第二章 領主編 『幕間……乙女の恥じらい。』
更新が少し遅れてしまいました。
「モンテ様……少々厄介な事案が発生しました。」
ゴブリン達を交え朝食を空き家で摂った後、ダナン君、ミシェルの両名とそのまま今後の行動を試案していた所へロジャーが申し訳なさそうな表情でやってきた。
「分かった……ダナン、ちょっと席を外すわ。」
そう言ってロジャーの後に付いて外に出た途端、厄介な事案とやらが分かった……。
乙女?ゴブリン改め、マッコイ・エクストラバージンが皆を巻き込んで騒いでいたからだ。
何やってんだお前ら……。
因みにだが……最初に目覚めた訛りのあるゴブリンから
『イチタロウ・ジャンプ』
続いて乙女ゴブリンは
『キャサリン・セカンド』
そして気障だが色々と残念なゴブリンを
『マイケル・ナイト2000』
と名付けた……うん、ネーミングセンスの欠片もないな、大半がネタだし。
「あっ!?ちょっとボス、聞いてくれる。」
というか聞きたいのはこちらだよ……。
「待て……マッコイ?お前、そんなゴツい体格だったっけ?」
「ちょおっとぉ!?乙女にゴツいは無いんじゃないのぉ!?」
俺は思わず口を半開きにしながらロジャーの方を視たのだが……複雑な表情で目を逸らしやがった。
どうやら一晩経って目覚めたら体格が変化していたらしい。
しかも何故かロジャー、イチタロウ、マイケルに目立った変化がなかったのに対して、乙女組だけがビフォー&アフター的な激変を遂げたのだ。
キャサリンはほぼ人間と言っても差し支えないレベルの骨格、『肉付き』であり、柔和な表情のたおやかなお姉さんへと進化していた……ちょっと視ているこっちが照れてしまう。
問題はマッコイである……どう見ても身長190㎝を凌駕し、より攻撃的な姿へと変貌を遂げていたのだから、俺とロジャーにとっては皮肉でしかないだろう。
『十二宮・暁による体感時間数十年の経験値で五人は既にゴブリンとしての種族限界を超えております。』
キャサリンとマッコイだけが骨格から変わってんのは何故だ?
『おそらく、変化の水準を最初に目覚めたイチタロウを平均とした場合、キャサリンは汎用的な生存力に適した姿へ……マッコイは直接的な戦闘力特化……そして百年単位の経験値を得たマイケルとロジャーは最早、肉体の組織密度から桁が違います。』
……つまり一番ヤバいのは見た目の変わらないマイケルとロジャーで、一番へちょいのがイチタロウって事でOk?
『へちょい?……弱いという意味であるなら否定致します。』
見た目ではないって事か……駄目だな、この世界に馴染んだと思っていたが、まだ自分の培った経験と尺度で視てしまう。
勿論それが間違いとは思わないし、土壇場の判断で頼るのは実経験だろう。
要は積んだ経験を躊躇なく崩し、また積み直せるかどうかだ……これが簡単な様で難しい。
苦労に比例して獲得した判断材料ほど、棄てるのを惜しんでしまう。
俺は何気なく五人の顔を見回す。
予感がした……今後もし俺が道を踏み外しそうになったなら、彼等の存在がそれを質す鍵になるのかもしれないと。
「聞いておりますのリーダー?」
「……いや、ごめん聞こえなかったわ、で?何を騒いでるんだお前らわ。」
次の瞬間、騒ぎが気になったのかミシェルが空き家から顔を出してきた。
あっ……血相を変えて固まってやがる。
まぁ、マッコイの姿を見ればそうなるわな。
俺が笑顔で手を振ると諦めたのか、呆れた表情で引っ込んじまったよ……ははっ。
「あぁ、ごめんな♪で、何だっけ?」
刹那、ギラリと光るマッコイの相貌!
