海底下の潜水艦作戦
バージニア内部の兵員輸送室では、兵士たちが思い思いに考えに馳せていた。
兵士の一人が胸ポケットから写真を取り出した。
「おれ、この作戦が成功して武勲をあげたら、故郷に帰って幼なじみの彼女と結婚するんだ」
「そうか……おれは、除隊して、田舎で牧場を始めようと思っている。結婚したら、ぜひ来てくれ」
「おう、楽しみにしているぜ。俺の彼女を見たら、美人で腰を抜かすぜ」
「HAHAHA……」
新入りの兵士が顔色悪く、ぶつぶつつぶやいていた。
「なんだか、嫌な予感がする……」
新米兵士の肩を隣のベテラン兵士が叩き、
「HAHAHA……お前はまるで昔の俺にそっくりだ」
「そうですか?」
「なあに、誰だって、始めはそんなものさ……このミッションが終わったら、一杯おごってやるよ!!」
別の兵士が自分のヘルメットに筆記具で鳥の絵を描いていた。
「何だい、その落書きは?」
「知らないのか? フェニックスさ。こいつを描くと、どんな地獄の戦地でも生きて帰れるんだぜ」
「ほう、俺も描こうかな……」
これらを聞いていたサーマン上等兵曹が拳を震わせて、
「おい、お前たち。死亡フラグを立てるのはやめんか!!」
部下たちを叱りつけた。
相模湾の海底を、バージニア級原子力潜水艦が進んでいた。
「針路105度。基準針路117度。艦橋自動操鑑保持モード……」
「艦長、『FRBS』……高速電波バーストに似た怪電波が観測されました」
「日本の観測船が調査にいったという原因の怪電波だな。だが、我らはそんな物にかまけている暇はない」
ソナー係がマルチビーム音響測深機で海底にある古代遺跡を発見した。
「日本で通称『真樽子ピラミッド』と呼ばれている物体を発見しました」
真樽子沖海底下に、南北に約300メートル、東西に約400メートル、高さ35メートルにおよぶ巨大な石造りの神殿が判明した。
「どうやら、あれがアビサロンの海底神殿らしいな。あそこに目当ての『ビヒモウス』がある。お宝は目の前だ!」
「はい。アビサロンどもからお宝を奪ってやりましょう」
艦長と副艦長がもう手に入れたも同然のように談笑した。
レーダー係が緊迫した口調で、
「遺跡の近くに鯨のような正体不明の怪物体が発見されました。全長が30メートルはあります」
「ただの鯨ではないのか?」
「ちがいます。マルチビーム測深機がつくった測深画像を見て下さい」
細長い流線型の体型で、後ろに尾ビレのようなものが見える怪魚だ。断じて現在確認されているどの鯨類では無かった。
「OH!!」
「バカな……こんなモンスターが日本の海底にいるとは!?」
バージニアの乗組員が、相模湾の海底下に、巨大な怪物体を発見して色めきたった。
「日本に住むモンスターはカイジュウと言うんだぜ」
「おいおい、そりゃパ○フィック・リムの見過ぎだ」
下士官が軽口を叩くのは、恐怖心を表に出さない虚勢だ。
「もしかして、メガロドンではありませんか!?」
メガロドンは全長15メートルで、6500年前から260万年前まで生息していた史上最大の巨大鯨だ。艦長が怒り、
「バカっ!! お前たちはモンスター映画の見過ぎだ。映像解析係、あれはなんだ」
映像解析係が怪魚の分析にかかった。AIが怪物の正体を検索した。
「これは……この怪魚は古代の甲冑魚ダンクルオステウスと似ております。古生代・デボン後期に棲息した甲冑魚です。ダンクルオステウスは甲冑魚の中でも最大で、全長9メートルはあります」
「9メートルだと? しかしあれは全長30メートルあるぞ」
怪魚は原子力潜水艦に体当たり攻撃を仕掛けてきた。
衝撃が走り、船体が大きく揺れた。
「日本の海洋調査船『つきよみ』がこの辺りで消息を絶ったというのは、こいつのせいではありませんか!?」
ソナー係が大声をはりあげた。
「そうか……このままでは艦が危ない……未知生物に魚雷発射!!」
魚雷係が、怪物に狙いをつけ、Mk.48魚雷の発射ボタンを押した。だが、なぜか作動しない。
「早くせんか!!」
「魚雷発射管が作動しません!?」
「なんだと!! 整備士どもめ、半端なメンテナンスをしおって……減俸処分を覚悟しろ!!」
怒り狂う艦長に対し、乗組員たちは困惑してしまう。
「ハープーンUSMを使え!!」
「ミサイル垂直発射装置が作動しません!!」
爆雷投射機も同様であった。
操舵士が振り返り、
「艦長、面舵が効きません!!」
「バカな……メンテナンスをした整備士たちを全員クビにしろっ!!」
「艦長、こんどはエンジンが止まりました!!」
「S9G原子炉がか!? 33年は燃料交換の必要のない長寿命炉心だぞ!?」
「艦長……どうしましょう?」
「無線で救援を要請せよ!!」
「SOS、SOS……無線も使用不可能です!!」
「悪夢だ……バージニア級原潜は次世代潜水艦だぞ……」
そのときダンクルオステウスは口から紫色の泡を吐き出した。
それはシャボン玉のようになってバージニア級原潜の動力部がある部分を襲った。
穴凹が大量に生じ、原潜のS9G原子炉は異次元に消えたかのように消失した。
削り取られた部分から浸水が始まった。
原子力潜水艦の船体が二つにへし曲がり、艦内は大きく揺れて傾いた。乗組員たちは近くのものに取りすがる。
艦内に絶叫が飛び交い、浸水した海水がクルーとコマンドたちを呑み込み、バージニア級原潜は海底に沈んでいった。
日本の海洋調査船『つくよみ』の後を追うように。
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