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婚約破棄されて監獄島に30年間幽閉された元聖女は、自分を罠にはめた王子を地獄に叩き落とす為に王宮に舞い戻る事にしました  作者: こたつ猫


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8 黄金の騎士団の行進


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ライラック王国で、貴族達が参加する王宮主催の『舞踏会』が開催される当日。


 王都――パルティンには、王国内に領地を持つ名のある貴族達が全員招待され。

 王宮で開かれる華やかな舞踏会に出席する為に、それぞれの領地からエルムハルト王に献上する為の豪華な手土産(てみやげ)を持参した貴族達が、続々と集まってきていた。



 名目上、舞踏会は王国内の貴族達が一堂に会し。ライラック王家と親睦をはかる為の場という事になっている。


 だが実際は……各地から結集した貴族達がそれぞれの領地から屈強な騎士団や、豪華な土産(みやげ)の品々を持参し。

 それを王都の民に見せびらかす事で、自らの権勢の強さをアピールする『お祭りの場(パレード)』にもなっていたのである。



「――おい、見ろよ! 今年もモノリス公爵の率いてきた騎士団が、一番豪華だぜ!」



 王都パルティンの中央通りを、300人を超える銀色の甲冑を装備した騎士達が大行進していく。


 ライラック王国内で、最も力のあるモノリス公爵の率いてきた騎士達は、白銀(プラチナ)製の鎧の上に職人達によるハンドメイドの装飾が施され。

 その一部には、モノリス家の家紋でもある『白い羽』の紋章が金箔(きんぱく)によって刻まれ。ザハル・モノリス公爵が王国内で最も実力のある大貴族なのだという事を、王都の民に存分にアピールするものとなっていた。



「やっぱり凄いな……今年もザハル・モノリス公爵の騎士団が一番豪華で優雅なのは間違いないな」


「そうね。次期聖女候補であるシシリティア様と、モノリス家の嫡男ソレイユ公爵様は婚約されているというし。ライラック王国の将来の実権を握るのは、モノリス公爵家で間違いないでしょうね」



 王都パルティンに住む人々は、美しい銀色の甲冑を着た優雅な姿を披露するモノリス家の騎士団の大行進を間近(まじか)で見て。口々にそう囁き、噂し合った。


 実際に今回の舞踏会に出席する参加者の中で、現在の所……モノリス家に対抗出来るような豪華さを持つ貴族の一団は存在しない。


 ライラック王国内に存在する、全ての大都市の商業利権を独占しているといわれているモノリス商会。


 元々は、王都パルティン出身の大商人であったザハル・モノリスが、たったの一代で築き上げたモノリス商会は……ここ30年間の間で、瞬(またた)く間に王国内の全ての都市圏の商業利権を掌握し。


 その功績をエルムハルト王に直接認められ、大貴族の仲間入りを果たしたモノリス公爵に逆らえる存在は、現在のライラック王国内には誰もいないと噂されている程だ。


 輝かしい煌(きら)めきを放つ銀色の騎士の大行進を見守る王都の住民達は、やはりモノリス家が一番の力のある大貴族なのだという事実を改めて再確認させられる事となった。



 そんな王宮主催の舞踏会に参加する為に、王都に集結した貴族達による華やかな大行進(パレード)が行われている中――。



 大通りの一角にある古びた建物の2階から、その様子を静かに見守っている、ある家族がいた。



「……ねぇ、おじいちゃん。今年も舞踏会に参加する貴族様達の大行進(パレード)が始まってるよ。見なくてもいいの?」


 街の片隅にある古い鍛冶屋の2階で、舞踏会の『前イベント』ともいえる貴族達による大行進(パレード)を見ていた幼い少女が、彼女の祖父である白髪の老人に話しかけた。



「……フン。ワシは舞踏会は嫌いじゃ。この日になると、30年前に起きた『悲劇の事件』の事を思い出してしまうからな」


「おじいちゃん、悲劇の事件って何なの?」


 好奇心旺盛な少女は、躊躇(ためら)う事なくその事を祖父に向けて尋ねてみる。


「うむ。それは今からちょうど、30年前の舞踏会の日の事じゃった。王宮には、この国の将来を守って下さると期待された立派な聖女候補の方がおられたのじゃ。その方は舞踏会の当日に、恐ろしい罪を犯したと無実の罪を着せられ。当時はまだこの国の第一王子であったエルムハルト殿下から、婚約破棄を言い渡され。遠い西の監獄島への流刑罪に処せられてしまったのじゃ……」


「えっ? でも……ライラック王国の聖女様は、ちゃんと王妃のアリスティア様がなってるよ? それ以外の聖女候補の人が、昔の王宮にはいたって事なの?」


「そうじゃ。現在の聖女であるアリスティア王妃には、1歳年上の姉君がおられたのじゃ。ワシはその時、王宮専属の鍛冶師(かじし)をしていたからよく憶えておる。ああ……おいたわしや、クリスティナ様……。あんなにも美しくて誰に対してもお優しい、まさに聖女様に相応しいお方であったのに。それをあろう事か、監獄島への流刑罪にしてしまうだなんて……」



