エスパーダ大追跡
真樽子漁港の駐車場では、『ホワット!?ミステリー㊙情報部』のロケ隊のマイクロバス二台が停車していた。
大空テレビのプロデューサー牟田口の指揮のもと、真樽子漁港で目撃された未確認生物の海童の再現VTRを撮影していた。
地元の劇団を呼んで、俳優たちに民間伝承の海童の話をさせ、いざ、漁港で海童の撮影の段となったときにトラブルが起きた。
「う~~ん……この着ぐるみじゃあ、かわいすぎるなあ……」
「そうはいっても、これしか手配できなかったんですよぉ」
手配した半魚人のぬいぐるみが、キャラクターショーで使われる頭の大きな四頭身のハンギョポンだったからだ。
「謎の水棲生物・海童がこんなにかわいいんじゃあ、雰囲気が出せないよぉ」
「しかたないですよ。遠景でシルエットにして撮影して、ごまかしましょうよ」
構成作家が牟田口をなだめて、カメラマンと地元劇団の俳優に指示した。
海童を目撃したカップル役の女の子が必死に海童を目撃した演技をしようとするが、ハンギョポンの着ぐるみを見て笑ってしまい、他の俳優たちにも伝染して笑ってしまい、撮影は中断される。
「カット、カットぉ……笑っちゃダメだよぉ」
「ごめんなさぁい……」
地元劇団の座長が慌てて座員をしかる。
「ちょっと、ノゾミちゃん。せっかくのお仕事なのに、なにやってんのよぉ!!」
「だって、かわいくてもう……」
ハシが転がってもおかしい年頃の俳優たちであった。
座長が牟田口らにあやまる。構成作家も困り顔で、
「プロデューサー、いったん休憩いれましょうよ」
「だな……ん?」
牟田口がふと空に目をやると、海上を光り輝く円盤状の物体が空を飛ぶのが見えた。
「ゆ、UFOだっ!!」
「ちょっと、プロデューサーまでそんな冗談を……え、えええっ!?」
「カメラマン、早く撮影して!!」
レンズを拭いていたカメラマンが慌てて空中のUFOを追いかけた。
真樽子市境界にある切り立った崖に、さびれたガソリンスタンドがあった。
そこで、従業員のタケがクーペに給油していた。彼の祖母がそれを温かい目で眺めていた。
スタンド内では三宅が、窓ガラスを拭きながら、なじみの常連客である、役場の戸籍係をつとめる岡崎公夫と話をしていた。
「テレビの取材を受けたんだって、岡崎さん!?」
「そうなんだよ、大空テレビのUFOとかをあつかう番組だと言っていたなあ……」
「ああ、春に横浜でナイターを観た帰りに、UFOを観たとか言ってたなあ……すごいじゃないか、岡崎さん」
「まあね……なんだか緊張しちゃったよ。もっともねえ、出演したギャラはこれさ」
岡崎は番組のロゴの入ったボールペンを三宅に見せた。
「へえ……テレビ業界も最近はきびしいようだねえ……テレビの黄金時代は予算があって、豪勢なもんだと聞いたけど。これも時代かねえ」
「ほんとだよ……時代劇も金がかかるから作らなくなったしねえ……」
「あっ、UFOだっ!! ばあちゃん、UFOだよ!!」
タケが叫んだ。彼が指差す方角を見ると、光る円盤状の物体が見えた。
「あらまぁほんと……長生きはするものだねえ。ピンクレディーもUFO!って歌ってたけど、あれのことだったんだねえ……」
タケの祖母がびっくりして空を眺める。
「あれだよ、あれ!! 俺がナイター帰りに見た空飛ぶ円盤にそっくりだ!!」
岡崎が興奮して三浦の肩を叩く。
「へええ……UFOって、本当にあったんだ……」
「おやっさん、UFOの後から、見たこともない戦闘機が追いかけていますよ!?」
「本当だ……ありゃ、防衛軍の新型ジェット機かな?」
タケや三宅たちが目撃したのは、相模湾沖の海上を進む三機のエスパーダ航空機であった。
その一号機を、さきほど出会った海雲寺蒼太が操縦しているとは、想像もできないであろう。
まして、岡崎を取材したレポーターの和鷹マリが、そのUFOにさらわれたことも。
蒼太ことアクアブルーは、マリの服に取りつけた追尾子をレーダーで追っていた。
「どうやらUFOは相模湾沖にある真樽子遺跡のある方角へ向かったようだな……」
「ん……真樽子遺跡がアビサロンの本拠地のようね」
操縦席の右側にサイドモニターがあり、老技術者の姿が映った。
「どうじゃい、アクアブルー。エスパーダ1号の操縦はうまくいくかいの?」
「おう、調子がいいぜ、『T』。さんざんVRシミュレーターで特訓したからな」
