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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第三章 盗賊領主はハンコウする編 「別離の朝を踏み越えてでも征く」Bパート


 「ーーーッ!!」



 凄絶なる『痛み』を叫ぶ死者達の坩堝へ、苛烈を以て切り込むマイケル……。


 迷いは無い、邪魔する者は排除するだけである。

 進路を塞ぐグール、短く息を吐きーー、その先鋒の足下へ突進力を活かした水面蹴りを放って複数体を容易く吹き飛ばしつつ、空に舞う1体の襟首を掴んで更に前方の敵へ投げつけた。



 (二人が陽動に徹してるなら、群れの流れが密集している場所に居る筈……。)



 排除と同時に周囲を眼に焼き付ける……が、見渡す限りに埋め尽くされたグールの光景に判断が付かない。


 思わず舌打ちが洩れそうになるが、折れた下顎が痛みという警告を発する、場違いな生者に気付いた死者達が嫉妬に狂った手を執拗に伸ばしほぼ全方位から迫り来る。


 ひとつの所作、行動の遅れが死に直結する濃密な時間、マイケルが選択したのは跳躍であった。

 屈伸のバネを利用しただけの突発的な判断にも関わらず、その身体は弧を描いて囲いを抜け、惰性的に彷徨っていた死者を踏み倒す。



 (……向こうか?)



 ドス黒い血飛沫撒き散らし、手近の邪魔者に対して方向転換と打撃を並行で為すマイケル……が、ここで気付く。

 蹴り剥がした筈のグールが踏み止まり、自分に牙を剥こうと唸りを上げている事に。



 (重さが……突破力に欠けるか。)



 即座に回転力を高めた蹴りの連撃で顔面を踏み砕くが、その間にまたもやマイケルへと殺到する死者の群れ、荒波、奔流。


 掴み掛かる者共を捌き……躱し、叩き伏せ、蹴り剥がし、投げる!!

 次々と切れ目無く襲われ対応を迫られるが、マイケルの体術もまた凄まじく、難なく処理していく。

 だがそれは同時に足留めをされている事と同義である……更に一撃一殺に足り得ぬ不利が周囲の敵密度を激増させる要因となっていた。


 身体を回し速度を生む空間は縮小、そこに『衣服の掴み(グラップ)』を振り解く手間が追加される。


 死者達に呑み込まれるは必定、時間の問題であった。


 が、それでもマイケルは諦めない、注意深く敵を周囲を観察し打開策を探る、絶え間なく動き続ける。



 「………。」



 そして、転機は訪れた……いや、正確には絶望と共に現れたと言った方が正しいだろうか。


 死者の奔流、その波間に垣間見た……ゴブリン、死に囚われ爛れた同胞の成れの果ての姿を、見てしまった。


 それら『同胞』の1体、腰に括られた刃毀れの酷い鉈。

 刹那……ある事実、疑念がマイケルの裡にかつて無い激情、怒りを吹き上げさせた。


 小柄な身体の何処にそれだけの膂力を隠していたのか?掴み掛かるグール三体を構わず振り回し、振り払いながら奔流の一点へ逆らう様に駆ける、駆け上がる!!


 ……意思を持たぬそのゴブリンもマイケルへ同様に距離を詰め、接敵した刹那、マイケルの脳裏で疑念が、決して許容出来ぬ確信へと変わった。



 「ーーーー!!」



 ーー絶唱、身体の内側から震わせる、声に為らぬ叫び……掴まれた鎖骨の内側に指が喰い込み、肉を穿ほじくられようとも構わず、マイケルは手を伸ばす。


 次の瞬間、マイケルを呑み込まんとした奔流の中心が波紋を拡げる様に弾け飛ぶ!!


