キラー・エイプ
強化人間キラー・エイプとなったゴリガン中尉は、厚い胸板を手の平でボンボンと鳴らし始める。
ゴリラ成獣のオスが鳴らすドラミングだ。
この音は数km先まで届くこともあり、外敵への威嚇や自己アピールの意味合いがある。
ゴリガン中尉は、身体も精神も凶暴化した戦闘マシーンと化していた。
「ウホッ!!」
キラー・エイプは蒼太に駆け寄り、ナックル・パンチを繰り出した。
猛攻に蒼太は押され、背後に跳躍して逃れた。
さきほど飛んできた岩石の上に着地する。
ゴリガン中尉が両手を上に組んで、蒼太の頭部めがけて叩きつけた。
「ハーキュリー・クラッシュ・ハンマー!!」
空気を揺るがすほどのダブル・スレッジ・ハンマーが、蒼太の頭部を粉砕すべく襲った。
が、蒼太はそれより早くトンボを切って逃れた。
蒼太のいた場所――岩にゴリガンの打撃が当たり、大岩は粉々に砕け散った。
推定5トンの圧倒的パンチ力だ。
ゴリラは腕力が人間の約12倍あり、一撃で骨を砕くほどの威力がある。
ヘビー級ボクサーを遥かに凌ぐ破壊力だ。
しかし、強化人間キラー・エイプは、ゴリラのパワーを遥かに超えるほどの威力があった。
着地した蒼太が、汗を拭く間もなく、殺人猿の第二波攻撃が襲った。
高く飛びあがった殺人猿が、両手を組んでフライング・アックス・ハンドルを見舞った。
「ハーキュリー・クラッシュ・ハンマー!!」
間一髪、蒼太は斜め左方に跳躍して逃れた。
地面が爆発したように土砂が巻き上がる。
不発したパンチが大地をえぐったのだ。
「ウホッ!?」
ゴリガンの両拳が地面に深く埋まり、抜けなくなったようだ。
「獣人ゴリラ男め……パワーは凄いが、脳みそまで筋肉でできているようだな!!」
蒼太がここぞとばかりに空中に跳び、キラー・エイプの背中にドロップキックを見舞った。
「ゴフッ!!」
「まだまだぁ!!」
蒼太はキラー・エイプの足を持ち、身体を地面から引き抜き、両手で巨体を持ち上げた。
Eスーツで強化された腕力は、自動車をも持ち上げられる。
そのまま強化人間を10メートル先の地面に叩きつけた。
「ぐわあああっ!!」
土砂を巻き上げ地面に陥没する殺人猿。
そこへ蒼太が駆けていった。
「これでとどめだ……イクシード・ミサイル・キック!!」
Eスーツの五階建てビルをも飛び超える脚力による飛び蹴りの衝撃で、キラー・エイプの身体が地面にめり込んだ。
「ウホォォッ!!!」
「やったか!?」
ピクリとも動かない殺人猿。
生死を確かめるために、蒼太がキラー・エイプに近付いた。
すると、急に毛むくじゃらの腕が動き、蒼太の足を薙ぎ払った。
「うわっ!?」
不意を突かれた蒼太が転倒する。
強化人間となったゴリガン中尉の脳下垂体から、強化回復ホルモンが分泌され、通常の百倍の速さで自己治癒能力を向上させたのだ。
「グルルルル……」
キラー・エイプが歯をむき出し、蒼太の太腿に噛みついた。
「ぎゃあああっ!!」
キラー・エイプの強烈な噛みつきでイクシード・スーツがひん曲がっていく。
「バカな、銃弾をもはね返すEスーツが!!」
ゴリラの咬合力(噛む力)は非常に強力であり、ライオンなどの肉食獣をも上回ると言われている。
噛む力は、人間のおおよそ7~8倍あり、大きな犬歯で相手の腕や肩に深い傷を負わせる。
まして強化人間キラー・エイプの咬合力はさらにその倍以上あり、さしものイクシード・スーツも悲鳴をあげた。
このままでは、蒼太が危ない!!
