スパイ大混戦
「おいおい……米中戦争ならよそでやれ、よそで!! ここは日本だ!」
「玉匣を狙う者がこんなにいるとはな……」
「しかし、中国の功夫対アメリカ陸軍格闘術か……俺もいっちょ、日本代表として参加したろか?」
「バカを言っているんじゃない!」
アクアブルーをたしなめるソルレッド。
「ギョレギャロッ!!」
そこへ、嫦娥の妖歌に酔いしれていた海童たちが、『青い蛾』と特殊飛行小隊の戦闘騒ぎで、術から覚醒し、中共スパイと米軍コマンドに襲いかかった。
「三つ巴の闘いになってきたな……いや、おれたちも含めて四つ巴か!?」
「ちょうどいい、奴らが争っているうちに屋敷へいこう」
「おう、漁夫の利だな」
蒼太と樹里が踵を返して、破砕された塀を乗り越え、屋敷の庭に入った。
そこで二人は首筋がそそけだち、立ち止った。
「どうやら……軽口を言っている場合ではないようだぞ、アクアブルー」
「ああ……ここにいる誰よりも凄まじい殺気を感じるぜ!!」
霧の向うから、白い霧をかき分け、大きな人影が現れた。
身長は190cm以上の人間の姿に酷似しているが、全身が深緑色の鱗で覆われ、腹部は白い、手足の指先に水かきがあり、背中に背びれ、尻に魚の尾がついている。
頭部が魚に似ていて、耳の辺りに前ビレがあり、首に三筋の鰓が見えた。
相模湾沖にある海底遺跡――真樽子遺跡ことアビサロンの神殿で、魚頭人身の怪神像を祀っていた司教が『契約の鍵』の奪取のために地上へ向かわせた使徒ビアドラスだ。
高級中型クルーザーでゴミを不法投棄していたタカシとカリナを惨殺し、泳いで海猫岬までやってきた。
「ギョオォォォ……」
「こいつは舛井村の魚童たちとは格が違いそうだ……先手必勝!!」
蒼太がイクシード・ハンドガンでNATO弾をフルオートで掃射した。
「やったか!?」
硝煙が晴れたあと、半魚人は悠然と立っていた。ビアドラスの足元に銃弾が大量に落下している。
ビアドラスは舛井村の海童たちと違い、深海の水圧をも耐えられる強固なボディをもっている。
銃撃にはビクともしない魚鱗と表皮の持主なのだ。
「ちぇっ……Eスーツ並の鱗鎧だな……天下のNATO弾がからきしだぜ!」
「半魚人め、これでどう……炸裂弾モード!!」
樹里がイクシード・ライフルに音声認識で銃弾をチェンジした。
炸裂弾は弾体の中に炸薬と、これに着火するための信管を仕込んだ銃弾だ。
着弾の衝撃で信管が作動して炸薬が爆発する。
人体や物体を丸ごと吹き飛ばす高性能弾薬だ。
はでに爆焔が魚類人を包みこみ、やがて晴れた。
だが、ビアドラスは白っぽい腹部に黒い煤汚れができたが、致命傷を与えなかった。
「バカな……炸裂弾でもダメだと!?」
「まるで不死身の怪物だ!!」
ビアドラスは左の二の腕にはめている銀の腕輪に右手で触れた。
すると、腕輪から光りが放射され、手前に人影が浮かんだ。
「あれは立体映像だ!!」
暗灰色のローブを着た人物が杖を持った男の姿が浮かびあがった。
フードの下には、魚がモチーフの民族仮面をつけた人物であった。
「お前は誰だ!?」
「ふふふふ……お初にお目にかかる、イクシード・フォースの諸君」
「おれたちの事を知っているのか!?」
「我が名は魚人司教という。偉大なるアビサロンの信徒にして、アビサロン秘儀教団の司教を務めている」
「魚人司教だと?」
「我は千年以上前に紛失した『契約の鍵』を取り戻しにきただけだ。それを渡せば大人しく海へ帰る……だから『契約の鍵』を渡してはくれまいか?」
「おっと、そうはいかないぜ。米軍のゴリガン中尉から聞いた。『契約の鍵』は封印された兵器庫の扉を開け、地震発生装置の『ビヒモウス』を動かす鍵だってこともな……お前ら、そいつを使って日本に攻撃するつもりだろ?」
