人形使いグライアイ
墨江屋敷内では、和鷹マリと墨江博士が壊された窓の破壊跡に、家具などでバリケードを作っていた。
墨江博士の書斎兼研究室には縛られたままの黒根津足穂助手がいた。
彼は宇坪組の牙沢と岩野に見捨てられたのだ。
おそらく強盗などの罪をすべて彼に押し付ける腹積もりだったのだろう。
「隅江博士、いったい何があったんですか?」
黒根津が外の銃声や破壊音で不安になり、かつての御師に訪ねる。墨江博士はいらただしげに、
「きみが出した脅迫状通りに、本物の海童が玉匣を奪いにやってきたのだよ……しかも大勢。いま、蒼太くんと樹里さんという方が必死で食い止めておる」
「本物の海童が……やはり、アビサロンは存在していたのですね!?」
「そうじゃ……」
「墨江博士、ぼくもバリケード作りを手伝います。このコードを解いてくれませんか」
「なに!?」
「たしかにぼくは借金返済のために、墨江博士に対して、してはならない事をしてしまいました……ですが、今は猛烈に反省しています」
殊勝な顔をした元教え子である助手を見て、墨江博士は情がほだされていく。
「なに言っているのよ、あんたなんか信用できるわけないでしょ!」
マリは辛辣に反対する。
「いや、マリ君……これでも黒根津くんは私の教え子でもある。恐ろしい海童がここへいつ攻めてくるかもしれぬ。ここは同じ人類同士、一致団結すべきではないだろうか」
「でも……」
マリが渋る。
「やがてここに警察も到着する。彼もこの期におよんで妙な真似はしないじゃろう。一件の片がついたら、警察にもわしが彼に口添えしよう……」
「墨江博士! ぼくは心を入れ替えてお手伝いします!!」
「うん、うん……」
なんだか感動の師弟のドラマを見せつけられ、断りにくくなった和鷹マリ。
「そういう事でしたら……」
しぶしぶ納得したマリ。墨江博士は黒根津助手のいましめを解いた。
その間、マリは所在なげに机の上のアタッシュケースを撫でた。
「さあ、黒根津くん、きみもバリケード作りを手伝ってくれたまえ」
「はい!」
そういって、黒根津助手は家具を運ぼうとして、不意に反転し、机に置かれたアタッシュケースを奪い取った。
「ちょっと、あんた何しているのよ!!」
黒根津はアタッシュケースから玉匣を取り出し、
「ふふふふふ……このまま警察に捕まってなるものか。こいつは米軍に売り渡して、借金をチャラにさせてもらうぜ!!」
「きみという男は!!」
助手が改心したと思ったら、あっさり裏切られ、墨江博士は怒り心頭だ。
黒根津は悔しがるふたりを余所に、窓の破壊跡の隙間から外へ跳び出し、霧の中に消えていった。
先ほど見た米軍特殊飛行小隊の三人が森の中にいるはずであった。
庭では、濃霧がますます濃くなっていった。
「うわっ、さらに海霧が濃くなってきやがった!!」
「視界先が5メートルと見えないな……」
蒼太と樹里が背中合わせになり、前後の半魚人たちに向い合った。
「後ろは任せたぜ、ソルレッド!」
「抜かるなよ、アクアブルー!」
「アクション映画でいえば、激アツなシーンだぜ!!」
霧に乗じたように半魚人たちが襲ってきた。
蒼太と樹里が銃器で応戦する。
半魚人たちは銃弾を素早い動きでたくみ避けた。
銃弾をよけて白兵戦を仕掛けた半魚人。
鉤爪が蒼太を引き裂こうと迫る。
それを右に躱して逃れた。
攻撃をかわされた魚類人はふたたび濃霧の中に消えていった。
フルオートで半魚人五人は倒せたが、まだまだ兵力は残っているようだ。
魚類人はいったん濃霧の中へ潜り込み姿を消した。
「奴らあきらめたと思うか?」
「いや、隙をみて一斉に襲い掛かるとみた」
「だろうな……」
「ライフルの体温感知器も、こう大勢では役に立たない……海霧を何とかできれば勝率が上がるんだが……」
「苦戦しているようね。ソルレッドとアクアブルー」
第三者の声にぎょっとした蒼太と樹里。
上空からウサギの人形がふわりと飛んで来て、蒼太と樹里の前で浮遊した。
シルクハットに燕尾服を着ている。
「人形がしゃべった!? いや、こりゃあ、グライアイの人形じゃねえか?」
「名前はラビ太だ」
「よく覚えてんな!?」
空中の霧の中から、傘をさしたゴスロリ衣装の少女がふわふわと舞い降りてきて地面に立った。
アクアブルーとソルレッドが「グライアイ!!」と叫ぶ。
「遅せえぞ、中二病!!」
「『N』の命令だから来てあげたのよ、感謝しなさい、ザーコ!」
「誰が雑魚だ!!」
「それより今は手を貸して、グライアイ」
「いいわよ、ソルレッド」
グライアイが右手を左眼の前にかざし、左手を右肘につけるという中二病ポーズを取り、
「……わが闇の眷属たちよ、我に集え!!」
