第二章 領主編 『穏やかな異変』
鬼滅の映画行きたいな……。
蹄が土を踏み叩き青臭い匂いを巻き上げ、鼓動を責め立ててゆく。
そんな焦躁に駆られるのとは裏腹に、流れる景色は様相を決して変えない。
風に揺れる木々と柔らかな陽光に照らされて……その村の周囲は驚く程に穏やかだった。
一人では馬に騎乗出来ない俺はミシェルの細い腰にしがみついて、数時間掛けてやっとここまで来れた訳だが……何か情けない。
だがおかげで夕刻に差し掛かる前に間に合った。
「しかし、まともに乗馬も出来ないとは……おい、何時まで私の身体を触っているつもりだ?とっくに着いたぞ。」
手綱を引き馬を歩かせながら落ち着かせ、ミシェルは呆れた様に俺を一瞥する。
当の俺はというと、多分、顔面蒼白だったと思う。
なんせ、上下の振動で気持ち悪くなるし、ケツは痛ぇしで堪ったもんじゃなかった。
「言ったろ?大腿で鞍を絞めて揺れを軽減しないと……。」
「ごもっとも……どうにも慣れなかったわ、陸竜の方がまだマシ。」
「仕方ないよミシェル、今の主流は陸竜だからね。 むしろまだ馬に頼ってる僕達の方が変なんだよ。」
ミシェルに一歩遅れる形で現れた馬に騎乗する黒髪の青年がそう言ってフォローを入れてくれる。
俺達はナボル村を一望出来る丘の頂上まで駆け上がってきていた……眼下は拓けた草原になっていて村の入口まで、剥き出しの土道が一筋通っているな。
そうそう、ミシェルと共に俺の護衛を務める事となったこの青年……名はダナンという、ちょっと嫉妬を覚える位のイケメンなんだが、ペク・トー団のメンツが余りに濃すぎて印象に残ってなかった。
俺がぶっ倒れた時も普通に居たらしい。
得物は自身で試作したボーガンを使用しているとか言っていた。
「僕、入団してから日が浅くて……まだ銃を触らせてもらってないんですよ。 あっ、でも心配しないでください、連射出来る様に改造したこのボーガンなら領主様のお役に立てますから。」
……とか出発前の自己紹介でさりげなく自慢してたわ。
「んな事より、あんたは何のためにナボルへ出向いたんだい?編成隊に任せときゃいいじゃないか。」
「今更それを聞く?」
「……道中何度もゲロ吐いてたのは誰だい、んな様子じゃ聞くに聞けないよ。」
「ゴメンね(馬に)弱くって……まぁ元々、領主としてナボルを訪問する予定だったんだよ。」
俺は二人にギルドの一員として関わったデュラハン討伐クエの概容と被害地であるナボルの事、ついでに俺が領主に据えられてしまった経緯をかいつまんで話して聞かせた。
「嘘……領主様って、あの『殲滅女王』と知り合いなんですか!?」
ん?どうしたダナン君……プルプル震えてるが。
「何それ、お初なんだけどその呼び名……浄火の勇者じゃないの?あのお姉様。」
「無知って本当に怖いですね……。」
あん?ちょっと聞き捨てならんぞ、イケメンさん!?
「かなり浮世離れしてると思っていたけど、これは相当だね……。」
後に聞いた話しでは……どうやらあのお姉様ったら、まだ俺の知らない逸話があるらしい。
なんでも……二年程前に神聖ウォルターナ国内で出現した特S級災害認定の古代魔獣に対処すべく、近隣二ヶ国を含む承認でギルドから派遣されたのが我らがお姉様こと、シオリ・デストロイ・トラビスであったそうだ。
規定通り連合軍が編成され、浄火の勇者に数万の軍勢を委ねる……筈だった。
魔獣一体に大袈裟が過ぎると思うのだが、災害認定とはそれほどエグい被害をもたらす存在なのか?
