決勝戦第一試合
【決勝戦第一試合】
試合、五分前に春と秋が戻ると。
真っ白に燃え尽きた冬樹と。
顔を扇で半分覆った夏の姿。
秋『まさか…』
夏が目を逸らす。
夏『まさか、あんな爆弾仕掛けるなんて思わないじゃない』
夏の話によると。
冬樹はいつものクセで、口に出しながらノートを写していたらしい。
途中で、店長から電話が鳴り。
バイトのシフトの話をした後で再びノートに向かったところ。
事実に気づいてしまったようだ。
秋『なぜ、このタイミングで』
店長は、冬樹を応援していたのではなかったのか。
いや、ライバルとみなしての妨害か。
秋がおかしな方向に推測した頃には。
春が冬樹を強引に叩き起こしたようだ。
夏『あと、たった3試合よ?
やるだけやりなさい』
冬樹がややぼんやりした頭で返事をしたところで。
通知音が鳴る。
『お題:Time out e
システムを巻き戻せ
鏡の間に待っている
1分おきにヒント。
3分で答えが出る』
…マジか。
秋『決勝戦、時折こんなお題が出ますね。
我々ではなかなか解けないお題です』
春が頭を捻る。
春『タイムアウト?でも、最後のeって何?』
ちょっと待て。
前に伝五郎さん言ってなかったか。
―今はシステムなんておしゃれなこと言っているけどさ。
昔はAIって呼んでいたんだよ。
賢くてどこの国の言葉でも話せるのがすごくてさ。
でもさ、人間は、一つの国の言葉しか話せない人も多くて。
もしかしてとノートに答えを書きだす。
そこに、再び鳴る通知音。
一回目のヒントだ。
『何処かに do を入れても正解とする』
よっしゃ。
あらたにヒントを書き足す。
〝ちめいどおうたえ〟
「知名度、もしくは地名を歌った動画無かったか?
なんでもいい。とりあえず、片っ端から出して」
そして、自身もノートを追う。
春『これ?』
春が出したのは。
「春のダンス。歌っているのは3人だよな?」
春の着ぐるみダンス。
鳴らされるミュージックの歌。
しかも、歌詞を聞くと。
三姉妹の解説をメロディに合わせている。
夏のピアノの後に、動画の音楽を聴いて確認していて良かった。
「これだ」
アップロード画面が流れる。
手を挙げて喜ぶ春に。
秋『確かに、タイムが早い方が加算になりますが』
秋は困惑気味に画面を見る。
夏『お題とズレてれば、減算よ』
夏も慎重な意見のようだ。
アップロード完了画面を見る。
そこに2度目の通知音。
『ローマ字を使え』
ここで、何人かのアップロード完了の文字が見える。
春『やっぱり冬樹が一番だったね。
でも、なんで上位の人たち出さないんだろ』
それは俺も気になった。
秋『おそらくですが。
確実なところで出しても問題ないほどのレベル差だと思います』
それを言われると痛い。
今、出てくるタイトルは、時間に関係するものがほとんど。
秋『動画を選択する時間も必要ですからね』
確かに。自分もこのノートがなかったら判断に困るところだった。
通知音。ここで、答えが出る。
『ちめい(ど)を歌え』
よし。正解だ。
ここで、一気に完了の文字が増える。
投稿されるのも、歌に関係することに一気に変わっていく。
秋『思ったほど引っかかりませんでしたね。
流石、大会慣れしている人たちですね』
この中で戦っているほぼ初心者の俺。
頭が爆破しそうだ。
春『冬樹の視聴者、ほとんど居ないね』
視聴者タイムに入ると、温度差が明らかに違う。
夏『配点に賭けるしかないわね』
夏の扇がミシリと鳴る。
【決勝戦視聴者室】
管理者:現在5名がマックスです。
管理者:現在10名が混雑しています。
動画選びは慎重にお願いします。
『あーやっぱり、特別有料チャンネル組は観られないか』
『有料チャンネル組もラグがすごかった』
『でも、残っているのは落選組だよな』
『それしか残らない』
『そういや、一人新人が決勝戦に残っていたよ』
『は?初めてじゃないか。決勝戦にまで行ったの』
『運営の決勝戦特集に書いていた。隅っこだけど』
『隅まで読んでない。でも軽いなら観に行こう』
『今ちょうど中途半端な時間だから、行こう』
【決勝戦第一試合結果】
春『そろそろ結果がでるよー』
春の言葉に顔を上げる。
「いや、どうせ落ちているだろ」
そのまま、決勝戦出場者のデータを書いたノートを読む。
画面の前に集まった三姉妹。
そして、鳴る通知音。
春『ねえこれって』
まず、春の声が聞こえた。
夏『あらら』
夏の声もする。
秋『結果発表は、脱落者のみ。
ラストまで順位は分かりません』
ん?順位?
春『冬樹。良くみて』
春が冬樹をもう一度呼ぶ。
「いやだから、落ちていただろ?」
そう言いながら、画面を見る。
「ほら、名前がない」
言いながら、違和感を覚える。
TENTYOOの名前、あったか?
無かったよな。
天楽の名前も無かった。
さすがにこの2人が落ちるはずはない。
「どういうことだ?」
思い切り秋の方を向く。
秋『ですから、決勝戦は脱落者の名前が出るんです』
それを、先に言って…たな。
春『おめでとう!冬樹』
春は無邪気に喜んでいる。
夏『ラストになって、一気に視聴者が伸びたもの』
夏の扇が揺れている。
秋『落選者は、お題を間違った方ですね』
ということは。
慌ててスマホを開く。
『決勝戦第二試合へ向けて準備をお願いします』
…マジか。




