ビヒモウスと契約の巫女
一方、ソルレッドとグライアイは兵器庫の中へ入っていった。
長くて広い廊下が続く。
そうはさせじと魚神像の祭壇にいた暗灰色のマントをはおった邪教徒たちが追いかける。
「ココハ神聖ナル『ビヒモウスノ間』デアルゾ!!」
「穢レタ地上人ドモメガ入ッテ良イ場所デハナイ!!」
ソルレッドとグライアイが振り返り、
「あいにくだが、気象兵器で地上に災害をもたらし、一気に占領する作戦はわたしたちが阻止させてもらう!!」
「そーよ。深きものどもなんて、アビサロンの使い走りのザーコじゃないの!!」
これを聞いた海童たちが怒り狂った。
「ギョバレ!!」
「ギュロギギャボ!!」
「なんだか急に怒り出したわね?」
「ん……きっと、雑魚は半魚人に対する最大限の侮蔑の言葉ではないのか?」
「ああ……そうかも」
「ギョラァアアアアッ!!」
マントを破り、牙を剥き、爪を光らせた半魚人たちが二人のエージェントに襲いかかった。
「そうはさせん!」
ソルレッドがアビサロンの邪教徒どもを、イクシード・ライフルをフルオートモードで連射して倒していく。
「わが異能『人形の雷霆』!!」
グライアイが自走式の全領域式機械兵器で海童たちを黒焦げにしていった。
「ふう……これで追撃者は全滅ね」
「兵器庫へ急ごう」
廊下を抜け、兵器庫の中央が見えた。
そこは光り輝く八角形の塔と周囲にストーンヘンジのように並ぶ八つの機械装置のような物体が円形に並んでいた。
その塔の前に女性の石像が見えた。
「これが『ビヒモウス』とやらか……」
「古代アビサロン人が創り出した気象兵器だわね……壁にアビサロン文明らしき象形文字が描かれているのだわよ」
「現在の人類が造りだした科学文明とは異なる仕掛けのようだ。一応、パノラマビューで撮影しておこう。あとで墨江博士に文字を解析してもらおう……」
ふたりは腕時計型端末のカメラ機能で文字を撮影する。
やがて、八角形の塔の中心部分で、操作盤をいじっている契約の巫女に近付いた。
契約の巫女――和鷹マリがふり向いた。
その双眸が緑色に妖しく光った。
「侵入者か、ここは聖なる神域、『ビヒモウスの間』なるぞ……防衛機構よ、侵入者を排除せよ!!」
契約の巫女の指示で、石壁にある銃座のようなものが起動し、ソルレッドとグライアイに青白い怪光線を発して襲った。
ふたりは機械装置のような物体の影に隠れた。
ソルレッドが物陰からイクシード・ライフルで光線銃座を狙い撃ちして破壊する。
「どうしたんだ、マリさん……墨江屋敷にいた時とは別人だぞ!?」
「きっと何かで洗脳させられたのだわよ!!」
「時間が惜しい……いざとなれば始末しなければならないかもしれん」
エージェントは大事のために、時には非情な決断をしなければならないのだ。
「ちょっと、待ってよ、ソルレッド。和鷹マリさんは私もファンなんだから、傷つけないでよ!!」
「ん……そうか。海璃はマリさんのファンなのか」
ソルレッドはぽふっと身長が頭一つ分小柄な海璃の頭を撫でた。
「なら、無事に地上へ連れていこう」
「うん!」
「超能力者のお前なら、マリさんが洗脳されている原因が分かるか?」
「待って、探ってみるのだわよ」
グライアイが目を閉じて、ひざまずき、精神集中した。
精神感応でマリの精神状態を探る。その間にソルレッドが光線銃座を破壊していく。
「……左手の方から妖しい波動が発せられているのだわ……左手につけている何かが洗脳の原因よ!!」
「なにっ!?」
「ほほほほほ……よくぞ分かったな、これは魚人司教さまから授かったベゼルの指輪よっ!!」