まぁともかく、連合軍で対処すべきと思われる事態にシオリさんは指揮権を放棄し、単独で魔獣と戦った。
結果として魔獣は跡形もなく討伐された訳だが……代償としてウォルターナの聖地として名高いウィルダム森林地帯は全焼し、汚染地帯として三百年の禁足指定を受けたそうだ。
汚染地帯……三百年の禁足指定……って核じゃね?どんな兵器をブチかましたんだ、あのお姉様ったら。
関係ない余談であるが、その一件が外交問題として神聖ウォルターナとドミニオン共和国の関係にヒビを入れる事になった……らしいよ。
「かなり誇張されていると思うけどね……で、本題を戻すとモンテはナボルへ表敬訪問するために来たのかい?」
「……それもあるが、先にキュベレーヌとキシリアから人員が派遣されてる筈でな、先ずは 合流して情報交換したい所なんだ。」
俺の説明の最中、二派の名前が出た瞬間にミシェルの表情が僅かに曇った気がした……。
「どうでもいいわ……日が暮れる前に村へ入るわよ。」
なんか気になる物言いだな……等と思いつつ、改めてナボルの村へ視線を落とす。
のどかそうな村だな……何気なくそう思った時だった。
「ちょっと待って下さい……何かおかしくありませんか?」
不意にそう呟いて、馬を走らせようとするミシェルをダナン君が片手で制止した……。
「……。」 「………?」
『マスター、ナボルから一切の生命反応が検知されません。』
「!?……ミシェル!!」
俺の呼び掛けでミシェルは手綱をしならせて打ち、一斉に馬を走らせ、丘を下っていく。
ティン、村の中に動体反応はあるか?
『動体反応も……検知されませんでした、不死者の心配はないと思われます。』
情況が不明瞭過ぎる……あらゆるセンサーの索敵範囲を最大限に広げろ!村の周辺をくまなく探れ。
『了解しました。』
土道を駆け抜け、石造りのアーチをくぐって村へ突入する二頭の馬……得体の知れない緊迫感が心臓の鼓動を速めてゆく。
一気に村の中心部まで走り、其所にあった井戸の周りを回らせながら……俺達は周囲へ感覚を研ぎ澄ます。
「………。」 「………。」
のどかだ……いや、のどか過ぎる。
風に揺れる洗濯物、アウトドアテーブルに置かれた飲みかけのコーヒー?煙突から洩れる白煙……生活感溢れる風景に反して、やはり人の気配だけがない。
まるで映画のセットに迷い込んだ様な……。
「これは……誰も居ないのかい?」
「まさかグール共に襲われたの!?」
「……だとしたら、違和感がありすぎる。おそらく違うだろうな。」
何が起こったんだ、この村で……とりあえず馬を降り、ダナンに係留を任せて手近な家屋の扉を開けてみる。
僅かにたなびくカーテンに整然と棚に並ぶ食器、椅子には畳みかけの衣類が置かれていた……。
およそ破壊の痕跡と呼べるものは見受けられない。
何気なく横を視るとミシェルがテーブルへ視線を落としている。
陶器製のコップに触れ、温度を確かめるとミシェルは俺へ声を掛けてきた。
「冷めきったお茶と一般的な朝食のメニュー……何かしらの異変が朝に起きたと考えるのが妥当だろうね。」
小さく頷き、視線で合図を送りながら奥の部屋へ足を踏み入れる。
「……。」 「……。」
其所には小さなベッドがひとつ置かれ、天井からオモチャが吊るされていた……布団には明らかに寝かされていたであろう赤子の形が残されている。
その光景に俺とミシェルは互いに苦虫を潰し、押し黙るしか出来なかった……。
「領主様、ミシェル!二人ともこっちに来てくれっ!!」
重苦しい厭な空気を振り払い、ダナンの叫びに応じて外へ飛び出してゆく俺達。
「何か見つけたのかダナ?」
「多分唯一の破壊の痕跡……かも。」
例え様のない感覚を引き摺りながら、ダナンに先導され、村の奥へ歩を進め始めるとすぐに異変に気付いた……この異臭は!?
「モンテ……視ろ、地面に点々と血痕が残っている。 ……臭いの大元はおそらくあそこだ。」
ミシェルの視線の先、そこには大きめの平屋が紅く染まった口をぽっかりと開けている……。
家畜の厩舎だろうか?……出入り口の扉は観音開きで、大型の家畜を想定した造りになっているのだろう。
外付けの閂が砕けた木片へと変わり果て、傍に転がっていた……。
「………。」
一歩近付いただけで異臭が濃く漂う、扉にはバケツ一杯をブチ撒けた様な血痕……今更だ……今更ながら、足が止まりそうになる。
想起されるからか?……それとも本能が悟り、感じるからだろうか?