 昔を思い出し、目から涙を流している老人は彼の孫娘が立っている2階の窓付近に近寄ると。


 窓のすぐ下に見えている、大貴族達の豪華パレードの様子を見て。忌々(いまいま)しそうに恨み言を呟く。


「全く……このような貴族達による、おぞましい行進行事など。クリスティナ様がご健在なら絶対にお許しにならなかったろうに。ワシはいつかあの方がこの街に戻ってきて、虚飾の栄華に溺れた貴族達に復讐されるのではないかと心配で、毎年この時期になると怯えて体が震え上がってしまうのじゃ。だから舞踏会は嫌いなのじゃよ……」



 体をブルブルと震わせている祖父の事を心配しつつも。まだ幼い少女には、老人の昔話は難し過ぎて。その内容のほとんどが、よく分かっていなかった。


 幼い少女にとって、目の前で行われている貴族達の華やかな大行進はキラキラと輝いて見えていた。


 決して裕福とはいえない鍛冶屋の家に生まれた少女には、その煌(きら)びやかな光景を遠くから眺めているだけで充分に幸せに感じられたのだ。


 この国に住まう各地の貴族達が、どれだけ自分の領土にいる貧しい領民達を虐げて。彼らの持つ、なけなしの富を吸い上げて豪華な生活を謳歌(おうか)しているのかなど……。

 人生の経験も知識も乏しい少女には、まだ到底理解する事が出来ない。



 そんな無垢(むく)で純粋な心を持つ少女の関心は――やがて大行進の一番最後列で煌びやかな光を放ち。


 行列の先頭を歩いているモノリス公爵の銀色の騎士団の華麗さを遥かに上回る、『黄金の輝き』を放つ一団の存在に目移りした。



「――ねぇ、おじいちゃん! 見てみて、凄いよっ! 大行進(パレード)の最後尾に、黄金色の鎧を着た騎士様の大行列が見えてきたよーーっ!」



 孫娘に大声で呼びかけられて。歳をとった老齢の鍛冶屋の男は……再び窓の外を眺め。

 彼の視界の先に入ってきた、あまりにも規格外過ぎる驚愕の光景を見て。思わず自分の目を何度も擦(こす)りながら瞳に映る視界の情報を疑い、その場で腰を抜かしてしまう。



 黄金色の騎士の一団の光景を見て、驚愕してしまったのは、古びた建物の2階にいた鍛冶屋の老人だけではなかった。


 この時――王都パルティンに住まう全ての住人達が、あまりにも現実離れした『幻想的な光景』を目撃して。一斉に皆が、その目を奪われてしまう。



 ちょうど大行進(パレード)の最後尾には、この日一番最後に王都パルティンに到着した新興貴族――ゴールドハルト辺境伯のクルスが、自分の領土から引き連れてきた騎士団がやって来ていた。



 王都の中央通りを歩く辺境伯の一団は、総勢で1000人を超えている。

 

 そしてその全ての騎士が、光り輝く黄金色の全身鎧(フルアーマー)を身につけていて。金色に輝く黄金の翼の描かれた旗を、高らかに掲げながら。一糸の乱れもなく統率された動きで行進してきていた。



「――おい、何だよ! あの黄金の騎士の一団は!? 全身の鎧が全て『黄金』で作られているじゃないのか! あれだけの量の黄金を所有しているなんて、一体どこの大貴族様なんだよ!?」


「わ、分からないわ……! もしかしたら異国からやって来た王族なのかもしれないわね。ほら、古い伝承の中に、極東の島国には国中の建物が全て黄金で出来ている国があるっていうじゃない。そこから黄金の王がやってきたんじゃないのかしら?」


「バカ! それはおとぎ話の世界だろう? 今、俺達が見ている目の前の光景は全部『現実』なんだぞ。黄金の騎士達を引き連れた、本物の黄金の王が王都にやって来ているんだ。でも、アレは一体……誰なんだ? モノリス公爵よりも遥かに豪勢な騎士団を率いてくるなんて、それほどの力を持つ大貴族がこの国には存在していたのかよ?」



 ザワザワとどよめき立つ、王都パルティンの中央通りに立ち並ぶ街の住人達。


 彼らは大きな歓声を上げて、行列の最後尾を歩いている黄金の騎士達を引き連れた貴族の姿を一目見ようと。興奮しながら列の最後尾へと向かって殺到していく。



 そんな街の住人立達の騒ぎを聞きつけて。不審な表情を浮かべながら馬車から顔を出したのは……つい先ほどまでは、王都に住む人々の注目を一身に集めていたはずの大貴族――ザハル・モノリス公爵であった。



