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秋の表現力

【冬樹の部屋】

夏『秋、視聴者の期待はMAXですわよ』

この前のアップロードは、とうとう三桁に乗った。

次は、秋ちゃんの番が楽しみ。

そんなコメントもある。

夏の言葉にも秋は動じない。

秋『大丈夫です』

そして、おもむろにノートを取り出す。

「これ。俺の日記帳!!」

何故、ネタ帳の中に紛れていたのか。

そう言えば、最後に日記を書いたのはいつだっけ?

そんな冬樹の疑問よりも。

春『袴女子可愛いだって』

広げられたノートを三姉妹が囲む。

夏『なるほど。確かにこれは秋向きですわね』

書道パフォーマンス。

一時期、確かに観ていた。

その時の熱い想いも日記帳に書いた。

でも、それが白日の元に晒されるのは、別問題。

春『観たくないの?』

いや、観たい。

夏『道具は?』

小学校の時のならある。

秋『他の良い案ありますか?』

それでお願いします。

今回の準備は、それほど時間は取らなかった。

あえていうなら、長い間使われなかった筆が固まっていた。

そのくらいである。

画面の向こうには、半紙が敷かれている。

その奥には、三姉妹の姿。

それぞれ、袴にたすき掛け、そしてハチマキが見える。

秋『いきます!』

秋の掛け声に、春の大太鼓の音が響く。

夏の持つ墨つぼに、筆を入れる秋。

秋『春さんのダンスを表現します』

素早い動き。春の太鼓の音に合わせて。

文字列も楽しそうに踊っている。

秋『次は、夏さんの舞踏曲』

優雅に回転するように。

太鼓も心なしか小さく細かくなっている。

文字列もくるくる周りを回っている。

秋『そして。最後が私』

一拍の溜め。

そして、力強く一気に書き上げる。

全員『これが、私たちのパフォーマンスです』

そして、画面に映るのは、春、夏、秋の筆で書かれた文字。

若干、秋の字が大きい気がする。

「うん」

冬樹は、墨だらけの机の上は見なかったことにした。

そして、冬樹の動画のチェック。

問題はない。

ただ。

春『音だけ?』

春の出番は、最初の一瞬。

夏『私、手元しか映っていませんけど』

夏の出番もほぼ同じ。

秋『文字が主体ですから当然ですね』

冬樹のカメラは、確かに秋の文字を追いかけていた。

となると、三姉妹がほぼ映らないのは仕方がない。

むくれる春と夏とは対照的に。

秋は満足気であった。


【スマホの中】

夏『秋、視聴者のことも考えなさい』

夏の中では納得がいかないよう。

今までの視聴者の反応からして。

三姉妹の動きが注目されていることは。

データからも見て取れる。

それに合わせて演出を組んだはずなのに。

秋の文字ばかりが映るのは。

夏にとっては納得がいかない。

春『冬樹は喜んでいたけど』

春は、冬樹との間でちょっと揺れている。

春にとっては、視聴者が喜ぶことより。

冬樹が喜ぶことを優先したい。

でも、視聴者が増えること。

これを冬樹の希望だとすれば、春も揺れる。

秋『台本にあった通りです』

秋は動じていない。

今は、冬樹の動画を作る喜びに全力で伴走したい。

秋『それに、100本もの動画となると』

いずれ、行き詰まるのは目に見えている。

夏『なるほど、そのために温存と』

それぞれの視点の記録を使えば。

夏の言う作品も制作可能だ。

春『視聴者じらし作戦だね』

見方を変えれば、そうとも言える。

でも、別の問題がある。

夏『なら、何故秋の字だけ大きく書いたのかしら?』

三等分のバランスなら、秋ならうまく取れるはず。

春と夏のジト目に。

秋『さあ?何故でしょう』

秋の中で、春と夏の演出に負けたくないと。

そんな気持ちがあったことは。

秋に与えられた役割上、言えない。


【冬樹のバイト先】

店の片隅にある、チラシを置いてあるコーナーで。

店長がチラシを見つめて固まっている。

時間にして、おそらく10分近く。

最初は、いつもの奇行だと眺めていた冬樹も。

さすがに心配になってきた。

冬樹が声を掛けようか迷っていると。

おもむろに、店長が手を伸ばす。

そして、手には通信講座のカタログ。

求人広告でないことにほっとする冬樹。

でも、一体なんの習い事をする気なんだろう。

「店長。何を始めるんですか?」

誘惑に負けた冬樹。

「字が、綺麗になるには。

どうしたら良いのか悩んでいるんだよ」

そう言えば、店長の字は見たことがない。

見る機会もない。

自分の字が上手くないことは知っているけど。

店長までそれに悩んでいたことは。

冬樹も初めて知った。

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