その奥に転がっているだろう只の死ではない、『無惨な死』を……。
暗がりが口を開けている……あと一歩進んだなら、全容が曝け出されるだろう……耳障りな羽音が異臭をより濃密に突きつけやがる。
「………。」
だから何?んな感傷に付き合ってられるか……位に振り切って厩舎へ踏み入った。
……『それら』は元々、牛や馬だったのか……思った以上の惨状が薄闇の中で佇んでいた。
不意に背後でダナンがえずき、汚い水音を響かせた……うん、気持ちはスゲー解るよ。
「こいつら……生きたまま食い散らかされたのか。」
「ミシェルさん表現っ!?ちょっとは考えろよ!!」
危うく俺も釣られてリバースする所だった……。
だがそんな俺のキモチを無視するかの様に、ミシェルさんは拾った棒切れで臓物をつつき始めやがった。
「お前、嬉々として何やってんだよ……楽しいの?」
「ば、馬鹿言うな!!楽しい訳ないでしょ!?ちょっとこれ視なさいよ!!」
BooBoo♪BooBoo♪
ええェ!?……この瞬間、俺は某国民的アニメに出てくる婿養子の様な声を心中で上げていただろう。
嫌々ながら、ミシェルが促す様にしつこく棒切れでつつく部分に着目すると……それは中型犬程度の咬み傷だった。
「……これは。」
限界だった……取り敢えず、思わせぶりな態度をミシェルに見せつつ即刻、厩舎から出る事にした。
一瞬だってもうあの中には居たくない……深呼吸だ、まず深呼吸。
我が意を得たりと云わんばかりにダナンも青白い顔して、俺の後ろにくっついて出てきたようだ。
「……随分と頼り甲斐のある野郎共だね。」
ニヤニヤしながら最後に出てきて、棒切れをタクトの様に回すミシェルさん……いい年頃の娘がはしたないので是非に止めてほしい。
とか思っている傍から、棒切れをダナン君の顔へ近付けようとしやがったこの女!?
止めてやってよ……涙目になってるじゃん。
「ミシェル……お前、あの咬み傷に見覚えはねぇのか?」
逃げ回るダナンを他所に、俺からの問い掛けに振り向くミシェルさん……だからいい加減に棒切れを捨てなさいな!?
「残念だけどアレを殺ったヤツまでは断定出来ないね……ただ。」
「……ただ?」
「同種と思われる歯形の合わない咬み傷が有った事、あと大きさから考えるに群れで獲物を襲う小型の魔物じゃないか。」
小型で群れる……まさか、そう思った瞬間だった。
『ナボル周辺で生体反応を五体検知しました、MAPに表示しますか?』
その必要はない、代わりに思念伝達の範囲をそいつらに向かって絞れ……。
『了解しました♪』
さて、俺の考える通りなら伝わるだろう。
【聴こえるかっ!!聴こえたなら、こっちに戻って来い!!】
……どうだティン?
『反応が不規則に動きだしました……これは……動揺している?のでしょうか。』
【いいから、こっちゃ来いや……怒らないから、なっ。】
『あっ、反応がこちらへ移動を始めました。』
ったく……手間取らせやがって。
受け口で前髪に息を吹きかけ、奴等が来る方向へと歩きだす。
そんな俺の様子を不審に思ったのか、ミシェルが呼び止めてきた。
どうしよう……この二人に説明するの面倒くさいな。
「すまん、多分だが……家畜を殺ったのは俺が手懐けた斥候だ。」
「はぁ!?何言ってんのあんた。」
うん、当然の反応だよね……二人とも可愛いお目々をまんまるにして唖然としちゃったよ。
多少苦しいが斥候だと付け加えて正解だろう、これから更に信じられないものを目撃する事になるしね♪
とか考えてたら、ほらやって来た。
「……出てこい、お前達!!」
……思念伝達と同様の内容を言葉にして発しておく、後ろで静観してる二人に余計な誤解や不信感を抱かせたくないからな。
なんせ魔物と通じてるってだけでもアウトっぽいのに、言葉を介せず相互理解が出来るとなれば、もう人間の範疇じゃないしね。
そもそも俺のスキルについて明かす気も……今はない。
さて、次の瞬間、家屋の陰から一斉に姿を現す者達!!
姿を現すのはいいが……口元から胸の辺りまでを血でベトベトにしたゴブリン達が何故か俺の眼前で、手を広げたストロングスタイルで構えをとる……えっ?
