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ベゼルの指輪

「マリさんをさらったUFOとは違うな……かなり大きいぜ」


 葉巻型飛行体の頂上部に、突然、三ヶ所の穴が生じ、中からミニ円盤が12機も出てきた。


「うおっ!? いっぱい出てきやがった!?」


「マリさんをさらったUFOより小さい……あの葉巻型は航空母艦のようね」


「ちょっと、どうすんのよ!? あんたフライト・リーダーでしょ!!」


「おう、ドッグファイト映画なら激アツなシーンだぜ。やつらは全部ひっくるめて返り討ちにしてやらあ! ファルナクス・フォーメーションだ!!」


「E・I・G(了解)!」


「E・I・G(了解)!」


 フライト・リーダーのエスパーダ1号機を先頭に、僚機の2号機と3号機が矢印のように広がる「ファルナクス(楔形)」編隊をとった。


 アクアブルーが切り込み隊長となり、エスパーダ・ハリアーが、両翼についている6砲身の20mm口径機関砲、エスパーダ・バルカンから銃弾を発射した。

 毎分数千発の連射がミニ円盤隊を蜂の巣にして撃墜した。


 続く、グライアイのエスパーダ・スカウターの姿が消えた。

 ミニ円盤隊が戸惑い、レーダーで行方を探るが、反応はない。


 エスパーダ3号機は、光学迷彩により姿を視界から消すことができるのだ。

 レーダー反射塗装によりレーダーも追うことができない。

 まさしく『空の忍者』の異名をとる隠密機(ステルス)であった。


「こっちよ!!」


 エスパーダ3号機の機首にある2門のレーザー砲がミニ円盤隊を破壊した。


 遅れて3機の中でもっとも大きな輸送船であるエスパーダ・コレオプターにミニ円盤が群がっていた。

 まさしく甲虫(コレオプター)にたかる小虫のようなものだ。


 コクピット後部上面に搭載された護衛用のミサイルポッドから火線が走り、ミニ円盤隊を撃滅していった。


「これで完了と……あとは葉巻型か」


「ちょっと、アクアブルーあれを見て!!」


 葉巻型UFOから前の3倍のミニ円盤が出撃してきた。


「総当たりのようだ……数が多すぎる」


「しゃあねえ、三十六計逃げるが勝ち作戦といこう。エシュロン・フォーメーションだ!!」


「E・I・G(了解)!」


「E・I・G(了解)!」


 各機は旋回して、神奈川県の方角へ逃げ去った。

 エスパーダ2号機の右側横に1号機、3号機が斜め横一列に階段状に並ぶ、エシュロン隊形の編隊をくんだ。


 ミニ円盤軍団は逃してなるかと、レーザー兵器を撃ちながら追撃した。

 エスパーダ3機はそのまままっすぐ進み、


「この辺でいいだろう…大回転だ!!」


 2号機を軸として180度旋回(ブレイクターン)した。

 小回りのきく1号機、3号機が扇を広げるように半円形を描いて旋回した。


 斜線陣(エシュロン)隊形は、隊形を組んだまま一斉に方向転換(ブレイク)を行ったり、個別に戦闘へ移行したりする際の柔軟性の高い陣形である。


 追撃してきたミニ円盤隊は、エスパーダ編隊の旋回に驚いて、スピードをゆるめた。


 その隙を狙って、エスパーダ各機は分散し、レーザー砲やミニ・バルカン砲でミニ円盤を迎撃した。

 黒煙をあげて海面に落下していくミニ円盤隊。


「よし、小さいのは撃墜したな……次はランニング・ランデブーからのデルタ・フォーメーションだ!!」


「E・I・G(了解)!」


「E・I・G(了解)!」


 敵機を倒したエスパーダ各機は、空中集合(ランニング・ランデブー)した。

 そして、1号機が先頭になり、後部左右に2号機と3号機が並ぶ「デルタ隊形(三角形)」を取った。


