カップ麵は必要か
【カップ麺は】
春『じゃあ、撮影だね』
春がカメラの位置を調整している。
しばらく画面の反対側の冬樹と攻防。
画面は、祝!視聴者2名の垂れ幕と
カップ麺との間を行き来している。
軍配は、冬樹にあがったよう。
春『始めるよ?』
アップの春の掛け声とともにRECランプが点灯。
春が駆け寄って行った先にはカップ麺。
昨日とは違い、封は切られていない。
そのカップ麺に腰掛けているのは、夏と秋だ。
軽快なジャンプでカップ麺に飛び乗る春。
そして、小さくせーのの掛け声。
全員『私たち、机の上の三姉妹です』
まず、秋が立ち上がり軽くお辞儀。
秋『今日は、私たち三姉妹で。
冬樹さんのような男性になぜ必要なのか。
カップ麺の必要性について検証したいと思います。
まず、成分について』
手を叩いた秋の横に、成分表のパネルが現れる。
夏『成分表だけでは分かりませんわよ』
夏のツッコミに秋も頷く。
秋『成分表を見る限り、必要性は感じられません』
そこに反論するように、春が立ちあがる。
春『わかるよ。あの冬空に染み入る暖かさ』
腕組みし、こくこく頷く。
春『人恋しい夜にこそ、あの温かさが必要なんだよ』
さも、判っているかのように力説する。
その背後に夏が立つ。
夏『春、あなた食べられないでしょう』
扇で軽く頭をペシン。
春『おあとがよろしいようで』
終了の文字と共に消える画面。
その後、動画を確認をする冬樹。
「なあ、あの横断幕のシーンいるか?」
冬樹の問いに。
春『えー』
春が真っ先に反発。
夏『いいんじゃない?』
夏も、春の意見に賛成なようだ。
秋『時間もピッタリです』
秋まで春の味方をすれば、冬樹に勝ち目はない。
諦めたように、動画アップを始める冬樹。
「これで伸びるはず」
バイト代を全て注いだ成果が少しは出て欲しい。
冬樹にとって、もうこれが。
ライフワークになりつつあるのだから。
【スマホの中にて】
夏のテーブルに3人で集まる。
空間が拡張されたおかげで。
こういうことをする余裕もできた。
夏『これで、少しはマシなんじゃない?』
優雅に紅茶を飲みながら、夏は満足げだ。
春『冬樹、喜ぶかな』
片手にはコーラのペットボトル。
机に置いたスナック菓子を食べながら。
春も満足そうだ。
ほかのサポートキャラにはない動き。
三姉妹なら自然にできるもの。
その価値に気づけば大きい。
秋『冬樹さんは気づかない気がします。
見る人が見れば気づくと思いますが』
秋は、両手に持ったマグカップを。
軽くふうふうしている。
夏『コーヒーじゃなく“ほっとココア”。
しかも、猫舌なんて設定はいれているのにね』
夏の視線に、秋が苦笑いで答える。
春『ほかのサポートキャラ見ないと。
確かに気づかないよね』
冬樹自身は無意識なんだろう。
動画を作り始めてから、他の動画を全く見ていない。
夏『せっかく、特別サービスで見せてあげたのに』
言葉の割には、夏は気にしていない。
感情を持って喋るシステムは。
今のところ、この世界では存在していない。
この事実に、誰が一番先に気づくのだろうか。
【冬樹のバイト先】
冬樹が休息室の前を通ると。
聞こえるのは店長の笑い声。
冬樹の姿を見つけると慌てて通話を切った。
「何かあったんですか?」
似た光景をこの前も見た気がする。
「いや、ここまで楽しい設定にするには。
どうすれば良いか、家内と話していたんだよ」
店長の奥さんって、自分の前任だったはず。
子育てに忙しくなったから。
冬樹を雇うことにしたと聞いた気がする。
「で、何か面白いことあったんですか?」
店内に人影はない。
何かあればわかるはずと、冬樹は店長の前に座る。
「お金のない人間ほど、面白いことを思いつく。
わかったのは、それだけだけどね」
そう言いながら、冬樹の手にカップ麺を握らせる。
「これ、何ですか?」
意味のわからない冬樹。
「夜食にでもしなさい」
貰えるものはありがたいので貰う。
だけど。
店長は時々意味のわからない行動をするから。
油断は出来ない。