『ゴブリンA、B、C、D、Eが現れた♪』
「……!?」
盛大に噴き出した……思わず前屈みで膝を着いちまったよ。
腹が……腹が痛い、完全にツボったわ。
ティンのヤツ、BGM付きでとんでもないネタを投下しやがって……。
「も、モンテ?」
「わ、わりぃ……ちよっと待ってくれ。」
笑いを堪えている俺に対し、唖然としているミシェルとダナン……いや、ゴブリン達ですらストロングスタイルのまま、ちょっと首を傾げている。
またそれを想像するだけでシュールだ……いかん、ティンさん……こ、今度からはTPOを弁えようね。
『笑いを理解する一環として試行しましたが……タイミングがズレましたか?』
いや、完全にハメられたよ……ってそういう事じゃねーよ、ったく。
暫しの沈黙を以て何とか治まった、俺は何事も無かった様に立ち上がりキリッとした表情を作ってゴブリン達を見据える。
「お前達、事情を説明して貰おうか。」
「いや、お前が説明しろやっ!!」
「……ふへっ?」
指差しで突っ込む俺の背後から、これまた的確なツッコミが入りました……うん、話が進まんだろうが。
まぁ俺が悪いのか……取り敢えず、また『かいつまんで』カルパティーン洞窟とゴブリンについて説明する羽目になった。
その間も血みどろになったゴブリン達がケタケタと挙動不審で笑っていたので、思念伝達で 軽く窘めておく。
しかし二人を納得させるのは思った以上に困難だった……ってか完全に納得させるのは無理だろう。
「ーーだから、領主としてこいつら(ゴブリン)を人間社会に溶け込ませられないとしても、何とか共存させたいんだよ。」
「いや、それは無理でしょう……領主様には悪いのですが、ゴブリンと云えばギルドの討伐対象にもなってる魔物ですよ?」
「アタシもダナと同じ意見だ、けど、それよりもあんたの胡散臭さの方が今は問題だけどね。」
「だろうな……けど、前にも言ったがタネ明かしはしないぞ。」
「へぇ、因みに後いくつ隠し事があるのかな?」
穏やかな微笑みとは裏腹に佇まいに緊張を帯びている……何時得物を抜いてもおかしくないと言う訳か。
「結構あるよ……あっと驚く事は保証する。 その上で言うが、俺の目的はグール共を嗾けたヤツ諸とも駆逐する事だ、だから信じてくれとは言わない。 許容しろ……その代わり、特等席で面白いものを見せてやんよ。」
さて……見た感じ、ダナン君は戸惑っているな。
ミシェルは右眼で俺を見据えて放さない、『伝説の樹の下で』(トキメキ・ドリーム)による高感度の増減が発生していない事から考えると客観的に判断を下そうとしているんだろう。
「特等席ね……つまり、私達の排除は考えておらず、監視されるのも構わない訳だ。」
「それだけじゃ足りない、俺を助けろ。 俺にはあらゆる経験が不足している、ミシェル、ダナン、お前らが必要だ。」
「………。」 「………。」
……許容と拒絶、どっちの目が出るかな。
「いいだろう、ここはあんたに乗せられてやるよ……ただし、私達を裏切ったなら覚悟してもらう。ダナもそれで良いね?」
「大丈夫、僕の矢は何時でも狙えるから。」
ただのイケメン優男だと思っていたが……なかなかどうして、一瞬だけ垣間見えた殺気はミシェルにも劣らない凄まじさだな。
「上等だ、話は着いた……さて。」
気を取り直し、改めてゴブリン達へ向き直ると……ん?何ダラけてんだよテメーら。
不意打ちで一喝してやったら、即効で背筋をピンと伸ばして固まった。
……大分陽が傾いてきた、茜色の空が沈む大陽と共に去ろうとしている。
「仕方ない、今日は適当な空き家を使わせてもらおう。」
あの後、結構時間を掛けてゴブリン達と話をしたが……ほとんど徒労に終わっちまった。
やはり基礎的な語彙力に乏しいゴブリンへ説明をするのも、求めるのも限度がある。
頭が痛い、仕舞いにはティンさんですら匙を投げた程だ。
唯一理解出来た事実といえば、家畜を貪り喰ったのはゴブリン達にとってその家畜が捨て置かれたものであったから……らしい。
何じゃそりゃ、彼等の言い分と状況を整理するにゴブリン達がナボル近辺で狩りに勤しんでいた時、異変を感じたんだそうだ。