「エスパーダ三機合体(トライバイン)!!」


 空に飛び立った三機のスーパー航空機。1号機が先頭になり、2号機が続き、3号機が殿(しんがり)となった。


 エスパーダ1号機、2号機、3号機は空中で三機合体した。

 1号機が指令機で機首部分。

 2号機は胴体上部。

 3号機は胴体下部の主翼となる。


「これぞエスパーダ完全体……エスパーダ・フリゲートだ!!!」


 エスパーダ・フリゲートは、葉巻型母艦の側面に回り込んだ。

 葉巻型母艦が慌てて回頭するが、大型母艦ゆえ、歩みは遅い。


「最後の仕上げだ!! エスパーダ・アタック!!」


 エスパーダ号の艦首から衝角(ラム)がせり出した。

 エスパーダの誇る決戦兵器であり、その名の如く剣魚(エスパーダ)形態となり、葉巻型母艦の側面に体当たりして突撃した。


 黒褐色の装甲が突き破られ、反対側に突き抜けていった。

 葉巻型母艦が空中爆発を起こす。


 その衝撃波に押されるように、エスパーダ号は海面に突入していった。

 水飛沫をあげて、エスパーダ号は海底に潜航していった。

 エスパーダ号は、空を飛行するだけでなく、水陸両用で、海底を進むことも可能な万能メカニックなのである。 


「このまま、真樽子遺跡に突入するぞ!!」


「ん……いよいよ敵の本陣だな」


 グライアイが右手を左眼の前に構えた中二病ポーズを取り、


「底知れぬ黒暗淵(やみわだ)に住まう深きものどもの巣窟(そうくつ)……神よ、光と暗を分かちたまえ」


「普通にしゃべれよ、海璃!」




 その頃、和鷹マリは、暗い部屋で目覚めた。


「はっ! 私はいったい!?」


 石の寝台に見た事もない海藻で編んだ布団に寝かされていたようだ。

 まだ意識が混濁し、視界がはっきりとしない。


「そうだ……わたしは半魚人ビアドラスを見て気絶したんだったわ! そうだ、博士は!?」


 周囲を見回すが、墨江博士はいない。墨江屋敷の研究室ではなかった。

 闇の中に石柱が見えるが、壁は暗くて見えない。

 上を見上げるが、吹上のようで、闇が覆って天井が見えない。

 どこか別の場所――石造りの神殿のような場所であった。


「お目ざめかね……和鷹マリくん」


「えっ!?」


 いつの間にか、マリの左横に暗灰色のローブをまとった人物が立っていた。

 顔に魚を模した民族仮面をかぶっている。


「あなたは誰?」


「わたしは魚人司教という。以後お見知りおきを」


「魚人司教? もしかしてアビサロン!?」


 マリは魚人司教の真意を知ろうと、彼の瞳を見ようとするが、仮面にはのぞき穴が見当たらなかった。


「そう……わたしはアビサロン秘儀教団の司祭をうけたまわっている。ここは海底深くにあるアビサロンの聖なる神殿だ」


「なんだか分からないけど、私を日本に返してよ!!」


「そう急がなくてもよいではないか……あなたの先祖はここに来たことがあるのだよ」


「えっ!?」


「あなたは開かずの匣と呼ばれた玉匣を開ける能力をもっている……これこそが浦嶋子の子孫である証しだ」


「わたしが浦嶋子の子孫ですって!? そんな馬鹿な……わたしの両親はふたりとも栃木県の片田舎生まれよ」


「その両親の親たちはどうかね?」


「はっ、そういえば、母方の祖母と祖父はどこからか駆け落ちしてきたという話で、出生が分からなかったわ!?」


 その祖母が真樽子の出身で、戦後に神奈川県から消えた浦嶋子の子孫のひとりであったのだ。


「およそ1600年前、あなたの先祖である浦嶋子が、海童を助けたお礼に、アビサロンの神殿へ招かれたのだ。そこで浦嶋子は当時のアビサロン王朝を治めるアビス王の娘・リュージョン姫に気に入られた……」