「アクアブルーを離せ!!」
ソルレッドがキラー・エイプの腹部に向って、肩付けをしたイクシード・ライフルで麻酔弾を射った。
だが、猛獣が素早く右腕をふり、銃弾を払いのけた。
「なにっ!?」
『ハーキュリー・アーム』をはめているとはいえ、恐るべき動体視力と反射神経であった。
それを信じられぬ面持ちで見守る和鷹マリと墨江博士。
「ゴリガン中尉がゴリラみたいになったわ……どういう事なんでしょうか、墨江博士?」
和鷹マリが墨江博士に振り向いた。
墨江博士は困惑ぎみに、
「う~む……強化人間とかいっておったなあ。化学は専門外なんじゃが……おそらくは、一種のドーピングじゃ」
「ドーピングというと、スポーツ競技で成績をあげるために、運動能力や筋力の向上をさせるという……非合法のスマート・ドラッグなどの……でもそれだけで、人間が類人猿のようにまで変化するものなのでしょうか?」
「おそらくゴリガン中尉は、DNA操作と脳手術などにより、人体の筋肉量や治癒力が何十倍にも高められておるんじゃろう。じゃが、身体にかかる負荷が高いので、普段は通常の人間の能力で生活しておる。じゃが、薬物投与によって、改造された肉体の能力を十二分に発揮できる……強化人間とはいわば、科学が生み出した超人じゃな」
「まあ……まるで、SFコミックの世界の話ですね……」
「ああ……見た所、キラー・エイプとやらが、強化スーツの二人相手でも、パワーで勝っておる……」
「そんなっ!?」
「じゃがのう……あの獣人化した姿がそう長い時間保てるとは思えん」
「すると、変身が解けるまで持ちこたえれば……」
「勝てるじゃろう。しかし、強化人間も、強化スーツも、人体の能力を大幅に超えた能力を引き出す行為は危険じゃ……人体への多大な負荷は、やがて彼らに深刻な後遺症を発症するにちがいあるまいて……」
「まあ……」
マリが心配げに蒼太と樹里を見た。
銃弾を払った隙に、アクアブルーが前へ出た。
「どりゃあっ!!」
アクアブルーが渾身のドロップキックを殺人猿にかました。
だが、ゴリラ人間は両腕をクロスさせてブロックした。
Eスーツの跳躍力パワーで、殺人猿の足が後方に5メートル後退していく。
「ウホォォ!!」
キラー・エイプが蒼太の足を掴んで、地面に叩きつけた。
「うわあああああっ!!」
そして丸太のように太い腕で蒼太をつかみ、地面に押し倒した。
ゴリラ人間は狂ったように蒼太を地面に何度も叩きつけた。
衝撃でぐったりした蒼太。
殺人猿は、両手で蒼太の右足と左足をつかみ、外側に力を入れた。
「げっ、股裂きの刑にする気か!!?」
ゴリラの500kgに達する握力は、相手をつかんで地面に叩きつけ、腕の力で相手を引き裂くことができるのだ。
「頭を下げろ、アクアブルー」
ソルレッドがイクシード・ライフルでキラー・エイプの頭部に弾丸を放った。
反射的に殺人猿は両手を離して、強化グローブで弾丸を跳ね除けた。
「ウホッ!?」
キラー・エイプは弾丸を跳ね除けたはずだが、両手が氷で真っ白に包まれていた。
「冷凍弾モードだ……両手を封じさせてもらった!!」
クールに決めるソルレッド。
「ありがてえ、あやうくチューペットみてえに股を裂かれるところだったぜ!!」
「今の内に倒せ!!」
「応っ!!」
蒼太が両脚と腹筋で米つきバッタのように跳ね起きた。
「ウホッ!!」
殺人猿は凍ったままの腕で、体重を乗せたストレート・パンチをアクアブルーの腹に送ってきた。
ゴリラは筋肉が骨格に繋がっている場所があり、体重あたりのパンチ力が強い。
しかし、細かい筋肉のコントロールは苦手である。
その隙を蒼太が見極めた。
「もう、てめえの動きは見切ったぜ……海雲寺流格闘術・漣!!」
蒼太はキラー・エイプの暴走列車のようなパンチの動きを読み、柳の枝のようにしなやかに動き、それを避けた。
そして、漣のごとく静かにキラー・エイプの懐に入っていった。
「怒涛拳!!」
SLAM!!!
キラー・エイプの腹に静かなパンチがめり込んだ。
それは波濤のごとく威力のある拳打であった。
キラー・エイプの全身に衝撃が波紋のように広がる。
「グフッ!!」
さしもの殺人猿も、内臓に効いてタタラを踏む。
再びゴリガンの脳下垂体から強化回復ホルモンが分泌され、自己治癒能力を向上させていく。
「とどめだ!! イクシード竜巻拳!!」
BAKOOOOON!!!
ボディが回復する前に、蒼太は強化人間の顎にアッパーを決めた。
強力な殴打に、仰け反って宙に舞いあがるゴリラ人間。
痛烈な一撃にノックアウトし、殺人猿がドウと地面に落下した。
白目を向き、舌を出して気絶している。
見る見るうちに、キラー・エイプの毛むくじゃらの身体が、ゴリガン中尉の身体に戻っていった。
「やったぜ……」
「見事なKOパンチだったわよ、蒼太くん!!」
マリが声援をおくった。
「美人アナの応援とは、こりゃ、嬉しいね!!」
「うしろを見ろ!! アクアブルー」
「なにっ!!」
霧をかき分け、インスマス面をした漁師たちが静かにこちらに向ってくるのが見えた。
パワー対パワーの対決シーンでした✨
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