第二章 領主編 『私の名前』
やっとお気に入りのキャラを出せた……まぁまだ今回は名乗ってないんどすけどね♪
「………。」
澄んだ空気の最中、山吹色の光が肌に心地の良い熱を感じさせてくれる……。
今まで幾つもの夜明けを越えてきたが、今朝ほど色鮮やかな朝陽は観た事がない。
いや、きっと眼に映る景色は、世界は変わっていないのだろう。
変わったとすれば、それはきっと私自身だ……。
昨日までの私は……我々は本能の赴くままに生きて、死ぬだけの存在でしかなかった。
同胞から侮蔑され、幾つもの戦場に駆り出され、幾つもの夜明けを視た。
当然の様に見捨てられ、捨て駒にすらなれないお前達には犬死でも上等なのだと唾棄される。
仲間が兄弟が呆気なく死んでゆく……種族は違えど我々は同胞ではないのか?
何故だ?弱者は生きたいと祈る事さえ赦されないのか?
いや、おそらくそう思考するのは今の私だからだろう。
我々ゴブリンは本能で感じるしか出来ない種族だったのだから。
しかしあの御方は初めてゴブリンである我々の『死』を悼み……そして教えてくださった。
感じるだけでなく……感じる事の意味を、本質を知れと。
世界の在り様は変わらない、変わるのは……変わるとしたらそれは己れ自身に他ならない。
私は明確な個の獲得に至り、理を知った。
終わらせる……私が小鬼族の悲しみの連鎖を断ち切ってみせよう。
私とは?……これは失礼致しました、私の名前はーー。
……昨晩
『個体種族名ゴブリンの知性化を実行しますか?』
ティンさん……何かスゲェ嬉しそうに言ってない?当然やりますよね位の意気込みを感じるよ。
懐からタバコを取り出し、喰わえながら外のゴブリン達を何気なく眺める。
で……具体的にはどうすりゃいいの?てかティンさんや、あんたバトルシュミレーターを解析したね。
『はい♪解析、分解、統合と再構築を試みました。』
今……今、さらっととんでもない事言わなかったか!?
俺の拡張スキルをイジったのかよ。
『いえ、魂の資質に準拠するスキルの改竄は不可能です。 ですがバトルシュミレーターは厳密に云えばスキルではありません。』
スキルではない……ティンさんの説明によると、『伝説の樹の下で(トキメキドリーム)』は俺自身の固有能力であるのに対し、サポートファミリアを有するネバーランドは神サマーにより転生者を導くために後付けされたものであり、あくまでスキルではなくシステムなのだそうだ。
人付き合いの苦手な俺に添わない皮肉な能力だと、改めて思う。
しかし、バトルシュミレーターが好感度特典として開放されるあたり、スキルに密接させたシステムと言えるか……或いは俺にアジャストさせた影響でそうなったのかもしれないな。
まぁ、これはどうでもいい余談だ。
カチンッ♪カチンッ♪カチンッ♪
天井を仰ぎ、一服吐き付けてから立ち上がる……。
「おい領主様……あんた何処に行くんだい?」
扉の前に立った瞬間、不意にミシェルから呼び止められた。
「お前こそどうした?何か怒ってないか。」
「その『火打石』……あんたがそいつをイジりだすとロクな事がない。」
火打石?……ああっ、このジッポの事か。
別に意識してなかったが、何となく癖になってようだ。
「………。」
面倒臭かったので、とりあえず無言で微笑んで外に出てやった……って、やっぱり付いてきちゃったよ。
まぁ構う事もないな、ミシェルの表情を見やり皮肉を込めながら溜め息をつきつつゴブリン達へ歩みを進める。
