み寄ってきた。
「十中八九ダナンの旦那が考えてる通りだぜ。」
その声で我に返り、マイケルを始めゴブリン達へ眼を向けるダナン君……彼等も何か思う所があるのか、みな渋い表情を浮かべている。
「俺達は馴染みだから分かる……森全体の気配がおかしい、こんな事は初めてだ。」
森全体……二頭の馬は森からの圧力に怯えているのか。
『ですが全てのセンサーで異常は感知されておりません。』
いや、ティン……例えそうだとしても、それが正常だとは限らないだろう。
『……?』
さっき馬が嫌がった場所な……他と比べて、少し旧道に森が競りだしていた。
教えてくれたろう、馬の事……純粋な本能からの忌避感が警告を叫んでるんだ無視は出来ねぇよ。
いや、絶対に何かある筈なんだ……だがティンの言う全てのセンサーで異常が出ないというのも事実だろう……全て?
ティン!洞窟の時同様に魔力や結界の有無も認められなかったのか?
『はい、感知は認められません。』
では全ての感知を隠蔽する結界で森全体を覆っている可能性はないか?
『全体……ですか?確かにそれならばワタシのセンサーの精度でも見逃す可能性が生まれます……ですが……いえ、マスターにひとつ提案があります。』
「………。」
「キャサリン、頼めるか?」
「ええ、勿論よ。」
俺達は旧道を挟んで森の反対側にある岩場へ移動し休憩を入れる事にした、とは言えみんな気を緩められる訳がない。
本当の目的は馬の緊張を少しでもほぐすため、そしてある事を試すためだ。
キャサリンから感知系統の異能について話を聞き、ティンさんの提案が可能か確かめてみる。
結果から言えば試行可能だった……現在、ティンが行う探索方法は範囲内の音、熱、生体オーラ、そして魔力と術式反応の五つだ。
かなり完全無欠に近い索敵能力だが、その有効範囲は俺を中心とした半径3㎞以内に限られている。
さらに1㎞離れる度に探知精度が25%程落ちてゆく……。
つまりは森全体をカバーする事は不可能であり、術式感知においてはその全体像を把握出来なければそれだけで精度が落ちて、隠蔽系の効果が組み込まれていた場合は感知自体不可能になってしまうという訳だ。
まぁ、とは言え半径3㎞を超える魔方陣なんざ都市破壊魔法でもないらしい……なら弱点とは言えないだろう、少なくとも今回のケースは例外中の例外だわ。
でだ……ここからキャサリンの出番という訳なのだよ。
「一体あいつはまた何をやらかす気なんだ?」
馬を係留し、岩場に腰かけながら俺とキャサリンの様子を一瞥するミシェル。
「分からん、だが『この一帯』に流れる嫌な空気をどうにかしようとしているのかもな。」
俺の説明を受け、軽妙に笑うキャサリン……横ではマッコイとイチタロウが気難しい表情で考え込んでいた。
どうやら感知系統の話についてこれていないようだな、その表情は理解したフリか。
マイケルとロジャーの二人には周囲の哨戒に出てもらっていた、まだロジャーの姿は遠くに見えているが……まぁ、あの二人にとっては今更な話かもしれないからな。
「……じゃあみんな、静かにしてね♪」
俺達は少し退きキャサリンから距離を取る……。
「……。」
沈黙を敷き、瞳を閉じて集中を高めてゆく……。
「……。」
『……始まったようです。』
そうか……さっきティンさんの受け売りでキャサリン達に説明したが、実は俺自身もよく分かっていない所が大部分だったんだよな。
『マスターに説明頂いたのは精霊魔術士の初歩的な交渉法です。』
交渉法……精霊へ働きかけるとか言っていたやつか、だが今回精霊は関係ないとか言ってなかった?
『はい、その前段階である自然(事象)との同調ですね……今、キャサリンは視覚を閉じてチャンネルを開き……今度は聴覚……嗅覚……トランス状態に入りました。』
段階的に五感を閉鎖する事での同調、今回は触覚以外の全てを閉じるらしい。
僅かに風が吹いてきた……キャサリンの艶やかな長髪が揺れ動く。
「……。」
『同調に成功しましたね……後は。』
ティンさんの言葉とほぼ同時に右手を胸まで上げ、キャサリンは親指と中指を合わせ……弾くッ!
