謎のゴスロリ少女
その少し前……
墨江邸の表に車を止めていた月間塔次郎は、黒いバンやフライング・ヒューマノイドの出現にすっかりビビッていまい、ヒョンデ・スターリアを屋敷から少し離れた木陰に移動させていた。
運転席の中で、そわそわと屋敷の方をうかがっている。
「蒼太くんに関わってから、ハイウェイ・ゴーストに、怪しい人物たちの出現ですっかり怖くなったよ……マニズ財団の下部組織のアルバイトの話は美味しいけど……やめて、このままトンズラしたほうがいいかなあ……」
考えてみれば、テロリストに情報を流したと思われるハッカーを捜すという仕事も危険そうだ。
月間はゼナクスの第三開発部のプログラマーで、収入は申し分ない。
だが、盗撮やストーカー行為をした前歴があるので、蒼太に頭が上がらない。
「ふう……こういう時は、我が女神である和鷹マリさんの写真を見て心を癒そう」
月間はノート・パソコンを取りだし、真樽子漁港でのロケ中の和鷹マリを、二眼レフ・デジタルカメラで撮影した画像データを取り込んだ。
「うほっ❤ マリさんの新しい画像フォルダが増えたぞぉ」
画像整理に夢中になっていると、外の視界が曇ってきたのがわかった。
「あれっ……いつの間にか霧が発生している!?」
月間が外に出ると、たちまち白い霧が濃くなっていった。
肉眼で見通せる距離が1km未満だと霧というが、浮遊水滴が急激に多くなり、たちまち100m先も見えない濃霧となってしまった。
さっきまで快晴だった海猫岬が、海霧に淡く霞んでいく。
「さっきまで晴れていたのに……これって、幽霊岬のハイウェイ・ゴーストが現れたときとそっくりだぞ!!」
月間は女の幽霊のことを思い出して、ぞっと肌がそそけだった。
「あわわわわ……また、幽霊が出てくるんじゃないよねえ……どうせ出てくるなら、お化けのキ○スパーか、Q○郎系のかわいいお化けでお願いしますぅ……」
霧で濡れるので、月間は車の運転席に戻ろうとしたが、ふと視線を感じて前方を見た。
舗装道路の先に小さな人影が見える。いや、人影ではない、25センチのほどのウサギのぬいぐるみ人形がちょこなんと置いていた。小さなシルクハットを被り、燕尾服のような物まで着ている。
「あれ? ウサギの人形が置いてあるぞ。近所の子どもが忘れていったのかな?」
とはいっても、ここに来るまで、幽霊岬に人家は見えなかった。
霧が濃くなり、ウサギが視界から消えた。
「気のせいかな?」
月間が運転席に戻り、ドアを閉めた。
そして、何気なくフロントガラスを見ると、あのウサギの人形が立っている。
しかも、こんどは隣にクマの人形まで立っていた。
「ええっ!? 人形が増えた!?」
幻覚かと思った月間が眼鏡を外して、目をこすり、フロントガラスをもう一度見る。
すると、今度は十数体の人形が張り付いていた。
「どっしええええっ!?」
ドアを開けて逃げようとするが開かない。
もう一度フロントを見ると何も無かった。
「幻覚だったのか!?」
霧の中の人形という怪異に、月間はすっかり怖気づいた。
すると、今度は車の屋根にトンと何かが乗っかる音がした。そして、パタパタと何か小さなものたくさん歩く音が聞えた。
そして、小さな子供がはしゃぎ、笑うような声まで聞こえる。
「ええっ!? これって、ラップ音? ポルターガイスト現象!? マジで怖いんですけど……ナンミューホーレンゲーキョー、アブラカタブラ、ビビデバビデブー、アーメン!!」
すると、足音や声がパタッとやんだ。
「おお、呪文が効いたのか!?」
月間がドアを開けて、おそるおそる車の屋根を見上げた。
すると、黒っぽい人影が見えた。
漆黒のベルベットドレスに、コルセット、パニエで膨らませたプリンセスラインのスカート、黒レースのリボン付きヘッドドレス、ニーハイソックスに編み上げブーツ、薔薇の刺繍がほどこされた重厚なゴスロリ衣装を着た少女がいた。
灰髪を縦巻きロール、つまり螺旋状にくるくると立体的なカールにしたエレガントなヘアスタイルをしていた。
白い肌に、半ば開いた茶褐色の瞳、グミのような唇をした、14、5歳ほどに見える美少女であった。
「ええっ!? この子どこから来たの!?」
「あっち……」
謎のゴスロリ少女はレース付きのコウモリ傘を天へ向けた。月間は思わず空を見上げたが白い霧で見えない。
「まさか……メ○ー・ポピンズみたいに雲の上から傘を差して舞い降りてきたわけじゃないよねえ……」
「ふむ、当らずとも遠からず……かも」
