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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第四章 王都騒乱編  「ひとつめの楔。」 前編


 バルロー邸別室……正確に述べるなら、そこは使用人専用の食堂である。



 「………。」 「………。」



 お茶会来賓客の随伴者およそ三十人強の男女が長方形のテーブルに対面式で座り、こちらでも優雅にお茶を楽しんでいる様子が見受けられた。


 少なくともロジャーの目にはそう映っていたであろう。


 執事、メイドによる情報交換、交流は様々な側面をロジャーに垣間見せた。


 ロジャーは知る由もないが、彼ら彼女らの仕える家はアームベルン特区に居を構える事を許された言わば特権階級の貴族の名家である。


 その使用人として教養や知識、振る舞いは無論、前提として出自……明確な家柄という資質を求められるのだ。


 多くが地方貴族の嫡長子以下、或いは傍流の分家出身等の家督問題を予め避ける名目で幼少より奉公に出す教育を施される者もいたという。


 言わば生家と仕え先のふたつの背景バックボーンを背負っている事になる……そんな彼ら彼女らの目から見れば、ロジャーは魔物であるゴブリンが執事を装っていると思えても不思議は無い。


 事実、礼節のプロフェッショナルである筈の執事、メイドが軒並みどう接するべきかで思い悩み奇異の目をロジャーへ向けるに留まっており、一見では人間と変わり無い華火に至ってはその異様な迄の殺伐とした雰囲気から戸惑うしか他なかった。


 結果として放っておくしかないと判断された訳だが、当事者たるロジャーはこれを人間観察の一環として楽しんでさえいた。


 話の起点、話題の振り方、またその切り返し、お茶の飲み方、カップの置き方や文化的流行等々……執事としての正しい教育を受けた事の無いロジャーには目新しかったのだろう。


 だがそんな楽しみに更なる変化を齎す声が掛けられる。



 「失礼します、対面に座ってもよろしいですか?」



 「貴方は……どうぞ構いませんよ。」



 それは先程、自分達を出迎えた執事シムズであった。



 「紅茶のお代わりは如何ですか?お口に合えばよろしいのですが。」



 「ええいただきます、王都に来て初めて飲みましたが、独特な癖のある風味が美味しいですね。」



 「それは良かった、これはリーズ……奥様が育てたハーブを自ら調合し、本日のお茶会にも提供されているものです。」



 ……最初にまみえた時とは打って変わった柔らかい物腰に、若干面食らってしまうロジャー。



 「そちらのお嬢さんは如何ですか?」



 「……私は臭くて嫌いだな。」



 その瞬間、余りに思慮を欠く華火の言葉に思わず飛び上がり、彼女の頭に拳骨を落とそうと……しかけたロジャーであったが周囲、特にシムズの視線に気付いて咳払いに留まった。



 「華火さん、礼を失した発言は控えて下さい。」



 「なんだ……さっきみたいにド頭をハタかないのか?」



 ここぞとばかりの発言で華火に対し苦虫を潰しまくった様な表情を歪めるロジャー……そんな様子にシムズは敢えて声に出して笑いふたりを宥めに入る。



 「確かにハーブティーは苦手な方も多くいらっしゃいますから、どうぞお気になさらず。

 よろしければポピュラーな品種の紅茶とケーキをお持ちいたしますよ。」



 「ケーキ……何それ美味いのか?」



 (……本気マジで殴りたい。)



 そんな本心を文字通りに噛み殺すロジャーを微笑ましく眺めつつ、シムズは右手を上げて給仕を呼ぶとその間を置かず、代わりの紅茶と焼き菓子が華火の元へ差し出された。



 「野菜のギャビンを模したという由来の焼き菓子『キャベンドルム』と少々苦味を抑えた『ストライダムティー』です、どうぞ召し上がってみてください。」



 「……こ、これはっ!?」



 皿に見合わぬ大きさの焼き菓子を一見し、『気取っている』と内心で毒づいていた華火だったが、一気に一口で頬張った瞬間に衝撃が疾走る。


 外皮である生地はパリッとした心地良い触感であるのに反して、中身はしっとりもちもちであり、何より今まで食した経験の無いまさしく思考がトロけてしまう様な『甘美』な味が口内一杯へ広がってゆく、これが、これこそが幸せなのではと確信してしまう程に……。



