好きなのは
【冬樹のバイト先】
通信講座のパンフレットの前で座り込む冬樹。
そこに、店長がやってきた。
「どうしたんだい?」
「字を…習おうかと」
パンフレットには、ペン習字の文字が。
いや、書道もいいな。
カリグラフィーは、動画に使えるか。
値段を見る。
払えそうにない金額だ。
そっとパンフレットを戻す。
「確かにねえ。
世の中便利にはなったけども。
必要なものは残る」
店長は、鼻歌を歌いながら去っていった。
「採点はまだかな~」
そう言えば店長も。
字の汚さに悩んでいたな。
でも、あんなポップが書けるから。
自分よりマシな気がする。
【冬樹の部屋】
三姉妹の採点の話になったところで。
秋『主様の原稿を公開しましょう』
秋の一言。
春『冬樹の気持ちは伝わるよ?…たぶん』
春も、自信なさげに冬樹を見る。
夏『仕方ありませんわね。
補足くらいならしてあげますわよ』
夏の止めの一言。
「…結局採点されるのは俺か」
画面の中央には、白く輝く冬樹の原稿。
そこに、秋の指示棒が刺さる。
秋『今回、私たちに渡された原稿を公開します』
春と夏が頷く。
秋『ごらんのとおり、全文を読むのは難しいので。
要約すると、これは“愛している”となります』
「おい、どこでそうなった」
冬樹の突っ込み。
スポットライトが、原稿から夏に切り替わる。
夏『輝く衣装に包まれた君の姿をみると。
僕の気持ちは高鳴る』
夏の朗読するような声が続く。
「いや、だからそれって」
さらなる冬樹の突っ込み。
スポットライトから、普通のライティングに戻り。
春へカメラが移る。
春『早く食べたかったんだよね。
…彼女のこと』
にこにこと春。
後ろで秋が必死で口元に×を作っている。
でも、もう遅い。
これ以上、引っ張ってもロクな結果にならない。
冬樹は覚悟を決め、息を吸い込む。
「だからお前ら、餃子の話だぞ。それ。
餃子が好きだ。アツアツの餃子は旨い。
あの白くパリッとした衣がたまらない。
どうやったら、そんな話になるんだ」
三姉妹が顔を見合わせる。
全員『だから、字が汚いのが悪い!』
春が原稿を指さす。
春『そもそも、餃子の漢字。間違えているよ』
それは、冬樹の方が悪い。
撮影終了後も、三姉妹のお説教は続き。
アップロードボタンを押す冬樹は満身創痍だった。
【スマホの中】
春『なんで、いきなり餃子の話になったの』
春が、一番ぷりぷりしている。
内容が怪しいと思った時点で。
修正をかければ良かった?とは思ったものの。
やっぱり納得がいかない。
夏『あれが、餃子とは気づかないわよ。
普段から女の子可愛いとか言っている人間が。
餃子の話…せめて絵があれば』
夏はどちらかと言えばショックが大きい。
秋『要約としては、合っていたんですがねぇ』
秋もスッキリとはしない。
そもそも、餃子の漢字を間違えている時点で。
前提が狂うのは仕方がない。
しばらく、三姉妹の間に流れる沈黙。
やがて。
春『今度から指摘する!』
春の決意。
夏『絵は必須ですわね』
夏も同じく同意。
秋『文字講座、必要ですかね』
秋だけは微妙に違うことを考えていた。




