第三章 盗賊領主はハンコウする編 「魔王城にお泊り」
「……そろそろお暇してぇんだけど、ガーチャを連れて来てくれ。」
華火の件で絶賛イラつき中であった俺は、かなりぶっきらぼうにダロスへ吐き捨てた……が。
「正気かい?こちらで責任を以て治療すると言ったじゃないか。いやぁ~人質みたいな事した此方に信用が無いのは分かるけど、それでももう一度冷静に考えた方が良いよ。」
冷静ね……合理的に考えればそうなんだろう、だが平気で信用を裏切りながら利を説く輩とは関わりたくない。
しおらしい態度でロジャーと俺へ頭を下げていたがポーズなのは明らかだ。
そんな風に断固拒否を貫く俺に対し、横槍を入れてきたのは意外にもロジャーであった。
治療を頼みたいと……俺のダロスへの不信感を理解し、その上で板挟みになろうとも恩人の身の上を案じずにはいられなかったのか。
……多分それもあくまで『進言』の範疇なんだろうな、ロジャーの性格を鑑みるなら俺が引き取りに固執すれば、呆気なく意見を呑み込んじまうのは火を見るより明らかだった。
そう考えた時に今回の一件、ガーチャの存在を『失念』していた俺にも非がある、ならここはロジャーの心に沿う形での着地点の方が絶対に良いと思えた。
ダロスに関しては癪に障るが、仕方ない、溜飲を下げて改めてこちらから『治療』を頼んでおいた……まぁ、素直な態度でお願いしたからか、ダロスもそれ以上ガーチャの件でふざける事もなく、一応真剣な面持ちで俺達へ謝意を示してくれたので実際落とし所としては良かったんだろう。
という事で決着し、頭を冷やしつつ一刻も早くここからおさらばしようとしたんだが……またもやダロスがそれを引き留めやがった。
「色々と我らの意に沿って貰ったからな、こちらも幾許かの礼をさせてくれないかな♪」
今更ですか?と内心で毒づいたのは言うまでもないが、どうやら表情に出ていたらしい。
『……ホントにお礼だから。』なんて軽口で念押しされた。
「ご厚意だけ貰っときますよ、それじゃーー」
「待ちなって♪ここ通常空間じゃないんだよ、どうやって出る気なの?」
呆れた様にフロアを指差し、そう宣うダロスちゃん……。
「どうしても帰りたいなら外に送るけどさ〜せめてお話だけでも聴いてくんない?」
「………随分と強引だな。」
その一言を肯定と取ったのか……半ばヤケ気味の俺の腕に組みつき、あざとく喜んでみせるダロスちゃん。
……んで、ソファに座り直して話を聴くと、ホントに有り難い申し出ではあった。
まずギャンビット号との合流地点まで転移で送ってくれるらしく、必然的に今夜は魔王城での宿泊を是非堪能してくれと請われました。
確かに最近は野宿が大半だったから、大変有り難いが……魔王城というパワーワードだけに一抹の不安が残ってしまう。
「お風呂、ベッド完備だから疲れを癒やすにはもってこいだよ♪あとは君に受け取って欲しいものがあるんだ。」
俺の腕をぶんぶん振りながら、矢継ぎ早にダロスが一声上げるとまたもやゲテゲテが執事然とした所作で執務室へ入室してくる……が、その両手には黒を基調とした高級感漂う宝箱を抱いていた。
重量感のあまり無い音を奏で俺の眼前に置かれる宝箱……固唾を呑んだ皆の視線が集まる最中、余韻を楽しむ様にダロスはゆっくりと宝箱に手を掛け、そして。
「これは……水晶?」
緩衝用の紫色のクッションへすっぽりと納まったそれは、蒼空を思わせる青み掛かった球体が羅針盤にも似た金と黒色の台座へ三分の一程埋まる形で嵌め込まれたアイテム?に見えた。
「名称は『ゴア・オウグ』……陛下からの贈り物だ。その昔に陛下自身が御使用していた物を我が改修した。一部の者しか扱えない魔導具だよ。」
「一部の者にしか扱えない?」
丁寧に仕舞い込まれたそれを台座の部分から両手で持ち上げ、色々な角度で観ながらティンさんに鑑定してもらう……と、直ぐにダロスの言葉の意味が判明する。
『鑑定が終了しました、アーカイブから同様のテクノロジーを確認しましたが、幾つかアクセス不可の項目がある為に完全な解析には至りませんでした。』
……閲覧不可?システム的なブラックボックスってワケか、けどアーカイブに乗っているという事はコイツは陛下が勇者時代に使っていた道具なのはほぼ確定した。
『可能性は高いでしょう、補足として魔導具に使用されている材質に該当する物質がこの地上には存在しません。』
地上には無い……ティンの説明でふとシオリさんの事が脳裏に過る。
一部の者、つまりは勇者(転生者)にしか扱えないというワケか、具体的にはどう使う?