 浦嶋子伝説では、蓬莱国の水晶宮にいった浦嶋子は海神王の娘である龍女媛に気に入られたというが、それがリュージョン姫であったのだ。


「リュージョン姫は、兵器庫に封印した地震発生装置ビヒモウスの封印を解く能力を持っていた……その解除の力は、姫の力で任意の者に委譲することが可能であった。リュージョン姫は解除の力を浦嶋子に委譲し、『契約の鍵』を封印した玉匣を持たせて、地上へ返した。以来、浦嶋子の子孫は、玉匣を開けて管理できるほどの能力を持った者が生まれるという」


 たしかにマリは玉匣を開ける能力を持っていた。


「オカルトを信じないオカルト番組のリポーターが、実は浦嶋子の子孫で、不思議な力を持っていたとは、なんとも皮肉な話ね……ヴォルテール先生なら、どんな気の利いたことをいうかしら?」


「ともかく和鷹マリ――きみはまぎれもなく浦嶋子の子孫であることはまちがいない」


「そんな兵器庫の扉なんて、工作機械があればかんたんに開けられそうなものだけど?」


「いいや……『契約の鍵』以外で無理に開けようとすれば、神殿の防衛機構が働き、侵入者を排除する。それでも無理を通せば、神殿自体が崩壊する仕掛けなのだよ」


「そんな仕掛けが……」


「だから、『契約の鍵』が必要だった。おまけにそれを扱える、封印を解く者までもが手に入った」


「なぜリュージョン姫は、赤の他人である浦嶋子に『契約の鍵』と解除する能力を委譲したの?」


「当時、アビサロンはふたつの派閥に別れていた――穏健派のラグーナ派と過激派のギルドール派だ。ギルドール派は地上侵攻を目論み、ビヒモウスの封印を解こうと、封印を解く能力を持つリュージョン姫を狙っていた。アビス王とリュージョン姫は、ギルドール派を恐れて『契約の鍵』とそれを解除する能力を、地上人の浦嶋子に与えた。浦島子は善人であり、彼を地上に返せば争いは自然消滅すると考えたのだ。結果的に、アビス王とリュージョン姫の思惑通りになった――その後、アビス王の一族はいずこかへ去った。我々はアビサロンの他の地の末裔だ」


「それがなぜ、今頃になって……」


「我が教団は数百年の長きに渡り、『契約の鍵』を探していたのだ。それこそが我がアビサロン秘儀教団の意義であり宿願なのだ」


「そんなはた迷惑な……」


「ともかく、『契約の鍵』と、封印を解除できる能力者を手に入れることができたのは僥倖(ぎょうこう)だ」


「いったい、ビヒモウスとやらを何に使うつもりよ!!」


「知れたこと……今こそ海を穢す地上人を一掃するのだ。『審判の日』は近い」


「ちょっと、危ないカルト集団みたいなこと言っちゃって!! わたしは死んだって、そんなことに協力なんてしないんですからね!!」 


「まあ、待ちなさい……これを見るといい」


「なによ。わたしは連民党の圧力にだって屈しなかったんだからね。和鷹マリを舐めないでちょうだい!!!」


 魚人司教は懐から小箱を取りだし、フタを開けて見せた。

 それは見事なダイヤモンドの指輪であった。

 宝石の妖しい輝きに、思わずマリは魅入られる。 


「これは……なんて綺麗な宝石……見つめていると、まるで中に吸い込まれるみたい……」


 ダイヤの表面にマリが映り、その瞳が光を失い、意識が混濁していった――茫とした瞳で魚人司教を見た。


「このベゼルの指輪を貴方にあげよう」


 魚人司教は、指輪をマリの左手薬指にはめた。


「ベゼルの指輪……まあ、なんて素敵なのかしら……司教さま……ありがとうございます」


 魚人司教は、宝石の光に目を奪われてしまう女性の心理をたくみにつき、呪いの指輪をマリにはめてしまった。

 ベゼルの指輪をはめられた者は、魚人司教の意のままに操られる人形となるのだ。


「これであなたは我が教団の巫女となった――『契約の巫女』となり、兵器庫の封印を解き、ビヒモウスを数千年の眠りから覚ますのだ!」


「はい……魚人司教さま……仰せのままに」


 マリの瞳が妖しく緑色に輝いた。

 彼女は魚人司教に従順なあやつり人形と化してしまった。





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