「ええ……中二病の近所の子どもかなあ……霧が濃くなってきたから、早くおうちに帰りなさいね。それと、お兄さんの車の上に乗っちゃだめでしょ、もう……泥がつくならまだしも、靴底で車体に傷がついたらどうするの。ぼくのヒョンデはまだローンを払っている途中なんだからね!!」
月間がダッシュボードからウエスを取り出して車の屋根の泥をふきふきする。
ゴスロリ少女は傘を差してポーンと車から飛び降りると、ふわふわ着地した。
「なによ、この車って土禁?」
「ルーフに乗っかること自体が禁止だよっ!! 世間の常識ってものを知らないのかい、この子は……」
月間の抗議にもわれ関せずといった風情で、謎のゴスロリ少女はハイウェイ西側を見た。
「それより、危険なものが迫っているのだわよ……ここから避難した方がいいかも」
「えっ、危険って何?」
強盗にフライング・ヒューマノイドを目撃したばかりなので、妙に説得力があった。
「危険は危険だわよ、ヒョロガリダサメガネ」
「なあっ!? ……初対面なのに口が悪いなこの子! お兄さんは見張りという仕事をしているんだよ。早くおうちに帰りなさい!!」
「月間塔次郎では荷が重い危険が来るぞ」
「えっ!? なんで、ぼくの名前を知っているの!? きみって、超能力者?」
「そう……よく分かったな、ザーコ」
「がくっ……なんだか調子が狂っちゃうなぁ、この子……」
月間が謎のゴスロリ少女を持て余していると、ハイウェイ西側にある舛井村の方角から霧を透かして、車のサーチライトが見えた。
舛井村漁業組合と書かれたトラックが二台やってきた。
墨江屋敷の前にトラックを止めると、荷台から漁師たちがぞろぞろと出てきた。
手に手に、銛や手鉤、三叉槍、ヤスやホコといった漁具を持っていた。ぞろぞろと門に押し寄せる。
「アビサローン……アビサローン……ギャグルナフ……ギョアギョア……ギアアア……」
漁師たちは、奇怪な呪文を唱えながら、大勢が力付くで鉄扉を押し倒し、庭に入っていった。
「ギョタグル……ギャゴン……ギュルルイエ……ル……アビサローン……アビサローン……」
「うわぁ!! 漁師さんたちが集団で押し込み強盗を始めたよ!?」
「あれは……人間ではないかも」
漁師たちの数人が、月間とゴスロリ少女に気が付き、ヒョンデの方へ向かってきた。
「ギョルルル……ギアッ!!」
妙にエラの張った男たちで、青白いカエルに似た容貌の者が多い。
みな一様に目が死んだように空ろなのが不気味だ。
「どっしええええっ!? こっちに来た!?」
「あの特徴的な顔は、インスマス面かも」
「えっ、何それ?」
「ギョオォォォ……」
漁師が奇怪な叫び声を上げた。
月間がびくりと体を震わせる。
舛井村の漁師たちの肌が、みるみる内に変化していった。
上半身のシャツが破れ、人肌が深緑色の鱗に覆われていった。
指に水かきのようなものがついた手に、顔は魚のように変化していった。
首の両側にエラがあり、ぱくぱくと開閉していた。
「は、半魚人に化けたぁぁ!!」
ぬめぬめと光沢のある魚鱗におおわれ、こちらに迫ってくる。
「ぎゃあああ、こっちに来たぁぁ!?」
半魚人たちは手にもった手鉤や銛で、月間とゴスロリ少女に攻撃してきた。
だが、二人の眼前に小さな影がいくつか生じた。
よく見ると、さきほどのウサギとクマの人形だ。
二人と車の周囲に等間隔で、犬やコアラ、子豚や羊などの人形やぬいぐるみたちが空中に浮いていた。
「に、人形が宙に浮いている!?」
「この子たちは、我が忠実なる闇の眷属たちよ……我こそは闇の眷属たちを統べる者、人呼んで『人形使い』!!」
ゴスロリ少女が自慢げに宙に浮かぶ人形たちを見回す。
「中二病全開だけど、なんだか凄い!!」
「わが異能、『人形領域』!!」
ゴスロリ少女の瞳が、灰色に輝いた。
すると、人形やぬいぐるみたちが光りを発し、上下に光の帯が伸びて月間や少女たちの頭上や左右下部をおおっていく。
「ギョバァァァ!!!」
光の帯に驚いた半魚人が二人に向って武器を突き入れた。
月間塔次郎は、3年前に観たサスペンス劇場が元ネタです。
冒頭に出る脇役の盗撮魔が、キャストロールを観たらIZAMUさんだったのに驚いた。
盗撮された側の人間が、盗撮魔を演じる事ってあるの!? と。
現代ネタに飢えていたので取り入れたチョイ役だったのになぜかその後も出てる……まあ、驚き役に重宝なんで。
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