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働くということ

【初仕事を終えて】

春『冬樹、バイトに行ったね』

パジャマ姿の春。

いつの間にか、布団が敷かれている。

夏『初めてならこんなもの』

夏もベッドに向かっている。

秋『私にどうやって寝ろと?』

秋は相変わらず、身動きが取れない。

春『一緒に寝る?』

春の提案に首を振る秋。

秋『混ざるリスクがあります』

春も、それに思い至ったようだ。

春『じゃあ、どうしよ』

夏に助けを求める春。

夏『本の一部をよこしなさい』

仕方がないわねと言いながら。

夏は本の一部を抜き出す。

春『じゃあ私も』

同じように、本を抜き出す春。

秋『こっちが優先で』

秋も優先順位をつけ、2人に渡していく。

やっと、秋が寝られるスペースを確保。

秋『拡張は、早急にお願いしないと』

じゃないと、皆混ざってしまいます。

秋の切実な願いは。

バイト中の冬樹に届くのだろうか。


【冬樹のバイト先】

冬樹が休息室に入ると、聞こえるのは店長の笑い声。

冬樹の姿を見つけると慌てて、画面を伏せた。

「何かあったんですか?」

店長は、ポケットにスマホを入れる。

入れ替わるように休憩室を出ようとする。

「ちょっと面白い動画を見つけてね」

そのまま機嫌良く、仕事に戻っていった。

冬樹は首を捻りながら、休憩室に入る。

手には弁当がある。

ここのバイトの良いところは。

仕事の時間内であれば。

店の商品の何を食べても良いという点。

生きるための保証としての食事。

それは、働かなくても得ることが出来る。

ただし“働く=自由”という世界。

自由に弁当を選ぶというのは、ステータスでもある。

冬樹のように、自分の趣味にまい進する自由も。

働いているからこそ出来ること。

でも、一番高いものに手が伸びるのは。

単なる見栄なのかも知れない。


【冬樹の部屋】

スマホの画面を眺める冬樹。

“再生数:1”

三姉妹の動きが、一瞬止まる。

全員:『あ』

冬樹の指が止まる。

「……誰?」

沈黙が部屋に広がる。

机の上のノート山が誇らしげに。

三姉妹の光に照らされて静かに揺れている。

春『え、ええ〜!?再生数1!?

冬樹のネタ、誰が最初に見てくれたんだろう』

春の大げさな驚き方は、逆に失礼な気がする。

冬樹はちょっと傷ついた。

夏『私たちが見たのは、カウントされないはず』

夏の言うことはもっとも。

それに、身内は誰も冬樹の趣味を知らない。

冬樹の視線を受けて秋の手から、ミニPCが出現する。

秋『アクセスログを解析します。

どうやらご近所の方のようですね』

秋が眼鏡をくいっと上げる。

秋『おそらく、同郷の方が興味を持たれたのかと』

冬樹の体が、椅子から崩れ落ちる。

「なんだよ。それ、近所に新しい店出来たね。

覗いとく?のノリじゃないか」

そして、そのまま床を拳でドンドン叩く。

「マジか」

春の姿が、ピンク猫の着ぐるみ姿に変身する。

春『冬樹、一緒に泣いてあげるね』

そのまま一緒に、冬樹の隣でにゃーと言い出す。

夏がジト目で春を見る。

夏『春、それは泣くじゃなくて、鳴く』

春が、小首を傾げる。

春『おかしいかにゃん?』

秋の眼鏡が、キラリと光る。

秋『春、それは主様には有効なようです。

心拍数安定確認。春、そのまま続けて』

春が、にゃんと言いながら。

冬樹の頭をなでなでしている。

それを見ていた、夏がため息をつく。

夏『仕方ありませんわね。わたくしも』

夏のペンが扇に変化する。

夏『これで、涙でも乾かしなさい』

冬樹の顔の前で、扇をパタパタさせる。

冬樹は秋をチラリと見る。

この2人が、ここまで癒してくれるなら。

秋の癒しは?

冬樹の期待をよそに。

秋が、ぱんと手を叩く。

秋『さて、次の動画はどうしましょうか?

せっかく見ていただいたのです。

その方を固定客にするかは主様次第です』

対応、設定と違わないか?

癒しの設定、どこに行った?

冬樹は知らない。

昨日、秋のスペースを確保するために渡したもの。

それが“直接的な癒しの設定”であることに。

あぜんとする冬樹の横で。

春が冬樹の頭の上で、シャーっと威嚇する。

春『秋の鬼っ』

夏は、扇で自身の頭を支えている。

夏『冬樹、早く私たちを拡張しなさい』

その言葉に、春と秋も頷いている。

冬樹は首を傾げる。

バイト代が入ればもとよりそのつもりだった。

これから、動画作成を続けるには。

あまりにキャパが足りない。

でも、三姉妹に指示されるほど。

そこまで切羽詰まっていただろうか?

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