「ほう……そんなことまで知られてしまったか……さよう。陸地に住む毛無し猿どもの子孫どもよ……穢れた文明を築きし者どもよ……我らは母なる海を穢す毛無し猿どもを地上から一掃するのだ……『審判』の日は近い!!」
一方、蒼太たちから離れた塀と森の間の平地で、米兵コマンドと中共エージェント、海童の三つ巴の闘いが続く。
そんな中、コディ軍曹が岩の影で弾倉を入れ替えていると、アジア人が寄って来た。
「中共のスパイめ!!」
コディ軍曹が銃口を向けた。
だが、その相手は黒根津助手だった。
彼は両手を挙げ、
「待て、おれは日本人だ。あんた達が雇った宇坪金融の者だ!!」
本当は牙沢に借金の形に強制されただけだが、死人に口無し。
黒根津は宇坪金融の者のふりをした。
「なに、ジャパニーズ・ヤクザの者か?」
「そうだ。あんた達が探している玉匣を手に入れた」
アタッシュ・ケースを開いて玉匣を見せた。
「おお、これが……そうか。よくやったぞ!!」
「その代わり、アメリカにおれを亡命させてくれ。それに墨江博士を手伝ったから、アビサロン文明の研究結果もある程度知っている」
「ふ~~む……」
「それに玉匣を盗んだから、もう日本にはいられないんだ!!」
それと、宇坪金融の借金からも逃れるつもりであった。
「いいとも、いいとも……アメリカは、国益になる亡命者には肝要な国だからな」
「おお、ありがたい!!」
笑顔になったコディ軍曹の眉間が、突然、撃ち抜かれた。
前に崩れ落ちる米兵コマンド。
「ぎゃああああっ!!」
黒根津が悲鳴を上げる。
「そうはさせん。玉匣は中共のものだ!!」
青い蛾の金烏が、黒根に迫る。
「待て、玉匣をわたすから、中国に亡命させてくれ!!」
「きさまなどいらん!!」
金烏が黒根津から玉匣を奪い取る。
「くそ……そいつを返せ!!」
金烏にすがる黒根津が振り払われ、右足で蹴とばされた。
「ぎゃうっ!!」
「玉匣は中共の物だ!!」
「ギョルゥ!!」
その金烏を、海童が背後から鉤爪で引き裂き惨殺した。
「うわあああああっ!!」
「待て、半魚人!! そのタマバコを寄越せ!!」
「いいや、玉匣は我ら中共の物だ!!」
ロジャース軍曹と李嫦娥が半魚人に殺到した。
玉匣争奪の混戦は続いていった……
その頃、川崎の工業地帯で一、二を争うグレート・ダイナモ社の社長の夜越樽蔵は、悲嘆と怒りにくれていた。
相模湾で発見され、水上警察が発見してきた高級中型クルーザーに、彼の息子のタカシの惨殺死体が発見されたからだ。
クルーザー側面には落書きのように赤いペンキが一面に塗りたくられていた。
遺体は真樽子警察署で検死されていて戻ってきていないが、首まで切り離されて全身傷だらけに損壊されていたという。
「くそっ……タカシをやったのは、環境保護団体の過激派の奴らにちがいあるまい!!」
海に面した工場地帯の本社ビル前の駐車場には、黒塗りのベンツやバンが集まっていた。
その中心に、でっぷりと太り、団子鼻の下にちょび髭をはやした男、夜越樽蔵は怒りに震えていた。
「赤いペンキはただの嫌がらせじゃない……血まみれにしてやるという殺人予告に違いないわい!!」
グレート・ダイナモ社の工場から出している工業廃水やスモッグが、基準値以上だと週刊誌にスッパ抜かれて以来、環境保護団体や周辺の住民が本社に押しかけて騒動になっているのだ。
海岸には工業地帯が広がり、空気も悪い夏場は連日、光化学スモッグ注意報が発令される。
昔よりは大気汚染もよくなってきたが、グレート・ダイナモ社が他の工場を買収してから事情が変ってきた。
「警察なんてあてになりませんや。なあに、うちの若い連中を繰り出して、坊ちゃんをばらした奴らを連行してやりますよ」
「おお……頼むぞ、貪六」
かたわらにいるサングラスに顎の突き出た男は、サラ金会社の宇坪金融の社長であり、宇坪組組長の宇坪貪六という。
樽蔵と貪六は学生時代からの不良仲間で、先輩後輩の仲だ。
