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半魚人は霧の中を往く

 銛や三叉槍の切っ先が月間とゴスロリ少女に向って突きたてられた。


 ガシンッ!!! 


 だが、半魚人の武器は何か半透明の壁に当って、二人に届かない。


 気がつけば、月間と謎の少女、および乗用車を直径5メートルの球形のバリヤがおおっていた。

 白い濃霧がバリヤで閉され、はっきりと球形だと分かる。


「ギュボ……ギャギョッ!!」


 半魚人たちはその表面に攻撃を続ける。


「なんかバリヤみたいなのに包まれている!!」


「わたしが結界を張ったのよ」


「ええ……凄いなあ……」


「まあね♪」


 ゴスロリ少女が自慢げに口の端をあげる。


「異能って……超能力みたいなものですか? スタンド使いや念使い的なあれ……」


「たとえが平成生まれだわね……そんなものよ」


「ところでこの魚のお化けたちは何なんですか!?」


「この辺りの伝承でいう妖怪・海童うみわらわね」


「妖怪っ!!」


「ラブクラフト風にいえば、深きものども……ディープ・ワンズね」


「何なんです、その深きものどもってのは?」


「アメリカの怪奇幻想SF作家、ハワード・フィリップ・ラブクラフトが書いた小説『インスマスの影』に登場する魚人たちのことよ」


「えっ? 小説の話?」


「ディープ・ワンズはクトゥルフを神として崇拝し、種族の長老である父なるダゴンと母なるヒュドラに仕える、半人半魚の種族だわよ。小説の港町インスマンスの住人たちは、海岸から数キロ沖にある悪魔の岩礁の下にある、海底都市イハ=ントレイへ出入りしているのだわよ」


「えっ、それって……なんだか真樽子市で発見された真樽子遺跡に似ているような……」


「そう、舛井村の漁師たちは、真樽子遺跡と呼ばれる海底神殿へ行って、アビサロンという神像を崇拝し、人間に化けて暮らしている魚類人間だったというわけ」


「そんなことが……でも、目の前にいるしなあ……信じるしかないかぁ……でも、なんでそんなにくわしいの?」


「ふふふふふ……ラブクラフトの作品群が我が愛読書。我はラブクラフティアンだから、インスマスの事は周知の事実なり!!」


「ああ、中二病の子なのね……じゃなかった、小説に書かれたことが現実になったってことなのかい?」


いな、ラブクラフトは20世紀初頭の作家であり、彼の書いた小説は、彼のみた悪夢をインスピレーションに書かれたものが多いが、それは彼の豊富な知識に裏打ちされるもの。その中に当時流行していたブラヴァッキーの神智学しんちがくや超常現象の研究書を参考にしている」


「神智学?」


「ブラヴァッキー夫人が提唱したものだわよ。神智学は古代の智慧、神聖な科学の教えなり」


「なんだか、怪しげなカルト宗教みたいだなあ……」


「そう、ブラヴァッキー夫人は、世間的には今でいう霊感商法で稼いだ詐欺師ね」


「あっ、やっぱり……」


「しかし、彼女は十代二十代の頃は本当に超能力があったようで、世界を旅して秘教を学んだという。エジプト、ジャワ、日本、インド、チベットなどに滞在し、各地の導師たちの教えを受けたらしいわ。ラブクラフト先生はヴァラヴァッキー夫人の著作や研究書類から、アビサロンのことを知った可能性が高いかも」


「アビサロン? 半魚人たちが叫んでた、あれ!?」


「ラブクラフト先生がクトゥルフやダゴンを書く時に参考にした古代の神よ」


「へ、へえ……」


 話の半分も分からない月間であった。


「あっ、大事なことが!!」


「なによ?」


「このことを屋敷内の蒼太くんに連絡しなきゃ!!」


 スマホにかけると、今度はすぐに出た。


「おう、月間か。もう三度目だぞ。マスク強盗にフライング・ヒューマノイドときたら、次は何だ?」


「ば、化け物が出ましたあっ!!!」 


 月間が今までになく怯えた感じで叫んだ。


「半魚人が集団で襲ってきたんです!!」


「アビサロンの先兵が出やがったか!!」


 塀の向うから爆発音が聞こえた。


「ひええええっ……一体なにが起こっているんです!?」


「悪いが交戦中だ。そっちに行くまで車で逃げていろ」


 携帯電話が切れた。


「あっ、ちょっと、蒼太くん、蒼太くん!!」


 ミシッ……


 何かが割れるような音がした。透明なバリヤにヒビが入っている。

 半魚人たちの銛や手鉤がひん曲がってしまったが、結界は壊れつつある。


「うわっ、バリヤに割れ目がぁぁ!?」


「ちょっと、深きものどもを舐めていたわねえ……反撃しないと危ないかも」


「反撃って!? 何か武器でも!?」


「わが眷属たちを甘く見ないでほしいのだわよ」


 バリヤが解かれた。

霧が流れ込み、バリヤが無くなったと気付いた半魚人たちが一斉にふたりに襲いかった。


「わが異能『人形の雷霆パペット・サンダーボルト』!!」


 人形やぬいぐるみ達が半魚人たちに向って上下左右に陣形を組み、一斉に口を開いた。

 その中には電撃ビーム砲が搭載されており、砲口から発した雷光が放たれた。


「ギャピリ~ンッ!!」


 電撃が半魚人たちに直撃し、真っ黒に焼け焦げて倒れた。


「ザーコどもを焼き魚にしてやったのだわよ」


 彼女の人形たちは、テレパシー脳波で遠隔操作できる自走式の全領域オールレンジ式機械兵器なのだ。

 搭載されている電撃ビーム砲を用いて攻撃が可能な遠隔誘導端末である。

 また、電子アイ搭載により、人形が見た1キロ四方にある状況を知ることができる。


「うわわわ……なにこれレーザー兵器なの? 異能って、何でもありなの?」


「我が異能、『人形使いパペット・マスター』は応用範囲が広いかも。それよりも、蒼太の救援に向かわなきゃだわよ」


「えっ、蒼太くんを知っているのかい?」


「知っているというか、同僚だわよ。我が名は聖海璃ひじりみり……イクシード・フォースのコードナンバー109(ワン・ハンドレッド・ナイン)にして、通称『グライアイ』よ」


「ええっ!? 蒼太くんが属するという秘密組織の……実はぼく、蒼太くんにハッカーとして雇われたんですよ!!」


「知っていたわよ。ただのザーコじゃないってね。まあ、いいわ。あんたはここで待ってなさい」


 そういうと、聖海璃はポーンと跳躍して、塀の上に降りたち、屋敷内へと跳んでいった。


「うわわわっ……なんて、跳躍力だ。本当にホントの超能力者なんだあの子!?」




 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 109は当初、巴武蔵的な豪快キャラを考えてたけど、ラブクラフトの事話すなら中二病キャラのほうがしっくりくるかと思って変更しました。


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