「こぉのぉっ!!このっ服よ!!」
「ほぇ?」
「このボロ雑巾の方がマシな服なのよボス!!乙女の柔肌が晒されて『花の蕾』が露になるのよぉ~!!」
花の蕾……次の瞬間、俺は英国紳士さながらのキメ顔でキャサリンを見据えてみた。
「ほぇ!?」
はたまた次の瞬間、不意討ちで顔面を鷲掴みにされちまった……アイアンクローだな。
「何でキャスの方だけを観るのかしら?ボォォスゥ!?」
ギリギリギリギリギリギリッ!!
アイアンクローからのベアハッグ……見事なコンビネーションだわ。
「って、死んでしまうわっ!!?」
俺は形振り構わずばたつきながら、ロジャー達に助けを求めるが野郎共はあたふたしてアテにならん!!
……一縷の望みを懸けてキャサリンを観ると、何かサディスティックな微笑みを称えて静観して……るの、それ!?さっきやらしい目で視たから!?ねぇ、そうなの!?ねぇ!!
「し、死んで……しまう。」
アワを吹いて意識が遠のく最中……溜め息をつくキャサリンの笑顔が眼に焼き付く……こいつ恐い、油断ならねぇわ。
「マコ(マッコイ)……もう許してあげたら?リーダーは貴女を直視出来ない程に照れたのよ。」
……その一言で、やだ~とか宣ってやっと離してくれた……助け船出すの遅い。
『……正当な報いですね。』
ちょっ……ティンさんまで!?
数分後
「さて……問題は理解した、でだ……解決策はあるのか?」
適当に民家から拝借するわけにもいかねーよな、むしろマッコイに合うサイズが残されてるとは思えないが。
ダメージを引き摺りながら試案しているとロジャーが俺の傍らで頭を垂れてきた。
「ぬかりありません……こちらへいらして下さい。」
そう言ってロジャーが手を差した先には……民家……じゃないな、何かしらの店舗のようだが。
嬉々として先導するゴブリン達に唖然としながら店の前まで行く。
店構えは石造りで扉に真鍮製の呼び鈴が付いていて、押し開くと涼やかな音色が響いた。
「……服飾店じゃないな。」
店内には所狭しと様々な反物が並べられ、中には絹に似た肌触りの高級そうな品もあるが……衣服が置いてある訳ではない、此処に用は無いだろう?
「大変心苦しいのですが……。」
「どうしたロジャー?」
「申し訳ありません、モンテ様……支度金を頂けないでしょうか。」
「支度金?」
「ハイ、支度金です。」
「良いけど、反物屋だよ……意味なくない?」
そう言いながら異次元BOXから金貨十枚と銀貨三十枚を取り出してロジャーへ手渡す。
「細かいのも入れといた方が良いだろう……悪いがまだ名ばかりの領主でな、収入源もなんもないからお前達の給金は追々考えさせてくれ。」
「おおっ!!望外の金額ですぞ!!」
何かみんな一斉にテンションアゲアゲになっててパリピみてぇ……。
まぁ一応五人分として渡したんだが、ロジャーにみんなの金の管理をするように言っておいた。
さて、そこからが凄まじかった……。
おもむろに店内を物色し始めたロジャーはものの五分も経たずに生地を選び、次に置いてあった錆びた鋏を手にすると、此方も三分掛からずエグい速度で研ぎ終わる。
お前……某ゲームなら必須のスキルじゃないか、それ……。
錆びていた筈の鋏は輝きを取り戻し、肉まで切り裂きそうな切れ味を窺わせる。
「フム……これは使えそうですね♪代金に鋏代も入れておきましょう。」
カウンターに銀貨六枚(一枚一万円)を置き、メッセージを挟んでおくロジャー。
次の瞬間、流れる様に淀みない動線で今度は生地を切り始めた。
通常オーダーメイドの服飾は着る者のサイズを細かく測って型紙から造るそうだが、ロジャーは正確な目測から裁断、縫製を一人でこなしてゆく……しかも効率性も考え、一気に全員の服を裁断してから縫製をやるので視ていて心地がいい。
「モンテ様、仕上がりました……善ければお召し下さい。」
そう言って片膝を着き、畳まれた衣服を献上してきた……これは!?
