第四章 王都騒乱編 「残酷な真実との邂逅。」 中編 其二
「ーーそんな事が……まぁこいつは気に入った男には見境が無いからな。」
ギルマスがそう苦笑しながら、ちゃっかり俺の隣りに座るグレンへ視線を向ける。
結局、俺達に絡んで来たゴリマッチョはこのおっさん、グレンに完全に無力化されちまった。
思い出したくもない舌技を受け続け、今や後ろのテーブル席で見る影もなく他のパーティメンバーから慰められてる?状態だ、これほぼ再起不能じゃねぇの?……俺だったらメンタル崩壊もんだわ。
「こんな所で再会するなんて、本当に運命ね。」
「しれっとイヤな事を言うんじゃねぇよ……。」
多分、心の底から嫌だと意思表示する表情をしていたと自負するが、グレンのおっさんは構わずうっとりとしている……が、何故だか、ふとその眼差しが俺を通して違うものを見据えている様な、そんな印象を受ける瞬間が幾度か在った。
そしてそれは事実間違いではなく、俺とグレンの間に在る浅からぬ因縁を示していたのかもしれない。
「ーーでだモンテ、グレンも六人組としてお前のパーティに組み込んで良いよな?」
「馬鹿なのギルマス?……たった今、見境なくケツを狙うって断言してただろ!?無理無理断る!!」
「あらぁ、そんなつれないわね♪ンもう♪いくらアタシでもクエストの最中に襲わないわよ〜。」
「信じられるかッ!?第一、あんた何モンなんだ!?……スゲー強いのは身に沁みて判るが、事情がさっぱり判らん。」
「ああ、それなんだがーー」
ギルマスがそう言い掛けた所で、グレンがそれを左手で制する……。
「アタシの口から話すわ……。」
「………。」
「実はアタシね、今は冒険者じゃ無いのよ、二十年以上前に引退したんだけどさ……そうね、元は重戦士でB級ランクだったかしら。
それで今回のクエスト、どうしても飛び入りで参加したくて昔のツテを使ってギルマスに無理を言ったら、特例としてギルド所属じゃないメンバーを連れているあなたのパーティに入れる条件ならって話になったのよ♪」
「無茶苦茶だな……それで?何でそこまでして参加したいのさ。」
「………。」
まただ……参加理由を訊いた途端、またあの眼差しでグレンのおっさんは俺を見据え、やがて一呼吸置いてから再び声を紡ぎ出す。
「ティガーよ……アタシにとって、ティガーは古い……友なの、それこそ数少ない本当のね。
だから彼の訃報を知って、居ても立ってもいられなくなったのが本音よ。」
そう沁み沁みと言葉を終えてグレンのおっさんは手元にあったグラスの水を呷り、空けた……。
本音と言ったか、漠然と……だが多分その言葉に嘘は無い気がする。
「もうひとつ訊く、クエストの告示まではかなりの短期間だった筈だ、あんたにティガーの訃報を教えたのは誰だ?」
「それは愚問ね、予想つくでしょ?」
「……ガルマ派の人間だな。」
俺の問いにただ笑って頷き返し、空のグラスを回して遊ばせるグレン。
まぁそうだよな……ティガーの友人なら当然の繋がりだわな。
「理解った、ティガーのダチを無下には出来ねぇよ……だがな、これだけは口酸っぱく言っておく。」
「………?」
「マジで、クエスト中の俺の身(耳)の安全は保証しろ!!指一本、舌先三寸?触れるのも許さん!!!」
「フフッ♪舌先三寸って使い方違うじゃない、必死で可愛いわね♪……イィわ、この筋肉に誓って手を出さない。」
……こうして、俺達はカルツとグレンを加えたパーティで西の森林街道へ向かう事となった。
正直クエスト前なのにどっと疲れた。
◆
◇
ーー夜明け前、総勢14名の冒険者(部外者含む)はパーティごとに3台の竜車で向かう為、積荷の確認に勤しむ。
件の森林街道には2時間で差し掛かるらしいが、目的地はウエストバークへ抜ける道程の七割三分位の地点だから、約5時間だと聞いている。
そんな、いざ乗り込もうという直前に気の抜けたトーンでグレンが話しかけてきた。
「ねぇモンテ、ちょっと気になったのだけど……あなたの装備(荷物)少なくない?