上空の霧から人形たちが舞い降りた。クマ、ポニー、ペンギン、仔羊、仔豚、ピエロやクリミ割り人形といった人形やぬいぐるみ達だ。
グライアイこと聖海璃は超能力者だ。
念動力により、物理的な接触を一切行わず、意思の力だけで人形を宙に浮かせて操ることができる。
彼女はこの能力を、人形使いと自称している。
三人のエージェントたちの周囲に等間隔に円陣を張り、外側に顔を向け、バリヤが張られた。
海霧が遮断され、球形バリヤの形がよく視認できる。
アクアブルーとソルレッドはほっと息をついて休憩する。
「ん……お陰で一息つけた、グライアイ。応援感謝する」
「うふふふ……我が来たからには防御は鉄壁の布陣なり」
「それで、海霧の発生源がわかったというが……」
「四方に放った我が闇の眷属たちの眼を通して、わが邪気眼が海霧の発生源を発見せり……海霧の発生源は海猫岬の方角よ、ソルレッド」
「なんだと!!」
「我が眷属であるペン太が、海猫岬の突端の下の海……そこに海霧発生装置を乗せた漁船を発見したのだわよ」
ペンギン人形がぺこりとお辞儀をした。
彼女の人形たちは、テレパシー脳波で遠隔操作できる遠隔誘導端末である。
また、電子アイ搭載により、海璃は人形が見た1キロ四方にある視界状況とリンクして、情報共有をすることができる。
グライアイとは、ギリシア神話に登場する三姉妹の怪人のことだ。
海神ポルキュースとその妻ケートーの間に生まれ、ゴルゴーンの姉妹にあたる。
グライアイは生まれた時から灰色の髪であったために、老婆達と呼ばれた。
グライアイ三姉妹はひとつしかない眼を姉妹で共用していたと言われる。
聖海璃はその話になぞらえ、自らのコードネームをグライアイとし、人形たちと視界状況を共有する能力があるのだ。
「でかしたぞ、グライアイ!!」
霧の向うから複数の殺気がふくれあがった。
「海童たちが一斉にやってくる!」
「わたしに任せて、バリヤ解除!」
人形たちが光の帯を停止した。
それと同時に八方から、霧をかき分け、半魚人たちが一斉に姿を現した。
「罠だというのにノコノコ出て来たわね、深きものども……それにしても、ハンギョポンやゲコゲコゲコッチとちがって、本物はグロいのね」
海璃の人形やぬいぐるみ達が半魚人たちに向って一斉に口を開き、海璃の瞳が灰色に輝いた。
「わが異能『人形の雷霆』!!」
口内の電撃ビーム砲から発した雷光がディープ・ワンズたちに放たれた。
これらは人形に偽装した自走式の全領域式機械兵器である。
「ギャロアッ!!」
雷撃が半魚人たちを覆い、真っ黒に焼け焦げて倒れた。雷撃による高温で、周囲の霧が蒸発し、円形数百メートルが見合わせた。
庭には海童の死骸が溶けていく様子が見えた。
まだ門の入り口の方角に十数人の魚類人たちがいた。
数百メートルの晴れた空間が、ふたたび周囲の海霧に浸食されていく。
「ザーコどもには焼き魚がお似合いかも」
「全領域式機械兵器で半魚人どもを殲滅しやがった……おいおい、俺が目立たねえじゃねえか!」
「あんたはずっと出ずっぱりで目だってたんだからもういいでしょ!」
「ふたりとも冗談をいっている場合ではないぞ」
「そうだった! グライアイ、海霧の発生源を叩いてくれないか?」
「あんた、私に命令する気?」
「ていねいに頼んでるじゃねえかよ!!」
「海璃、頼む」
「まあ、ソルレッドに頼まれちゃ断れないかも……イクシード・チェンジ!!」
「この差はなんだ、グライアイ!?」
聖海璃のまとっていたゴスロリ衣装が変形し、形状記憶合金により紫と黒を基調としたイクシード・スーツに変化した。
「さあ、我が闇の眷属たちよ……混沌の白霧の帷をかき分け、我に続け!!」
宙に浮かんだグライアイが、海猫岬の突端に向けて飛んで行った。
グライアイは念動力により、自分自身を宙に浮かせる空中浮遊術も可能であった。
「しっかし、あの中二病はめんどくさいやっちゃなあ……」
「だが、グライアイは空を飛べる……彼女の機動力なら単機でもミッションを成功させるだろう」
「ああ……まあな」
そのとき、霧の何処かから、美しい歌声が聞こえてきた。
「誰だ……こんなところで唄をうたっているのは!?」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
蒼太と海璃のメタな会話は、YouTubeでザブングルを観た影響ですね。
アイアンギアの人達は自分達がアニメキャラと自覚していて、視聴者から目立とうとするメタギャグをしているw
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