契約の巫女が左手をかかげた。
巫女の両眼も緑色の鬼火のように妖しく光り輝いた。
「あの指輪かっ!!」
ダイヤモンドの指輪から放たれる妖しい輝きに、思わず海璃と樹里は魅入られる。
「まあ……なんて美しい宝石なのだわ……綺麗」
甘く美しい輝きを沈めた宝石――ベゼルの指輪。
これを眼にした者はその魅惑に視線をそらせなくなり、やがて魂まで魅入られてしまう。
「くっ……まるで宝石の中に吸い込まれそうだ……」
彼女たちは世にも美しい輝きを見せる宝石に、恍惚の吐息を漏らした。
呪いの指輪の妖しい魅力の虜囚となり、暗黒呪術の精神干渉を受けていった。
男性でさえ思わず目を奪われてしまう呪いの指輪だ。
女性であるふたりには、宝石の魔力に抗うすべがなかった。
だが、樹里は目をつむって、呪術干渉に抵抗した。
だが、まぶたを閉じても、皮膚や筋肉が薄いので、光がまぶたを通過して網膜に届いてしまう。
明るさを感じてしまうだけでも、妖光の魅惑の魔力は脳神経をどろどろに蕩かせてしまうのだった。
溶岩濠に囲まれた円形闘技場では、蒼太とビアドラスの試合が始まろうとしていた。
「両角槍を取れ、地上人よ……これはアビサロンに伝わる神聖な決闘ギョマーレだ。正々堂々と戦うがよい、ビアドラスとアクアブルー、神聖なる戦士たちよ!!」
円形の床の真ん中に穴が開き、丸いテーブルがせり出した。そこには両方の先端が尖った槍ふたつが乗っている。
「妙ちきりんな槍だな……」
「決闘場に入るのは二人……出るのは一人だ!!」
魚人司教がダゴン像の前にある高台の椅子にすわって宣言した。
「何が決闘だ……手下にやらせて、自分は高見から見物かよ!」
「不敬者ッ!! コレハ、オ前トオレノ神聖ナ儀式ダ!!」
ビアドラスが両角槍を前に突き出してアクアブルーをいさめた。
「ちぇっ、御指名とありゃ、仕方ねえ……受けてやるぜ、ビアドラスっ!!」
アクアブルーが両角槍をとった。丸いテーブルが床に沈み、蒼太とビアドラスは距離をとって対峙した。
「くくく……気を付けないと、この溶岩濠に落ちた者はマグマで骨ごと溶かされるぞ、アクアブルー」
「くそっ……溶岩デスマッチって奴か!!」
「アビサロン秘儀教団最強の戦士ビアドラスよ、不埒なイクシード・フォースを血祭にあげよ!!」
「ギュラソ!!」
半魚人戦士が槍を上にかかげて魚人司教に挨拶した。
「けっ、やるしかねえってか!!」
ビアドラスは両角槍を持って隆々としごき、頭上で回転させた。
アクアブルーは槍を真ん中で持ち、どう戦うか思案する。
「ギュラララッ!!」
回転させた遠心力の勢いで、蒼太の胴体めがけて横斬りを仕掛けた。
「おっと!!」
蒼太はなんとか槍で受けとめる。
回転させて槍先で突くが、回避された。
「くそっ、こっちは初めて使う武器だってのに、向うは手馴れてやがる!!」
ビアドラスが三段突きを繰り出し、アクアブルーは背後に、横に、跳んで避ける。
だが、ビアドラスの巧みな槍さばきに、蒼太の持つ両角槍が闘技場のすみにはじき飛ばされた。
「しまった!!」
ここぞとばかりにビアドラスの槍の穂先が蒼太の胸に向けて刺突された。
「ギュロォ!?」
間一髪、蒼太がビアドラスの両角槍の先端をつかんで食い止める。
「どうだい、真剣白刃取りってやつよっ!!」
だが、ビアドラスがつかんだ柄のスイッチを押すと、槍先から電撃が放たれた。
「ぎゃっ!! てめえ、こんな仕掛けをするなんて、卑怯だぞ!! ……うわあああっ!!」
電撃をくらった蒼太が動きを止め、膝をついた。
ビアドラスがとどめとばかりに、蒼太の胸に槍の切先をつきつけた。




