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玉匣とUFO

「それは後世で盛り込まれた御伽噺おとぎばなしじゃ。由緒書きによると、玉匣には兵器蔵の鍵がはいっておるはずだ。兵器蔵の中には毘比孟寿びひもうすという兵器がはいっており、厳重に封印されておると書かれておる」


「なるほど……」


「毘比孟寿って、古代の兵器だから、剣や槍、弓矢なんかの武器なのかしら?」


「さてのう……まだ解読中で、なんともいえぬのじゃ」


 蒼太は玉匣をあちこちいじってみたが、開かない。ふってみたが、何も音がしなかった。


「ああ、こりゃ駄目ですね。箱根の寄木細工みたいなパズルの仕掛けかと思いましたが、お手上げです」


「そうだろう。これは『開かずの匣』と呼ばれ、古道具の業者たちもお手上げであった。それに、長年月もたったというのに、錆もついておらん。金属探知機や電磁測定器、赤外線センサーなどで調べたが、中身が透視できなかった。中を開閉しようと、電気ノコギリやレーザー光線なども使ってみたが、箱を開けることはできなかった。まさしく異文明の高度なテクノロジーを使っていると思われる」


「まるで『場違いな工芸品オーパーツ』ってとこですね」


「オーパーツって、以前、伏木先生が言っていたわね。発見された場所や時代にそぐなわない高度な技術や知識で作られた出土品や遺物のことだって」


 アンティキティラ島で発見された、歯車を持つ複雑な天体軌道予測機械。

 コスタリカで発見された石球は、ほぼ完全な真球に近い巨大な石の球体。

 デリーの鉄柱はおよそ千五百年の間、屋外で風雨にさらされたがほとんど錆ていない。 


 などなど、当時の文明水準では製造が不可能、あるいは困難に思える工芸品などをオーパーツという。


「オーパーツは正式な考古学用語ではないし、見世物や詐欺に使われがちな言葉なので、わしは使いたくない。だが、この玉匣ばかりには、そうもいかぬかもしれん……」


 墨江博士は机の上から写真をもってきてふたりに見せた。


「これは真樽子遺跡を調査しているときにみつけた石版じゃ」


 水中写真に写った石板には、象形文字ともハングル文字とも異なる不思議な幾何学模様にも見える文字、というか記号の羅列が見えた。


「言語学者にも調べてもらった、神代じんだい文字のアヒル文字とも、日文ひふみ文字とも、ヲシテ文字とも、龍体文字とも異なる文字であった」


 神代文字は漢字が中国委からで年来する以前に存在していたとされる文字のことだ。


「わしは真樽子遺跡で見つかったこの石版に書かれた文字は、海神の一族、仮にアビサロン民族としよう。彼らが使っていた、アビサロン文字と仮定して解読を試みておるのじゃ」


「これがアビサロン文字……」


「ねえ、墨江博士。碑文にはアビサロンの他の情報はないんでしょうか?」


「うむ……アビサロンについてはまださっき言った以上のことは分かっておらん。その歴史も、姿形も謎じゃ。ただ、エビス信仰伝説の由来になったと考えられておる」


 マリはテーブルに置かれた写真をながめながら、玉匣、怪文書に視線が移り、本題を思い出した。


「この不思議な玉匣を、脅迫文にあった海童第一号という人物が狙っているんですね……」


「うむ、真樽子遺跡を造ったと思われる謎の民族アビサロンに仕える者が、海童なのではないかと思っておる」


「これは、おれの属する組織でも見解が一致している。さいきん出没する海童はアビサロンの使者だってね」


「海童って、伏木先生によると、半魚人みたいな姿ですけど、海神の一族の阿比寿王や龍女媛も、半魚人みたいな姿なのかしら?」


「さあて、そうかもしれない。違うかもしれない」


「なによ、それ」


「なんせ、アビサロンの先兵である海童しか目撃されてないんだから、確かめようがない。アビサロンの正体ばかりはまだはっきりしてないんだよ、マリさん。」


「それもそうか……」


「わしもアビサロン文明については懐疑的であった。だが、こんな不思議な玉匣の存在があり、海童一号なる怪文書まで来た。わしも信じざるを得ないかもしれない。蒼太くんのお父さん、海雲寺啓作くんの言うことに、もっと耳を傾けるべきだったと、反省しておる……」


