バイト代の使い道
【冬樹のバイト先】
「冬樹くん、そろそろ交代の時間だよ」
店長に言われ、顔を上げる冬樹。
ちょうど入ったバイト代で。
どこに使うべきか悩んでいたところ。
そんな冬樹のスマホ画面をチラリと見る店長。
店長も冬樹の趣味を知っている。
面接のときに、その話で採用が決まった経緯もある。
だから、見られることに問題はない。
それに、店長からいい案貰えないかという考えもある。
「キャラの設定か」
そう言いながら、スマホを取り出し机の上に置く。
「キャラの性格設定は細かくしすぎない方がいいよ。
その分容量を拡張した方が面白いキャラになる。
自分の思い通りにしか動かないとつまらないだろ?」
そして、おもむろにカップ麺にお湯を注ぐ。
なるほど。
店長は、色々試したはずだから参考になる。
それに、動画を作る容量も欲しい。
冬樹はスマホの画面を見る。
バイト代から考えると。
全て拡張に回した方がよさそうだ。
「よし、じゃあこれで」
冬樹は課金ボタンを押し、自分のスマホを仕舞うと。
休息室を後にした。
【スマホの中】
春『広くなった?』
春が辺りを見回すと、明らかに広くなった部屋。
夏『やっと寛げる』
夏がティセットに、ケーキスタンドを取り出す。
さっきまではカップすら置けなかった。
秋『どうやら、出た給料。
全て拡張に注ぎ込んだみたいですね』
後で、後悔しないと良いのですが。
というつぶやきは小さい。
夏『と言う訳で、秋から預かっていた本を返す』
夏が秋の方に預かっていた本を戻す。
春も、それにならって秋の元に本を戻す。
秋、『あの、何故漫画本と美術書に?』
秋が首を傾げる。
秋の手元にあった時は、辞書だったはず。
なのに、本が移動している間に何が起きた?
春『さあ?』
そう言いながら、春の目は泳いでいる。
夏『あれでは、判りづらいから』
夏は、全く悪びれていない。
様子からして、2人の手元にある間に。
中を読んで学習したのは間違いない。
秋『仕方ありません。このまま使います』
これが、吉と出るか、凶と出るか。
この時点では、予想がつかない。
【冬樹の部屋】
“再生数2”
冬樹の目がぱちぱちとなる。
春『やったね!』
いつの間にか、消しゴムの上には。
祝!再生数2の横断幕が。
「もっと伸びると思ってた」
その一言に、三姉妹の動きがピタッと止まる。
秋『確かにこの手の動画は。
いきなり数字が伸びるものではありません』
春が、手を挙げる。
春『だから、ドッカーンが必要だって』
春が言い終えるより先に。
パシンと扇の閉じる音が響く。
夏『ビジュアルですわ』
夏のツインテの髪がくるくると渦巻き。
怒りのゲージに合わせてドリル型に変わっていく。
あれ?こんな設定したっけ?
冬樹が考えるより先に。
夏『動画は、ビジュアルが命。
9割がビジュアルと言っても過言じゃありませんのよ。
なのに、貴方』
冬樹の方を扇でビシッとさす。
夏『顔はまあ、出さないから良いとして。
この薄汚れたヨレヨレのTシャツ。
これで、視聴者が付くとお思い?』
横で春が耳を塞ぎ。
聞こえない聞こえないと首を振っている。
冬樹は、思わず秋を見る。
秋『夏の言いたいのは、映えの話しです』
冬樹は、自分の着ている服を見る。
給料は既に使い込んだ。
そのことに、後悔はない。
でも、新しい服を買うほどの余裕もない。
服は支給されるもののみ。
冬樹の中ではそう決めていた。
三姉妹と、自分の服をなん度も見比べる。
やがて、名案を思いついたとばかりに。
「なら、お前らがやったらいいんじゃ?」
冬樹の理想を詰め込んだ三姉妹なら。
どうこう言われる筋合いもないし。
ちょっとだけ人に自慢したい気持ちもある。
三姉妹が顔を見合わせて、円陣を組む。
春『面白そう、やろう!』
夏『まあ、ビジュアルでは間違いありませんわね』
秋『ちょっとお待ちください。規約を確認しませんと』
秋の手の分厚い辞書が高速で捲られる。
秋『我々の設計は、ほぼ主様が主体。問題はなさそうです。
実際、ちらほらとではありますが。
サポートキャラが出演する動画が出てきていますね』
秋の言葉に、ほっとする冬樹。
春『でもね、問題が一つあるの』
胸の前で人差し指の先をちょんちょんさせながら。
春が上目遣いでつぶやく。
春『私たち、カップ麺食べられないよ?』
冬樹は、目の前のピンク、緑、茶のホログラムを見る。
普通に話しをするから、肝心なことを忘れていた。
「演技だけでもできないか?」
冬樹の言葉に。
春『すり抜けちゃうよ』
やれやれと言った感じの春。
夏『視聴者にはすぐバレますわ』
まだ怒りが収まらないのか、ツインテとドリルの髪を。
いったりきたりしている夏。
秋『お勧め出来ません』
秋は、やっぱり即答で返ってくる。
「じゃあ」
冬樹は、ノートの新しいページを開く。
そこに力強く“カップ麺の解説動画”と書き込む。
そのあと続けて、3人の役割を書き込む。
「これならどうだ?」
三姉妹が頷く。
これなら、三姉妹の良さをいかしつつ。
動画に落とし込むことができる。