ゴブリン達は焚き火を囲んで一足早く晩飯を摂っているようだ。
……メニューはまた生肉かよ、焼けばいいじゃん。
そんな事を考えていると俺の視線に気付いたゴブリンが言葉(思念)を掛けてきた。
【ギギ、主様……も、ニク喰う……か?】
口のまわりを真っ赤にして微笑まれても殺人鬼にしか見えないけど、てか喰わねぇーし。
「なぁ……もし何でも願いが叶うとしたらーー……お前達はどうする?」
俺の問いに暫しの沈黙が流れてゆく、みんな呆然と首を傾げて理解に苦しんでいるようだ……一人を除いて。
【願い?……ほ、欲しいものでもいい……のか?】
「いいよ、言ってみ。」
【強い、大きいカラダ欲しい……誰、にもば、バカにされない力が欲しい……。】
やっぱなぁ……最初にコイツらと戦った時から、いや、正確に言えばコイツらゴブリンの境遇を知って思う所はあったさ。
親近感どころの話じゃねー、俺とコイツらはまったく一緒だ。
持たざる者……世界に置き去りにされ尚、追いつこうとするなら、躍起になるしかねぇよな。
地べたを舐めようが泥まみれになろうが、あの競技場であの背中を目指した者としてはよ。
本能に急かされ、何を成したいのか分からないまま手段を探し続けた日々……確かに俺はゴブリンに自身を重ねて見ている。
そして求めたのはやはり、自分には不釣り合いな『体格』か……思わず笑いが込み上げて抑えきれないわ。
「お前の望みを叶えてやれたなら、俺も救われるんだがな……。」
【……?】
「だがその代わりに、ひとつ贈り物をさせてくれ。」
俺はそう言って五人を一列に並ばせた。
「五匹のゴブリンに何をさせる気だ?」
俺の後ろで成り行きを眺めていたミシェルが問うてくる……まぁ、俺の言葉自体は彼女にも分かりやすい様に思念伝達だけでなく、声にしていたからな、気にはなるだろう。
「俺の感傷だがよ……お前にも見届けてもらうぞ。」
「……あ?」
ミシェルを一瞥してからゴブリン達へ向き直すと、俺は彼等の額へ人差し指を順々に押し当ててゆく……。
「準備は出来た……後はお前達次第だ、頑張れよ。」
【……!?】
次の瞬間、心中で起動ワードを唱えたのを契機とし、突如ゴブリンの額に小さな光の術式が浮かぶ。
……待っていたのは聞くに堪えない苦悶に満ちた絶叫だった。
激しく震える瞳孔、立っていられないのか各々倒れ伏し、悶絶しながらのたうち回っている……口から泡を吹いている者や顔の穴という穴から血を流す者が出てきた。
『第二段階に入った者がいます。』
分かった……俺は突然の事態で呆然としているミシェルを余所にゴブリンの傍でしゃがみこんで馬の係留用の縄を口に咬ませる。
端的に言うと舌を噛み切らせないためだ……そんな調子でティンさんの指示で自傷行為に及ぼうとする者を封じてゆく。
手を縛り、地面へ頭を叩きつけようとする者には四肢全てを縛ってダルマにしてやった。
しかし困ったな……。
「おいミシェル……ボーとしてないで手伝えよ。」
俺の言葉に我に帰り、ミシェルはもの凄い形相で俺の襟首を掴んできやがった。
「テメェ!?何をしやがった!!今度も手品云々の話で誤魔化しやがったら殺すぞっ!!」
「ミシェル!!」
騒ぎを聞き付けてダナンまで出てきちゃったよ……面倒だな。
「……!?」
うん、驚くよねダナン君……俺を詰問するミシェルとその後ろで縛られながらのたうち回るゴブリン達の姿、まさに地獄絵図だろう。