 「おかわりだっ!?おかわりをくれ!!?」



 彼女は最早、キャベンドルムに魅入られ、自身を抑える事を忘れていた。



 「ぬっ!?このお茶……さっぱりと口内の後味を流してくれるぞ!?これもたまらん!!」



 「………。」



 もう掛ける言葉も見つからず、呆れ果てたロジャーは決して届く事の無い長い溜め息をつくしか出来なかったという。



 「申し訳ありません……許されませんが同僚として、彼女の野蛮な振る舞いをお詫びします。」



 「いえ、貴方達も当家が饗すべき客人ですのでお気になさらず。」



 まさか使用人である自分達すら客人だと言うのか?……そんなロジャーの疑念を瞬時に表情から察したのか、ゆっくりとシムズは言葉を補足する。



 「執事とは、佇まいひとつで仕える家のみならず、主人の格さえ左右すると言っても過言ではないものなのです。

 よろしいですか?我々は『鏡』でありその責任は重く、誰よりも家人に寄り添い追従すると云う事は執事もまた、無下に扱われてはならない、扱わないのです。」



 物腰柔らかなシムズの言葉を聞き、周囲の執事達も各々違う反応であったが一様に肯定を示しているようだった……が、それが却ってロジャーの胸中に複雑な感情を渦巻かせてしまう。


 シムズの言葉に深く感銘を受けると同時に、先程まで人間観察等と内心で楽しんでいた己の無知を恥じていたからだ。



 「誰よりも寄り添い、追従する者で在ろうとする……私はモンテ様を映す『鏡』として分不相応なのかもしれない。」



 俯きカップの水面を見つめるその姿に、シムズは静かに顔を上げる様に語りかける。



 「不躾な質問ですが……貴方はモンテ様に仕える事を誇れますか?」



 「!?……当然です、あの方は何も持たぬ私を引き上げてくださった。

 その御恩は生涯を懸けて報いたいのです。」



 「結構、ならば貴方は執事です、『誇り』とは覚悟を以て行動する者にのみ培われるものなのだから……。

 そして私は貴方の眼にその覚悟を見ました。」



 ……この瞬間、周囲からほんの微かに驚嘆が洩れた様な空気が流れたが、それも仕方ないだろう、何故ならシムズはロジャーを明確に認めたと公言したに等しいからである。


 実の所、ロジャーと華火を除く他の執事たち全員がシムズの背景を承知していた、だからこそその公言には絶大な含みがもたされていた。


 そんな最中で華火もまた、違った意味でシムズの言葉に胸中を乱されていた。



 あの日、モンテによって踏み躙られ、喪った『誇り』という言葉に反応したからだろう。



 「………。」



 ふと、自身が掲げていた『誇り』とは何だったのだろうという疑問が過り、キャベンドルムを持つ手が思わず止まっていた。


 鬼の一族、それも元首領の姫としての誇り?いや、精強たる種族に生まれ落ちた優越感を誇っていたのか?


 果たしてそこにシムズが言った様な覚悟が在っただろうか?……そしてようやく気付く、それらは全て誰かから与えられた肩書であり、自身で在ろうとしたものではなかったと。


 この時、華火とロジャーのふたりへ同時に去来した思いは全く違う性質であったと言えるだろう。



 「……失礼致します。」



 唐突に給仕のひとりがやって来て、シムズに声を掛けて何事かを彼に耳打ちする。



 「…………。」



 「……そうか、分かった、私が対応しよう。」



 「あの、何かあったのですか?」



 完璧な所作で席を立つシムズにロジャーが声を掛けた……。



 「些細な事ですので、お気になさらず……貴方と話せて良かった、引き続きお楽しみ下さい。」



 そう言い、差し出された手にロジャーが応えて握手を交わすと、シムズは微笑んだまま踵を返して食堂を後にしてゆく。


 ……まるで芯が一本通ったかの様なその後ろ姿に、ロジャーは自身の理想である執事像を重ねた気がしたという。




 ◇


 ◇




 バルロー邸 庭園……。



 「ああ、夫が来たみたいね。」



 リーズさんの声で視線を向けると丁度、東屋へ歩み寄って来る男たちの姿が見えた……んだが、その顔に思わず驚かされた。



 「あの、おふたりは……?」



 「えっ?執事長のシムズにはお出迎えの時に会っておりますよね。」



 リーズさんだけでなく……この時、先頭を歩いて来た初老くらいの男性もにやりと笑うのが見えた、流石に意地の悪い悪戯だ。



 「ふふ、ごめんなさい、もうさっきみたいな悪フザケはもうしないわ。

 ……紹介するわね、こちらが私の夫である本物のオラル・ボザ・バルロー子爵で、見ての通りふたりは兄弟、双子なのよ。」



 双子……まぁ確かにそうだとは思ったけど、その『さっき迄の悪フザケ』で色々とこんがらがりそうだわ。


 全く同じ風貌で明確な違いと言えば服装くらいなふたりだが、俺はその性質の違いを直ぐに知る事となる。



 「初めましてモンキーパイソン辺境伯様、先ずは騙す形となってしまった事をお詫び致します。

 オラル・ボザ・バルローと申します、以後お見知り置きを……。」



 「………。」



 ……シムズはバルローより更に一歩退いた所で、無言で礼儀正しくお辞儀して見せる。



 何にせよ、こうして俺達は改めてお互いにテーブルへ着く事となった訳だが……まさかここでの会話が王都を巻き込む動乱の遠因となるとは、この時の俺は知る由もなかった。




 つづく

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