初めてのお泊まり11
シャワーの音を聞きながら、ぼんやりソファに座っていると――
ガチャッ。
お風呂場のドアが少しだけ開いた。
「太一ー。」
「ん?」
「ごめん、タオル忘れた。」
「あっ。」
洗面所を見ると、畳まれたバスタオルが一枚置いてある。
「これ?」
「それそれ!」
俺はタオルを手に取り、お風呂場の前まで歩いた。
「開けるよ?」
「ちょ、ちょっと待って!」
中から慌てた声が聞こえ、思わず笑ってしまう。
数秒後。
ドアが五センチほど開き、白く細い腕だけがひょこっと伸びてきた。
「はい。」
タオルを渡すと、その腕が俺の手首を軽く掴む。
「……ありがと。」
「どういたしまして。」
「……覗こうとせんかったね。」
「するか!」
即答すると、お風呂場の向こうからクスクスと笑い声が聞こえた。
「合格。」
「何の試験やねん。」
「彼氏試験。」
そう言って、また笑うマキナ。
その笑い声を聞いているだけで、今日一日の嫌な出来事が少しずつ消えていく気がした。
それから十分ほど経った頃。
再びガチャッとドアが開く。
「太一ー。ちゃんといるー?」
「いるよー。」
そう返事をすると、マキナは体にバスタオルを巻いたまま、お風呂場から出てきた。
思わず目のやり場に困る。
(見ちゃダメだ……。)
そう自分に言い聞かせながら、
「じゃあ、俺もお風呂入ってくるね。」
そう言って横を通り過ぎようとした、その時だった。
ぎゅっ。
突然、マキナが後ろから抱きついてきた。
あまりに突然のことで、一瞬何が起きたのか分からない。
振り返ると、マキナの肩が小さく震えていた。
「……マキナ?」
そっと抱き返しながら声をかける。
「どうした?」
返事はない。
ただ、俺の胸に顔を埋めたまま、マキナは静かに震えていた。
震えている体を抱きしめながら、俺は後悔した。
風呂場で一人になって、お父さんのことを思い出したんだろう。
そう考えると、震える理由なんて聞かなくても分かった。
「一緒に入る?」
あの一言は、いつもの冗談なんかじゃなかった。
あれは、マキナなりのSOSだったんだ。
それを俺はいつもの冗談と思い軽く流してしまった。
ゴメンな…。
独り言のように呟く。
マキナは抱きしめる手を強めて、震える声で
「……太一、抱いて。」
その言葉の意味は、すぐに分かった。
求めていたのは体じゃない。
「大丈夫。」
そう言って、俺はもう一度強く抱きしめた。
「今日は、ずっとそばにいる。」
マキナは小さくうなずき、俺の胸に顔を埋めた。
その小さな温もりを感じながら、俺は心の中で静かに誓う。
もう二度と、この人を一人で泣かせない。