「分からねぇなミシェル……お前が五『匹』って括る奴等が苦しんでいるだけだぜ?何を激怒してんだよ。」
「アタシにも分かんねーよ……分かんないけど、でも、訊かないといけない気がすんだよ!?あんたがアタシにイラついてる理由を含めてね。」
「それこそ……それこそ訳分かんねーわ。」
嘘だ……意識してなかったが、言われて初めて図星を突かれた、確かに俺はミシェルに苛つき、いや嫉妬していたんだろう。
「今回もタネばらしはしてやれないな。」
「テメェッ!?」
場に張り詰めた緊張が更に濃くなりやがった……流石にこれ以上厄介な状況を招く行動はとれない、急速な緩和が必要だな。
「焦んなよ……タネは明かせないがネタの説明はしてやる、ったくトリセツしなきゃならねーとはサムいにも程があるわ。」
「はやく、早くしろっ!!」
「知性化だよ……ゴブリンの。」
「……?」
「いや、だからゴブリンの知性を向上させ知識を学ばせて、ゆくゆくは魔族領に復帰出来たらいいな~……みたいな。」
「おっ、おま……分かってやってるのか!?コイツらは人類の敵なんだぞ!!」
「だが今は世界最弱の種族なんだろ?……人間より優れた一面を持ちながらな、例え人類の敵だろうと知った事かよ♪俺と敵対しないなら問題ない。」
呆然自失……俺の言葉を理解出来ないとばかりに力なく襟首を離すミシェルたん。
だが次の瞬間にお得意の短刀を抜き、振り返ろうとする。
「殺すのか?持たざる者は持たざるまま死ねと言うんだな。」
「違う!!このままじゃ、いずれ必ず被害が出る。 今殺らないと……こっちはテメェの尻拭いをしてやるんだ馬鹿野郎!!」
尻拭い、尻拭いね……俺は瞼を静かに閉じ、溜め息を吐き捨てる様につく。
「やっぱお前も『勝者の戯れ言』を盾にするんだな。」
「?さっきからお前の言い分は全部訳が分からん、もういい、黙っていろ。」
「じゃあこれはどうだ?俺の合図がなきゃゴブリン達は目覚めない、永遠にだ……だから少しだけ付き合えよ。」
「……。」
「信じられない……お前は何がしたいんだ?」
「お伽噺さ……その問いに答えてくれたら、お前に頼るまでもなく俺自身の手を汚すと約束する。」
「手を汚す?簡単に言うなよ……出来るのかお前に。」
「出来るからとか出来ないからやれないの話じゃねぇ……責任を負うと言っている。」
停滞する重圧感に言葉の余韻さえ押し流されてゆく……俺はただミシェルを見据え、返答を待つのみだ。
「……必ずやらせるぞ。」
「話は着いたと考えていいんだな……ほらっ!ダナン君も不意討ちなんてしないでボーガンの弦を外せよ♪」
「………。」
俺は改めて、のたうつゴブリン達へ視線を向ける……ったく厄介な状況になっちまった。
そもそも知性化は一瞬、遅くても数秒で終わる筈だった。
そう、新しく再構築されたと言ってもバトルシュミレーターの特性上、通常世界とは隔絶され独自の時間経過をしているのだ。
名付けて『十二宮・暁』……睡眠と食事を必要としない完全無欠の夢の修行場。
それぞれ独自の修練と試練を課せられ任意に選ぶ事も可能だ……と言っても今は最後の水瓶宮と魚座宮を閉鎖しているらしいが正直、身(精神)を以て体験するのが恐ろしい。
今回の場合は五体各々を個別の牡羊宮へ放り込んで、初歩的な言語能力の向上と一般教養を身に付けさせる、もしくはゴブリンの脳が負荷に耐えられなくなった場合もだが、ティンさんが切り上げさせると言っていたのだが……何故こうなった?
