第三章 盗賊領主はハンコウする編 エピローグ
「少し話せるか?」
……そうシオリさんに告げられ、俺は古城の外へ出る様に促された。
シェイプシフターを拘束し、今後の尋問についての話がまとまった直後だったと思う。
多分、俺達の話の合間でシオリさんもギャンビット号から小型通信機を通して報告を受けていたから、その関連での相談だろうか?
「…………。」
城を囲む石垣の一画、鬱蒼と茂り石垣の大部分を覆うツタが風に揺れている。
「……先程、コルカドに飛ばした無人偵察機から報告が上がって来た、が、どうやら空振りだったようだ。」
「………。」
「反応が薄いな、見越していたのか?」
「まぁ……というか二択を選んだ結果だからね。コルカドは例の化け物がまだ居座っているかどうか未確定だし、フェデル(こっち)の方が速く対処する必要があっただろ。」
「それでも化け物がまだ居座っていたら、私は総力戦で叩くつもりだったよ。」
「冗談だろ……奴らはそこまで馬鹿じゃねぇよシオリさん。」
「………?」
「今回の一連の立ち回り、どう見積もっても奴らはギャンビット号を、引いてはシオリさんの介入を徹底して避けていた。俺達が気付いた時にはほぼ事後、後手後手にブン回された後だったろ。」
「……ふむ、コルカドについては君の言う通りかもしれないが、だがフェデルについては敵にとってもイレギュラーな事態だろうし、虚を突いてシェイプシフターを捕らえたのだから一矢報いたとも言えるだろう。」
一矢報いた……そう言いながら、シオリさんは肩を竦ませて両手を広げ、コミカルに見せる。
「それはシェイプシフターが敵の内情を知ってればだろ?末端の構成員レベルなら、ガセを掴まされたのと変わんねぇ。」
「さっきからやけに悲観的だな……ならば全ては徒労だったとでも言いたいのか、君は!?」
「違うよ、言っただろ後手後手だって、初見で既に俺達は遅れてる、選び取れるものが少ないんだ、むしろ無駄骨にしない為に客観的に敵が画策した絵図を読み切らないと駄目だろ。それに……どうしても引っ掛かるんだよ。」
その瞬間、ほんの僅かだが、シオリさんの眉がピクリとひくつく……そして一拍の間を置いてから言葉を紡ぐ。
「……シェイプシフターが何時この町へ潜伏したかだな。」
やはりシオリさんも気付いていたか……俺は返事の代わりに力強く頷いて見せる。
「数日前、私はサルマンと直で会っている、おそらく、いや確実に本人だと断言しよう。入れ代わったのはそれ以降だろうな。」
「問題は奴がその直前まで『誰に』擬態してたか……勿論、取り込んだ人物には何度も変化出来るみたいだったから、あの団員なのも考えられるが、俺の予想通りならーー」
「避難民で行方不明になっている者が居るか……さっきジョーに調べる様に言ってたが、その予想が当たりなら、アドから仕組まれてた事になるぞ。」
「俺からしてみりゃあ、『また』だよ。」
そう……まただ、あの人に対する疑念が増す、しかも後々ワザと露見する様に仕組まれている気すらする。
「ふむ、それで、だ……君はこの後どう動く気なんだ?」
「予定通りさ、面倒い野暮用を済ませに一旦アームベルンへ戻るよ。ギルドに圧力が掛かった件も、改めて聞きたいし。」
「茶会か、まさかとは思うがロジャー達を連れて行こうとか考えていないよな?」
「……へ、何で……?」
その瞬間、今日イチの呆れ顔でお姉様に見つめられた……度々あるが、俺の中で何かの扉が開きそうだったワ。
『………。』
「魔物を人間の国、しかもギルド常駐都市に入れるとは正気の沙汰ではないぞモンテ君。」
「さぁ……ね、少なくとも俺の仲間はギルドや国を上げて討伐される事件を起こした覚えはねぇよ。それでも難癖付けてくんなら離れりゃいいし、まず試してみるさ。」
それは絵空事や理想論じゃなく、紛れもない俺の本心だ。
……俺の居た元の世界の人間、まぁ世論の一部だと思うが、それらは多様性を説きながらも自分たちが認められないものは異物として受け入れないし、許さないって印象だったな……今更思い出す事でも無いが。
「……そういや、さ、一応俺って領主なんだよね?その権限で何とかロジャー達を連れ込めねーかな。」
「実績も何も無い名ばかりだろう、そもそも今回このウエストバークに来た目的だって視察の名目だ。君には根城も無ければ実務経験も無い、領主がどんな仕事か分かるのか?」
「……ティガーに……丸投げする予定だったんだよ。」
何気なく呟いていた、俺自身暫く……忘れていた気がするその名前を聞き、シオリさんも口を噤み何処か遠くへ視線を向けている。
「……ティガーが就いていた司祭の役割を知っているか?」
不意に掛けられた言葉に俺は少し戸惑い、間を空けてしまう。
「……いや、ごめん、考えた事も無いよ。」
「正式な契約や記録としての公文書の作成、地方自治……例えば領主には領地内で裁判を開き、罪罰を行使する権限が与えられるんだが、司祭は公正な立場と目でこれを補佐しなければならない。つまり領主はその都度教会に依頼する羽目になる訳だ。」
「………。」
「ティガーはきっと君を側で支えようとしたんだな。」
正直、何も言えなかった……と同時に別れ際のティガーの眼差し、そして声を思い出す。
勇者でなく盗賊を選んだ俺に対し、最期まで肯定的な言葉を掛け続けてくれた彼は、ティガーは果たしてどんな思いを抱いていたのだろうか……。
沈黙に耐え切れず、逸した視線の先で木洩れ日が揺れている。
(……やはり君は、サラの言う通りこの世界にとって脅威となる者なのか……モンテ。)
「ーーシオリさん。」
「……なんだ改まって。」
「ここまで被害を出して、本当にグールの大群がウエストバークに留まっていると思うかい?」
「………。」
「ギルドへ掛けられた政府の圧力……なんて胡散臭い話だと思ってたけど、馬鹿な俺でも流石に繋がりに気付くよ。」
「……モンテ君。」
「アームベルンに居るんだろ……どうしても『彼女』に直接会わなきゃいけねぇ。」
そう、そして多分、『彼女』……碧渦の勇者サラ・ストームもそれを待ち望んでいる気がする。
確信とまで言えない漠然とした考えだが……何故だか背筋に寒いものが伝っていた。
つづく




