臨時ボーナス
【冬樹のバイト先】
「漢字、書かないと忘れるよね」
そう言いながら、店長は新たなポップを書いている。
「でも、最近の子。漢字読めないことも多くてさ」
書いた字の上に、店長はふりがなを振っている。
それを眺めていた冬樹はふと思いついた。
「店長、俺もやって良いですか?」
一度、他人に自分の字を見てもらうのもアリかも知れない。
「いいよ。はいこれ」
渡される紙とペン。
「練習だから、店の品物を何でも書いていいよ」
そう言われて、店を眺める。
陳列棚の隅にあるカップ麺。
よし、これを書こう。
しばらくああでもない。
こうでもないと苦戦した冬樹。
「ほう、斬新だね。カップル面とは面白い」
後ろから店長の声に、我に返る。
「これ、普通にカップ麺と書いたんですけど」
そういう冬樹の声は、店長には聞こえていない。
後日。
やたらとカップ麺の売り上げが伸びて。
店長からボーナスが出るのは別の話である。
【冬樹の部屋】
冬樹は、自身のスマホで貯金残高を確認する。
やっぱり、店長の言った通り。
ボーナスが振り込まれている。
服の支給日まではまだ遠い。
臨時収入を何に使うか悩んだものの。
「流石に服を買おうと思うんだ。手伝って欲しい」
三姉妹の顔が輝いた。
動画の向こうでは、三姉妹の姿。
春『春だよ〜。
今日は、服のコーディネート対決!』
春がぴょんぴょんしながらタイトルコール。
夏『やっとそのヨレヨレの服から。
卒業する気になりましたのね』
夏が扇をさした先には。
Tシャツを着た冬樹が。
もちろん、顔は映っていない。
秋『そうですね。自身にもお金を使いませんと』
秋の目の前には、コーディネート対決と書かれた文字が。
春『要するに、ネットで見つけた服を買えば良いんだよね』
ルールのおさらいとばかりに春。
夏『ちゃんと、映えも必要ですわ』
うんうんと頷く二人。
秋『予算もありますからね』
そこが腕のみせどころです。と秋が続く。
「で、なんで俺まで参加?」
冬樹のつぶやきに。
春『好みがあるでしょう?』
春は、何を言っているんだとばかりにつっこむ。
夏『日頃どうやって決めるかも知る必要がありますわ』
そう言いながらも、冬樹を置いて、二人は楽しそうだ。
秋『判定員が必要ですし』
それは、確かにそうだ。
春『これなんてどう?』
春が選んだのは、華やかな色が混ざったネックシャツ。
「ピエロか!」
夏『これなんてどうですの?』
夏が選んだのは、ワインレッドのワイシャツだ。
「…似合うと思うか?」
沈黙する夏。
秋『これはどうですかね』
秋が選んだのは、黒ではあるものの。
中央に大きく目玉の書かれたTシャツ。
「いや、さすがにそれは…卒業したい」
最終的に選ばれたのは。
今までと同じ系統のTシャツ。
会計ボタンに進む冬樹。
三姉妹は、ため息とともにそれを見守る。
【スマホの中】
春『やっぱり同じものだったね』
そういいながらも、春は満足そう。
夏『まあ、清潔感は増しましたわね。
バイトでは、制服だからあまり目立たないですけども』
とは、夏。
秋『ボーナスが出て良かったです』
冬樹の誤字がボーナスになった。
その事実を、三姉妹は知らない。




