エスパーダ号発進!
屋敷の塀の外では、三つ巴の戦いに生き残ったゴリガン中尉は、ジェットバックの応急修理を終え、ジェットバックを背負った。
「くそっ、屋敷が大地ごと浮かび上がるとは……これもアビサロンの超科学力か!?」
玉匣の争奪戦に勝利したゴリガン中尉は玉匣を抱えて、近くの海に停泊している上陸用舟艇に帰還するつもりだ。
「こんなところに長居は無用だ。おれは基地へ帰還させてもらう」
ゴリガン中尉は飛行器具で宙に浮いた。
その足元に、黒根津が取りすがった。
「ゴリガン中尉、わたしも助けて下さい!!」
「ええい、離せ!! これは一人用だ!!」
ゴリガン中尉が黒根津助手を邪険に足払いした。
「あーれーー!!!」
黒根津は哀れにも地上へ落下していった。
「待て、ゴリガン中尉! 呉剛、我らも追うぞ!!」
「おう!!」
李嫦娥と呉剛が、己の着込む特殊スーツの襟元を押した。
手と足の間に布が張り巡らされ、滑空用特殊ウイングスーツに変形した。
中国兵器工業集団有限公司で開発した特殊スーツであり、さまざまなスパイ機能が搭載されていた。
ふたりはムササビのように宙を滑空してゴリガン中尉を追いかけていった。
玉匣の中身が空だと知らずに米中の争奪戦は果てることなく続いていた……
その様子を塔の上から降りてきた蒼太と樹里が目撃した。
「ゴリガンめ……情け容赦のない野郎だぜ!!」
そして、塔から屋敷の屋根へと跳躍し、墨江博士の元へ戻った。Eスーツの強化パワーの力だ。
「だが、このままでは我らもまずいぞ」
「そうだった!!」
「だが、大丈夫だ」
樹里はいつものごとくクール・ビューティーであった。
「その顔、余裕があるな……何か策でもあるのか、ソルレッド」
「ああ……」
ソルレッドが、左手首の腕時計型通信端末を口前にかざして叫んだ。
「サモン、エスパーダ・コレオプター!!」
すると、地上にある海猫岬の森林地帯の梢がゆれ、大きな物体が上昇した。
浮上し続ける墨江屋敷を乗せた土塊に向けてやってきた。
タル型の輸送機がやってきて、垂直に地面に着地した。
エスパーダ2号機。別名エスパーダ・コレオプターは垂直離着陸機で、大きな樽のような胴体を持ち、その名のごとく甲虫のような形態をしている。
全長33メートル。全幅約28メートル。
この輸送機は、テイルシッター(尾部を下にして離着陸)になる事も可能だ。
「あれは……エスパーダ2号じゃねえか!? もう完成していたのか!!」
「まだ試運転中……緊急任務なので本部で試乗中だけど、応援に来た」
「そうだったのか……」
そこへグライアイと人形たちが岬から飛んでやってきた。
「ちょっとぉ……屋敷が空中に浮かび上がるなんて驚きだわよ。こんなに高く飛ぶことになるとわね」
「おう、グライアイ。ごくろうさん」
「お陰で海霧が晴れた」
「まあね、だわよ……くくくくく」
と、海璃はいつもの中二病ポーズをきめた。
「皆で2号機に避難しようぜ」
「私は自分の愛機に乗るわ」
「なぬ!? ……もしかして、お前の3号機も」
「当然完成しているわ。私も呼ぼうかしら……サモン、エスパーダ・スカウター!!」
グライアイも端末にコールして自分の愛機を呼んだ。
こちらも屋敷から近い森から飛んできた。
エスパーダ3号機。別名エスパーダ・スカウターは無尾翼全翼機で隠密機でもある。
全長20メートル。全幅53メートル。全高5.2メートル。速度マッハ3.