その瞬間、キャサリンを中心とした軽快な音の波紋が大気へと拡がってゆく。
二回……三回……指を弾いて発生した音へ閉じた感覚を乗せて拡げる。
音は掻き消える事なく、一瞬で森まで到達する筈だ。
「……見つけたわ。」
にわかにザワつく俺達……。
「異変の正体か!?」
「マイケルの奴……見えない所でサボってるわね♪これは是非ーー」
「後で〆とくしかないわね♪」
言葉と同時にマッコイが凶悪なツラで啜り嗤う……連れてトランス状態の筈のキャサリンも凶悪?な美貌で微笑む。
ってか恐い!?ってか違うだろ!!何なのこの二人の連帯感。
まぁ……そんなすぐに異変の正体が分かるなら、そもそもティンさんが見落とす訳はないか。
話が脱線した、緊張感に欠けるよ君たち……。
仕切り直し、という訳ではないが再びキャサリンが指を鳴らし始めた。
「………。」
視覚が風に乗り、流れ、森全体を俯瞰で捉えてゆく……多角的に情報が術者であるキャサリンへとフィードバックされるのだ。
「これは……。」
森の内部へと侵入してゆく視覚、侵入時に感じた空気の淀み以外は別段変わりのない見慣れた風景だとキャサリンは思う……だが何処か違和感も片隅で存在していた。
何故なのか?更に探索を続ける……木洩れ日を称え静かに揺れる緑葉、流れる沢……。
(穏やかな風景……やっぱり気のせいだったのかしら?)
この時、キャサリンは高揚感に包まれていた。
新たな感覚の広がりと能力の開拓……今回の探索で何も発見出来なかったとしても問題はない、そろそろ感知を切って戻ろう。
そう思った瞬間だった。
(………。)
それは微か……偶然により生じた痛み。
肌をゆっくりと掻きむしる感覚……風に空気に同調していたのは視覚だけではなかった。
(これは……空気?淀みに触れたからなの!?)
と同時に気付いてしまう、この風景に潜んでいた違和感に。
(不味い!?没入し過ぎたの!?早く戻らないと!!)
トランスを解こうと急速に感覚を本体へと戻してゆくキャサリン……そして彼女は視た。
俯瞰で己れの姿を捉えた刹那、森から感じていた空気、否、空間の淀みが瞬時に拡大!触手の様な形をとって自分達へ降り掛かろうとしているのを……。
「みんな逃げて!!」
キャサリンの必死の叫びで全員、即座に油断なく身構える!!
だが事は既に手遅れであった。
一瞬にも満たぬ時の後、その場に居た全員の視界が闇に呑まれたのだ……。
闇……深淵を蠢く闇……心まで溶け込んでゆきそうな無間の闇が侵食してくる。
己れは何者なのか?それすらも思い出せなくなる位に何かが脆くも崩れる感覚……。
(……。)
侵食は不可思議な一体感と心地好さだけを残し、音もなく沈ませてゆく……自我は薄れ、手離す事に抵抗感すら生ませない。
(………。)
言葉を失い、思考を喪失し、ついに自我と魂を手離そうとした刹那だった。
「アタシを置いて逝くなッ!!馬鹿キャス!!」
(………!?)
この野太い叫びは……これは終生の友と認めあった愛すべき者の悲痛なる声だ。
(……!!)
「………マコどうしたの?顔が不細工になっているわよ。」
急速に意識を引き上げられ、目覚めたキャサリンが瞼を開けると、眼前でマッコイが大粒の涙を流していたのだ。
キャサリンを抱きかかえ、マッコイはひたすら叫んでいた様だ……視るとモンテを始め、全員揃ってマッコイを取り囲んでいる。
「危なかったぞ、トランス状態で『呑まれた』せいで自我が崩壊する所だった。」
胸を撫で下ろし、そう言って息をつくモンテの姿に全てを思い出すキャサリン。
「みんなは!?みんな無事だったの!?」
「………。」
「無事と言えるか分からんがな。」
複雑な表情で頭上を指差すモンテ、抱きかかえられながらキャサリンが見上げると……其所には森林?が広がっていた。
そう、天から聳え立つ様に反転した森が……では今いるこの場所は何処なのか?
疑問と同時に飛び起き、辺りを見回すキャサリン。
「ああーあ、ホンットお前と居ると退屈しねーわ。」
そうモンテに向かって愚痴るミシェル……。
其所は石碑に囲まれ、道を形成している寒い程の冷気が立ち込めている場所だった。
「何なの此所……ウエストバークにこんな場所あったかしら?」
「多分ないだろうな、おそらく此所は森の内部……正確には森に張られた結界、罠である迷宮結界とでも呼べる場所だろう。」
またとんでもない窮地に陥ったもんだ……俺達六人と馬二頭は結界内に囚われちまった訳だ。
これから、この迷宮結界を舞台とした攻防戦が始まろうとしていた。
つづく。
え~どうでしたでしょうか?
この内容ならもっと早く更新出来ただろうというお叱りが聴こえてきそうですなぁ。
すみません!どうか平に御容赦を……最後に皆様の新年がより善い年になります様に。