「墨江教授……」


 墨江も蒼太も神妙な顔つきになった。海雲寺啓作と訊いて、


「思い出した!! 海雲寺って、宇宙物理学者の海雲寺啓作博士のことね。宇宙人の地球侵略説を説いて、日本の宇宙軍創設を解いたけど、国も科学者たちにも相手にされなくて、引退したって聞いたけど……」


「ああ……知っていたか……」


「ちょっと、見くびらないでよ……これでも元社会部のニュースキャスターなんだから」


「そうだったな」


「海雲寺啓作博士は宇宙物理学の第一人者で有名だった……でも何年か前に」


 闘いの場面でも陽気さを保っていた少年は、無表情になった。


「その後、オヤジは死んだ……いや、殺されたんだ……」


「ええっ!! 殺された!?」


「殺した奴らは人間じゃない……」


「それって、どういう……」


 海雲寺啓作博士は高名な学者であったが、10年前、宇宙人が地球人を狙っているといって警告を国会首脳部やマスコミに語った。


 だが、世間から物笑いにされ、学会からも追放された。

 親父は政府に対宇宙人専門の宇宙軍の設立を申請したが断られた。


「俺も学校で嘘つきの子だとイジメにあった。7歳のころの俺はオヤジを憎んだよ」


「そんな過去が……それで、さっき拓哉くんが上級生にからかわれたのに義憤を感じて助けたのね……」


「ああ……なんだか、昔の自分を見ているようでな。だけど、俺がイジメにあっていることを知った親父は、何も問わずに、黙って海雲寺家に伝わる格闘技を教えてくれた。厳しい修行だったけど、俺は武術にのめりこんでいった。やがて強くなったおれは苛めた奴らを返り討ちにしてやったね」


 へっ、とふてぶてしい顔つきとなった詰襟の高校生。


「あらま、まるで昔の学園マンガね……でも、蒼太くんらしいエピソードだわ」


 マリはいままでの蒼太のすさまじい体術を見て、そんな過去があったから強くなったのね、と感慨深くなった。


「だけど、親父に叱られてしまったよ。海雲寺流格闘術は、己の身を護り、弱い者を助けるための武道だと。当時の俺は、心技体のうち、心ってやつがなっちゃいなかったってね……」


「うむ……啓作くんは、気は優しくて、力持ち。勉強もがんばって、城南大学に入った。文武両道の快男児じゃったよ……」


 墨江教授は眼をつむって、教え子の昔を思い出していた。


「たしか、海雲寺啓作博士は、アメリカから日本へ帰国する際、旅客船から何者かに拉致される事件があり、その犯人が未確認飛行物体に乗った宇宙人らしいと言われ、話題になったわね……」


「ああ……いわゆるアブダクションという奴だ」


「番組でもあつかったことがあるわ。地球外生命体に拉致・誘拐されて、人体実験をされる被害を受けたという体験……」


「アビサロンは宇宙物理学者であるオヤジの脳波を読みとり、当時開発していた宇宙ロケットの新型燃料の秘密を読み取り、その後、ハワイ諸島のひとつに解放した。誘拐された時の記憶は失われていたが、一年後、急にその間の記憶を取り戻した」


「宇宙人に拉致された時の記憶ね」


「ああ……それがきっかけで、国会首脳部や与論に働きかけたんだ。宇宙人は全身が鱗に覆われた半魚人みたいな奴だったそうだ」


「半魚人みたいな宇宙人……アビサロンの手下の海童のね。でも、海底に住むはずのアビサロン民族がなぜ、空飛ぶ円盤に乗っているのよ。UFOに乗るのは宇宙人でしょ?」


 和鷹マリが当然の疑問を口にした。


「マリさん、最近ではUFOではなく、UAPと呼ぶようになったことは知っているかい?」


「ああ、そうだったわね。番組でもあつかっていたわ」


 UFOとは、1947年にアメリカの実業家ケネス・アーノルドが、ワシントン州レーニア山頂近くを飛行する円盤状の物体を目撃し、空飛ぶ円盤フライング・ソーサーとして名づけたのが発祥である。

 

