想いを打つ
【冬樹のバイト先】
「モールツ信号面白いよね。
昔の人って、今みたいにすぐに情報こないからさ。
貴族の女性しかり。
耳の聞こえない人しかり。
言語の壁を越えるのは、ジェスチャーが一番だよ」
出勤するなり、いきなり店長に話しかけられる冬樹。
「昔の伝え方って色々あったみたいですね。
昔は手紙で文通が普通だったみたいですし」
店長に返事は返したものの。
モールって信号機あったっけ?
【冬樹の部屋】
秋『多分、それモールス信号の話ではないでしょうか』
冬樹が秋に聞くと、返って来たのは、そんな答えだった。
夏『トン・ツーを組み合わせる言葉のことですわ』
夏が続き。
春『昔の無線で流行ったみたいだよ』
春が補強する。
「なるほど。なんか他に面白いのないか?」
そして、集められたのが、
・モールス信号打機
・タイプライター
・点字ライター
の3点。
「演算禁止で、俺が書いた原稿を。
早く打ったら勝ちという勝負は?」
三姉妹の首が傾いた。
「昔は、文字を早く伝える技術を競うというのが流行ったみたいだし」
映像の前では、三姉妹が机に座っている。
春の前にはタイプライター
夏の前には、モールス信号打機
秋の前には点字ライター
奥には演算禁止の文字。
「これから自分の書いた原稿を打って貰います。
早く打てたら勝ち。
次回答え合わせを行いたいと思います」
その言葉に頷く三姉妹。
目の前に置かれる原稿。
三姉妹とも、固まる。
春『冬の気持ちは受け取ったよ!頑張るね』
最初にタイプライターを操り始めたのは春。
夏『ま、まあ。出来ないこともありませんわね』
と、夏がモールス信号打機に触れる。
秋はしばらく動かない。
おもむろに時計を見つめる。
秋『要約します』
そう告げて、一瞬で仕上げた。
「なんかあったか?」
動画の撮影後、冬樹が三姉妹に聞く。
春『冬樹、誤字だらけ』
春が申し訳無さそうに言い。
夏『字の汚さは、
まあ頑張ればなんとかなりましたけども』
夏も口籠もり。
秋『どうしようもありません』
冬樹は頭を抱える。
やがて、それぞれから回収した原稿には。
びっしりと赤い文字列が。
「採点どうしよう」
冬樹は知らない。
今までの冬樹のノートは。
冬樹自身が口頭で通訳を行っていた事実に。
それでも、アップロードはする。
採点方法は、未来の自分に託した。
【スマホの中】
春『早めに指摘した方が良かった?』
夏と秋が首を振る。
夏『演算があれば、まだ解読できましたけど』
秋が頷く。
秋『予測できますからね。
それに、絵などで推測も可能ですから』
春の大きなため息。
春『まさか、手書き原稿になるとは思わないよ』
冬樹自身は知らないこと。
昔は、作文なんてものが存在した。
それは、今は必要がないと削られている。
その弊害とも言うべきか。
ほとんどの人が、文章を書くことに慣れていない。
冬樹の場合、日記を付けているだけマシかも知れない。
秋『まあ、添削は我々でしましたけども』
それぞれ、採点した原稿を取り出す。
春『熱い思いは伝わったよ』
春の原稿を、夏が読む。
夏『そういう表現方法もないことはないですけど』
夏から、回された原稿を読んだ秋。
秋『きわどいですね』
次に夏の原稿を秋が読む。
秋『なるほど、そうきましたか』
秋に回された原稿を春が読む。
春『おしゃれだね』
そのまま春は、秋の原稿も読む。
春『確かに、そうだ』
大きく頷きながら、夏に回す。
夏『身も蓋もありませんわね』
三姉妹とも、元の原稿は同じなのに。
結果は、全く違うものになっていたのは謎である。




