机の上の三姉妹
【はじめまして】
よそ見をしている間に、スマホのアラームが鳴る。
「あ、そろそろバイトの準備しないと」
アラームを止めようとスマホに視線を戻すと。
いきなりスマホがひかり出した。
「なっ」
遅れて、スマホが顔面を直撃する。
「いだっ」
目の前にピンク、緑、茶色の光の濁流が視界を奪う。
「たく、なんなんだ」
顔を押さえ、ボヤいた耳に届いたのは。
春『呼ばれて飛びでてジャジャジャジャーン』
秋『それは、化石級のギャグです』
夏『すなわち、古代ギャグ』
冬樹は思わず、上半身を起こした。
まだ目がチカチカする。
手探りで、スマホを探し出す。
確かにここにある。
でも、声は違う場所から聞こえる。
段々と目が慣れてきたので、声の方を向く。
目の前の
ピンクの人影。
緑の人影。
茶の人影。
机に置かれたペットボトルと同じ大きさのホログラム。
もしかして、これが?
スマホの設定画面を開く。
転送完了の文字。
設定はした。
でも、呼び出した記憶はない。
「春」
春『はい、はいっ』
両手をバンザイの形に挙げ。
ぴょんぴょん飛んでいるのは。
ピンクのポニテにTシャツ。
ピンクのミニスカを履いた春の姿。
「夏」
夏『…』
腕を組み、そっぽを向いているのは。
緑のツインテに、緑のゴスロリ風の。
ワンピースを着た夏の姿。
「秋」
秋『はい。主様』
眼鏡を軽く直しながら返事をするのは。
茶の髪をゆるく纏めた、スーツ姿の秋の姿。
「お前ら。なんで?」
冬樹の問いに。
秋『バージョンアップです』
夏『実体化出来るようになった』
春『困っているみたいだから、来たよ〜』
答えにならない答え。
「別に困ってなんか」
冬樹が、スマホを握りしめたまま反論する。
春『だって、冬樹言ったよね。
動画作りたいって』
手を組み、目をウルウルさせながら訴える春。
夏『ネタは寝かすのは美味しいけど。
置き過ぎは腐る』
手に持ったペンのようなもので。
ノートをツンツンしながら、夏が言う。
秋『そう言いながら、夜遅くまで。
いつもノートに何やら書いていましたよね?』
後ろでは、指示棒を持った秋が。
冬樹に向かって、確認するように告げた。
あの、その、いや、と冬樹が言っている間に。
春『この辺良いんじゃない?』
秋『この辺りは使えます』
夏『じゃあ、構成、出す』
三姉妹は、既に冬樹の3姉妹設定ノートを囲み。
勝手に話しを進めていく。
「待て、待て何している?」
冬樹は自分のノートを守るように、上半身で覆い被さる。
春『何って、動画作っている』
夏『構成ならお任せ』
秋『充分、一本の動画になります』
冬樹の顔が少しだけ上がり、目の前の三姉妹に向く。
「出来るのか?」
秋『やってみますか?』
秋が手をぱんと叩く。
夏『まず、冬樹のコンテを元に』
夏の長いペンから、緑のエフェクトと共に。
空中に構成の流れが描かれていく。
秋『ここは、順番を変えた方が伝わりやすいです』
秋の指示棒が、茶色のエフェクトで修正を行い。
春『テロップなんかは、まかせてね』
春の指先から出る、ピンクのエフェクトが書き込みを加える。
全員『出来た』
冬樹が口を開けている間に。
目の前には一本の動画の構成線。
秋『ここから、他の要素を足すことも出来ますが』
夏『BGM、入れる?』
春『絵で動きなら足せるよ?』
冬樹のスマホに落ちてきた構成線は。
今再生を待っている状態。
「ははっ、こんな簡単に出来るんだ」
動画は、冬樹の書いたノートを要約しただけ。
内容も三姉妹の紹介でしかない。
音楽もなし。
三姉妹の声がただ、内容を読み上げるだけ。
返ってそれが、自分の書いたものである。
そう実感させてくれる。
何度も再生を繰り返す冬樹。
秋『次は、投稿ですね』
夏『やるなら、今のうち』
春『まだ完成じゃない?』
冬樹のスマホを囲むように覗き込む三姉妹。
「出すのか?」
冬樹の指先が止まる。
秋『出さないのですか?』
秋は、キョトンとした顔。
夏『出さないと評価されない』
夏は、何を言っているんだと言わんばかり。
春『出そうよ。冬樹、頑張ったもんね』
春は、何度も頷いている。
「でも、規約とか規定とか難しい設定が」
動画を投稿しようとはした。
でも、難しい。
春『冬樹、登録は済んでるよね?』
登録はした。
その次のずらりと並んだ規約を見て、そこで止まった。
夏『それを前提に作ったんだけど』
夏はちょっと不満そう。
秋『規約も規定も問題ありません。
あるとすれば、投稿するかしないかの判断です』
秋の後押し。
「わかったよ。どうなっても知らないからな」
目の前には、投稿ボタン。
指先が震える。
目を瞑り、何度も呼吸を整えて。
その間、
春は、拳を握りしめ。
夏は、ペンを揺らしながら。
秋は、何度も眼鏡を直している。
「…押した」
動画がアップされる数秒間は。
心臓の鼓動とリンクして、ドキドキしたものの。
動画は、呆気なく受理される。
春『やったー』
春は、縄跳びでもするように。
ぴょんぴょんしながらくるくる回っている。
夏『やれば出来るじゃない』
夏もペンの先でちょんちょんと、冬樹の頬を突く。
秋『良く頑張りました』
秋は眼鏡を外し、柔らかく微笑んだ。




