夏の舞踏会
【冬樹の部屋】
再生数が伸びている。
前の動画の倍。
やっぱり、春の効果は大きかった。
「夏はどんなダンスにするつもりなんだ」
冬樹の問いに、夏は少し考える。
夏『春の動画の後、と考えますと。
舞踏曲が映えますわね』
でも、と秋の方を見る。
夏『秋のダンス次第ですわ』
夏の視線に、固まる秋。
夏『あなた、まさか』
秋が焦ったように告げる。
秋『わかりました。踊ればいいんでしょう』
セットの中央に秋が立つ。
鳴らされる音楽。
「これって、ロボットダンス?」
冬樹の疑問形。
カクカクとしたその動きは。
過去に流行ったことのある動きだ。
夏『これはこれで、演出次第で映えますわよ』
夏が、ペン先で編集線を出そうとする。
そこに秋の指示棒が飛んできた。
一気に、消える線。
残されたのは、タイトルのみ。
秋『公開の必要はありません!
…いいですね?』
秋の迫力に、頷く夏。
隣で思わず同じように頷く冬樹。
癒しの設定どこいった?
いや、こうやって顔を真っ赤にして。
恥ずかしがるのもアリ?
冬樹が新しい扉を開きかけたところで。
春『動画、どうする?』
マイペースな春の声。
夏『とりあえず、私が先ですわね』
コホンと咳払いをした、夏。
冬樹は秋の方をチラリと見る。
秋はすでに通常運転に戻っている。
それが、少し残念に思う冬樹。
春『舞踏曲といえばお城?』
春の認識に冬樹も同意したい。
ただ、問題がいくつかある。
「どうやって作る?
ホログラムなら容量ありそうだけど」
この前のいかにも手作り感と違って。
夏は美意識が高い。
下手なことをして、怒りを買いたくない。
夏『ホログラムにホログラムでは。
薄っぺらいものにしかなりませんわ』
なのに、夏はあっさり却下。
「じゃあ、どうしろと?」
当然、冬樹たちに予算はない。
秋『なら、影絵はどうでしょうか』
それまで静かだった秋。
ノートを調べていたようだ。
「影絵なら透かしの部分に。
ホログラムでも変じゃない」
冬樹自身も言われるまで忘れていたノートだ。
改めて、ノートを見直す。
春『紙芝居風なのが良いね』
これは、高校の時の美術の宿題だった気がする。
設定を凝りすぎて、作る間がほとんど無かった。
そんな過去の記憶がよみがえる。
でも、ここで使えたからヨシとしよう。
夏『元絵を出せばよろしいのね?』
それは、夏に任せたい。
どの部分を切り抜くかとか。
裏に貼る段ボールを取りに。
冬樹がバイト先まで走る。
などのごたごたはあったものの。
無事に、舞台が整った。
影絵を動かすのは、春と秋。
やがて、音楽が始まる。
1分の制約。
相手役の王子は影絵。
なのに三姉妹にかかれば。
2人の世界にも見える。
そして、ラスト。
少しの間。
2人のシルエットが重なる。
冬樹は、慌てて口を押さえる。
ここで声を出せば。
今度は夏に怒られかねない。
秋『規定の時間です』
秋の定型文に詰めていた息が漏れる。
春『夏、台本にない動き!』
春がぷりぷりしている。
夏『余白を埋めただけですわ』
夏は悪びれていない。
判断は冬樹次第。
確かに、余白だった部分。
「規約は?」
やっとのことで、絞り出す声。
秋『想像は自由ですから』
違反にはならないらしい。
「なら、これで」
アップロード画面を見つめながら。
サポートキャラってこういうのだっけ?
三姉妹自由過ぎないか?
今更ながら、冬樹は思った。
【スマホのなか】
春『もう、夏』
春の怒りは収まらない。
自分の時は、散々文句を言いながら。
何故、自分が良いのか。
夏『春の爆破と同じ』
あれは、演出に必要だったから、と春。
そんな2人を、秋がまあまあとなだめる。
夏『それよりも秋、あなたどうするの?』
春も、自分が怒っていたことも忘れて秋を見る。
秋『問題ありません』
秋がそういうからには、何か策があるのだろう。
夏と春は、気にしないことにした。
【冬樹のバイト先】
冬樹がバイト先に着くと。
何故か、店長が鼻歌を歌いながら。
ぐるぐる回っている。
「ここ、なんで滑らかに動けるんだろう」
店長、何か習い事でも?
冬樹は、そっと店長から目を逸らした。
ただ、店長。
その大きな体でどたどた動くと。
店の商品が心配なんですが。
でもまあ、困るのは店長自身か。
そう思いなおした冬樹。
「何かあったら声を掛けてください」
それだけ言って、休息室に逃げ込んだ。