『…………。』
(……………。)
まじまじとゴア・オウグを見ていると不意に隣から吐息が洩れる……そわそわとした様子でダロスが熱っぽい視線を送ってきてた。
ああ、もしかして魔導具の解説がしたいのか?その必要は無いんだけどな。
次の瞬間、俺の取った行動にダロスは少々困惑気味な表情を浮かべた。
「………。」
「君はホントに不可思議な男だね……説明も無しに普通その使用方法に辿り着くか?」
言葉に前後して、他の面々も鳩が豆鉄砲食らった顔を張り付けて絶句していた。
俺が……手にしたゴア・オウグを衣服の上から胸へ押し当てると、魔導具はいとも簡単に身体の中へ吸い込まれてゆく。
まぁそんな異様な光景を見せられれば誰だって驚くだろう、だがコイツは身体に埋め込まれたんじゃない。
表層意識に居座るタイプの魔導具らしく今はティンさんが持っている、どうやら副次的に精神系統の攻撃耐性も爆上がりなんだそうだ。
『元々はファミリアと同様の役割を持たされていたようですね……それでも私の補機としては使えないレベルですが。』
えっ?何、魔導具にマウント取ってるの?カワイイねぇ♪
『………。』
そう内心でニチャニチャしちまったが、どうやら表情に出ていたらしい……直ぐにミシェルたんがかなり怪訝そうな声を掛けてきたーーが、
「コイツは想像以上だわ。」
……何気なく左掌を上へ向け(指示通り)、意識を集中させただけで瞬時に漆黒の外骨格が左腕を覆う。
「初めてで蒼黒装甲を発現させたか、確かに説明は不要だね。」
「状況によって形を変えられる魔導具か、攻防一体を可能とした高水準の汎用性らしいけど何か制限とか弱点は在るの?」
「ふむ、強いて述べるなら使用者の精神力を原動力としている点かな〜。稼働時間を誤ると廃人まっしぐらだし、上位の形態変化はより負担が増大する。」
なる程ね、ティンさんから受けたレクチャーとも一致する。
「フフ……。」
「ン?何だよ。」
「いや、『らしいけど』ね……まるで誰かの受け売りじみた言葉だと思っただけだよ。」
刹那、思わずロジャーと視線が合ってしまうが、わざとらしくそっぽを向いて溜め息を吐く事で何とか誤魔化せただろうか?
「何の揚げ足取りか知らんが気に喰わないな……。」
俺の反応に対し即座に態度を改め、ダロスは掴んでいた俺の腕を離す……。
「個人的興味から礼を失した、重ねてお詫びするから許して、ね♪お詫びついでにもうひとつ有用な事を教えてあげるからさ。」
『にししし♪』等と悪戯っぽくほくそ笑んでみせると、今度は赤詠へ視線を向けるダロス。
「ねぇ♪鳳禅殿に永く仕えただけあって、キミは内気功の操作がある程度出来るようだね。」
不意に出た脈絡の無い言葉に戸惑いつつ、それでも赤詠は間を置かず答える。
「……やはり見抜かれてましたか……とはいえ儂は『波濤功』までしか扱えませんが。」
「弐項か、それでも凄いよ〜♪うん、じゃあこれからの道すがらモンテ君とロジャーにその術を教えてくれない。」
その瞬間、赤詠の眉がぴくりと動いた。
「御存じだとは思いますが、内功法は書物に記すのを禁じ、認められた者のみが口伝にて習得するしかありません……そ、その……如何にダロス様の言付けといえど、掌門様の許可無しでは出来かねますぞ。」
ダロスに面と向かって話す赤詠の表情に一筋の汗が垂れている……逆に言えば変化はその一点のみだが、それだけで彼の尋常じゃない緊張が伝わってきた。
そんな赤詠を見やり、微笑みを称えたままのダロスが微かに首を傾ける。
「何だぁ……やっぱり気付いてなかったのか。」
「………?」
「その掌門があの御前試合の場に来てたんだよ♪んでモンテ君の才を見抜き内功の『発芽』を促したのも彼だ。」
その瞬間、目を限界まで見開いたであろう赤詠が見事なリアクションで二度見を俺に決めてきた……というか状況が判らん。