「……。」
袖を通す時の心地良さ……おそらく通気性も考慮しているのだろう、絹とは似て非なる淡い水色の生地のYシャツ……なのか?
しかも……しかもっ!?この異世界に来て、初めての靴下まで添えてあった。
俺は感慨に咽びながら履いたよぉ~素足でブーツは臭いんだものぉ。
俺の悦び様を満足気に見ながら、作業に戻るロジャーさん。
そんな調子で次々と洋服を仕立ててゆく……何かデザインが俺の世界の物に類似している気がするが、どうやら十二宮・暁で学んだ知識の中に俺の記憶に起因したものもあったらしい。
全員の衣服を揃えるのに然程時間は掛からなかった。
イチタロウとマイケルにはレザーベストと七分丈のパンツに……これは足袋なのか?
キャサリンとマッコイはくの一を想起させる胸の開いた衣装……ちょっと目のやり場に困る、なるべくマッコイの前ではキャサリンを凝視するのを止めよう。
最後にロジャーの衣服だが……。
「やはり黒はいい……。」
颯爽と風に揺れるタイトな黒のスーツ、黒の革手袋……これはどう見ても執事のコスじゃねぇかっ!?
お前だけ専用かよ、あっ、いや俺もか……。
それにしても、俺が居る必要あったのか?そう思った瞬間、すぐに気付いた。
「ロジャー……お前、俺の衣服を真っ先に仕立てる為に支度金とか言ったのか?」
そう問い掛けた刹那、眸を伏せたロジャーの後で四人が此方に悪戯っぽく笑みを向けてきた……成る程、全員の企みという訳だな。
「従者が主人の居ずまいを正すのは当然の事ですので。」
そうダンディーなキメ台詞を言い放った直後、『素直じゃないんだから♪』と豪快なマッコイのツッコミ(張り手)を背中に受けて噎せるロジャー……締まらないな。
まぁ、靴下とYシャツは有り難く使わせてもらおう。
余談だが、この後ロジャーはミシェルとダナンへそれぞれ眼帯と弓者専用手袋を渡して喜ばれていた……そつが無い。
はてさて、個人的にほっこりする一幕だったが本筋に戻るとしよう。
空き家に戻り、ゴブリン達も交えてリビングで事態を改めて整理する、俺は椅子に腰かけてダナンが淹れたお茶を一口啜る。
まずこのウエストバーク地方に潜伏し、散発的に集落を襲っているグールの軍団。
そして無人となったナボル村……改めて調べたが、争った形跡はひとつも認められなかったのでグールに襲われた可能性は低いだろう。
第二の脅威と見据えた方が良いかもしれない。
だが現状で手掛かりもなく、八方塞がりなのは明白だった。
「他の町へ合流するのが妥当でしょう。」
ダナンとミシェルの主張はもっともだと思う……だが良いのだろうか?俺の中で漠然とした悪い予感が払拭出来ずにこびりついている。
この件を後回しにする事は取り返しの着かない事態を招くかもしれないのだ。
一時の気の迷いなのか……と決断を逸る俺に対して、誰も口を挟まない様に思われた。
が……その時、イチタロウがおずおずと手を挙げた。
「あの……手掛かりになるか分かんねぇべが実は昨日、モンテ様には上手く説明出来なかった事があんだ。」
「知性化する前か?」
「へぇ、オイラ、自分の意識もぼんやりしてたから忘れてたんでさぁ。」
前置きはカットで!急かして悪いがイチタロウに本題へ入るよう促す。
「オイラみんなと合流したのは三日前で、その前日に森で深手を負った人間さ、見つけたんでさ。」
「人間!?その森ってまさか。」
「へぇ、外れに近かったけんど一応ナボル周辺の森だべ。」
四日前……手負いの人間……村がその時に異変に見舞われたのだとしたら、無関係とは言えないかもしれない。
「それでその人間はどうした?」
「……生き倒れになってたんで、洞窟に連れていっただ。」
その瞬間、キャサリンが天を仰いで目を覆う仕草をとった。
「あちゃあ……そのヒト、重傷なら間違いなくアレをやられてるわね。」
何か気になる物言いだな……特にゴブリン達が各々口ごもっているのがスゲー気になる。
『マスター、イチタロウの額に触れて下さい……その時の記憶映像を閲覧します。』
えっ?そんな事出来るの……なら知性化する前に教えてよ!