 瞬く剣閃が次いで視えたのは、その凄まじい衝撃波故か、或いは技を放ったマイケル自身の優美さから見誤ったのかは定かではない……。


 右手に握られた古びて分厚い背鉄が空気を割いてドス黒い血を吐き捨てる。


 だがそれでも尚、死者達は止まらない……臆する心等最初から持ち合わせていない、マイケルもそんな選択は捨てているだろう。

 流れる様に鉈を振るい続け、屍肉を潰し切る鈍重な音色が絶叫と風鳴りに綯い交ぜとなって消える。


 凄惨を究めてゆく光景と腐敗臭、そんな状況の中……手を緩めず、それでもマイケルは自身が切り伏せ、無惨に転がるゴブリンの骸を一瞥した。

 ほんの一瞬、否、刹那に彼の表情が詫びていた。


 捨て置く事に……今、キャサリンたちを最優先に据えている自身の不義理を詫びたのだ。



 そして切り替えた、未練も情も拭い去り、一匹の悪鬼羅刹と化してでも、敵を屠りより濃くなる腐臭を目標に遡上してゆく……。



 ◇

 ◆


 夜が終わり、かつ太陽がまだ顔を覗かせぬ一時……一部のグール共の身体から白煙が吹き上げ始める。

 その行く先々、峡谷の間から見上げる空は理不尽な程高く狭苦しい。

 それでも死者たちは叫び、執拗に責立てる……一体何処を?愚問であろう。


 怨嗟を吐き出すべき対象である生者に他ならない。



 「………。」



 入り組んだ峡谷において数知れず存在する『行き止まり』……言わずもがな、そのひとつへと追いやられ、それでもまだキャサリンは希望を捨ててはいなかった。


 三方に囲んだ絶壁にもたれ掛かる様に項垂れているダナン、意識は無くその全身には無数の噛み傷が穿たれ、身体の一部が欠損してしまっている箇所も見られた。

 そんなダナンの前へ出て、休みなく電磁鞭を振るうキャサリン。


 だがここに至るまでの酷使に耐えきれず、最新鋭であった筈の武具はその機能を失い、更に損傷の度合いを深めてゆく。



 「ダナン目を覚ましてッ!!頑張れ!!きっとリーダーが何とかしてくれるから!!!」



 投げ掛けられた言葉が虚しく木霊する……可能性はゼロではない、現に一度、ダナンは同様に救われているのだから、だからこそ今は縋ってでも彼の意志を人間の側で繋ぎ止めつつ、この逆境を切り抜けるしかないのだ。



 「………。」



 だがダナンは応えない、応えられない……その身体がただ小刻みに震えるのみである。


 またキャサリンの身体にも限界を越えた反動が訪れていた。

 グールからの直接的ダメージではない、必要に迫られスキルを再び解禁した事による負荷の累積……。


 現状のダナンを引き連れる不利を埋める為に、打てる手を尽くしたが、それでも尚、袋小路へと追い立てられる結果に陥ってしまった。


 ……否、元よりジリ貧であったのかもしれない。


 血痕で汚れた面差しの上からぽたぽたと流れる鼻血に一瞬、意識を投げ出しそうな目眩に襲われるキャサリン。

 更に囲まれ狭まる包囲網……一瞬の緩みが事態の悪化を招く。


 ……傍から見れば、この状況で彼女が索敵のスキルを行使し続ける事は無意味に映るかもしれない。


 前提としてこのスキルは意識をトランス状態にし、初めて広範囲に及ぶ偵察を可能とする能力であり、接敵された状況では前提が崩れてしまうのだ。


 では何故なのか?……苦肉の策だったのだろう、戦闘に向かないこの能力を如何にして運用し危機を切り抜けるのか、持てる手を最大限に活かす事のみを突き詰めるしかなかった。


 結果、索敵範囲を敢えて限定し、敵に対応可能なぎりぎりの意識を保つスキルの発動に勝機を見出すに至る。

 無論、そこまでスキルを習熟していた訳ではなく、また簡単に出来る芸当でもない、完全なるブッツケ本番であった。



 ある意味で、キャサリンのこの賭けは見事にハマったと言って良い。


 メリット、デメリットを含めた全ての歯車が噛み合い、己を中心とした半径5mの絶対感知領域を形成しただけでなく、無意識の内に副次的なとある『現象』を引き起こしていたのだから。



 (………。)



 それでも100%良い面が出た訳でもない……感覚の先鋭化に成功した反面、肉体がそれに追いつかず、返って運動能力フィジカルが落ちていた。

 崖っ縁の境界で強いられる綱渡りの連続、断続、文字通りの心身を削る時間稼ぎは一寸先の奈落へ躊躇わず踏み込む事でのみ成立していると言って遜色無い。


 何十、何百の攻防、キャサリンへ組み付こうと群がる死者たちの怨嗟の渦……。


 触れられればひとたまりもないという恐怖に加え、眼に見えてグール共のダナンへの関心が薄れてゆく様子に、最悪の予感が膨らむ。



 (ダナンが……。)



 どうする事も出来ぬもどかしさだけがキャサリンの裡へ積もってゆく……故に事態は唐突に転がる。


 眼前のグールへ足刀蹴りを見舞い、身体を半回転させ鞭で後続を振り払った瞬間。


 鞭の先端が弾ける様に千切れ飛んでしまい、倒し切れなかったグールの腕がキャサリンへ届く。

 内側から鈍く軋むキャサリンの右腕、唇を噛み締めて、洩れ出そうになる怒りを収束させるかの様に踏み込む!!