他のメンバーがそれなりの装備をマウントしてるのに、あなただけ散歩に行く装いだから余計に『従者』を連れ立っている様に映るわよ。」
『従者』ね……なるほど、そう見えなくもないか。
けど仕方ない、そもそも異次元BOXで荷物収納出来る俺が装備をマウントする必要が無いからだ。
仲間たち、例えばロジャーなんかは執事服の上から革製の胸当て兼、投擲用鉄鋏の収容を装備し、同様のベルトホルダーやギルドから支給された保存食料、応急手当キット、現地の地図にコンパス等を入れたリュックをマウントしている訳だ。
因みにだが、以前に魔族領へ向かった際も、今回同様に全員の携帯品を一括で俺の異次元BOX(詳細は伏せて)へ仕舞う事を提案したのだが、仮にメンバーが散り散りになってしまった場合、俺とはぐれた者がアイテムを使えなくなるので、やはり個人管理が無難だろうという答えに落ち着いた。
……おそらく装備の総重量は10kg弱ってところか、少々支給品が多い気もするが本クエストに期限は設けられていない。
それにグールの大量発生を大っぴらに出来ないギルド、いや、ギルマスの罪滅ぼしの意味もあるだろうな。
一応、幌付きの竜車がベースキャンプになるらしい。
まぁ当事者の俺が居る以上、回収は短時間で終わるだろうが、現地での依頼の成否や撤退の判断はギルド職員が一人同行し担当するそうだ。
「どの口が言うんだ?あんたこそ支給品も武具も持ってねぇじゃん。」
「アタシ?……アタシは、ほら、部外者だし支給品なんか貰えないわよ。」
「あん?じゃあ武器防具はどうなんだよ。」
「ンーー、要らないかな、アタシの場合、身体ひとつで事足りるから。」
おいおい、凄え自信だな……まぁ確かに全身凶器みたいなゴリゴリのマッチョではあるよ。
何とも煮え切らない苦笑を洩らして、グレンは早々に竜車へ乗り込んでいった……。
◇
静寂とは程遠い沈黙の最中……とにかくケツが痛い。
荷台は車輪の軋みと共に上下し、せり出した板切れ一枚の粗末な座席の所為でバランスを取るのに気が抜け無いのだ。
バスの補助席の方が遥かにマシだと思えてくる程に……しかもみんな黙りを決め込んじまって精神的にもちょっとやるせねぇよ。
これからこんな状態で5時間も耐えなきゃならねぇなんざ地獄だろ。
幌が被さった荷台じゃ景色を楽しむなんてのも出来ないな……一応視界は狭いが出入り口から、遠ざかるっていうか土煙メインの風景は視えるが……。
「モンテ様、どうかなさいましたか?」
向かいに座るロジャーが俺の様子を気遣い、声を掛けてくれた。
「ちょっと考え事(愚痴)をしていた……。」
「宜しければお聞かせ下さいませんか?……私も何やら気が休まりませんので。」
「……意外だな、ロジャーはもっと図太いヤツだと思ってたよ。」
「過分なお言葉、痛み入りますが、私は元々小心者なのです。」
にわかには信じられねぇ……なんたってロジャー以上に頼れるヤツを俺は知らないからな。
ーーにしても、だ、話か……ロジャーに愚痴を聴かせるのも忍びねぇ。
「う〜んそうだな、例えばアームベルンは何でグールを放置しているんだ……とか?」
「……それはあたしも気になってた。」
弱音を隠す為の、ちょっと牽強付会がましい話題に俺の右隣りに座るミシェルたんが喰い付いてきましたよっと♪
「だってよ、グールってのは生物が居る限り増え続けるんだぜ?何時王都にそいつらが押し寄せて来てもおかしくねぇ。
グールの大量発生を大っぴらに出来ないなりに、国として秘密裏に何らかの手を打つもんだろ?」
「………。」
「水面下では……何かやってるのかもな。」
あの時、茶会でシムズから聞いた話によればアームベルンは長期の戦乱を終え、現在は疲弊した状態らしい。