「じゃが、1号機はまだ試運転をしておらんのじゃ。そこがちと心配じゃい」
画面の人物は、小太りの体形で、禿頭にサングラスをかけ、天狗のような鷲鼻、飛び出たヒゲという、レトロゲームに登場するマッド・サイエンティストのような容姿をしていた。
彼こそが、イクシード・フォースのメカニック部門開発主任の多々良一徹こと、コードネーム『T』である。
機械工学の天才といわれるほどのメカニックにくわしく、小型ドローンから銃火器、戦闘機、潜水艦まで製造できるオールマイティぶりだ。
本部にいる『T』とは、リモート通信で情報交換が可能で、彼もエスパーダ号付属の小型カメラで、エスパーダ号から見える外部状況を知る事ができる。
「大丈夫、初ミッションがてら試運転をしてやんよ! ぶっつけ本番でい!!」
「お前らしいのう、アクアブルー……ところで、ひとつ懸念があるんじゃが」
「なんです? 奥歯にもののつまったような言い方だなあ」
「イクシード・フォースの本部が、日本防衛軍長浦港基地の傍受をしたんじゃ。今から6時間前に、海洋調査船『つきよみ』が真樽子海底遺跡の付近で消息を絶ったと知らせがあった」
「えっ!?」
「そして、それを捜索に向かったF-15Jイーグル三機も後を追うように消息を絶ってしまった。そして、米軍横須賀基地から密かに発進したヴァージニア級原潜も行方不明となったんじゃ!!」
「どういうことです、『T』?」
「まるで、バミューダ・トライアングル……に、似ていると?」
ソルレッドがつぶやいた。
「それどっかで聞いたことあるような……」
「そんなことも知らないの、アクアブルー!? ザーコねえ……」
「誰が雑魚だぁ!! おめえは知ってんのか、グライアイ!!!」
「当然なのよ。バミューダ・トライアングルは、フロリダ、バミューダ諸島、プエルトリコを結ぶ三角形の海域だわよ。20世紀半ば以降、数多くの船舶や航空機が消息を絶った『魔の海域』のことよ」
1945年に訓練中のアメリカ海軍のアヴェンジャー雷撃機5機14名が、訓練中に謎の失踪を遂げた『フライト19事件』をはじめ、数々の消失事件があった。
100年以上前から100を超える船や航空機が消え、1000人以上が消息不明となっている。
いずれもその乗組員のみか、船舶や飛行機も跡形もなく消えてしまい、いまだ原因が科学的に解明されていない。
その原因として、ハリケーンや海上竜巻、巨大な波『三角波』が急に発生したことを要因とする急変した気象説、世界でも有数の航路・空路であるがゆえの過密な交通量説、海底の堆積物から放出される大量のメタンガスが海水の比重や浮力を低下させて船を沈没させる説、空間識失調説などがある。
「おう、解説ご苦労さん。グライアイ」
「なっ……このわたしを解説役にしたわね!!」
「しかし、おめえ……バミューダ・トライアングルなんざ、よく知っていたな」
「当然よ。この間、『ホワット!?ミステリー㊙情報部』で特集していたもの」
「さすが中二病なだけはあるな……牟田口プロデューサー、ここに数少ない熱心な視聴者がいましたよ!!」
「えっ、たしか牟田口プロデューサーは、『ホワット!?ミステリー㊙情報部』のプロデューサーじゃない。なんで知ってんのよ!?」
「おう、ちょうど真樽子漁港でロケをしていてな、ちょいと見学させてもらった」
「うそぉぉぉぉ!?」
「で、そこで知り合った和鷹マリさんとカクカクシカジカで墨江博士の屋敷へ行ったわけよ」
「和鷹マリって、番組の名物ミステリー・リポーターじゃないの!! うらやましい~~…って、さっきから言っているマリさんって、和鷹マリのことだったのぉ!?」
「ああ、言ってなかったか!?」
「聞いてないわよ。絶対助けだすわよ。わたしファンなんだから!!」
「その意気だぜ、グライアイ」
「だが、行く手は『魔の海域』だぞ、ふたりとも」
ソルレッドが蒼太と海璃をたしなめた。サブモニターの『T』が、
「とにかく真樽子海底遺跡領域は急に『魔の海域』に変ってしまったことは間違いないわい。調査船も戦闘機のいずれも、消失する前触れに、コンパスや計器の異常があったというぞい。それに『FRBS』……高速電波バーストに似た怪電波が発見されておる」
「なんだいそりゃ?」
「この怪電波はの、プレートの異常だとか、大震災の前触れではないかといわれておる謎の電波じゃぞ!!」
