塔上の半魚人
ソルレッドは、海霧にまぎれて攻撃してくる四人の海童に苦戦していた。
「ギュロ!?」
海霧がしだいに薄まってきて、海童たちの姿が見えてきた。
「霧が晴れてきた――海霧発生装置を食い止めたようだな、グライアイ!」
舛井村の半魚人たちは、もう海霧にまぎれての奇襲がおこなえなくなった。
それに霧の水分が無くなり、動きも前より遅くなる。
「ギャラアァ!!」
霧の水分が無くなる前にと、魚類人たちがソルレットに襲いかかる。
が、ソルレッドがイクシード・ハンドガンで海童が近付いてくる前に狙い撃ちをした。
塀の向うでは、まだ米兵コマンド、中共スパイ、アビサロン使徒たちの三つ巴の死闘が続いているようだった。
敵を掃討したソルレッドが墨江屋敷へ向かう。
「アクアブルー、どうなった?」
「おう、ソルレッド……それがなぁ」
墨江博士は蒼太と樹里に、玉匣は黒根津に奪われてしまったが、マリの機転で『契約の鍵』は抜かれていた。
だが、そこをビアドラスが来て、鍵とマリをさらっていったと話した。
「『契約の鍵』は分かるが、なぜマリさんまで!?」
「あの大きな海童や魚人司教が、和鷹マリくんに対する態度は貴人に対するようであった……おそらく、マリくんはアビサロンにとって、大事な存在なのかもしれん……」
「どういうことなんでしょう、墨江博士」
「これは仮説じゃが……マリくんは浦嶋子の子孫かもしれぬ」
「ええっ!?」
「真樽子市に住んでいた浦嶋子は、戦後になって神奈川県から去っていった……そう考えれば納得がいく」
「浦島太郎のモデルになった浦嶋子……でも、だとしても、『契約の鍵』を手にいれたアビサロンが、なぜ浦嶋子の子孫であるマリさんを連れ去るんでしょう?」
「ん……たしかに、開かずの匣である玉匣を開けてしまえば、マリさんはもう用済みのはずね」
「彼女は玉匣を開ける能力をもっておった……彼女の先祖の浦嶋子が、蓬莱国の水晶宮にいった時、なんらかの不思議な能力を得た。そして、子孫の中には、玉匣を開けて管理できるほどの能力を持った者が生まれるのかもしれぬ……」
「う~ん……なるほどぉ、実際にマリさんが玉匣を開けるのを見た以上、その可能性は高いですね……」
じっと聞いていたソルレッドが、
「まずいぞ、アクアブルー……ビアドラスは『契約の鍵』と、それを開けられるマリさんを連れ去った。アビサロンは何かとんでもない事を企んでいるかもしれないぞ」
「そうだな……なんとしても阻止せねといけねえな」
「追おう!!」
蒼太と樹里が決意を新たにした。
「海童は西棟へ向かったぞ」
「分かりました、墨江博士」
蒼太と樹里が半魚人を追いかけた。
墨江博士が借りている屋敷は、明治のイタリア大使の元別荘であるが、幽霊が出るというので、博士は格安で借りていた。
こちこちの現実主義者である墨江博士は幽霊の存在を信じておらず、見たこともなかった。
廊下は石造りの壁に、長いアーチ状の天井、石畳の床に色あせた赤い絨毯が敷かれ、中世にタイムスリップしたかのようだ。
「やけに曲がりくねった廊下ね……」
「マリさんによると、昔の城館は、防衛上の理由から、喰違折の構造にしたって話だぜ。通路を直線的に配置せず、前後に互い違いに配して折れ曲がらせ、侵入した敵兵が直進できないようにしたって話だ」
「ほお……しかし、ビアドラスはなぜ、そんな屋敷内に潜ったのだろう……外へ逃げればいいものだが」
「まったく、おかしな話だぜ」
ソルレッドが窓から外を見ると、だいぶん霧が薄れていた。
「おっ……グライアイが海霧発生装置を破壊してくれたおかげで霧が消えてきたようだな」
「うむ、彼女はやる時はやる……」
「おう……あっ、ビアドラスを見つけたぜ!!」
右を曲がった先の廊下前方にマリを抱えた半魚人が見えた。
前には壁があり、行き止まりになっていた。どこかに入口がないか探しているようだ。
もしかすると、隠し部屋への入口があるのかもしれない。
「追いつめたぜ、ビアドラス!!」
「ギャロッ!!」
ビアドラスが振り返って蒼太と樹里を見た。
そして、息を吸って肺を膨らませ、息を吐き出すと、口内から紫色の泡を吹き出した。
「やっこさん、追いつめられて、泡でも吹いたか!?」
紫色の泡は膨れて、シャボン玉状になり、前方の壁に当っていく。
すると壁に球形の穴が出来た。
次々と穴が開いて、壁が蜂の巣のようになり、壁がガラガラと崩れ落ちた。
「なんだい、ありゃ!?」
「溶解泡のようね……Eスーツで耐えられると思うか?」