因みに俺自身は勿論、他者が十二宮・暁に入っている間、ネバーランドの起動は出来ない。
つまり、現状の確認すら出来ないのだ。
だが先程、ティンさんからの言葉を受けられた事実から考えればトラブルの類いは発生していないだろう。
……いや、さっき端的に第二段階、つまり自傷行為を止めさせる様に取り決めた時からティンはこの事態を予想していたのかもな……まったく、何やってんだよアイツは。
「おい、何時まで黙っているつもりだ?それとも時間稼ぎでもしているのか。」
「おっと、すまない……何処から話そうか迷っちまった。」
「アンタのその勿体ぶった物言い……嫌いなんだよ。」
相変わらず真っ正直な皮肉だ、そんな所が俺は嫌いじゃないんだがな……後ろで成り行きを視ているダナンは弦を外す素振りを見せたがあくまで素振りか、やはりただの優男じゃないって事だ。
「さてと……この話は俺がある教師から聞いたんだがーー」
昔、小さな大陸にふたつの民族が共生していた。
だが共生とは名ばかりで両者は血を血で洗う争いに明け暮れるばかり……争いは数百年続き、その間に勝敗は幾度も覆る。
まるでコインの裏表の様に平和と戦争、勝利を掴む民と苦杯を舐める民は移り変わってゆく。
その度に決まって勝利した指導者は宣言するのだ……辛く苦しい悲劇の歴史に幕を降ろそう、明るい未来へ向かい二度と互いの民族が争ってはならないと……。
そして戦争は再び起こる……数年、或いは数十年の平和の後に敗者の鬱憤を爆発させて。
「何だよ、そのお決まりのつまらないお伽噺は……要は勝った民族が敗者を弾圧しなけりゃいいだけじゃねぇか。」
「ミシェル、話の途中でチャチャを入れるなよ。」
「でもよぉ~。」
「いいさダナン……噺はほぼ終わった、それにミシェルの回答じゃ不正解だしな。」
「回答?」
「質問に答えろって言ったろ?……改めて問うが、ふたつの民族はどうやって戦争の歴史を終わらせたか……片方が大陸を出ていったとか、互いに滅ぼし合ったって答えは除外するぞ。」
「……答えなんざねぇだろ!?そんなの泥沼じゃねーか。」
「俺も昔、今のミシェルと同様に答えてこの噺をした教師に喰って掛かったわ……因みに、長い歴史の中では数度、勝利した民族が弾圧を止めて手を取り合おうとした例があるんだとさ、だが溜まった鬱憤……言い換えれば民族感情ってヤツは世代を跨いで引き継がれちまうらしいな。」
「いや、だから何だよ……それ。」
難しい顔で考え込むミシェルたん……カーイィねぇ。
刹那、ダナンがゴブリン達を一瞥してから俺へ視線を向けた。
「……そういう事か。」
ふぅん、ダナン君には納得し難いこの噺の答えが分かっちゃったかな……。
「さて……時間稼ぎかミシェルたん?そろそれ回答の受付終わるぞ。」
「んだよ!?そんな話は聞いてねぇぞ!!」
「はーーーいッ!!終~~~了!!」
「だからっ!!答えなんかねぇよ!!滅ぼし合えよ!!んな奴ら!!」
何気に物騒な事言ってんね……まぁその気持ちは分かるよ。
「んじゃ♪俺の勝ちって事でゴブリン達は見逃せや……っな!!」
「糞がッ!!おい、答えはちゃんとあるんだろうな!!」
俺はニンマリと笑ってダナン君を見やる……すると溜め息を洩らしてダナンは口を開いた。
「勝者でなく敗者が平和への宣誓をしたんだろう?」
「あん?んな訳ねーだろ、馬鹿なのダナ?」
「いや、正解だよダナン君。」
その瞬間、血走ったもの凄い形相で睨み付けてくるミシェルたん……余程答えがお気に召さなかったんだろう。
「……おそらく、この問答は、戦争に勝利する者達では歴史を引いては負の連鎖を断ち切れないと云いたいんだろう。 歴史を変えうるのは敗者であると、次の勝利ではなく明日を、真の平和を求めた敗者のみが辿り着くと……。」
「俺も絵空事の綺麗事だと思っているがね。」
「だが領主様はゴブリン達にこの噺を重ねられた……何処まで考えているんです?」
「さぁな……今夜のお噺はここまでだ、俺はアイツらを見張っとかなきゃならない。」
無言で凄むミシェルはともかく、ダナンの方は渋々納得してくれたのか今度は弦を外してくれた……俺は二人に背を向けゴブリン達へと視線を落とす。
……と間もなくダルマにした奴が目を覚ましたようだ。
「こ、ここは……現実に、オイラは現実に戻ってきたのか!?」
おおっ……普通に喋っている……ってあれ?泣いてるの?
これを皮切りにしてか一分も経たずに更に二人が目覚める。
「やった……帰ってきたのね私達。」
「うん……わ、わたしもう死んじゃう、死んじゃうかと思った。」
身体をくねくねさせて抱き合う二人……うん、女の子だったのね……ってかめっさ号泣してるじゃん、どういう事?
