運命の対決
一方、ビヒモウスの間で、ベゼルの指輪の宝石による魔光の魅力に精神干渉を受けていたソルレッドは、必死に理性と精神力であらがっていた。
「いかん、このままでは……Eスーツ、遮光モードだ!」
イクシード・スーツの襟元から形状記憶合金がせり出し、フルフェイス・ヘルメットがソルレッドの頭部を覆った。
呪いの宝石の妖光がシャットアウトされ、洗脳催眠が解けた。
ソルレッドが契約の巫女へ向かって歩いて行く。
「なっ、何ぃ!? ベゼルの指輪の魔力が効かないとでもいうのか!?」
動揺する契約の巫女の声に導かれ、ソルレッドが手探りで彼女を捕えた。
「は、離せ!! そこの灰髪の女、このヘルメット女を引っ剥がせ!!」
「ははぁ!!」
海璃の双眸が緑色に妖しく輝く。
すでに海璃はベゼルの指輪の魔力であやつり人形と化していた。
「そうはいかん!!」
ソルレッドが手探りで契約の巫女の左手をまさぐり、呪いの指輪を抜き取り遠くへ投げた。
その瞬間、和鷹マリと聖海璃の両眼の妖光が消え、洗脳が解けた。
「はっ……わたしはいったい何をしていたの?」
「マリさん、あなたは悪い夢を見ていたのだ」
「えっ……もう何がなんだか……」
額に手を当てて考え込むマリにじゃれるように海璃が近付いた。
「きゃあ、マリさん。『ホワット!?ミステリー㊙情報部』毎週見ています。あとでサインくださぁい❤」
「えっ、いいけど……あの番組を見ていた子がいたの!? 初めて見たわぁ……」
そのとき、八角形の塔の前にある石像が光り輝いた。
「……地上人よ、おぬしたちはなぜこの神殿へ来たのです」
「石像がしゃべったわ!!」
マリと樹里が目をむいた。
「いいえ……この石像から発せられるテレパシーが脳に直接語りかけているのだわ」
「えっ、テレパシーって、超能力の!?」
「ん……あなたは何者なの? 『ビヒモウス』をつくった古代アビサロン人か?」
ソルレッドがみなの疑問を代表して、女人石像に訊いた。
「我はリュージョン姫の残留思念じゃ……遠い未来に『ビヒモウス』が悪用されないよう見張っておったのじゃが、すでに使われてしまったようじゃの……」
「リュージョン姫というと、浦嶋子の子孫が残した由緒書きにある龍女媛のことぉ!?」
マリが驚いて叫ぶ。
「龍女媛というと、乙姫さまのモデルとなったあの……」
樹里と海璃も驚いて女人石像を見た。
「我はリュージョン姫の生前の姿をかたどった石像である……」
「へえ……さすが乙姫さま、石像を見てもきれいな人だったのだわねえ……」
「地上人よ――なぜ、『ビヒモウス』を長い眠りから覚ましたのじゃ?」
「今、地上では、アビサロン族の子孫や、人間族の悪い奴らが、地震発生装置を手に入れようとして、醜い争いをおこしている――それを食い止めに来たのだ」
ソルレッドの言葉に、リュージョン姫の石像は――残留思念は沈思黙考した。
「そうですか……遠い未来になっても、『ビヒモウス』を悪用する者がふたたび現れるとは……」
海神アビサロン族が住んだ蓬莱国は、大昔は地上にあったという。
しかし、長年月が経って、住民は堕落した生活をする者が増えていったという。
町の風紀が乱れ、非道徳的な考えがはびこった。内乱と紛争も絶え間なくおこった。
その有様に激怒した蓬莱国の賢人たちが、『ビヒモウス』を造り上げた。
そして、罰として、大地震を起こし、大洪水が襲い、蓬莱国を海の底に沈めたという。
蓬莱国の神が一部の民だけ大きな船を造るように命じ、国が沈む大災害から救ったという。
その子孫が水晶宮に住む海神王と龍女媛の一族であった。
「その後、古代アビサロン人は太平洋各地に別れ、海底都市を造って住んだ。次第に人口が増えると、領土をめぐって、争いが起きた」
古代アビサロン人が暮らしたここ、蓬莱国では、アビサロン族が二派に別れて争いはじめ、水晶宮にある兵器蔵の鍵をめぐって争いが絶えなかった。
龍女媛は、そのことで大いに嘆き悲しんだ。
そこで、龍女媛は一計を案じ、浦嶋子に兵器蔵の鍵をあずけ、地上の国で隠してほしいと頼んだ。
「もともと『ビヒモウス』は戦争の抑止になるように、わが王国に保持してきたのじゃが……それが争いの源になってしまったのじゃ……」
「現在でも、戦い抑止のためと称して核兵器を所持する国々の問題があります……同じような問題が古代アビサロン文明にも……」
「やはり、『ビヒモウス』は存在してはいけないものじゃな。いっそ、破壊してしまう方がよいでしょう」
「その方が賢明な判断だと思います、リュージョン姫」