 掴み掛かるグールに敢えて半身を寄せ、自身の腰をぶつけ巻き込んで落とす……次の刹那、グールの両足が空中へと投げ出された。


 異型の腰投げ、否、寸前の踏み込みで敵の態勢を崩し、噛まれぬ様に振り解いた腕を首に回して下顎を固定ロックしていた事を鑑みれば首投げとも言えるかもしれない。


 常人であれば頚椎損傷は免れない程の威力、鮮やかさであるが、この技の真価はまだ、ここから発揮される。


 投げの最終着地点、大地へと帰結しない……自身諸共回し続ける!!倍増した遠心力を以てグールを新たな武器として再利用したのだ。


 圧倒的破壊力で敵を薙ぎ払い、更に微進する事で殺到して来ていた群集をも巻き込み後退させてゆく。

 一転攻勢……体力の続く限り、いや、抱えた頭部がすっぽ抜ける迄振り回した。



 「………。」



 放り出された肉塊が群れの一画へ激突し、絵面の悪いドミノ倒しが実現する最中、キャサリンは……片膝を着き、息を切らせつつ敵を、敵群の放つ殺意を睨めつけていた。


 武器はもう無い、正確にはダナンから拝借しているナイフは懐に忍ばせてはいるが通用するかは疑わしい、有利を取れる手段ではないだろう。

 次の瞬間、或いは数秒後、死者の群れは堰を切ったが如くキャサリンを呑みに掛かる……確実に訪れるであろう結末が思考へ過る。



 ーー過ぎったが、それからどれ程の時間が刻まれたのか?



 動かない……双方の間に不可侵の境界でも在るのだろうか?この時、グールの大群が踏み淀んでいる様にキャサリンには視えていたのだろう。


 そう……実の所、それはキャサリンの主観であり、緊迫感から引き延ばされた体感時間の誤認に過ぎない。

 先鋭化された感覚が思考を置き去りにしたか、或いは逆に思考が感覚の全てを掌握せしめたか。


 どちらにせよ、一種の極限状態に相違ない……精神を削られているのは明白であった。



 そして……そんな白昼夢の最中に、それは姿を現した。



 この場所に居る筈のない、まったく予想だにしなかった人物。



 「………。」



 「ウソ……でしょ……マコ?」



 蠢く死者の群集の中で、更に頭抜けた巨躯のゴブリンが一人、感情も読み取れぬ壊れた相貌で……寄る辺なく佇む。


 刹那、キャサリンは耳の奥で己の心が折れる音を粛々と聴いた。



 ◆

 ◇



 ーー限りなく現在いまに近しい過去。



 狂おしい程の渇望を絶唱し、羅刹と化した小鬼が死者たちの葬列を狩り進む。


 事此処に至りマイケルの身体能力はロジャーの域に達し、あまつさえ反応速度においては瞬間的にだが凌駕すらしていた。


 凄絶の一言に尽きる集中力、だがそれでも岐路に立たされる、征くべき路が判らない見つからない、希望を見失う。

 何時の間にかマイケルは足を停め、ただグール共を屠り続ける……尚……続けるしかなかった。

 圧倒的な数で取り囲み、同時多発的に覆い被さって来る死者を鉈で撥ね除ける、斬り潰す。


 回避、反撃、一方を退ければ背後の三方から襲われる。

 前後左右の怨嗟を際限無く断つ、断ち続けた……次第に焦燥感だけが募り、また死者にぶつける……時間だけが無為に過ぎる、過ぎてしまう。



 そして絶望的な焦燥は同じだけの閉塞感を生み、やがて最悪の想像をマイケルの脳裏に過ぎらせた。



 泣き叫び、悲嘆しながらグールの群れに晒されて……嬲られ、食い千切られて無惨な姿へ変貌を遂げるキャサリン。



 己が死よりも辛い、何より受入れ難いであろう現実、否、悪夢にマイケルの思考が完全に停止する。


 と同時に鉈を握る手も止まってしまう、白痴の表情を晒し、伝う一筋の涙……そんなマイケルに構わず覆い被さり、埋め尽くし、呑み込んでゆく『死』という群集。



 が、その刹那!!マイケル周辺で蠢き、集合体と化した塊へ疾走る刃の瞬き……そして、遅れる形でまたしても屑肉と成り果て散ってゆく死者たち。



 (………。)



 (……ちげぇだろ。)



 一段と高鳴る鼓動……再び姿を露わにしたマイケルの表情は、自身に対する憤怒で吊り上がっていた。



 (アイツは決して自分を憐れんだりしない!!)



 その瞬間、フラッシュバックする過去の原風景……柔らかな風が吹く中で互いに笑い合う、四人の幼いゴブリンたち。



 (最初の頃、お前はマコにしか心を開かなかったな……俺にはそれが少し、悔しかったよ。)



 次第にゴブリンたちの姿が現在へと変わり、その中心で風に髪を遊ばせながらたおやかに微笑むキャサリンがマイケルの吐露に応える様に手を差し出した……が。


 『都合の良い幻想だ』静かにそう断じて、マイケルは鉈を握る手に力を込めた……そして。



 「バガやろーーッ!!たまには(俺に)助けてって言えぇーー!!!」



 心からの、それは初めて心からマイケルが吐き出した、大地をも震わす程の激情であった。


 刹那、上空を流れる風鳴りが止み、激情の残響が死者たちの間を吹き抜けて逝った先に、マイケルは確かに視た、視たのだ。



 淡き光を放つ紅の蝶、儚げにひらひらと舞っていたその像が解ける様に粒子となって消えゆくのを……。



 路は示された……次の瞬間、根拠の無い確信を以て踏み出したマイケルに、追い縋れる者など居なかった。




 つづく

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