「いや、無理っぽそうだ……」
ビアドラスがアクアブルーとソルレッドに向って、紫色の溶解泡を吹き出した。
泡が八方に乱れ飛び、壁や天井、廊下を穴凹だらけにした。
「激ヤバだ!! よけろ、ソルレッド!!」
「おうっ!!」
ふたりは後退を余儀なくされた。
曲がった廊下の向うに隠れる。
その間にビアドラスはマリを抱えて、悠々と前に進んで行った。
溶解泡が消え去り、ようやくアクアブルーとソルレッドが姿を見せる。
「ビアドラスの野郎、とんでもねえ隠し玉をもっていやがったな……」
ソルレッドが穴凹痕を観察し、
「これは強酸などで溶かした物ではない。異臭もただよってはいない……えぐられた跡が滑らかだ。まるで壁を空間ごとえぐり取ったようだ」
「ひええっ……まるで異次元の薬物兵器だな!」
「舛井村の半魚人どもはこんな武器は無かった……ビアドラス特有の能力のようだ」
「奴はレベルがダンチのようだぜ」
ともかく二人は溶解泡に注意して、ビアドラスを追いかけた。
前方に開いたままの扉があり、のぞくと螺旋階段であった。
吹上の上をのぞくと、ビアドラスが尖塔の螺旋階段を昇っていった。
その後を蒼太と樹里が追いかける。
「上は行き止まりだぞ。籠城でもするつもりか?」
「分からない……だが、何か策でもあるのかもしれぬ」
ふたりは尖塔の最上階部屋についた。
見張り台として使う物だが、墨江博士は使用してないので、ホコリだらけで、蜘蛛の巣だらけだった。
尖塔の高さは20メートルもあり、海霧に霞む相模湾が見えた。
ガシャアアアン!!!
ビアドラスは窓ガラスを割って、外の塔の周囲に張り出した円形のバルコニーに出た。
「奴め……まさか海に飛び込む気じゃないだろうな……銃弾をはね返すほどの硬い鱗を持つ半魚人と違って、マリさんは一溜りもないぞ」
10メートル以上の高さから海面にダイブすれば、人体にかかる衝撃は約1トンとなり、素人が飛ぶと大怪我や死亡事故につながる。
「半魚人野郎、マリさんを離せ!!」
「ギョレフ……」
蒼太がビアドラスに銃口を向けるが、相手は脅しを歯牙にもかけない。
ソルレッドが銃身に手をかけ降ろさせる。
「寄せ……射った弾丸は半魚人に命中しても、跳弾となってマリさんを傷つける危険がある」
「ちっ……分かってらい!」
「ギョルル……ギアアッ……アビサローン」
ビアドラスが海面にむかって叫んだ。
岬下方の海が大量の飛沫をあげた。
「あれを見ろっ!!」
樹里が指差す先に、銀色の丸い物体が見えた。
「ありゃ、UFOじゃねえか!?」
怪物体が波飛沫を上げ、海面を浮かび上がり、宙に浮いた。こちらの方へやってくる。
そして、怪光線を発射した。
光線はビアドラスとマリを包みこみ、二人は宙に浮き、吸い寄せられる。
「マリさん!!」
アクアブルーはカーゴポケットからボタン型の物体を取り出して、マリに投げた。ボタンは彼女の服にピタリと吸い付いた。
マリを抱えたビアドラスはUFOに底部に吸い込まれていった。
蒼太と樹里が空飛ぶ円盤に銃撃するが、銃弾をはね返した。
「チキショウ! ビクともしねえ……だが、マリさんに追尾子を取りつけた」
トレーサーはイクシード・フォースのエージェントが使うスパイ道具である。
UFOは底部から屋敷の地面に青い光線を放った。青い光は、屋敷全体を照らした。
青い光が消えた。すると、屋敷が急に揺れ出した。
「わわっ!! 地震か!?」
「見ろ、アクアブルー!!」
樹里が尖塔の下を指差した。
その先を見ると、屋敷に地割れが出来ているのが見えた。
なんだか身体が浮かびあがるような不思議な感覚に襲われた。
「バカな……この屋敷全体が宙に浮かびだした!?」
墨江屋敷が丸く地面ごと、大地からえぐり取られ、ふわふわと空中に浮かび上がっていったのだ。
「これは一体……UFOが重力場を操っているのか!?」
「反重力かもしれない……光線を当てるだけで、この辺り一帯を浮かび上がらせるとは……アビサロンの科学力は想像を絶する」
「このまま上昇が続くと、大気層へまで行ってしまう。空気が無くなってしまうぞ!!」
蒼太が事態は深刻だと告げた。
「あれ見て、UFOが!!」
蒼太たちを屋敷ごと空中に持ち上げ、空飛ぶ円盤は悠然と去っていった。
「くそっ!! マリさんと玉匣を奪われた!!」
「下を見ろ、アクアブルー」
「なんだ?」
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