「この神殿は30分後に爆破させる……はやくお逃げなさい、未来の地上人たちよ」
八角形の塔『ビヒモウス』が点滅し始めた。爆発へのカウントダウンだ。
「ええっ、ちょっ……30分後ですって!?」
「早すぎるのだわよっ!!!」
マリと海璃がわたわたと慌てる。
「撤退だ。早く外へ!!」
「ちょっと、待って、ソルレッド!!」
ソルレッドに続いてグライアイと和鷹マリが『ビヒモウスの間』をあとにした。
両角槍からの電撃を受けた蒼太は膝をついた。
彼の胸にビアドラスが槍の先端を突き刺した。
「なんてなっ!!」
蒼太はにやりと笑って立ち上がり、槍の刺撃をよけた。
イクシード・スーツは完全絶縁体で、両角槍の電撃を通さないのだ。
「ギョラッ!!」
半魚人戦士は両端槍をアクアブルーに投じた。
アクアブルーはその動きを見切って避け、槍は床に突き刺さった。
その間に蒼太は闘技場すみに落ちた自分の両角槍をつかんだ。
「形勢逆転だぜ!!」
ビアドラスが口から水流を出した。
消化液を含んだ水流は蒼太の両角槍をどろどろに溶かしてしまった。
溶解泡とは別個のビアドラスの隠し武器である。
「やべえっ!!」
溶けだした武器を慌てて床に放り投げた。
「ギュドロ!!」
半魚人戦士が鉤爪をきらめかせ、アクアブルーに迫った。もはや肉弾戦に突入した。
蒼太は海雲寺流格闘術の呼吸法で精神集中し、体内の『気』を両手の拳に集め始めた。
「海雲寺流・気攻浪飛沫!!」
蒼太はビアドラスに連続正拳突きでビアドラスの胴体にお返しした。
平然とパンチを受けていたビアドラスが、
「ギュロォ!!」
体内に異変を感じた半魚人がよろめいた。
「効いたようだな……弾丸をも弾く鱗鎧は物理兵器では通じない。だが、体内の気(生命エネルギー)を込めた気攻拳は通じるようだな」
気の衝撃は鱗鎧を貫通して、ビアドラスの体内に衝撃を与えたのだ。
「グオオオオォ……」
「いくぜ――気攻怒涛拳!!」
ビアドラスの腹にとどめの拳がめり込ん だ。
波濤のごとく威力のある気攻拳のダメージが、半魚人の全身に波紋のように広がる。
「ギャブラッ!!」
しかし、ビアドラスは底力で踏ん張り、アクアブルーに組み付いた。
「うおっ、なんて力だ!?」
そして、鉄板をも穴を開ける牙がアクアブルーの喉に噛みついた。
だが、イクシード・スーツの特殊合金は牙を通さなかった。
「ギョバッ!!」
「こっちの番だ!!」
アクアブルーがビアドラスを背負い投げにして、床に放り投げた。
が、ビアドラスは器用に身体を回転させ、床に着地する。
ビアドラスは牙をむき出し、鉤爪を構えてアクアブルーに突撃した。
俊敏に避けたアクアブルーは、ビアドラスに背後にまわった。
「ギュロマキィ!!」
ビアドラスを羽交い絞めにし、スーツの跳躍力をつかって上空へ飛んだ。
12メートル空中で体勢を立て直し、頭を下にして、錐揉み回転しながら、ビアドラスを逆さに投げ放った。
「海雲寺流奥義・鯱落とし!!!」
ビアドラスは脳天から真っ逆さまに落下した。
「ギョルラ!!」
床に頭から落下したビアドラスは、破片を巻き上げ、床に身体の半分も埋まってしまった。
その間にアクアブルーは離脱し、二回転して床に着地した。
半魚人の体を緩衝剤がわりにしたのだ。
「ギュムゥ……」
穴から抜け出たビアドラスであったが、脳震盪を起したようだ。
「お前の負けだ、ビアドラス。そのままじっとしていろ!」
「ギュロビアッ!!」
ビアドラスは意地で立ち上がり、アクアブルーへ歩み寄ろうとした。
だが身体が傾いてしまい、闘技場べりから溶岩濠に落下してしまった。
「ギョルアアア!!!」
半魚人はマグマの高熱で、骨も残さず溶けてしまった……
「じっとしてろと言ったのに……」
「ビアドラスっ!!」
魚人司教が悲鳴をあげた。
頼みの綱の最強戦士が倒されてしまったのだ。
蒼太が闘技場のはじっこから駆け出し、溶岩濠との境界手前で躍動をつけてジャンプし、魚神像の前にある高台へ着地した。
「次はてめえだ、魚人司教!! 親父の仇を討たせてもらうぜ!!」
蒼太がイクシード・ガンを構えて魚人司教に迫る。
「ぐぬぬぬぬ……」
魚人司教は高台の椅子を蹴り、背中を向けて逃げ出した。
「待ちやがれっ!!」
魚神像の足元の石壁がぽっかりと開き、魚人司教が隠し扉から中に入った。すると、石壁が塞がる。
「中に籠りやがった……」
Eスーツの力で叩けども石壁はヒビのひとつも入らない。
今一歩のところで、宿敵を逃してしまった……