しかもまだ戦争の火種が燻っている状態じゃ滅多に軍を動かすのも憚られるかもな……。
「ちょっとアンタたち……さっきから何話してるかと思えば、重要な事が抜けてるわよ。」
内輪の話へ唐突に割り込むとはこのおっさん、相当な陽キャだわ。
「ん?何だよおっさん、重要な事って。」
だがしかし、ミシェルたんがあっけらかんと反応を返した瞬間、グレンは勢いよく眼を見開きミシェルたんを二度見した……そして。
「いい?小娘……アタシの事は『お姉さん』、『お姉様』、もしくは『グレちゃん』とお呼び……もし次、おっさん呼ばわりしたら……理解るわね?」
……ドスの利いた低い声だ、何なら殺意まで感じさせる。
流石のミシェルたんも気圧されているようだ……。
「わ、理解ったよ……『姐さん』。」
「姉さんねぇ……まぁいいわ、何か芸妓姉妹みたいで素敵じゃないのよぉ♪」
絶対に意味を勘違いしているな……グレンの奴。
「で、おっさ……ンんッ!!(咳払い)……でだ、重要な事って何?」
「……ダーリンまでイヤねぇ、不死王との契約に決まってるじゃない。」
ダーリン呼ばわりはマジ無いわ……勘弁してほしいわ……って、不死王!?何か以前何処かで聞いたような。
「それって単に、リッチと契約した国家の勢力圏内じゃグールを造りませんってやつじゃねぇの姐さん?」
「アンタら、もしかして王都に来て日が浅いの?……それはあくまで契約条項のひとつに過ぎないわよ。」
「気になる物言いだな、その契約ってのは一般人でも知ってるのか?」
「ええ、考えてみて、契約相手であるリッチはあの魔族排斥主義の教会上層ですら手出しを禁忌扱いにする存在なの。
歴代勇者すら一度として討伐を成し得ていない点では魔王以上だと言ってもいい。
そんな人間とは違う時の流れを過ごす相手と契約を結ぶ……その影響力は国内外を問わず、凄まじいに決まってるでしょ。」
「内外……つまり近隣諸国に対する強力な外交カードにもなり得ると?」
「条約が在るとはいえ、その気になれば敵さえ取り込み、勢力を加速度的に倍加させる死人の軍勢がさくっと送り込めるのよ?誰も相手にしたくないでしょ。」
いや……それはおかしい。
「待ってくれ、アームベルンは戦後で戦力を大きく削がれているんじゃないのか!?今のあんたの話が事実だとしたら戦力に困ってねぇだろ、矛盾するじゃん。」
俺のやや強い指摘に対し、グレンは生温かい眼差しを向けつつ静かに首を横に振る。
「矛盾しないわ……アタシの例えが悪かったけど、そもそもリッチの外交価値とアームベルンの軍事力を紐づけて考えるべきじゃないのよ。
それこそ外交の切り札なんてものは虚実を何重にも織り交ぜた矛盾だらけの虚仮威しで相手の忖度を引き出す手段だもの。」
「んだよそりゃ!?人を煙に巻きやがって……。」
「フフッいいわ、話が逸れたわね……外交云々は置いておいて話を本筋に戻すけど、条項のひとつに『不死王の加護』が明記されているの。」
「………。」
「まず街を覆う堅牢なる石壁、更に教会が誇る魔法障壁、そして不死王の権能による浄化結界……これらを指して『王都の三壁』と呼ばれているわ。
つまりグールに限らず、汎ゆる死人に対して圧倒的防衛力を有しているのが王都なのよ。」
「まさかとは思うが、王都の安全が保証されてっから周辺の田舎は放っておこう……なんて国は考えてないよな?」
「おいおい、言い過ぎだって……なぁ?」
「ミシェル様……私に振られましても解りかねます。」
「そうね、流石にそこまでの馬鹿なら国を回すなんて出来っこないわよ……多分ね。」
だから、みんなして一抹の不安を残す言い草は止めろや、草も生えねぇぞ……マジで。
何とも言えないイヤ~な沈黙が広がる中、荷台が揺られる音だけが鳴り響き続けていた。
クエストへつづく




