三姉妹、参上!
【冬樹の部屋】
全員が、スマホを見つめて固まっている。
「コメントだよな?」
春『ピンクの子可愛いね。だって』
ほっぺに手を当てくねくねする春。
秋『この子達名前はなんていうのだそうです』
三姉妹が冬樹を見る。
「最初の動画を見た人がコメントした。
そういう訳ではなさそうだな」
再生数は変わらず一桁。
少なくとも数人には見られている。
冬樹としては最初の動画で。
三姉妹を紹介したつもりだった。
でも、文章で紹介したものと。
映像で見せられたものが。
同じものとして結びつかないとは考えない。
困った三姉妹が集まる。
春『別の動画だと思われているよね。これ』
春の確認に2人が頷く。
夏『今さら普通に名前を言っても、面白くありませんわよ』
夏の言うことはもっとも。3人で頷く。
秋『名札を付けるのもおかしくありません?』
秋の意見も正しい。
やっぱり、三姉妹では決められない。
助けを求めるように冬樹を見る三姉妹。
「もしかして、紹介動画が必要か?」
冬樹は、やっとそこに気づいた。
「ネタ帳から探すか」
皆で手分けをしてノートを探す。
春『決めポーズは?』
春が提案したのは。
冬樹が小学生の頃に、昔の戦隊モノに憧れて書いたもの。
“俺、参上!”
タイトルもその頃に引きずられているようだ。
書いた当時の記憶はほとんどないが。
夏『もう少しエレガントに出来ません?』
夏は乗り気では無さげ。
秋『セリフ次第で使えそうではあります』
秋もあまり気が進まないようだ。
冬樹が書いていた絵は、1人。
そこから、背中合わせの2人を後ろに書き足す。
セリフも書き込み。
「あとは、春の動きを見てから考える」
これまでの経験から、少し学習した冬樹。
春『じゃあ、やってみるね』
夏と秋は顔を見合わせる。
しぶしぶといった体で春の後ろに背中合わせに立つ。
冬樹が録画ボタンを押す。
春『私たち』
春の掛け声に合わせて。
小さくせーので合図。
全員『机の上の三姉妹です』
春がカメラの前に駆け寄る。
春『可愛い担当の春だよ』
手を振りはけた春の後ろから夏が登場。
夏『ビジュアル担当の夏』
くるりと回転した夏の後ろから秋。
秋『癒し担当の秋です』
秋の声は、いつもより小さくやや早口で。
言うだけ言うと、ささっと元の場所に戻る。
全員『私たちでお送りします』
背後にチュドーンと爆発。
そして、少しレトロな文字と映像で。
三姉妹のプロフィールが。
エンドロールのように流れる。
「これ、大丈夫か?」
動画を確認しながら、冬樹。
秋『規定時間です』
秋は定型文で。
夏『もう少しエレガントな演出が必要?』
夏は、少し物足りなそう。
春『もう少し、爆破させる?』
春はやる気に満ち溢れている。
冬樹はしばらく考える。
自分の設定から外れてはいない。
そう、爆破さえなければ。
春『戦隊ものと言えば、爆破でしょ?』
確かに、これはこれでインパクトがある。
「今回はこれでやってみて。
ダメなら別の案だな」
アップロード画面を皆で眺める。
冬樹は、動画を作るのが少し楽しくなって来た。
【スマホのなか】
秋『何故、私が癒しなんでしょう』
出した本をしまいながら、秋の疑問。
夏『そう言われれば面白いわね』
夏も、扇をゆらしている。
それは、興味があるときの合図。
春『単に思いつかなかったとか』
春の推測はあながち間違っていない。
夏『その割に、変な設定が細かかった。
そのせいで、秋が身動き取れなかったでしょう?』
それは、事実ベースの話。
秋『謎ですよね』
秋の中では、一つ推測できたことがある。
それは、冬樹のプライベートにかかわる話で。
口に出すべきではないとは思うものの。
それなのに、3人から選べないという矛盾もある。
本当に、人の心はわからない。
【冬樹のバイト先】
今日も、店長は機嫌がよさそうだ。
「お、春樹じゃなかった。
冬樹君。これお願いできる?」
店長が名前を呼び間違えるなんて。
珍しいこともある。
冬樹は首をひねりながらも。
店長の元へ行く。
「いやあ、久しぶりに出そうと思ってねえ。
僕のコレクションなんだけど」
店長が奥の倉庫から出してきたものは。
戦隊もののフィギュア。
「こんなの、俺知りませんよ?」
戦隊ものにシリーズがあることは知っていた。
冬樹が知っているのは。
その中でも人気があった作品のみ。
「このあたりは、僕のおじいちゃんだねえ。
このへんは、僕のお父さんかな」
そう言いながら仕分ける店長。
やっぱり区別がつかない。
「ピンクの子が可愛い女の子が担当だったから。
毎回、それが楽しみだったんだよ」
店長のそんな話は、どうでもいい気がする。
「じゃあ、店に戻りますね」
頼まれた段ボールを休息室に置くと。
冬樹はそそくさと店内に戻った。




