個性とは
【冬樹のバイト先】
「個性ってどうやったら出るんだろうね」
ふと、店長のつぶやき。
店にくる若い女の子たちは。
今は、おそらく仕事やら、学校やらの時間。
おまけに、雨なので年寄りたちも来ない。
「知りませんよ」
でも、店長。あなたは充分個性的ですよ。
その言葉は、大人な冬樹は飲み込む。
「でも、個性っていきなりどうしたんですか?」
だから、代わりに質問で返す。
「いや、この店の差別化をするにはと考えてね。
冬樹くんならどうする?」
いきなり経営論ですか。
でも、そうだなあ。
「店長をキャラクターにするとか?」
あ、思わず本音が漏れた。
「ほう、それは面白い視点だね」
よかった。店長は気にしてないようだ。
倉庫に消えていった店長。
しばらくして、何かを手に持ち戻ってくる。
「こういうことだね。冬樹くん」
でも、店長。
だからといって、うさ耳を付けるのは。
絶対に止めて欲しい。
ほら、道を通る人たちが。
二度見どころか、三度見している。
そんな相手に手を振る店長。
あ、今写真撮った?
雰囲気からして、通報するというより。
珍獣見つけたのノリ。
人と交流したいからこの店を開いた。
面接のときに店長の一言を思い出す。
なるほど。店長の個性は。
ここからきているのか。
【冬樹の部屋】
秋『個性ですか?』
秋のきょとんとした反応に。
夏『個性とは美学ですわよ。
その相手を輝かせるもの』
と、夏が続く。
春『個性があるから楽しいんだよね〜』
と春が締めくくる。
三姉妹は個性的だ。
設定でもそこを意識して創った。
でも、冬樹自身は。
自分の個性といえるものに心当たりがない。
「それ、上手く活かせないか?」
冬樹の提案に、三姉妹がうーんと唸った。
やがて、秋が思い出したようにネタ帳に手を伸ばす。
秋『縛りですかね』
秋の手にはノートが1冊。
“日本語禁止で書く!”
と書かれている。
ノートの中には、意味不明の記号。
当時は、暗号にはまっていた。
そんな記憶がある。
そして、今となってはその文字が読めない。
あの解読表は、一体どこに行ったのだろう。
春『それ、面白そう』
春は、やる気に満ち溢れている。
夏『でも、視聴者に伝わる内容じゃないと』
確かに、自分しかわからない暗号は視聴者も困る。
秋『ですから―』
なるほど。それなら面白そうだ。
すぐに撮影の準備。
画面に、言葉禁止、演出禁止の文字。
三姉妹が向かい合って立っている。
おもむろに、秋が手話を始める。
夏が扇の仕草で返し。
春が身振り手振りで混ぜている。
3人とも楽しそうだ。
「で、何を話しているんだ?」
冬樹の問いに。
秋『主様の個性についてです』
夏『いい加減、バイト代で服を買うべき』
春『この前のバイト代も拡張に消えたよね』
撃沈する冬樹。
夜中、泣きながら字幕を入れ。
アップロードする冬樹の姿があった。
【スマホの中】
秋『手伝うべきでしょうか』
空中には、冬樹が一生懸命字幕を入れている姿。
夏『好きにさせればいい。
自分でやると言ったのは冬樹だもの』
そう言いながら、夏の扇はミシミシ音を立てている。
春『この前の店長のポップ。
結構、衝撃受けていたもんね』
春も、小声で“フォントが違う”などとつぶやいている。
結局。冬樹の自分で作りたい。
その気持ちを尊重することで同意した三姉妹は。
先に眠ることにした。