だが肝心の異変の内容がちぐはぐで一貫性がなく、説明出来ないために具体的な話は分からなかった。
ともかく、恐る恐る村の様子を探った時には既に無人であり、そこから家畜を捨て置かれているものだという思考になったそうだ。
「疲れた……もう寝たい。」
そういや、丸一日まともに睡眠をとってなかったわ。
ちょっとフラフラになりながら、空き家に入ろうとしたら今度はダナン君がゴネ始めやがった。
ゴブリン達と一晩一緒に過ごすのは嫌だと言い切ったのだ。
分からんでもない……不衛生な格好に鼻を刺す異臭を醸し出しているしな。
だが洞窟に帰る様に言ったら、ゴブリンにとっても夜に出歩くのは危険だと必死に訴え掛けてきた……。
まぁ、 仕方ないのでゴブリン達には村の中で野営させる事にしよう。
それからダナン君が晩飯の準備をしている間、俺は居間の椅子に座り、窓辺で暫くボーとしながら外に居るゴブリンを眺めていた。
……知能が低いとはいえ、やはり亜人種だけあって焚き火を起こす術を持っているようだ。
いや実際の所、要領よく火種を作っていて驚いた……最初は原始的に枯木の摩擦熱でやるものだと思っていたが、ゴブリン達が黒曜石に似た光沢のある石を取り出し、ナイフで表面を削ぐ様に撃ち合わせると結構な火花が散った。
あとは木屑を粗く丸めた玉へ火花を着床させて息を吹きかけて育ててたわ。
薪は空き家に備蓄してあったものを分けたものだ……って勝手に使わせてもらってます♪すんません。
しかし生きる術には長けているんだな、あいつら……ってかあの石欲しいわ。
横で同じく、備蓄されてた燻製肉を勝手に頬張っていたミシェルさんにあの石について聞いてみたら、結構高価な鉱石らしい。
それにしても……あんなに道具を器用に使えるのに、何で言語能力が低いんだ?
ふとそんな疑問が頭を過る。
そもそも集団戦闘に特化し、群れの統制もエグいくらい隙がなかった。
少なくとも個々のコミュニケーションはとれてるって事だよな?
『それは他の亜人種族に比べ、ゴブリンの文化が未発達である事に起因すると言ってもよいでしょう。』
ん?……未発達って何でだ。
『ゴブリンは古き時代より、人類と敵対する魔族勢力に組み込まれていますが、魔王軍内における序列とはまさに力が全てであり、勢力争いに負けた種族は領内を追われ、時には淘汰される場合もある程に過酷で知られています。 それはゴブリンも例外ではなく、彼等は領地を追われ続け、ある時代から領土を持たない流浪の種族として侮蔑の対象となりました。』
何か胸糞悪い話だな……おい。
『それ故に一族を分散し、その繁殖力と生存本能で種の滅亡を回避してきたのでしょう。 現在ではカルパティーン洞窟をはじめ、多くのゴブリンが魔族領外を拠点としているようです。』
成る程な、生き残る事で手一杯だから文化が未発達という訳か……。
何気なく視線を回し、忙しなく料理を作っているダナンの後ろ姿を眺める。
「なぁミシェル、お前もダナンを手伝わないのか?」
「嫌だね♪アタシは飯炊き当番を卒業したんだ。ダナンはまだまだ新入りだからね、あと三年は下積みを経験させないとなっ。」
ふーん、何処の世界にもカーストってのが在るんだな……まぁ俺も高校のクラスカーストじゃ下位だったから、辛さは分かるよ。
それにしても良い包丁捌きだ、いやそれだけじゃない全体的な手際と要領が抜群なんだ。
要領と手際か……経験の積み重ねと実践……ゴブリンにもそれが出来ないだろうか?
ふとバトルシュミレーターの事が脳裏を過る。
そんな俺の思考内での僅かな思いつきに、即座に反応するヤツがいた……そうティンさんだ。
『ゴブリンの知性化を実行しますか?』
マジもんですか?……俺は今、トンでもなくエグい事をしようとしている。
そしてこの行為が後に人間社会だけでなく魔族勢力さえ巻き込む騒動に発展していくのだが、それはまた別の話だ。
つづく
エエーー、どうでしたでしょうか?
これから少しづつ魔族領の話も絡んできますので、どうか見捨てずにまた読んでつかぁさい。




