独身男にはカップ麺
【自虐ネタ】
「じゃあ、次は何をすればいいんだ?」
冬樹にとっては、未知の世界。
ここは、知っていそうな三姉妹に聞くに限る。
秋『定期的に動画をあげるのが最適かと』
夏も頷く。
夏『今の状況でも。あと、動画数本ならたえられる』
春は、冬樹の頭の上で何をしているのかわからない。
春『動画、100本必要だもんね』
ん?100本必要?
夏『動画バトルに出すのよね?』
ん?動画バトルに出す?
秋『出場しますよね?』
まて、いつの間にそんな話をした?
春『俺の方が、もっと良いネタ持っているって言ったよね』
それは、言った記憶がある。
夏『動画を作るのが難しい』
それは、言ったような気がする。
秋『素材は、100本分以上あります』
冬樹はノートの山を見る。あるかも知れない。
「で、何故動画バトルに出場になるんだ?」
三姉妹が、そろって首を傾げる。
間違いなく話が、噛み合っていない。
「要するに、動画バトルに出すメリットは。
出場して優勝を目指す以外にも。
有料チャンネルの投稿者は、自分のサイトの宣伝。
投稿初心者には、見てもらえるチャンスにもなると」
三姉妹が頷く。
秋『もちろん、同様に考える方はたくさんいらっしゃいます。
出してもすぐ埋もれる可能性も否定できません。
それは、普通に出しても同じこと。
でも、1分の動画を100本作る。
この工程に主様のデメリットは存在しません』
確かに、デメリットらしいデメリットはなさそうだ。
となると、次は何を作る?
三姉妹の説明はした。
次にするべきは自分のことを伝えるべきか。
「とりあえず、自虐ネタから入るか?」
皆でノートの前に集合する。
秋『自虐ネタそのものは、問題ありません』
頷く三姉妹。
そして、山積みのノートの中から、1冊を抜き出す。
ノートの表紙には、
“自虐ネタ集No.7”
の字がデカデカと書かれている。
その中の1ページ目。
独身男にはカップ麺のタイトルを指し示す。
秋『問題は、それとカップ麺をどう繋ぐかです』
空中に、ホワイトボードが浮かび、解説を続ける。
春は猫の着ぐるみのまま、正面に正座で。
夏は、いつの間にか長椅子に興味無さそうに腰掛けている。
冬樹は視線だけで、ホワイトボードを確認する。
そこには、“脱!視聴者1”とデカデカと書かれている。
冬樹は、そっと視線を外した。
秋『と言う訳で、何か良い案ありますか?』
春がはいっと元気良く手をあげた。
春『こう、エフェクト足して。
音も足せば良いんじゃない?』
春の指が描き出したのは。
夏『それ、何も見えませんわよ?』
ピンクのハートやら。
ビックリマークやらで。
埋め尽くされた画像。
秋『何故、カップ麺が爆破されるんですか?』
ラストで、何故か爆発するカップ麺。
春『ダメ?』
ウルウルとした瞳で、冬樹を見る春。
「さすがにダメだろ。それは」
へちょっとなる春。
着ぐるみの耳も尻尾も同じようにへちょっとなる。
「でも、方向性は合ってる気がする」
春の目がキランと光り、尻尾もピンっと立った。
「要するに伝わる音と映像。
それが大事なんだよな」
ノートにさらに書き込む冬樹。
やがて。
春『よーい、アクション』
カメラの前でサングラスを掛け、監督になり切る春。
カメラの前には。
メーカーがわからないようにモザイクは掛かったものの。
明らかにカップ麺とわかるものが。
湯気を立てて鎮座している。
それをおもむろに取る冬樹。
冬樹の映像は、首から下。
カメラは固定された状態。
そして、
「いただきます」
の声と共に、食べ出す冬樹。
カメラは、カップ麺を中心に。
手元もほとんど映っていない。
ずずーっと麺を啜る音だけが辺りを支配する。
「独身男には、カップ麺」
そこで、映像が終わる。
秋『規定の1分丁度です』
秋の手には、ストップウォッチが握られている。
春『ねえ、ドッカーンは?』
まだ、春はドッカーンを諦めていない。
夏『必要ですの?』
チラリと冬樹の方を見る夏。
冬樹の反応はない。
ならば。
夏『でも、どうしてもと言うなら。
この、ずずっと言う部分。
ここを高速で回せば…』
ペン先で、縮めようとする夏に。
春『これでドッカーンが入るね!』
ニコニコと肩を回して準備万端の春。
「まて、この余韻が大事なんだよ」
冬樹が、慌てて停止に入る。
全員『えー』
冬樹が、ノートを指し示す。
そこには、独身男の悲哀を表す音と書かれている。
「ほらここ。ここが、独身男の悲哀と言うか。
どうしても必要なんだ」
言いながら泣けてくる冬樹。
春が腕を組み、わかるわかると頷いているが。
さっきの様子からして、本当にわかっているかは怪しい。
夏は、そっぽを向いている。
秋が、場を立て直すように眼鏡を直した。
秋『これで、完成でよろしいですか?』
冬樹は力強く頷いた。
そして、送信ボタンを迷いなく押す。
「これで、ネタの良さが世間に知られるはず」
自信満々の冬樹とは対照的に。
三姉妹の表情は微妙なものだった。
【スマホの中】
春『冬樹の動画、再生されると思う?』
布団の中で、コロコロ転がりながら春の問い。
夏『正直、厳しいかな』
冷静に答える夏。
秋『でも、主様。
作る喜びに溢れていました。
その点は評価すべきかと』
秋も再生されるとは言わない。
春『そうだね』
3人で思う。
もう少し、拡張してくれれば。
本来の自分達の力も、もう少し発揮出来るのに。
冬樹のバイト代が入るのは、明日。