神奈川県で最も犯罪発生率が高く治安が悪いのは、川崎市川崎区だ。暴行・傷害・恐喝・窃盗などが多い。
川崎区にはJR川崎駅があって、その周辺に繁華街が広がっている。
風俗街やギャンブル施設も多くあるから昼から、公園でお酒を飲んでいる人やホームレスもたくさん見かける。
商業施設が多くある駅前施設なら大丈夫であるが、通りを少し歩くと女性一人で歩くのがはばかれるような場所がたくさんあり、御世辞にも治安がいいとは言えない。
夜越樽蔵と宇坪貪六は、川崎の暗黒街を牛耳る顔役たちであった。
「最近は米軍横須賀基地の裏の仕事も引き受けていましてね……米軍横流しの武器もたんとそろえてますぜ。中国製玩具銃なんて目じゃねえ」
米軍からの横長しでは、鬼の横浜税関も摘発できない。
貪六は、上衣の下に隠したガンホルスターから、ベレッタM9を見せた。
手下たちも、上衣下から、コルト、スミス&ウェッソン、グロックなどを見せる。
車両には短機関銃や、手榴弾、弾倉弾薬などがそろっていた。
米軍制式軍用拳銃がシズ・ザウエル17に切り替わり、それまで35年の間使用されてきたベレッタなどの旧式の銃火器が、ブキャナン少将配下によって、極秘裏に密売されているのだ。
「そんなに武器を集めてどうするつもりだ?」
「川崎には、三大ヤクザ組織なんてのがありやすがね……」
「銀宝会と虎鯊組、そしてお前の宇坪組だな」
「横流しの武器をつかって、他の組を潰し、川崎のトップを取るつもりでさ!!」
樽蔵はゲスっぽく金歯をむき出して笑い、
「おお、頼もしいことをいうな。わしも協力は惜しまんぞ!」
と、内懐の財布から現ナマで百万円を親分に渡した。
「当座の費用でこれを使ってくれ。必要経費は追って出させる」
「さっそく子分どもに配ります」
「だが、その前にタカシの仇討ちだ!!」
「分かってまさあ。野郎ども、タカシ坊ちゃんを殺った奴を草の根分けてでも捜し出せ!!!」
子分たちが「オウッ」と鬨の声を上げた。
その時、海面が急に上昇し、水飛沫があがった。
そこから大蛇のような首が出現する。
「ギャオオオオオオオッ!!」
滅んだはずの太古の水棲生物が出現した。
体長25メートル、体重80トン以上になる首長竜ブラキオサウルスであった。
「なんだありゃ!?」
「怪獣だ!!」
「野郎ども、撃て! 撃ち殺せ!!」
宇坪貪六の命令で、手下たちが恐竜に銃口向けてを撃ちまくった。
ベレッタM9、コルト、スミス&ウェッソン、グロックが火を噴き、短機関銃がタンタンタン……と、狂ったように吼え続け、銃弾・軽機弾が雨あられと降り注ぐ。
紫色の硝煙がもうもうと立ち込めた。
「ギャオオオオオオオッ!!」
だが、ブラキオサウルスは一顧だにせず、銃弾が当ってもはね返した。
首長竜は海岸へ上陸し、車両を踏み潰して行った。
その爆発でもビクともしない。
「くそっ、これならどうだ!!」
焦れた貪六が手榴弾のピンを引き抜き、恐竜の胴体に投げつける。
爆炎をあげて恐竜が火に包まれた。
「ざまあ見さらせ!!」
「やったか、貪六!!」
爆煙の中から無事な首長竜が姿を現し、貪六を踏み潰した。
「うわあああああぁっ!!」
恐怖に駆られた夜越樽蔵は、本社ビルの中に逃げ込んだ。
だが、そこへ向かって、ブラキオサウルスは口をカッと開き、青白い霧状の熱線を吐きだした。
放射熱線が直撃したビルは爆発炎上し、グレート・ダイナモ社の工場は連鎖的に爆破されていった。
火炎地獄と化した工業地帯を後にして、首長竜は悠々と海へ帰っていった……
ざっくり最後まで執筆しました。
少しずつ推敲して更新していきます。
作品を読んでみて、面白かったと思っていただけましたら、広告下にある《☆☆☆☆☆》に評価していただけましたら、創作活動への大きな励みと活力になります。
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