春のダンス
【冬樹の部屋】
「次はダンスだと思う」
再生数は、もう少しで20に届きそうなところ。
冬樹は1冊のノートから1ページを開く。
そこには、“ダンスバトル”とでかでかと書かれている。
たぶん、中学生のあたりでダンスバトルの動画をみて。
面白くて勢いで書き上げたもの。
ちなみに冬樹にダンスの才能はないので。
お蔵入りになった企画の一つでもある。
「三姉妹でダンスをして戦うんだ」
冬樹には審査の方法がわからない。
でも、三姉妹とならなんとかなる気はする。
夏『ダンスといっても色々ありますわよ』
夏の指摘も正しい。
「そこなんだよな」
3人とも系統が違うダンスを踊りそうな気がする。
それに、秋が目を逸らしているということは。
秋はダンスが苦手なのかも知れない。
いや、まてよ。
それなら、3人で盆踊りという手も。
と冬樹の思考が沈みかけたところで。
春『ダンスならまかせて~』
案の定、一番に手を上げた春。
机のちょっと開けた場所に立つ。
始まる音楽。
雰囲気は、ヒップホップらしい。
音楽に合わせて、ノリノリでダンスする春。
そして、くるっとターンをして決めポーズ。
春『どう?』
そうか、ピンクなのか。
じゃなかった。
「却下」
冬樹は、即座に思考を切り替える。
えー。とむくれる春。
秋『規約違反の可能性があります』
無機質に告げる秋。
きょとんとする春。
気づいてないのは本人だけだ。
冬樹は心の中で突っ込んだ。
夏『春、ダンスをやるなら。
着ぐるみでやりなさい』
夏が、扇で顔をぱたぱたさせながら告げた。
「確かに着ぐるみなら問題ないな」
ノートに書き込みを加える冬樹。
ついでにダンスバトルを消して。
“得意なダンス”
に書き換える。
これなら、審査の必要もない。
夏も頷いているから問題もない。
秋は、変わらず反応が薄い。
それは、それとして。
ふと思いついたように、隅に絵を描く。
「ステージもそれらしくしないか?」
冬樹の提案に、絵を見た三姉妹が頷く。
三姉妹の指導の元、冬樹が小道具を作り。
やがて。
画面中央で着ぐるみを着た春が立っている。
奥には、消しゴムの椅子に座った夏と秋。
雰囲気は、さながら昔の教育番組のようだ。
春『みんな~。春だよ。
元気を届けにきたよ』
そして、鳴らされるミュージックに合わせて。
春が元気よく跳ねる。
先ほどの普段着と違って着ぐるみなので。
動きも少し大胆になっている。
そして、ラスト。
くるっとターンに見せかけて、バク宙。
春『以上、春でした~』
拍手で終わる動画。
秋『時間ちょうどです』
秋の定型文が聞けてほっとする冬樹。
動画もいつもより丁寧に確認する。
「これなら、問題ない」
規約的にも問題なさそうだ。
夏『最初の予定と少し違いますけど。
冬樹が良いなら問題ないでしょう』
夏の許可も下りたので、
アップロード画面に移行。
夏と秋はどんなダンスをみせてくれるのか。
【スマホの中】
春『おかしいなあ』
最初の自分のダンスが却下された理由に。
春はまだ納得ができていないようだ。
夏『普通なら、規約違反の行動は取らない』
夏もそこは同じ疑問を思ったようだ。
秋『バグというより、抜け道に近い気がします』
秋の分析結果。
春『なるほど。条件が重なったのね』
春はそれで納得が出来たようだ。
それでも夏に疑問は残る。
夏『春、指示と違う行動をしていなかった?』
指示に無い行動であれば、問題ない。
補完すればいいだけのこと。
でも、春の最後のバク宙は違うはず。
“くるっとターンをした後に、笑顔で決めポーズ”
冬樹のノートには、確かにこう書いてあった。
春『回転だから、縦でも横でも問題ないよね?』
春の言い分はそうかも知れないけど。
指示を出した冬樹が許可したら問題もないけど。
夏の中では、納得がいかない。
【冬樹のバイト先】
今日は、店長の動きがおかしい。
どこかそわそわしている。
「夏が楽しみだねえ。秋はまだかな」
季節はもうすぐ夏。
店長、どこかに旅行にでもいくのだろうか。
「お店、休むなら早めに言ってくださいね」
冬樹のバイトの都合もあるので、そう告げる。
「いや、どこにも行かないよ。
春が楽しかったから、夏と秋も楽しみだなと」
店長、最近やけにイキイキしている。
奥さんといいことがあったのかも知れない。
最初、ここでバイトを決めた時は。
出会いに期待もした。
でも、お店に来るのは。
話し相手を求める年寄りが中心。
たまに、女性がきても。
誰かと待ち合わせがほとんど。
その女性たちが。
相手との会話ですら、サポートを通じて行う。
そんな光景を何度も見ていると。
出会いすらどうでも良くなっていたのも確か。
でも、俺も最近楽しいからいいですけど。
これで、動画作成がなかったら。
いじけていたかもしれない。