『いえ、知性化した後だから可能なのです。』
マジか……俺は立ち上がり、イチタロウへ歩を進める。
「お前の記憶を見せてもらうぞ。」
そうしてイチタロウの額へ指を当てた刹那、ネバーランドが強制的に起動した。
「………。」
宇宙空間に浮かぶグリッドライン……何時もの仮想空間に展開される記憶映像を映すスクリーン。
ちょっと映画館みてぇだな……と思いつつ、俺は何故かティンさんに膝枕をされる形で記憶映像を見上げていた。
いや、誤解のない様に言っとくよ!気付いたら既にこの状態だったのだよ!?
『……。』
今日はナースなのか……たまに視界の端で二つの双丘が揺れている!!集中出来ない。
『ダメですよ♪映像に集中して下さい。』
いや、元凶はお前だろう、ってか笑顔で生殺しかよ!?
……何か遊ばれている気がしないでもない。
まぁ、心地良くないでもないので善としようじゃないか!!
……さて、またしても話が逸れてしまったが、映像に注目する。
映像自体はノイズが走る粗いものだ、森林内を歩くイチタロウの視点で観ている。
不意にノイズがより酷く入った……これは?
『意識が別のものへ向けられた事がノイズとして現れたのでしょう……おそらく件の人間を発見したと思われます。』
気が散ったって事か……引き続き注視しているとうつ伏せで倒れていると思われる人間をイチタロウが視界に捉えた。
恐る恐る周辺を見回し、除々に距離を詰めて様子を伺っているな……やがて傍らまで来て、事態を理解したんだな。
声を掛けながら顔を覗きこむ……ん?何だ、顔の部分に酷くノイズが入って判別出来ないぞ?
『通常、顔を認識するには高度な脳の情報処理が必要となります、個別の部位を総合的に認識出来て初めて、表情を窺い知れるのです。』
成る程、印象に残らなかったという所か……だが正直、そこはどうでも良かった。
倒れている、おそらく男性だろうが、その服装に覚えがあったからだ。
それはイチタロウが彼を仰向けにした事で、より顕著になる。
「色違いだが似たデザインの礼服……何よりこのシンボルマークは間違いない、キシリア派の人間だ。」
十中八九、現地に派遣された合流相手と視て良いだろう。
『記憶映像を解析した所、気になる事実が判明しました。』
気になる?ティンさんが抽象的な物言いをするとは珍しいな。
『はい、他の記憶と比較したのですが、この森林内の記憶だけノイズが酷いのです。』
気が散った……の一言では片付かないって事か?
『様々なケースが挙げられますが、この森林内にイチタロウの無意識へ負荷を掛け続けた要因が在るのでしょう……。』
意識下ではなく無意識?精神攻撃の可能性はないのか?
『在りません、その場合は知性化の際に痕跡が露見します。』
………。
俺は静かに瞼を開け、呆けているイチタロウから手を離した……。
「記憶を観るって……信じられないが、非常識なあんたならあながちウソじゃないんだろう、何が見えた?」
おっ、ミシェルたん俺に順応してきたね♪
「……次の目的地はカルパティーン洞窟だ。」
つづく
……ストーリー的には全然進んでないけど、最近シリアス多かったんでギャグ回って事で許してつかぁさい。