光学迷彩により、カメレオンのように周囲の風景に溶け込むことができる。
「ちきしょう……ふたりとも、愛機が完成していたなんて、ずるいぞ!!」
「大丈夫……1号機も2号機の格納庫に持ってきてある」
「ホントか!?」
ソルレッドの指示で、エスパーダ・コレオプターの格納庫シャッターが開いた。
「あれは確かに……よっしゃあ、いくぜ! サモン、エスパーダ・ハリアー!!」
格納庫から滑り出して、蒼太の眼前にやってきたのは、エスパーダ1号機。
スウェーデン軍のドラケンに似た形状の小型戦闘攻撃機でVTOR機。全長8m、重量2・5t、出力5万馬力。
速度マッハ5。最高飛行速度はマッハ10。
空海でも運用可能な万能小型戦闘機だ。
「やったぜ!!」
「まだ試運転もしていない機だぞ」
「わかってらい、ぶっつけ本番でいこうじゃないの!!」
嬉々とする蒼太に、墨江博士が近付き、
「蒼太くん……これはもしや、海雲寺啓作くんが構想していたという、宇宙軍で活躍させるべく設計していた機体ではないかね?」
「ええ……あいにく、親父は完成を見る事なく亡くなってしまいましたが……エスパーダ号はイクシード・フォースの科学開発部が完成させたものです。あいにく、宇宙までは飛べませんが、設計コンセプトはかなり再現されているはずです」
「そうか……エスパーダ号は、もともと、学生時代の啓作くんが火星まで行く宇宙船を作りたいといっておったものじゃ。彼はあいにくエスパーダ号に乗れなかったが、せがれの蒼太くんが実現させるとはのう……」
「墨江博士……」
ふたりは啓作のことを想って、しばし回想にふけった。
「アクアブルー、感傷はあとにしろ」
「そうだな……博士、残念ですが、この屋敷から脱出しましょう」
「うむ、わかった……」
「必要な物を運びますので言ってください」
墨江博士の貴重品や研究資料をエスパーダ2号機に搭載して、三機は浮上し続ける墨江屋敷の岩塊から脱出した。
機窓から見ると、頂上に城館がある巨大な楕円形の山が浮遊しているようだ。
その真下には巨大な穴が穿かれている。
アビサロンの科学力には恐れ入るばかりだ。
「下はあんな山みたいな土塊だったのか……」
「まるでルネ・マグリットの絵画『ピレネーの城』のようね」
「グライアイは博識ね……」
「まあね、だわよ」
エスパーダ2号機がハイウェイ側の草原に着地して、墨江博士を下ろした。
そこには軍用ヘリで『N』こと、渚聖羅もかけつけていた。
強盗犯逮捕に来たパトカーの警官たちに事情を話している。
マニズ財団の力でことを公けにしない方針であろう。
「墨江博士、『N』と申します。博士はイクシード・フォース本部で保護させていただきます」
「うむ、わかった。よろしくたのむ」
「それと、この男が蒼太のスカウトしたハッカーね」
「は、はい……月間塔次郎と申します、です」
「さっそくあなたも本部で働いてもらうわ」
「はい、です」
『N』はアクアブルー、ソルレッド、グライアイを見回し、
「危険な任務だけど、『契約の鍵』の奪還と、人質になった一般人の保護をたのむわ」
「おう、マリさんを助けに行くぜ!! アビサロンの拠点に殴り込みだ!!」
「ところで、『N』……」
樹里が冷然とした眼差しで『N』を見つめた。
「なにかしら、ソルレッド?」
「神殿にあるという『ビヒモウス』の扱いをどうするのだ?」
空気がぴりついた。
アメリカや中共は『ビヒモウス』を他国への攻撃に使うという。
イクシード・フォースは……その母体組織のマニズ財団はどういう方針なのか。
「財団上層部は、アビサロンの科学技術を欲しているだろう……だが私はイクシード・フォースの行動全てを、総帥の摩尼洲周蔵氏から全権を委託されている――『ビヒモウス』の封印解除を阻止し、もしも封印が解かれていたのならば、その装置を破壊せよ」
「……いいのかい、『N』、上層部にはうるさい奴らもいるぜ?」
「ああ……日本列島の喉元に危険な気象兵器などを置いたままにしておけるか。財団上層部が後で文句をいってきても、責任は私が負う。『ビヒモウス』の封印を阻止、あるいは破壊せよ!!」
蒼太がニヤリを笑い、樹里と海璃もうなづいた。
「さすがは『N』だぜ!! このミッションは必ずコンプリートしてみせるぜ!!」
「その答えが聞きたかった」
「まかせてだわよ」
空に飛び立った三機のスーパー航空機。
1号機が先頭になり、2号機と3号機がデルタ状に滑空した。
「頼むぞ、イクシード・フォースの戦士たち」
N、墨江博士らがその雄姿を見送った。海霧の晴れていった碧空に、飛行機雲がたなびいていた。
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