どうやら俺だけでなくミシェルとダナンも余りの光景に唖然としている様だ、ミシェルさん口開いてるよ、はしたない♪
さてあと二人か……現実では十分以上が経過しているのか?十二宮・暁での時間は想像出来ないな。
何気無く思念伝達で戻ってきた者達に聞き取りをした所、どうやら三人共に知識の修練である牡羊宮、そのイージーモードで地獄を視たらしい。
しかし一人は試練を突破し牡牛宮へ辿り着いたのだが……余程のトラウマになったのか、ガタガタ震えて話そうとしなかった。
マジですか?……まだバトルシュミレーターの方が良かったんじゃなかろうか。
とか考えている内に残り二人に更なる変化が現れた。
「………!!」
ヤバい!!何か身体から赤い蒸気が立ち上がってきたぞ、ちょっ……本当に大丈夫なのか!?スゲー暴れ始めた!!
数人で押さえつけながら、時間だけが悪戯に過ぎてゆく。
やがて最悪の事態を考え始めた頃、俺の反応を裏切る様に今度は二人の容態が鎮静化した……そして。
「どうやら俺で最後ではないのか……フフッ、面白い。」
何その言動!?縛られてるのにスゲーカッコいいキメ顔で戻ってきたよコイツ。
しかも有蹄類特有の横長の瞳孔がより人間に近くなったのか、少し瞳孔が楕円になっている。
因みにコイツは双子宮まで行ってたらしい……やはりガタガタ震えて話そうとしない、いや、お前のキャラ設定上、その反応はいいのか?すぐにメッキが剥がれたな。
後残っているのは一人か……先に戻ってきた四人が取り囲み、心配そうに顔を覗きこんでいる。
「リーダー……この子は最近、弟を亡くしたばかりなの、親も年老いた母親だけでね……心配だわ、大丈夫かしら。」
リーダーって……俺の事かよ!?
「……信じるって言葉を学ばなかったのか?仲間なんだろ。」
「ええっ……勿論信じているわ。」
「……何だ、この光景。」
右手で口元を覆い、青ざめた顔で俺達のやりとりを視たミシェルたん……確かに凶悪なツラしたゴブリンが乙女みたいな言葉を囁けばそう思うよね、でも偏見はいかんよ。
はてさて……そろそろ本当に事態を収拾したいんだが、いい加減に声を聴かせてくれよ相棒。
『お呼びになりましたか?リーダー。』
ってお前までリーダー呼ばわりかい!?
『冗談を試行してみました……それとゴブリンの知性化は既に全員修了しております。』
うん?だが一人目覚めていないよ。
『彼は本当に素晴らしい逸材でした……ノーマルモードの牡羊宮を他のゴブリンの五分の一以下で突破し、最終的には天蠍宮に留まり修練を続けていました。 尚、目覚めないのは余りの修練の過酷さから、身体へのフィードバックを緩やかにせざるを得なかったが故です。』
……その言い方だと、本当ならもっと先まで突破出来たという事か?
『はい、天蠍宮以降はこの世界で行使しうる多次元世界の魔術の修練だと知り、素養のない自分には無用だと言ってハードモードへ移行していました。』
なるほど、自己分析と見切りの正確さ……ストイックが過ぎるがこういう奴は嫌いじゃない。
しかし、それにしても多次元世界の魔術ときたか……。
『ネバーランドのアーカイブデータに偽装する形で保存されていました……おそらく。』
神サマーの仕業だな、ヤツの思惑の一端が見えるかもな、覚えておこう……それにしても。
「ねぇっ!?アンタ達臭くない……ちょっと何時オフロ入ったのよ。」
「何言ってるだ!?お前もスゲー臭うだよ。」
「キィィッ!!乙女に向かって臭いですって!?殺すわよ!!」
「いや……キミは男だろう?」
その瞬間、凄まじい腰の回転から生み出された乙女?の正拳突きがキザなゴブリンのみぞおちへ直撃した。
音もなく崩れ落ちるキザなゴブリン……折角格好く帰ってきたのに、色々台無しな奴だ。
俺はおもむろにゴブリン達へ近付くと異次元BOXからサバイバル用途の石鹸を取り出す。
「何ならみんなで風呂に入ってこいよ、ついでに寝コケてるヤツも連れてけ。」
「ちょっとボス!?野獣共の中に乙女を入れる気ィ!?」