「――おい! これは一体、何の騒ぎだ? 王都の連中は何で我がモノリス家の行進の周りから立ち去り。どこか別の場所に向かっていってしまったんだ?」


「ハッ! ザハル様。実は王都の住人達は大行進の最後尾を歩いている、ゴールドハルト辺境伯の率いてきた騎士団の方に向かって行ったようなのです……」


「何だと? ゴールドハルト辺境伯だと! またアイツなのか……!!」



 ザハル・モノリス公爵にとって、忌々(いまいま)しきゴールドハルト辺境伯の名前を聞くのはこれが二回目となる。


 一回目は先日行われた、ライラック王国の国境付近での魔族軍との戦争の最中においてだった。


 この戦争には、モノリス家の嫡男(ちゃくなん)であり。次期聖女候補シシリティアの婚約者でもあるソレイユ・モノリスが初陣(ういじん)を飾る為に出陣していた。

 モノリス家としても、ソレイユの活躍を王国中に広めようと、3000人を超える大騎士団を派遣して戦場に送り込んでいた。


 ところが、国境付近に迫る魔族の軍隊は当初想定されていた戦力よりも遥かに多く。ソレイユが率いるモノリス家の騎士団も、苦戦を強いられてしまう。


 そんな時に突如として、辺境のルームハルト地方からやって来た5000人を超える大勢の騎士団が出現し。まるで戦場での手柄を全て独占してしまうかのように、魔族軍を撃退してしまったのである。



 初陣を飾ったモノリス家の嫡男、ソレイユの活躍ぶりをアピールする為に。ザハルは王国の貴族達に対して、彼の息子が活躍して魔族軍との戦争に勝利したと声高に宣伝して回ったのだが……。


 実際に戦争に参加した騎士達の口づてに、ゴールドハルト辺境伯の名前は既に王都の住人達の間には広がってしまい。

 今や王国中のほとんどの街にまで、辺境伯の噂は広がってしまっていた。



 モノリス家としては、それだけでも自分達の名前に泥(どろ)を塗られるような出来事であったというのに。

 まさか王宮主催の舞踏会に参加する、大行進(パレード)においてまで。またその忌々(いまいま)しきゴールドハルト辺境伯の名前を聞かされる事になるとは、思ってもいなかったのである。



「……ぐぬぬ、なぜだ!? 成り上がり貴族に過ぎない辺境伯が、格式高いライラック王家が主催する舞踏会にどうして参加しているのだ!? おい、誰か事情を知っているものはいないのかッ!」



 茶色い毛先がカールした髪型に、貫禄のあるふくよかな体型をしているザハル・モノリス公爵が馬車の中から大声で彼の執事達に対して怒鳴り声をあげる。

 

 一度、怒りの導火線に火のついたザハル公爵が手に負えない事を……彼に仕える執事達はよく知っていた。その為、執事達は慌てて公爵に対して、今回の舞踏会の参加者リストを調べながら返答する。



「ザハル様。今回の王宮主催の舞踏会には、元々ゴールドハルト辺境伯は招待されていなかったようでございます」


「――何? ではなぜあの田舎者は、我ら爵位の高い貴族しか参加の許されぬ大行進(パレード)の最後尾に、ノコノコと亀のようについてきているのだ! 無許可で参列しているのなら、王家に対する侮辱罪だけでは済まぬぞ! あれだけの数の騎士団を引き連れてきているのだ! 国家反逆を企てた罪で即刻、奴を捕らえて西の『監獄島』にでも送り込んでしまえッ!!」


「な、なりません……ザハル様! 今、ライラック王家の者から連絡が入りました。どうやらゴールドハルト辺境伯は、次期聖女候補のシシリティア様からの推薦があり。それを認可したエルムハルト国王によって、正式に舞踏会に参加出来る招待状を貰い受けているそうです!」


「エルムハルト国王陛下の招待状だと? ぐぬぬ……それは一体、どういう事なのだッ! 我が息子のソレイユとの婚約が決まっておるシシリティア様がなぜ、あのような地方の田舎者に対して、舞踏会への推薦を願い出たというのだッ!」



 ライラック王国の中で最も権勢のある有力貴族、ザハル・モノリスの怒りはしばらく収まりそうになかった。


 そんな彼の怒りなど、全く素知らぬ顔で。王宮へ向かう貴族達の大行進の最後尾を進み。


 煌びやかな黄金の騎士団を率いている『ゴールドハルト辺境伯』の知名度は……。否(いや)が応(おう)でも、王都パルティンに住まう人々の間に拡散されて広まっていくのであった。

 

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― 新着の感想 ―
>ザハル・モノリス公爵  予断は禁物だけど……この人物もこの先気の毒な事になりそうですね。
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