 その後、アメリカ空軍が調査し、未確認飛行物体(UFO)と総称されるようになる。


 その後、世界各地で正体不明の飛行物体の目撃情報があとをたえなかった。

 しかし、その正体のほとんどは航空機や人工衛星などの人工物体や、流星や雲、鳥などの自然物の誤認である。


 しかし、2022年に米国防省内に設置された全領域異常解決室で、未確認異常現象(UAP)の呼称が作られた。

 空中だけでなく、水中や宇宙などの全領域で、形状が識別できず、既存の自然現象として特定できない現象を未確認異常現象(UAP)と呼ぶようになった。


「今までに目撃されたUFOおよび、UAPは誤認やフェイク画像だ。だが、その中でも99%以下の目撃例が本物のUAPだとされている」


「たしか、世界に七件だけね……」


「ああ、その目撃されたUAPのほとんどが、海底に消えている」


「そうそう、海底に円盤の前線基地でもつくっているじゃないかと、伏木先生がいっていたわ」


「そうじゃない。空飛ぶ円盤は、宇宙から来て、海底に去った訳じゃない。空飛ぶ円盤は宇宙から来るんじゃなくて、海底から現れるんだ」


「ええっ!?」


「UFOが宇宙人の乗り物だという説は、人類側で勝手に憶測した話だ。1947年のアメリカで目撃された当時は、敵国の新兵器が正体だといわれていた。その後、マスメディアが部数を稼ぐために奇説を取り上げはじめ、SF小説の題材にもされ、UFOは地球外生命体の乗り物説が定着した。だが、誰もUFOが宇宙から来たということを目撃した者はいない。空想の話が、固定観念になってしまったわけだ」


「そういえば、そうね……UFOが宇宙から来たというのは誰も証明していないわ……すると、本物のUFOは、アビサロンが造ったというわけ?」


「おそらくね。親父を連れ去った宇宙人が半魚人型だったということが、アビサロンがUFOを造った証拠だと思っている」


「宇宙人の正体はアビサロン。半魚人型宇宙人は……真樽子漁港などで目撃された海童だってこと?」


「察しがいいね。アビサロンの手下の海童だな。おやじは今の地球の科学じゃ足元にも及ばねえ科学装置で記憶を読み取られたという……おやじはその半魚人を宇宙人だと思っていた。そりゃそうだ、UFOに乗った人間じゃない生き物に拉致されたら、誰しもそいつは宇宙だと思い込む。だが、その後のイクシード・フォースの調査で、UFOは海底に住むアビサロン人が造ったらしいという事が判明した。人類より進んだ文明をもつアビサロン人の子孫が、人類が造った航空機異常の性能をもつ飛行体をつくったとしても不思議じゃない」


「アビサロン人が造った空飛ぶ円盤を、半魚人の海童が操縦して悪さをしているというわけ?」


「そういうことになるな」


「そんな凄い科学力をもった民族を、人類はなぜ今まで知らなかったのかしら……」


「いや、アビサロンは、古代から人類の歴史にも登場する」


「えっ!?」


「たとえば、アビサロンの手下である海童などは、いわゆる、人魚や河童いった海に住む異人の話じゃな。浦島太郎の話でいえば、人語をしゃべる亀の元になったのも海童じゃ。これを見たまえ」


 墨江教授は机からタブレットを持ち出し、画像を見せた。

 体は人間に近いが、頭部は魚という、魚頭人身の怪神像であった。 


「なんですかこれは……まるで半魚人の石像みたいですけど……」


「バビロニア神話でカルデア人に文明を授けたといわれる『オアンネス神』じゃ。こっちは、メソポタミアのカッシート人が信仰した『アダパ神』。こっちは、ウガリット神話でペリシテ人が信仰していた穀物と海の神『ダゴン神』。魚型の神様の話は世界各地にある。海から来た渡来の神が智恵や文明を人類にさずける話は世界中に多い。エビス信仰やヒルコ神伝説もその一つじゃ。それらの元になったが、アビサロンではないかとわしは仮定しておるのじゃ……」


「アビサロンって、一体何者なんですか?」


「その生態も正体も謎であるが、我々人類よりも高度な文明をもった超古代の民族としか、わかっておらぬ」


「そして、人類に対して、決して友好的とは思えねえ存在だな。オヤジを殺したのも、アビサロンだ」


「えっ、たしか海雲寺博士って、7年前に旅客機の事故で亡くなったんじゃあ……」


「表向きはな……政府は隠しているが、旅客機は未確認飛行物体に撃墜されたんだ!!」


「えっ!?」





 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 UFOの情報は3年の間に色々更新されたけど、昔のままで使わせて貰います。


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