今度はボス呼ばわりかよ……あ、いや、それは乙女?ゴブリンか、さっきの乙女とは違うな。
「って言うかややこしいんだよ、お前ら名前は?」
一同「……。」
「……ん?」
「無いわよそんなの……魔王軍の幹部ならまだしも、下っ端のアタシらは種族名が名前みたいなもんよ。」
「因みに聞くけど、何か誓約とかあんの?名付けたら名付け親から魔力分けなきゃならないとか、勝手に名付けちゃいけない掟とか。」
「無いわよ……何処の厨二よ、それ。」
なるほど、なるほど……じゃあ勝手に名付けても問題無い訳だ。
俺は思わず微笑みを洩らしてしまったよ。
「じゃあお前はーー」
ーー翌早朝
「………。」
ぼんやりとした視界の中、たゆたう意識、何とも言えない良い香りが漂っている……私は光を感じて僅かに声を洩らす。
「……起きたのか?」
その御方は私の傍らに付き添ってくれていたのだろう……静かに微笑み、私を覗き込んでいらっしゃった。
「久し振りによく眠れた気がします、これも貴方の贈り物のおかげですね。」
「そうか、それは何よりだ……それで?お前は、お前の望む身体を強さを得られたか?」
ああ……昨晩のやり取りを覚えてらしたのか。
「分かりません……強くは……なったのでしょうが。」
分からない……そう答えた瞬間、あの御方は無言だったが、その表情は困った様なそれでいて嬉しそうに笑っていた。
「私はあの時、初めて貴方と出会った時……弟の死が私の心に落とした感情の正体を知りました。」
「……お前は、そうかカルパティーン洞窟の時の……。」
「それまで同族の死さえ糧として割り切ってきた私達の前で、貴方は弟達の死を悼んでくださった……そのお顔が私に『悲しみ』の感情を教えてくれたのです。」
私は身体を起こし、ベッドから足を降ろして 跪こうとした……だがそれをあの御方は好となさらなかった。
自らの膝を折り、私の肩を抱いて起こした後……また無言で、首を横に振る。
「俺は、俺達はまだ弱い、だから力を貸してくれ……そのために、今日よりお前は『ロジャー・ザ・スミス』と名乗れ!それと今後一切、己れを卑下する事はこの俺が許さん、いいな。」
ロジャー・ザ・スミス……私の名前。
Oh! success!! & burst!! & special stylish!!! SSS
『個体名ロジャー・ザ・スミスの好感度・邪がMAX値を検知しました……これにより拡張スキルひとつが解放出来ます。』
「……。」
「ん?……どうした。」
「この声は……天蠍宮でも聞いた……そうか、貴方という存在はこの御方の内面に在るのか。」
『ロジャー、ワタシの声を聴けるのですね?』
ただ無言で人指し指を口元に当てて子供の様に悪戯っぽく笑うあの御方に合わせ、私は無言で頷いてみせる。
『ロジャー……ワタシの名前はティンク・カーベル、あなたは私達のマスターがあなたへ望み、託した力の意味を理解していますか?』
「知識、思考、感情の是非……私の望みは……ゴブリン族を変える事!」
その瞬間、ロジャーの瞳に確かな光が宿った。
……確かに始まりは弱者故の反骨心や同情からコイツらの知性化を決行した……だが、と俺は思う。
例え間違いだとしても選び続け、抗う事でしか変わらないものが在る筈だと。
そんな俺の葛藤に気付いたのか、ロジャーは改めて俺の正面へ起立し、右手を胸へ置く所作で深々とお辞儀をしてみせた。
「私の名前はロジャー・ザ・スミス……これより私はふたつの使命をこの身へ帯びましょう。 ひとつはゴブリン族の悲しみの連鎖を断ち、未来を切り拓く事。 ふたつめはマスターである貴方の御身を盾となり、剣となってお守り致します。」
それがロジャーという男の誕生の瞬間だった。
まさしく言葉通り誰よりも俺に近く、盾となり、剣となって戦い抜く事になる……戦友のはじまり。
つづく
ええと……色々と葛藤する文章になってしまいました。
読みづらいよ!!と言われたら謝るしかありません。
すんません、見捨てずにまた読んでつかぁさい。