「ちょっと待ってくれ!さっきから知らないワードで話さないでくれる?」
「そりゃあ理解してないよねぇ、じゃあ因みにだけどコレ視える?」
そう言い、俺の隣でダロスが右手の人差し指を立てて見せる、対し周囲の者達はダロスの真意が解らず、暫しの沈黙に若干戸惑いつつ呆けるのみだった……そう、俺やロジャー、そして多分、赤詠以外は。
ダロスの人差し指の先端へ宿る様にゆらめく青い炎、いや光の粒子?みたいなものと例えるべきか……そこでようやく理解した、あの時の爺さん。
ティンさんの復活を早め、新たに獲得したという『気の概念』、おそらくあの爺さんが掌門とやらで、つまりは掌門直々に指導したって事実=入門(指導?)の許可を認めたという事なんだろう。
「……ロジャー、お前にも視えてんの青い光?」
「……いえ、私には靄の様に視えますが。」
「それはまだ完全な『発芽』に至っていない証だよ、けど同時に言ってしまえば、そもそも弐項の技を体内へ取り込めた事自体が物凄い奇縁なんだ。」
……ダロス曰く、どうやら俺に施された方法は才覚という土壌が備わっていれば確実なものらしいが、ロジャーの場合においては万にひとつも起こり得ない異例中の異例なんだそうだ。
そりゃあ、敵を倒す為の技で逆に強くしてしまっては本末転倒だろう、赤詠はおろか事を目の当たりにしたダロスや爺さんにとっても原因が解らず、才能の一言では片付けられないから俺と併せて正しく手解きをする結論となったという。
そこまで説明を聴き、まだ渋い表情を崩さない赤詠だったが、どうやら納得はしたようで……。
「分かり申した、儂は弟子を取れませんが、二人を一門の食客として稽古を付けましょう。」
「お、おう……頼むよ。」
「………。」
未だ戸惑い気味である俺に対し、ロジャーは何処か嬉しそうに目を細めている……。
そんな俺達の様子に赤詠はソファーから降りて脇に正座し直すと手を着く。
何か仰々しくも思えたが、ダロスが促してきたので俺とロジャーも赤詠に正対する様に膝を着き頭を下げた……。
「本来であれば秘するべきじゃが、この場の全員に立会いとなって頂く。」
一同 「………。」
「煌嶄門派第五十四代掌門イシェルロン・ウィーバーの名において……モンテ、ロジャー両名を当流派の食客として迎え、壱拾八手の基礎の習得を認めます。」
大仰……というか、何処か祝詞の様な言い回しで口上を紡ぎ終わり赤詠は深く頭を垂れて締め括ると、一拍の間を置いてから息を吐きつつ顔を上げた。
……終わったのか?一体何がしたかったのか不明なんだが。
「あ、あの今のは?それと『食客』って?入門とか弟子入りとは違うの?」
「……言っておくが、弟子入りなんぞ安易に口にせん方がエェぞ。」
「………?」
困惑する俺達に赤詠は徐ろに右腕の小手を外し、手首の入れ墨?紋様を見せてきた。
「儂らの技は本来、門外不出でな……鍛錬法から型、構成や秘奥までを門弟以外に開示してはならん掟なんじゃ。もし破ればこの誓約紋が発動し、拳を封じる……というか吹っ飛ぶ様になっとる。」
「……嘘だろ、おい。もしかして俺達も彫られるのソレ?」
「いや、その為の『食客』扱いなんじゃよ、基礎しか教えんしな……それと儂の口上に付き合って貰ったのは誓約紋に対する申し開き、発動させない様にするもんだ。」
意外と簡単に申し開き出来ちゃうんだね、それって誓約の意味あるの?……とか思ったのだが、何か言い出せる雰囲気じゃなかった。
……後から聞いた話だが、どうやら爺さん……煌嶄派掌門イシェルロン・ウィーバーは魔王軍七大師団の所属らしい。
夫婦で大陸中を放浪しているという話だったがダロスが居合わせたあの場所に居たというのが解せない……案外、密偵だったりするのかもな。
つづく