「滅茶苦茶やべえ前触れじゃねえか!?」
はっとして、蒼太が操縦席の羅針盤や計器を見た。針がぐるぐる回っている。
「言っているそばから、計器が狂いだしやがった!!」
「どうなっているのよ、これ!? いやだもぉ……」
「まずいぞ……このままでは我らもイーグルと同じ目に合う……ここは戦略的撤退をすべきだ、アクアブルー」
「くそぉ……ここまで来ておきながら……マリさんを誘拐されたままなのに……」
蒼太の脳裏に連れ去られたマリの姿が浮かんだ。
アビサロンは彼女に一体なにをする気なのか、不安しか予想できない。
「それほどあの女性を助ける義理でもあるのか?」
「おう、一宿一飯ならぬ、一焼売の恩義ってものがあらあ!」
「また、わけの分からんことを……撤退するぞ、アクアブルー」
「まあ、撤退は待たんかい、ソルレッド」
「何か対策があるのか、『T』?」
「もちろんじゃい。戦闘機や観測船、潜水艦が消えたのは、おそらく機械が故障させられたのが原因じゃろうて……おそらくはアビサロンのくりだした科学兵器……磁気攪乱装置の仕業にちがいあるまいて」
「磁気攪乱装置……そんなSF小説のような代物が本当にあるのか?」
「うむ……乱れた磁気を発し、重力を狂わせ航空機や船舶を沈めたんじゃろう。イオン・プラズマ砲のようなものかもしれぬて」
「イオン・プラズマって、空気清浄器のことか?」
蒼太が電化製品を思い出した。
プラズマイオンと低濃度イオンを放出し、空気中に浮遊しているかカビ菌やウイルス、アレル物質の作用を抑える除菌や脱臭、花粉の抑制をおこなう空気浄化機だ。
「ちゃうわい。イオン・プラズマ砲は、電荷を帯びた原子やプラズマを高エネルギーで放出し、対象を無力化、あるいは破壊する指向性エネルギー兵器のことじゃい。アビサロンのこの兵器は、仮に磁気攪乱パルスと名づけよう」
「まるでSF兵器だな。アビサロンはそいつで磁場を狂わせて、現代兵器を無力化させたってわけか……何か対抗策でもないか?」
「むろんじゃい。こんな事もあろうかと、アンチ磁気攪乱装置を発明しておいたんじゃい」
「おう、さすが『T』! 仕事のできる大人はちがうぜ!!」
「がっはっはっ……原理はのう……」
「おっと、いや、原理はいい……もう難しくて、頭が一杯一杯だ」
蒼太が右手を正面に付き出して左右にふった。
「なんじゃい、これからが面白い所なのに……」
(話が難しいんだよなあ……ドクター・エ○グマンみたいな顔してからに……)
「何をぶつぶつ言うとるんじゃい、アクアブルー!」
「いえ、こっちの話です。で、磁気攪乱パルスにどう対抗するんだい?」
「おう、ソルレッド。2号機コクピットにあるスイッチを操作してくれ、やり方は……」
「うむ……こうか」
エスパーダ2号機の機体の左右のハッチが開き、配置されたパラボラ状のパーツから、電波が発射された。
その効果により、磁界の歪ませる磁気攪乱パルスが無効化されていった。
「おお、計器が正常に戻った。さすがは『T』だ。いよ、メカニックの大天才!!!」
「がはははは……そんなにおだてるない!!」
「海上を見ろ、アクアブルー!!」
「なに!?」
海面に水飛沫をあげて何かが浮かんできた。
黒褐色の物体は潜水艦にも鯨にも見えるが正体不明の怪物体だ。
黒褐色の物体の一画から、強烈な光が発生した。
紫色の光条がエスパーダ3機に向って発射された。
横須賀の航空防衛隊所属の戦闘機F-15Jイーグル3機を撃墜したレーザー兵器だ。
「おっとっ!!」
エスパーダ・ハリアーが旋回して紫色の光線を回避した。
エスパーダ・スカウターとエスパーダ・コレオプターも器用に避けた。
「あれがイーグル3機を撃墜したアビサロンの怪兵器か……よっしゃ、おれが仇を討ってやるぜ!!」
エスパーダ1号機が機首にある2門の誘導ミサイルを放った。爆発音がして、爆焔があがった。
濛々と黒煙がたちこめる。
「やったか!?」
「あれをみなさいよ!!」
グライアイが指し示す方角――やがて煙が晴れ、空中に浮かび上がる黒褐色の物体が浮かびあがった。
それは葉巻型の飛行体であった。
全長は約50メートルあり、エスパーダ・コレオプターより大きい。
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