初めてのお泊まり10
マキナの家に着くと、俺は少しだけ緊張していた。
「どうぞ。」
そう言ってドアを開けたマキナは、照れくさそうに笑う。
「散らかっとるけど、あんまり見んでね?」
「いや、そんなこと言われたら逆に気になるって。」
「もう!」
そう言いながら軽く肩を叩いてくるマキナ。
さっきまで泣いていた人とは思えないほど、いつもの笑顔が戻っていた。
部屋へ入ると、ふわっと甘い香りがした。
「適当に座っとって。今、お茶入れるね。」
そう言ってキッチンへ向かう後ろ姿を見ながら、俺は小さく息を吐いた。
(本当に……泊まるんだな。)
さっきまで車の中で後悔していた俺は、今度は違う意味で緊張していた。
マキナがお茶を入れてくれ、二人でソファに腰を下ろした。
「今日は楽しかったね。」
「うん。ジェットコースターで高所恐怖症って知った時は笑いそうになったけど。」
「笑っとったやん!」
「バレた?」
二人で顔を見合わせて笑う。
遊園地で撮った写真を眺めながら、思い出話に花を咲かせた。
お父さんの話だけは、お互い何も触れなかった。
マキナは欠伸をしながら、俺の肩にそっと頭を乗せた。
「……太一。」
「ん?」
「汗臭い。」
思わず耳を疑った。
(いや、さっきまでめちゃくちゃいい雰囲気だったよな?)
(このままキスでもする流れじゃなかったのか……?)
そんな期待をしていた自分が少し恥ずかしくなる。
ご…ゴメン…
遊び過ぎて汗かいたわ…
と言うと、
お風呂入ってきなよ。今、準備するね!
と言い、止めるまもなくお風呂場へ向かっていた。
ほんの少しだけ期待していた俺は、苦笑いを浮かべながらマキナの背中を見送った。
……やっぱり、そんなに甘くはないか。
「私も汗かいてるし、先にシャワーだけでも浴びていい?」
少し間を空けて、マキナは振り返る。
「……それとも、一緒に入りたい?」
悪戯っぽく笑う声だけが聞こえた。
顔は扉に半分くらい隠れて良く見えない。
でもきっと、ニヤニヤしてるんだろう。
「先に入っといで。」
あえて、マキナが期待していたであろう答えとは逆を返す。
「えっ?」
今度は本当に驚いたような声が聞こえた。
「断るん?」
「からかっとるだけやろ?」
そう言うと、マキナは少しだけ頬を膨らませて笑った。
「……ちぇっ。バレたか。」
「じゃあ、お先。」
しばらくするとシャワーの音が部屋に響き始めた。
ソファに一人残された俺は、天井を見上げながら大きく息を吐く。
「……危なかった。」
付き合う前なら、仕事として何度も見てきたはずなのに。
恋人になった今は、その頃とはまるで違う。
好きだからこそ、どうしていいか分からない。
そんな自分に、思わず苦笑いがこぼれた。




